親父に言われて俺は近くの島に買出しに出た。部下三人と、サッチの所から目利きを1人連れての出航だったんだが……気乗りはしない。
それでもどうやら食材が尽きそうだと言われれば、人数考えれば釣れるか分からない魚に頼る訳にも行かない。とりあえず先に島で注文だけして、店側が届けるのが無理なら用意しできる頃に取りに来ると話せばいいだけだ。
持って帰るには船が小さ過ぎるので、人が乗れるギリギリのできたのは当然だ。買出しだけは、モビーで来なけりゃ実質不可能だからね。
どれ程億劫でも、こればかりは当番制だから仕方ない。海王類でさえ、1匹では2日分の食料にも足りないのだから仕方ないだろうと自分に言い聞かせる。
そんな買出しの帰り、突然向けられた砲弾を短剣で斬り裂いてから砲弾を放って来た奴等の船に乗り込み簀巻きにして行く。刀は基本的に使わないと決めているから、こうなってんだが……まさか、そこで〝運命〟と出会う事になるとは、思っても居なかったのは確かだ。
全員をほぼ無傷で倒しちまってから、弱過ぎるそれにまさか海兵とは思わなかったと内心では収まらない溜息を落とす。厄介な事にならなけりゃいいが……。
とりあえず話の分かる海兵がいれば、何とか話し合いで片をつけるつもりで上官を呼べと言うのに、愚かにも従わない雑魚共。何なんだと思いながらも制服をよくよく見てみれば、こいつら……見習いか?
「責任者の首だけで納めてやるって言ってるんだから、上官1人差し出「大佐は悪く無い!差し出せるか!」」
俺の言葉を遮りいきり立つ様子は、どうやら相当慕われてる上官らしい。そんな上官が姿を見せないって事は……上官が寝てる間に、結果でも残して褒められようと先走ったって所かね?
慕われる上官ってのは、甘いだけの存在か。はたまた正義の人か。
どちらにしても此方にとっちゃ、いい相手じゃねェかもな。話し合いになりそうになかったら、仕方ない……沈めるかね。
「責任者は、私です。そして、私が悪いんだよ君達。部下の不始末は、上官の失態だからね」
凛とした声が聞こえて視線を向ければ、気になっていた女がその場にいた。時折海軍の領域から少し外れた所にある縄張りで、時折見掛けていたその女は〝正義〟を背負っている。
交渉して穏便に……なんて考えは吹き飛んだ。船を沈める案も海底に深く沈んで、浮上する気配は見えない。
この機会に手に入れてやれと、脳裏で悪魔が囁く。ずっと……求めて来た相手が手の届く所に居る。
「……女か。隊長、どうしますか?」
「首1つと言ったのはこっちだからねェ……1旦連れて行くさね」
内心を覆い隠して、仕方ないと言わんばかりに言えば海兵が騒ぐ。それに俺が何か言うよりも早く、厳しい声を出した女に……魅せられる。
……鳴かせたら、きっと良い声で鳴くだろうね。恥じらう姿は唆られるだろうと、その白いスーツの下に隠れていると分かる細く白い肌を思う。
ストイックなその姿が、肌を露出されるよりも余計に劣情を刺激して、貪りたくなる。喉が鳴りそうになるのと同時に、心がその蜜を求めて渇いていくのを自覚させられる。
「黙れ!……今回の件は此方に過失がある。私1人の首で済むならば、安いものだよ。君達は帰還し、おつるさんに説明しなさい。間違ってもセンゴクさんやガープさん、大将達には報告しないように」
その言葉で女の正体に当たりが付けられた。まさかとは思ったが……海軍で至宝と呼ばれてる女か。
そちらも気にはなっていた。だがまさか、そんな希少な存在が海軍の地域を1人で出ているとは思わなかったな。
それもあり、俺の気にしていた女と至宝の存在は俺の中でこれ迄、全く繋がらなかった。……噂だけでも気になっていた存在が、1人の女の姿となり今目の前にいる。
守ろうと声を張り上げる部下達を巻き込むまいとするその姿は、何処か神々しい。容姿は人魚を思わせる程なのに、どうしてこうも気の強さを伝えて来るのか。
「お見苦しい所をお見せしました。これらはまだ海兵とも呼べない存在です。どうか、私の命1つで御容赦を」
