間一髪堂島さんのおかげで私と恵ちゃんは難を逃れ一旦、場所を事務室に移して話し合いを始めた。
「四宮⋅⋅⋅今回のお前の試験内容は余りに目に余る⋅⋅⋅ましてや昨日、今日に続いて女子学生に手を上げ様とするとは⋅⋅⋅見損なったぞ⋅⋅⋅」
「全くです!!気になって見に来て正解でした。私の可愛い恵ちゃんや、えりなちゃんにまで···四宮先輩は大いに反省してください!」
「···やっぱり四宮が悪い。全て四宮が悪い。性根が腐っている四宮が悪い。全部何もかも四宮が悪い···」
四宮は堂島さんと乾日向子さんと水原冬美シェフに集中攻撃を受けて歯ぎしりをして身体をワナワナ震わせている。
ま、当然よね。何せわざと傷んでいる食材を大量に混ぜて提供して、ほんの僅かな良い品質の食材を使って美味しく仕上げた人たちだけ合格にして傷んだ食材しか使えなかった人をわざと試験に落とし、しかも創意工夫して傷んだ食材でも色鮮やかにかつ、美味しく仕上げた恵ちゃんをルセット(レシピ)を無視して仕上げたからと不合格にして····
本当にこの課題は理不尽で不公平でマトモに学生の実力を試す余地がはなから無いんだから。四宮の性根が腐ってるのを表してるわよね。
「モグモグ···ゴクッ···ふむ、このテリーヌの完成度は実に良い···ワインビネガーで野菜の色合いと全体の味のバランスを絶妙に整えて仕上げている···品質の落ちていた食材で見事な仕事をしている」
「オーッ!!実にワンダフルですね!作った人の野菜に対する愛情が心に染み渡りマスねー♥···だからこそ四宮センパイの不合格判定は納得デキマセン···」
鮨店を経営している糸目の関守板長とオーベルジュを経営しているケツアゴのドナード梧桐田シェフが恵ちゃんのテリーヌを試食して料理の良さと四宮の悪辣さに意見してくれている。
「堂島さんこの課題は俺に一任されているハズだ···とやかく言われる筋合いは無いはずだぜ····」
「ああ···確かにそうだ。だが、今回の課題内容は余りに公平さに欠けており、何よりお前のエゴが透けて見えるぞ。いくら何でも横暴すぎている。遠月リゾートの役員として、全責任者として、何より一人の料理人として今回の件は黙っている訳にはいかないな」
「···ぐっ···」
おおーっ!流石堂島さんよね!数少ないマトモな男性がトップで私も安心して成り行きを見ていられるわ。
「····それと薙切えりなくん。俺は昨日君に軽卒で軽はずみな行動は慎む様に釘を指したハズだが···?」
ううっ····やっぱり私にも回って来たか···でもしょうがない。私もつい我慢できずやり過ぎたし···ここはしっかりと甘んじて叱責を受けよう。
「はい!その事についてはもう何も弁解の余地は御座いません。自分の立場を弁えずでしゃばり本当にスミマセンでした。全て私の考えの足りない行動がこの様な大事になってしまい大変申し訳なく思います····後は全て堂島さんの御判断に従います」
「まっ、待って下さい!えりなさんは私を庇ってくれただけで何も悪くありません。退学にするなら私だけにして下さい!」
恵ちゃんが必死で私を庇ってくれる。
でも貴女が退学になったら意味ないんだよ!!
「·····ふむ。そういえば、えりなくんは四宮に食戟を挑んだそうじゃないか?」
「は、はい···」
堂島さんは腕を組み顎に手をやって何か考えている。
「···このまま四宮の試験内容不義として処理すれば、まあ、事は簡単に終わるだろう。だが、ここは遠月学園の試験の場···遠月は料理の実力で全てが試され決定される····故にどうだろう、本日の午後の課題を全て消化した後に···俺が取り仕切る
よし!原作の流れがキター!!正直今すぐにこの場で四宮をケチョンケチョンにツブしてやりたい気分だけどね!
