捕虜として連れて来たのは間違いないが……元々興味があった上に、凛とした美しさと、部下を庇う気高さ。それに加えて、瞬時に状況把握をする賢さに、心が魅せられていく。
それでいて、当然のように近くにいる全ての命を守ろうとする甘さ。敵である筈の俺達を守る事にさえ、躊躇いを見せず、それでいて命令する事に慣れているらしいと分かる言動。
そんな魅力的な様子は、海兵さんだから……なんてのは理由にならねェ。海軍なんてのは、寧ろ悪辣な奴らが殆どだとこれ迄の経験則でわかってる。
それにより俺のモノにしようと連れ帰ったのに、逃げようとするナミに理性が焼き切れて襲いかかれば、それは余りにも甘美過ぎた。声は迦陵頻伽を思わせ、香りで食欲を刺激して、瑞々しい肢体は蝶のように舞う。
何も知らない無垢な身体を俺の色に染め上げ、二度と逃げようなんて気が起きないように可愛がり続けた。だが……殆ど抵抗らしい抵抗をしなかったナミが、三日三晩のそれに耐えかねてして来た抵抗は、既に力の入っていない平手打ち。
力が入っていない事を自覚しているのだろう。悔しそうに表情を歪ませるそれに、ゾクリと身を震わせたのは……壊しちまいそうだと、いつまでも満たされない渇きを認識しちまったからだ。
強い眼差しで俺を睨み付けて、いい加減にしてと冷たい声で言うそれがあまりにも気高くて……もっと穢してやりたくなる。何故これ程しても堕ちないのか。
「虜囚として扱われる事は覚悟してるけど、これが殺害を目的としてるので無ければ……辞めなさい」
「上官として生きる事に慣れ過ぎだね。囚われの身で、命令する事はオススメ出来ない」
「……私を殺すつもりが無いのであれば、もう、おやめ下さい」
口調は改めても、その瞳に侮蔑の色があっては意味は無い。寧ろマイナスだろう。
だが恐らく、既にそうでもしなければ自分を保てない程になっているのだろう。わかっていて、それでも煽られる自分を自覚して、ただ……確かにこれ以上は不味いだろうとその身を解放する。
その瞬間糸の切れた操り人形のように崩れ落ちたその身体を支えれば、熱が高いと気付く。そっと身体に負担をかけないように抱き上げ、その身を清めてから部屋に戻そうとすればマルコが呆れた様子でベッドを調えてくれていた。
「長い付き合いだが……まさかイゾウが、癇癪持ちの餓鬼だとは知らなかったよぃ」
「……悪かった」
「俺に謝られても困るよぃ。……明日の夕方頃、補給の為に島に到着する予定だ。……明後日、買物でも行かせてやったらどうだぃ?」
軽い調子で言うマルコのそれに、多少では無く苛立つのは何故なのか。余裕のある兄貴面が気に入らないのか、それともナミが妙に懐いているのが嫌なのか。
こんなパイナップルより、俺を見てくれたら可愛いだろうに。今はどことなく憎らしくさえ思える自分に、苦笑する。
「また、逃げられたらどうしてくれるんだね?」
「……逃げねェと思うが、その時は連れ戻してやるよぃ。無論、無傷でな。それに、女には必要な物もあるだろぃ」
マルコの言葉に仕方ねェかと頷いた俺は、まさか俺がついて行くのを禁止されるとは思っていなかった。男が居ては買いにくい物もあるから、大人しく待てと言われても納得は出来ねェ。
そんな事を思った俺は、1応変装して後をつけたんだが……ハルタからは〝美し過ぎて目立つ〟と言われちまう。だが、そればかりはどうにもならねェだろう。
食材を中心に買物をしているナミは、最後になって確かに男が居ては買いにくそうな店へと入り何やら買い込んでいた。それを確認して、逃げる素振りは無いと判断した俺は先に船へと戻った訳だが……なんで逃げないとマルコには分かったんだろうか。
普通なら、このチャンスに逃げ出すだろう。それに前科もある訳だし、信用出来る要素なんざ見当たらねェ。
だが本当にモビーへと戻って来たナミは、その足でサッチの元へ向かうと何やら話をしていて、そう言えばサッチには初めから懐いてたなと思う。あのフランスパンの何処が気に入ったのか。
「入口から壁沿いに行った奥に、新人達の練習用のキッチンがあるからそこでなら構わねェけど、船だから揺れるんで火傷とかには充分注「なんの話だい?」」
「ん?ナミちゃんが明日恵方巻き作りたいって言うから、親父にもクルーとしての乗船許可貰ってんだから構わねェって話をし「親父から?いつ?」」
「……あァ、成程。イゾウ、後で話してやるからとりあえず殺気抑えろ。隊員達が怯えてるぞ。ついでにいちいち俺の言葉に重ねるなよ」
言われて見てみれば、怯えて青ざめているのは俺の隊員で、やっちまったと思いながら笑って誤魔化す。そんな俺に、ナミから困ったような視線を向けられちまう。
何だかなと思いながらナミに部屋に戻ってるように言えば、素直に頷いて部屋に戻るそれを見送る。ナミは、部下の為なら平然とその身を犠牲にしようとした位の甘さを持つから、自分が逃げた時の報復を恐れているのだろうか。
そのままサッチに視線を向けると、サッチは親父とナミが話をした時の事を教えてくれた。虜囚として留め置かれる位なら、そろそろ死にたいと言ったらしい。
それに対して親父が虜囚にしておくには、お利口さん過ぎるがもう帰れる期間は過ぎただろうと言われ、暫くは見習いとしての乗船許可を貰ったらしい。ならば何故、ナミはあの日逃げ出したりしたのか。
そう思った俺にサッチは呆れを隠さない。それが妙に苛つく。
「ナミちゃんは逃げたんじゃ無くて、多分近くに見えてた小島に興味示して、なんも考えずに飛び出しただけだ」
「……は?」
「なんだその顔。まさか……イゾウ、聞いてねェの?ナミちゃんの夢」
「夢?」
「……自分の目で見た世界地図を描く事が夢なんだとさ」
その場に崩れ落ちた俺を、サッチは笑わなかった。なんでお前がナミの夢を聞いてんだとかって問い詰める余裕さえ無い。
俺は……何してんだよ。ん?
