寝起きするのはナース達の大部屋で、仕事は掃除等の雑用と、天候が乱れた時にお知らせする事。私が何を出来るのかとか、そういう事を聞かれてないのを理由に何も話してない為に、そういう事になっている。
不満は無い。寧ろ良くされすぎてて、居心地が悪いくらい。
有り体に言えば、暇だったりする。おつるさんの傍では常に忙しくしてたし、時間があるとやってた執筆活動も今はしていないから余計に。
「ナミは〝大佐〟だと聞いてるが、だとしたら何故そんなに階級が低いんだよぃ?」
「……階級は高過ぎる位だと思ってますよ」
今は正義のマントを片付けてあるけど、それでもスーツ姿の私だからか近付いてくるのはエースの他は隊長達だけ。そんな訳で、甲板掃除してたらマルコ隊長にこう言われてる訳だけどね。
「覇気を使える〝佐〟なんてのは希少種だろぃ。覇気を使えるのは将から先だと聞いてるよぃ」
「そんな事を言ったら、私は入隊と同時に〝将〟にされてしまう事になるじゃないですか。……元々、肩書き無しで事務員として保護される予定だったのに、皆が勝手に肩書き押し付けてきたのよ」
おつるさんや桃兎とお茶して、ガープさん達が乱入して来て1緒にお煎餅食べるのが私の仕事だったのに。……これ言うとスモーカーに〝巫山戯んな。働け〟とか言われるんだけど、スモーカーとクザン大将にだけは言われたくない台詞よね。
「……いくつの時に、海軍に?」
「14歳ですよ」
「保護ってのは?」
「……私、可愛いから狙われちゃうの。それで保護をして貰ってたって訳です。……今は隊長達とエースが、私を守ってくれるんですよね?」
クスクスと笑えば、マルコ隊長は困ったように笑いエースを呼ぶ。どうしたのかと思ったら、傍で聞き耳立てていたらしいエースが不貞腐れた様子で顔を出した。
話を聞いてみると、私とエースが離れてる間に何があったのかを知りたかったのだと言う事なので、仕方ないかとそれに答える為に溜息を1つ。お世話になるにしても、そういう事ならちゃんと話さないとマルコ隊長の仕事をエースが増やしかねないものね。
「親父様の都合のいい時で、マルコ隊長とエースの都合がつく時ご連絡ください。その時にお話します」
とりあえず今は掃除を終えてしまいたい。モビーは広くて、掃除を1人でやるのは案外手間なのだ。
それでも何もしないよりはマシだし、書類仕事とかこの船の中枢に関わる事をして痛くもない腹を探られるのは嫌だから、望んで甲板掃除してる。それこそ麦藁帽子でも欲しいような気分になる事も多いけど、それ程不満には思わない。
でも、海兵である私と共に掃除をしようなんて変人はそうはいないし、ナース達のお仕事も私では何をされるか分からないからと拒絶される。ナース達もやりにくいだろうと思うから、こうして大人しくしてる訳だし。
「話してくれるつもりがあるなら、ちゃんと聞くぞ」
そんな声が上から降って来て、親父様は忙しいんじゃ?なんて思う。でも、そう言われてしまえば拒絶するのはおかしいので、私はエースとマルコ隊長に視線を向けて親父様の所へ移動した。
そこでエースと幼馴染だった事と、その後故郷が海賊に襲われて、そこを海軍に助けられ保護された事を簡単に説明して、2年……海兵として生きてきた事を伝える。すると親父様とマルコ隊長が眉間に皺を寄せた。
アーロンが村を支配していた事とか、支配していたのがジンベエさんの弟分だとか、奴隷だった事については1切話してないのに、なんでそんな顔をされるのか。首を傾げた私に、2人は視線を交わしてからマルコ隊長が私に問い掛けてきた。
「今、16歳なのかよぃ?」
「え?はい」
「エースは、17歳だと聞いてるがねぃ?」
「そうですね」
「なんで、エースが〝兄貴〟じゃなくて〝弟〟なんだよぃ?」
「おつむの出来「違ェ!!」」
私が答えてる途中でエースが吠えた。真横にいたから地味に耳が痛い。
なによもうっ!とエースを見たら、エースは怒りの形相で私を睨んでから、親父様に視線を向けた。そう、数日前からエースを含むスペード海賊団は、正式に白髭海賊団に吸収されている。
傘下に入るのではなく、平として仲間になった彼等を白髭海賊団の人達は暖かく迎えてくれたので、実際の所私はもうお役御免なんじゃないかなって思ってたりする。だって、エースが落ち着くまでって話だったから。
そんな事を考えてる間に、エースが私に1度も勝てなかったんだと言い募り、棒術が基礎だなんて言うからそれは子供の頃の話しよと横から嘴を挟む。今は接近戦なんかしたら瞬殺されるわ。
「私、戦いからは何年も離れてたから……もう戦えないわよ。それより、エースは覇気をちゃんと使えるの?」
「へ?覇気?」
そうか、エースはまだルーキーに毛が生えた状態で挑んだから、覇気を知らないのか。よく無事に新世界まで来られたわね。
感心するべきか、呆れるべきか、判断に困るわ。でも、このままって訳にはいかないわよね。
「……覇気の訓練、する?エースは覇王色の覇気、持ってるでしょ」
「え?」
