強引なプロポーズ
おつるさん達に守られながら、基本的にはおつるさんのサポートをして、他は宝玉として執筆や作曲をして行くのが私の基本業務であり日常。時々訓練生の対応をしたりして事務以外の仕事も任される事はあるけど、傍にはいつも優秀な人や地位の高い人が居るように配置されている。
ベルメールさん達と約束したからと言うだけでなく、恐らくはおつるさんの中で、どうしたって14歳で出会った幼かった私のイメージが拭えないんだと分かってる。甘やかされてるなと思いながらも、海軍に今のまま保護されていては夢を叶えられないから、そろそろ退役したいと考えていたりする私は酷い奴だろうか。
でも、エースを助けてから辞めるのが1番よねと思って、退職願いは服の中にいつも隠されたままになっている。多分、これが何よりも酷いと分かっていて、エースを生かしてルフィの心を守れるなら、死んでもいいと思ってるんだから救えない。
書類を整理していると、やっぱりクザンさんのそれだけ足りなくて、センゴクさんに提出出来ない状態だとわかる。それによりおつるさんに視線を向けると、おつるさんが全てわかってるとでも言いたげな様子で頷いた。
「ありのまま伝えつつセンゴクに持って行きな。……大丈夫、ナミは叱られたりしないから」
「でも、またクザンさんが怒られちゃうわ」
「自業自得だよ。……!?……早く行きな!」
何かに気付いたらしいおつるさんに突然部屋を押し出されて、私は閉められたドアの向こうで何が起きているのだろうと首を傾げる。その時聞こえてきたのは、人の声で……窓から入って来た誰かが居るらしいとわかれば、1目散にセンゴクさんの元へと駆け出す。
おつるさんが言うには、厄介な奴が私を狙ってるらしい。どう考えても狙いは、おつるさんやセンゴクさんを苛立たせたり困らせたりしたいだけだとわかるから、私としても関わりたくなんてない。
「センゴクさん!」
ドアをノックも無しに開けたのに、どうしたと微笑んでくれるそれに書類を抱えたまま飛び付けば、そっと抱き締めて頭を撫でてくれる。安心出来るその温もりに、おつるさんの所に窓から来客があって逃げて来たと言えば、即座に正義のマントを脱いで私に被せる。
そのついでに私から書類を奪い取る。その勢いのまま、机の影に私を隠してしまうのは手馴れた様子だ。
その早業におおっ!と思っていたけど、そんな場合じゃないらしい。開け放たれたままになっているそのドアを通り、人が入って来たのがわかる。
「よォ……そろそろ会わせてくれても良いんじゃねェか?センゴクさんよ」
「海の屑共に会わせては、穢れてしまう。会わせるつもりは無い!帰れ!だいたい何故貴様は勝手に、海軍本部を出入りしているんだ!」
「おつるさんに逢いに来たら、漸くおつるさんが部屋から追い出す瞬間に遭遇出来てなァ……逃げた方角を考えればここだろうと当たりを付けて来た」
答えになるようでならない解答をしたドフラミンゴにセンゴクさんが怒鳴り、けれども堪えた様子はそのやり取りの中からは感じられない。この男は、何故私に執着するのかな?
センゴクさんの正義のコートを強く握り、気配を消して震えていると、2人の会話がヒートアップして行くのがわかる。大丈夫、センゴクさんがいるんだもの、大丈夫。
けれど無常にも、センゴクさんの机に躊躇い無く乗ったその男……ドフラミンゴが、その足元で丸まっている正義のマントに手を伸ばした。その手をセンゴクさんが掴み、2人は睨み合いを始めてしまう。
勿論私は丸まったままだから、姿は見えない筈だけど。それでも、見聞色の覇気で2人の様子はわかる。
「人の物に手を触れるな」
「大切なら、丸めて置いとくのもよくねェだろ。そこに掛けてやるよ」
「余計な世話だ!」
こんな時こそ、ガープさんがお煎餅持って来てくれたら良いのにと切に思っていたけど、ドフラミンゴが能力を使い私を動かした為に全てが無駄になる。初めて対面する事になった私と、動かされている私をどう助けようかと思案しているセンゴクさんをドフラミンゴは楽しげに見て、私をその腕に捕らえた。
「離しなさい!私に触らないで!」
「……想像していたより、良い女だ」
咄嗟に言葉と共に睨み付けた私に、そう言って笑ったドフラミンゴは私の顎に指を這わせ、そのまま当然のように唇を重ねて来る。四肢は動かなくても、舌を噛むくらい出来るとそれに対抗しようとした所で、ドフラミンゴが何かに驚いた様子で私からその唇を離す。
「……お前、ナミか」
「え?」
「成程、そういう事か。益々、手放せねェ」
意味が分からないままに、ゾクリとしたものが全身を駆け巡った時、センゴクさんがドフラミンゴに殴り掛かった。けど、私はいち早くそれを察知したらしいドフラミンゴに抱かれたまま、空へと移動する事となる。
私は慌ててセンゴクさんを呼ぶけど、センゴクさんが建物を壊す勢いで暴れても、既に空にいるドフラミンゴにはその手が届く事は無い。センゴクさんが助けられないなら、自力で逃げなきゃ……!