「どうした?」
「親父に許可貰ってんたなら、何故ナミは俺に抵抗しなかったんだ?虜囚だから諦めてるんだと思っていたんだがね」
「……怪我、させたくなかったんだろ」
「誰を?」
「お前に決まってる」
「は?俺は捕まえて、初花を散らして、そのまま3日貪った強姦魔だぜ?なんで怪我如き「無血の海兵」」
重ねられた言葉に、なんだそれはとサッチを見ると、極たまにしか戦いに出ない事と、戦う事になっても怪我人や死人を〝敵味方問わず〟出さない事でついたナミの呼び名だと教えられる。それに俺が声を失ったのは、仕方ないだろう。
そんな俺の肩を叩いて、サッチは言う。相当鈍いから頑張れよと。
その言葉でまさか、伝わってねェなんて有り得るのかと問い掛けたら、嫌われてると思ってる筈だなんて言われちまう。……マイナススタートか。
サッチが相当鈍いと言うなら、そうなんだろう。飯を提供しながら情報を得て、サッチが認めた相手なら問題無いと判断されるのがいつもだ。
どうやって想いを伝えるのが良いのかと考えていたら、翌日には本当に楽しそうにサッチの傍で料理を開始して、それが余りにも幼い笑顔だったから思わず問い掛けていた。……寧ろ、今まで少しも気にしてなかったが、その瞬間何故か嫌な予感がしたんだ。
「ナミは、何歳だね?」
「16歳よ?」
なんで?とでも続きそうな様子のそれに俺は言葉を失い、それと同時に、食器の割れる音が響き渡った。それくらいの衝撃は確かにあったが、まさか俺は……。
「嘘だろう?」
「……いくつだと思ってたのよ?」
「二十代半ばかと……」
「……可愛い顔してるから、前半にしか見えないと思うんだけど。中身が問題なのかしら?……そもそもその頃には胸が恐ろしいサイズになってる筈って、そんな事それこそ知らないわよね。うん、でもなぁ?」
小首を傾げながらそんな長事をブツブツと言うナミは、手元は動き続けて器用に太巻きを完成させる。……美味そうだな。
何が美味そうなのかなんて、無粋な質問は無しだ。どちらも美味そうだと、俺は思っているよ。
そんな風に現実逃避しても埒は明かない。だが、確かに本人の言う通り、大人過ぎるその精神が年齢より上に見せていたのだろう。
それ以外の発言については、今は追求しない方向でいようと思うが。そんな事よりもまずは……。
「……悪かった。怖かっただろ」
「あの時、言葉は通じそうも無かったし……海軍に入った時、海賊に捕まればそうなるのはわかってたから、それは大丈夫よ」
「……相手が誰でも、ナミは抵抗しなかったのか?」
俺の問い掛けにナミは悲しそうに瞳を揺らして、そうかもねと笑った。その笑顔が完璧すぎて、声が微かに震えているのさえ誤魔化せてしまいそうだ。
だがナミの瞳が1瞬泣いたのを、見逃してやれなかった。それにより気付いちまう。
酷い事を、聞いたもんだな、俺も。なら、覚悟を決めて口説き落とさせて貰うとするかね。
「ナミ、俺の恋人になりな」
「は?」
ナミが鈍いと言うなら、他に受け取れない言い方で言えばいい。断る権利は与えるつもりなどないのだから、命じてしまえばいいんだ。
「俺だけのお
「1夜の過ちで、忘れて下さって結構で「あれは明らかに1夜じゃねェし、俺は今後も抱くつもりだよ」」
俺の言葉に真っ赤になったナミを見て俺が笑った時、サッチ以外のコック達から豆をいっせいに投げ付けられた。それも、定型文つきで。
「
その後も幼女趣味だの、女の敵だの、狡いから爆発しろだの言うコック達の投げる豆が、間違ってでもナミに当たらないように俺の上着を頭から掛けて表へと飛び出した。そんな俺の姿に、ある意味超目に毒だと叫ぶ野郎共に飢えてんじゃねェよと笑う。
今夜辺り返事を聞きたいものだと想うが、ナミは俺の着物の中で丸くなってる。その姿が可愛くて意識を取られている間に、豆の総攻撃に合う羽目になっちまったが……これは事故だろう。