その言葉の直後頭を下げた女は、その為に折角の愛らしい顔を髪が隠しちまう。震える事もないその様子に、敵を相手に迷い無く頭を下げられる潔さに、今すぐ食い散らかしたいと俺の中で何かが囁く。
蜜柑の香りが鼻腔を擽る。この色は、食欲を1番刺激すると何かで読んだ記憶があるんだが、記憶違いだろうか。
「若く美しい女海兵が、海賊に捕まる意味は……分かってるのかい?」
試すように紡いだ言葉に女は僅かに身を固くするも、俺が無造作に近付いても逃げようとはしない。真っ直ぐに俺を見据えて、俺を見定めるようにその瞳を煌めかせる。
そして、僅かな時視線を周りに居る簀巻きに向けたと思ったら、覚悟を決めたと言わんばかりに瞳に強い意志を宿した。そして動き出した唇は、征服欲を刺激する。
「理屈は、理解しています。しかし、求められているのは私の〝命〟1つであったかと思いますが?」
蔑むように俺を見上げて、ふっと笑うそれは男慣れしてる様子だ。豊満な色香を放ちながら、満足させられるのかと問われているような気分にさせられる。
だからなのか、試すような言葉で追い詰めちまう。虐めて、泣かせたくなるんだ。
「拷問の末に……なんて可能性もあるだろう?」
だがまだ浅い。揶揄いを込めて言えば、女は静かにその瞳を閉ざした。
それが勿体無いと思う程度には、その瞳に魅せられている。素直に感情を表す瞳は……抉り出したくなる程に魅力的だ。
「……覚悟の上です。どうぞ、お連れください」
言葉と同時に見開かれた瞳。その瞳に映る俺は、明らかに海賊の顔をしている。
立てと命じればそれにも逆らわず、無抵抗な様子を見せる。……この場で犯されても、その気丈さを保てるのかねェ?
そうは思うが、実行する気はない。艶姿を他人に見せるのは、惜しいからね。
首元を掴まれれば通常怯えるものだが、女はその表情を変える事なく平然としている。……その取り澄ました顔を、歪めてやりたい。
そう思うのと同時に唇を奪えば、驚きからか反応が皆無。そして、反射的にだろうが抵抗しようとするそれに軽く牽制してやる。
「ん!?……ぅ……」
「……覚悟、してるんだったね?」
俺の武器を確認して、辺りに転がる奴等を見て、女は静かに言葉を口にする。清々しい程に、潔い。
「……どうぞ、お好きに」
だが、その言葉とは裏腹にその瞳は強い意志を伝えて来る。気高い精神と誇り高い矜持が見受けられるその瞳は、恐らく本当に無体を強いれば舌を噛むだろう事を予見させるには十分過ぎた。
この女を堕としたならば、どうなるだろうか。愛らしく鳴くのか、甘えて強請るのか、それとも……?
ゾクゾクとしたものが全身を駆け巡り、愉悦に包まれるのが自分でわかる。……この女が、欲しい。
その刹那、女が微かな怯えを見せた。それは妙に嗜虐心を煽り、強烈な渇きと飢えを俺に与えて来る。
「……貰って行こうかね。名を、教えてくれるかい?」
「古来より名を相手に教えるのは心を許すと言う意味があります。私は、海軍将校。海賊に……名を教えるつもりはありません」
微かに震えながらも自我を保とうとするその様子に、狩りは始まったばかりだと思い知らされる。どうやって、手に入れてやろうかね。
逃げられれば逃げられる程に追いたくなる。そして、獲物は手強ければ手強い程得たくなるものだ。
「……いい、答えだ。気に入ったよ」
俺の言葉に反応せずにいる姿は、正に将校であると分かる。誰かの身代わりに、その身を差し出してるのではないと簡単に理解させられちまう。
船に乗せて出発すれば、驚く程大人しい。暴れ出すかと思ったんだが……。
俺も含めた全員にジロジロと見られても、動じた様子を見せない女に内心で笑いながら、とりあえず他を牽制する。すると将校の顔と名前をほぼ全て知っている筈の男が、困ったように笑って知らないのだと言う。
そのまま盛り上がる話題に、けれども女はその様子を何処か微笑ましそうに見ていて……先程までの抜き身の刀を思わせる雰囲気が消えていた。穏やかなそれは、仏のようにさえ思える程。