「離して!」
「今俺が離せば落ちるんじゃねェか?」
「どうぞお気になさらず!王下七武海闇のカリスマ、ドレスローザ国王のドンキホーテ・ドフラミンゴさん。……それとも〝別な名前〟でお呼びしましょうか?」
その瞬間ドフラミンゴの額に青筋が立ったのがわかるけど、本当に関わりたくないのよ。おつるさんが心配するし、センゴクさんが怒るし、ガープさんが嘆くから。……そう、私は自他ともに認める爺婆コンだ。
勿論、マザコンとシスコンも健在している。つまり、家族枠には激甘なまま、その家族枠が増えたと思ってくれたらいい。
「ナミは、俺のものだ」
「……初対面ですが?それより、私に気安く触らないで」
「相変わらず……気の強い女だ」
相変わらずって何よと言おうとしたのに、ドフラミンゴから向けられたその言葉を最後に、ドフラミンゴから発せられた強烈な覇気により私の意識は奪われてしまった。それから暫くの後、意識が浮上したのは誰かの話し声が聞こえたから。
「若が本気で婚姻を考えて下さるとは思いませんでした」
「俺は不老不死となる予定だからこそ、跡継ぎなんざ不用だと思っていたが……ナミが相手なら話は別だ。妻として、
「若……それ程、その
「……そんな女なら、求めてねェだろうな。昔からコイツだけは、俺の思うようにならねェんだよ。それよりラオG、それを早く届けて話を進めろ」
「
そんな会話から、どうやらドフラミンゴには結婚を考える相手が居るらしいと知る。これ、おつるさんに教えたら喜ぶかも。
なんだかんだ言って、おつるさんはドフラミンゴを気に掛けていた。傷付き過ぎておかしくなってるだけで、根は素直な子だと分かっちゃいるなんて零してたから。
でも、相手の女性は可哀想かも。望んでなくて、でも逃がさない為に周りから固められようとしてるなんて。
そう思っていたら、ふと頬にドフラミンゴが触れて来た。その手が妙に優しくて、どうしたらいいのか分からなくなる。
内心で動揺しつつも、まだ意識のないフリをしておくべきかと葛藤していたら、ドフラミンゴが笑ったのが気配でわかりなんだろうと思う。何か、面白い事でもあったのかな?
その直後、唇に触れたのはドフラミンゴの唇で、それを理解すると同時に慌てて目を開けたけどサングラス越しでは、近すぎるその表情から感情を読み取れない。必死でその巨体を押しのけようと力を入れるけど無意味で、両手に覇気を纏い、うるぁぁぁ!ってな勢いでその肩を殴った事で漸く少しだけ隙間が出来た。
「な、に……すんのよ!」
「解らねェのか?俺は今ナミに口付けを「んな事は分かってるわ!」」
「なら聞くなよ。……それで、いつから起きてた?」
どうやら私の意識がある事に気付いて、こんな事をしたらしい。それならこっそり窓から逃げ出すようにでもすれば良かったわと思っても、過去には戻れないからどうにもなりはしないのだけれど。
ドフラミンゴは問い掛けながらも私を腕から解放するつもりは無いらしく、足掻いてみればみる程に、抱き締めてくるその腕の拘束が強まるばかり。仕方ないかと諦めて、私は問い掛けに返事をする。
「結婚したい相手が居て、でも相手にその気がないから妊娠させるつもりだって所からよ。……本当に好きな相手なら、ちゃんと向き合ってみたら?顔も悪くないし、身長も高くて、身分もある。海賊だってのを差し引いても真剣に想いを伝えれば、分かってもらえるかもしれないでしょ」
相手を不幸にするようなやり方は、きっと結果的にドフラミンゴに返る。もしも本当にその相手を好きなら、そんな事をして嫌われたり憎まれたりしたら、傷つく事になると思うのよね。
だからと思って老婆心ながら言葉を口にしたのに、何故か放心した様子のドフラミンゴに首を傾げれば、ドフラミンゴは突然肩を震わせ始めた。どうしたのかと思っていたら、何故か体をさらに強く抱き締められて、本気で苦しくなる。
「ちょっ……ドフラミンゴ、苦し……」
ついでに、1緒に抱き込まれてる腕がミシミシいってるから、本気で離して欲しい。でも、ドフラミンゴは小さくそうだよなと言うのに離してくれなくて、なんなんだと思って睨み付ける。
「ナミは、鈍いんだった。忘れていた」
「鈍くないから、苦しいから!ついでに痛いから!離して!」
私には、普通に痛覚位あるわよ!何言ってんのよ、この男は!?