「無自覚かぁ……。怒ると垂れ流しにするシャンクスよりはでも、マシかな。覇王色持ってて覇気使えないとか終わってるから、ちゃんと扱えるように「シャンクスってのは、赤髪の小僧か?」」
親父様の言葉に頷くと、初めて会った時も名前が出ていたななんて言われてしまう。そうなれば、説明しなかった事を言外に責められているのかなと少し考えるけど、それなら普通に叱るわよね。
だから仕方無く頷き、幼少期に師事していた事を伝えれば、覇気を使える事も納得されて、腕を使えなくなった時に〝女神ちゃん〟が腕そのものは守ってくれたと言うシャンクスの言い分について聞かれたりした。とりあえず女神ちゃんに関しては、次にシャンクスに会ったら殴る方向で考えておこう。
それ等について少し話をしていたら、エースからあの頃から何かよく書いてたけど、今もそういう事はしてるのかなんて余計な事を言われてしまう。それに対して思わず小さく舌打ちしてしまうと、マルコ隊長に隠さずに全て吐けと叱られてしまった。
仕方無く宝玉である事と、海兵としては事務専門だった事、船の役職で言うのならば航海士と測量士である事を告げると、親父様から呆れたような視線が向けられてしまう。それから責めると言うより、疲れたような声で問い掛けられる。
「なんだってこれまで話さなかったんだ?お前ェが〝宝玉〟なら、海軍に保護されるのは可愛いからじゃねェだろ。それによ、その話が偽りでないなら、お前ェ海軍の至宝とか呼ばれてる存在だぞ」
「……聞かれませんでした」
「報連相って知ってるか、ナミよぃ」
「……知ってますが、私個人の事なんてどうでも良いかと思ってました」
親父様とマルコ隊長から交互に言われるそれを淡々と返していたら、横にいるエースの顔が何故か引きつって行く。私は昔も今も、単なるか弱い美少女航海士だってのに、何なのかしら、この反応。
「守ってやると約束したからには、守り方の変動が有り得る今回みたいな話は、ちゃんと伝えてもらいてェところだ。それとだ……エースを含む数人、覇気を使えるようになりそうなのを選抜するから、覇気を仕込んでやってくれ」
そうして話合いをした結果、私にはマルコ隊長の副官のような立ち位置が用意された。そして贅沢にも、部屋をマルコ隊長の横に用意して貰える事になってしまう。
掃除なんかしてねェで執筆したり教育したりしてくれと言われれば、逆らう程の事でも無いので頷いた。けど、何故かマルコ隊長と親父様には、そのまま引き続き交互に叱られてしまい正直落ち込んでたりする。
そんなやり取りが終わり、部屋の移動も済むとエースが部屋に遊びに来た。どうしたのかなと思ったら、寂しそうに瞳を揺らすから、とりあえず座るように促してその頭を撫でる。
身長差が出来てしまい、立っているエースは撫でにくいのよ。本当に、大きくなったわね。
「ナミ、もう本当に戦えないのか?」
「覇気を使えるけど、私は防御型なのよ。だから、戦いには向かないし、ここ白髭海賊団には戦闘員の女は乗せないって決まりもあるから、ここに私がいるのがその証拠になると思うわ」
「……ナミ、俺が覇気をちゃんと使えるようになって、ちゃんとナミを守れるようになったら、話したい事がある。だから、それ迄……その……」
いい淀み顔を赤くしたエースに首を傾げる。するとエースは困った様子で、泣き笑いみたいな表情を見せて来た。
「他の男のものにならないでくれ」
「……私は、ベルメールさんとノジコのものだから、他の誰かのものにはならないわよ」
「忘れてた。最大の敵」
「はぁ!?いくらエースでも、2人に手を出すならシバキ倒すわよ!?」
私の言葉にエースは道程は遠そうだなんて言ってから、甘えるように抱き着いてきたから、ヨシヨシとその頭を撫でる。すると、エースがやっぱり今話しておくなんて言うからどうしたのかなとその顔を覗き込む。
そんな私にエースは顔を近付けて、当然のように唇を重ねて来る。それに驚いて動きをとめて、成されるがままはダメだとハッとした私は、遅れてエースから離れようと体を押してみるけどビクともしない。
「やっ……ん!エー……スッ」
「ナミ、好きだ。これ以上の事もしたいくらいに、ガキの頃からずっとナミを想ってる」
真剣な瞳が私を貫く。でも、待って、嘘でしょ!?
エースは弟で、ちょっとマセてて、だから……!
「ナミ、混乱してる所悪ィけど、このまま抱いていいか?」
「ダメ!」
混乱しながらも拒否するとエースは喉の奥で笑って、十代の若者に待てとか悪魔かなんて言いながらもそっと私を解放してくれる。そして、無防備過ぎると次は止まれねェからなんて言い捨てて去って行くから、私は部屋の真ん中でヘナヘナと座りそれを見送るしか出来なかった。
これ迄そんな事1度も考えた事が無くて、私はそっと左肩に触れると小さくどうしようと呟いた。顔の火照りは、暫くひきそうに無い。
波間の上を何も分からないままに漂い守られる日々は、こうして幕をあけた。誰も知らない未来へと進む時計の針は、ゆっくりと、けれど確実に進み始めている。