その時、俺は納得した。これは〝海軍の至宝〟と呼ばれる女で間違いないと。
心優しく、歌を愛する小鳥は、天候を読み、海軍本部の奥に隠されている。動きは猫のように優美で、けれどもその貴重さ故に隠されている……と言う。
そんな言葉が思い出された時、女が突然叫ぶように言った。それは、逆らう選択肢を即座に奪い去るような迫力を伴っている。
「サイクロンが来るわ!9時の方向に舵をきって!」
咄嗟に従えと命じれば、全員迷い無く動き出す。もしコレでサイクロンが来たならば、俺の戦利品として貰い受けようと心に誓う。
船の進路を変えた事で、力の抜けた様子を見せた女は本当に優しいのだと知る。自分が助かる為だけでは無く、本気で俺達を案じていたらしい。
ふと見せる幼い仕草は、素なのか計算なのか。どちらにしても、悪い気分にはならないな。
つい笑えば、女はここに来て初めて俺に見惚れるような様子を見せる。どうやら、部下が居なくなるとこうなるらしい。
責任感から尖っていただけだと言うなら、こちらが素だと言うのならば……少しばかり、優しくしてやるべきだろうか。試すように腰を抱けば、動揺を隠せなくなっていて……これはまた随分といい拾い物だと笑っちまう。
「なっ……!?」
「……心優しく歌を愛する小鳥は天候を読み、海軍本部の奥に隠されるようにしている。動きは猫のように優美で、1部からは至宝として扱われる程。それ故に七武海が幾度も奪おうとしては、元帥を含む多くの人達により阻止されている」
「……へ?」
本気でわかってない様子を見せるから、毒気を抜かれる。これは、まさか、演技ではなく真実……自分の事を何もわかってないのだろうか。
何を言われてるのか分からないというその顔に、妙に幼い反応に庇護欲が刺激される。グズグズに、甘やかすのも悪くないんじゃねェかと、そんな事を思わされちまう程。
「お前さんの事だね。興味はあったんだが、会えるとは思わなかったよ」
「たぶん、人違いです。私はただの……居候と言いますか、おつるさんのサポーターです」
知将つる中将の懐刀……。その自覚も無いのか。
本物は案外そんなもんかもな。これ迄に何人もそれを名乗って挑発する女が現れたと聞いていたが、本物はこれ程に無垢だとはね。
……俺の色に染めてやりたい。そう思った時、俺の反応に気付いたのか頬を染める様子は劣情を煽るばかり。
「頬を染めて、可愛いね……流石にここじゃ、襲わねェから安心していい」
「そ、うですよね……良かっ」
あからさまにホッとするから、少しばかりの味見をと唇を堪能すれば、先程とは違い戸惑いが伝わる。縋るように俺の服を掴むそのいじらしい反応は、それ迄見せていた妖艶な慣れた女の片鱗も無い。
……寧ろ、何も知らない少女のような?
あえかな声を響かせ、無謀にも逃げようとするその身体を抑え込めば細く俺そうな身体がぶるりと震えた。辿々しいその反応が、どうやら口付けに不馴れだと教えて来る。
それでいて、身体は快楽に対して素直な質らしい。これは……俺が溺れそうだね。
「不慣れだね。……そして、素直だ」
「や……イゾウさん、今……しないって……!」
泣きそうな顔をされて、まさかと思う。普通、口付け程度では襲った内には……。
「襲わねェってのは……抱かないって意味だったんだがね。……ん?まさか、生娘かい?」
その刹那真っ赤に染まったその頬が、答えだ。驚いた隙をついて俺を突き飛ばした女だが、先程いた辺りとその進路をサイクロンが通り抜けたのをそれにより目視しちまう。
それにより弟達が、晴れやかに言った。どうやら、この女を俺のものと認めたらしい。
「ようこそ、白髭海賊団に。歓迎する!」
経験豊富そうに見せかけて、事実は何も知らない無垢な女。何か無謀な事を計画してそうな雰囲気を醸し出しながら、小さく震えた。
だが残念……。俺は、お前さんを逃がすつもりはねェさね。
もう、お前さんは俺のものさ。名もなき真白きお姫さん、早く諦める事を俺はオススメするよ。