「おいおいっ···待ってくれよ堂島さん!いくら何でもこんな茶番に付き合うのは·····」
「四宮···お前に拒否権は無い···受けろ···そもそもマトモに課題を出せばお前の言う茶番をやる必要も無かったのだ。全てはお前の不徳が招いたのだ。いいな···!」
「ぐっ·····フー···わ、分かったよあんたの提案に付き合おう····だがよぉ薙切のお嬢様···俺が勝ったらお前のクビもまとめて飛ばす···!」
····凄い
ふと見ると、関守平板長が堂島さんの側に寄り、ややヒソヒソ声で話し込む。
「堂島シェフ···今回は随分と思い切った事をされますね。良いんですか?」
「むっ?まあ、確かに良くは無いだろうな···事が公になれば俺のクビが飛ぶかもな···だが、俺は四宮の陥っている現状も何とかしてやりたいとも考えているんだ。故に申し訳ないが今回の審査員は君たちにお願いしたいのだが···どうだろうか?」
「ふふっ良いでしょう。最後まで付き合いますよ」
「はいはぁーい!!私も審査員をやらせて貰いますよー!!何せ恵ちゃんとえりなちゃんのクビが懸かっているんですから!!」
「私も審査員として付き合う。日向子では審査が偏る···でも四宮のへこむ面を拝みたいとも思っている」
「ハッハハハー!当然私も付き合いマスよぉー!何せ四宮サンと可憐な乙女達の未来が懸かってマスからねぇー!!」
日向子さんに水原冬美シェフにケツアゴのドナード梧桐田シェフも一様に審査員として参加するのが決まった。
堂島さんは此方に振り向き、
「と、いうわけで勝手ながら
うっ!?やはりこの人鋭いわ····!
「···何の事でしょうか?でも堂島シェフ···今回の件、色々とありがとうございました」
「いやいや、まだ礼を言うのは早すぎるぞ。何せ相手は食の激戦地、パリの一等地で戦い続けている猛者···『魔術師』の異名をもっている男····心して掛かる事だ。では、午後の課題を終えたらホテルの別館を訪ねてくれ。君たち二人の価値をそこで見せてもらう。以上だ···」
「···分かりました。必死で足掻いてみせます!」
そうだ。相手は精神は小物でも、その実力は本物の怪物····油断は出来ない!
堂島さんの言葉で気合いを入れ直していると例のシェフ達が此方に集まって来た。
「あーん♥恵ちゃん!えりなちゃん!もし、もしもですよ?あの頭でっかちで陰険でナルシストな四宮先輩に惜しくも負けた時は私が責任をもって二人まとめて大切に私のお店へ····」
「待て日向子。抜け駆けは良くない···二人ともイタリア料理に興味はないか?もしもの時は私の店で···」
「いやいや、君こそ抜け駆けだ。えりなくん、田所恵くん。もしも退学になったら私の店に来ないか?君の才能は鮨店でこそ伸びると私は思っている!」
「は···はいぃ····!?」
ふふっ···恵ちゃんはスターシェフ達に早くも認められている事実をよく飲み込めてないみたいね。
「ハッハハハー!!皆さん気が早すぎマスねぇ~!!リクルートするのは食戟を終えて結果が出たアトですネー!!」
「···やれやれ気が早いにも程がある···」
堂島さんも後輩シェフ達の様子に呆れ気味だ。
何とかスターシェフ達の引き抜き合戦から抜け出して午後の課題の場所へ向かうべく廊下を二人仲良く歩いている最中だ。
はぁ~···ヤレヤレだったわね。こんなに早くに恵ちゃんが認められて引き抜き合戦になるなんて···でもこれこそ恵ちゃんの正当な評価だわ!とにかく午後の課題なんてチャッチャッと片付けないとね!
私は後ろに付いて歩いている恵ちゃんに振り返り、
「午後の課題もしっかりと通過して食戟で四宮シェフの度肝を抜いてやりましょう!」っと、言うと恵ちゃんは涙を溜めてジト目になって此方を睨んでいた!?えぇっ、何でぇ!?