「ナミ……」
「なによっ!」
「愛してる。俺と結婚しろ」
「ほぇ?」
その瞬間、思考が停止した。妙な声を出した後、完全にフリーズした私は、呼吸さえ忘れてしまう程にドフラミンゴの発した言葉を理解出来ずにいる。
……揶揄ってる?
だって、でも、ほぼってか完全に初対面よ。なんだって揶揄う必要があるのよ。
でも、それなら尚更、求婚する意味が……。待って、求婚する意味って事なら、海軍との繋がりを強固にしたいとか?
それなら有り得るわ。私がおつるさんやガープさん、センゴクさんにとって掌中の珠である事は、意外と知れ渡ってるもの。
私を妻にすれば、海軍からドフラミンゴは攻撃されにくくなる可能性が高い。もしくは、ドフラミンゴが私を〝宝玉〟だと知っていてその才能を欲している可能性よね。
うん、どちらにしてもドフラミンゴにしか利の無い話だわ。ならば、私が頷く理由なんて無い。
「断るわ」
「おい、待てよ。ナミが言ったんだろ。顔も悪くないし、身長も高くて、身分もある。海賊だってのを差し引いても真剣に想いを伝えれば、分かって貰えるかもしれないって。それなのに、その返事か」
「私を海軍との繋にって考えでしょ。それドフラミンゴ側にしか利が無いじゃない」
「利!?お前は俺の告白を利益換算で考えてたのか?……フッフッフッフッフッ!なら話は早ェ……俺ならナミにどんな贅沢でもさせてやれるし、強敵からも守ってやれるぜ」
「贅沢……?私は、それよりも自由が欲しいわ。もう少ししたら、海軍も退役して……1人で自由に旅をするつもりなの。邪魔しないで」
私の言葉にドフラミンゴは唇を大きく割り、楽しそうに笑うと私を漸く解放してくれた。だからと言って、逃げられるとも思えないけど。
「安心しろ。もう退役の話は進んでいる」
「え?」
「お前が持っていた辞表を、先程ラオGに持って行かせたからな」
私は咄嗟にドフラミンゴに掴みかかると、それを辞めさせるように言葉を連ねる。だって、今退役したらエースを助けられなくなってしまう。
そんな私を見て何を思ったのか、ドフラミンゴは当然のようにベッドに私を押し倒すと、無言で首筋に吸い付いて来た。チクリとした痛みに体がビクリと震えると、ドフラミンゴはその場で低く囁くように言う。
「取り消すつもりはねェ。だが、俺の妻として、海軍本部に出入りするのは今後も可能だ……どうする?」
「なにが……目的なの?」
「……言っただろ。俺はナミを愛してる。だから、繋ぎ止める為にわかりやすい形が欲しい」
私はドフラミンゴに巫山戯ないでと言おうとして、言葉を飲み込む。だって、その雰囲気が、表情が、あまりにも真剣で嘘だと言えなくなってしまったから。
決断を迫られた私は、けれども答えなんてすぐには出なくて。エースを助けたくて、でも、どうしたらいいのかも分からなくて……少しだけ、考える時間をねだった。
それにより私からそっと離れたドフラミンゴが、良い返事を期待していると言って部屋から出て行くのを見送り、窓から微かに見える海へと視線を向けた。私の望む波間の向こうへ、どうしたら行けるのだろうかと考えながら。