「うぅ···えりなちゃんの···えりなちゃんのばかぁっ!!」
「はうっ!?」
「なんで、なんであんな無茶な勝負を挑んだのっ!?····えりなちゃんは他のグループの課題で合格していたんだから···私なんか放っとけば····私なんかの為に···う"ぅっ····」
恵ちゃんは抑え込んでいた感情を爆発させて、大粒の涙を流して身体を震わした····うーん···大泣きする恵ちゃんも可愛い♥·····って、ダメダメ!見とれている場合じゃないわね。
尚も感情のままに泣きじゃくる恵ちゃんを私は抱きしめて囁く。
「恵ちゃん···私はね、恵ちゃんはこんなことで退学になっていい人間じゃないと思ったから私は食戟を挑んだの。それに親友である貴女を助けたいと思ったから····もっとも今回の試験内容が理不尽の塊だったからと言う理由もあるけど···」
「でも、でも!私、初めてペアを組んだ時からえりなちゃんに助けられてばかりで何にも恩を返していないよぉ····」
「ううん、そんな事ない。私は何時も周りから距離を置かれ、畏怖されて腫れ物扱い···親しくできるのは緋沙子ちゃんしか居なくて···その緋沙子ちゃんも従者としての立場もあって何処か一線を超えて親しく出来なかったわ。だからこそ恵ちゃんの様に近い距離感で親しく出来る友達が出来て嬉しかったの···だから恵ちゃん私に貴女を助けさせて···!」
「え、えりなちゃん·····」
モミモミ、グニッグニッ♥
私は更に恵ちゃんを強く抱きしめて彼女を慰めたわ。
「あ、あの····えりなちゃん····?」
モミモミ、グニッグニッ♥
「なぁに、恵ちゃん。まだ理由が必要かしら?」
「そ、そうじゃなくて何でさっきから私のお尻を執拗に揉んでいるの···?」
····ハッ!!しまったぁー!!またヤッちまったわぁー!!つい、無意識に以前よりも胸と共にエロく美しく成長した恵ちゃんのプリティーなヒップを揉んでしまったわぁー!!
私は恵ちゃんから離れてその場で全力土下座したわ。
「ゴメンなさいぃー!!ついつい、抱きしめたら手が勝手にぃ~!?スンマせんでしたぁー!!」
私は薙切えりなとしての優雅さをかなぐり捨てて謝罪した···
「···プッ、クスクス···アハハ!もうえりなちゃんったら!私を守ってくれたり慰めてくれたり謝ったりして忙しいんだから···♥」
「·····あ、アハハ···そっ、そうかしらね···?(い、いけない!えりなちゃんとしてのイメージがぁ!?)」
「ありがとうえりなちゃん。私もう大丈夫だから···私も助けられてばかりじゃなくてえりなちゃんと一緒に隣で歩ける様に頑張るべさっ!」
何故だか吹っ切れた様子に唖然としつつも、瞳に強い意思の光を宿した恵ちゃんに私は見とれてしまった。
「さっ、えりなちゃん立って。午後の課題に遅刻しちゃうよ」
恵ちゃんは白くて小さい手を差し伸べてくれた。私はその手を取り、立ち上げってそれどれの班の調理室へ別れる迄手を繋いで歩んだ。
~田所恵side~
四宮シェフの出された課題に不合格となった私は絶望感に眩暈を覚えた。
退学···そう宣告された瞬間、まるで物語の主人公の様にえりなちゃんが駆けつけてくれた。私を親友だと言ってくれた····
正直とても嬉しくなり胸の高鳴りを抑えるので精一杯になった。
えりなちゃんは四宮シェフの課題内容に強く毅然とした態度で抗議してくれた。そ、そんな事したら目をつけられちゃうよ!えりなちゃんも退学にさせられちゃう···!お願いだから止めて···私は貴女迄巻き込みたくないよぉ···
私はえりなちゃんの腕に抱きつき押さえて、もういいと彼女に訴えた···ポロッ···あ、あれ?あれれ、涙が出ちゃう···
そんな私の顔を見たえりなちゃんは強い決意を宿した顔で四宮シェフに信じられない事に食戟を挑みました。
えりなちゃんは四宮シェフに軽くあしらわれても諦めず明らかな挑発めいた言動で四宮シェフを誘いました。四宮シェフは激昂してえりなちゃんの胸元を掴み、張り倒そうと腕を上げました。あぁ!!だ、ダメ!えりなちゃん!!
そんなえりなちゃんのピンチに私はただ、ただ震えて身体が動きません···そこへ堂島シェフが駆けつけ間一髪争い事を静めてくれました。同行してきた乾日向子さんが優しく暖かく、えりなちゃんと一緒に私達を抱きしめてくれました。
伝わってくる温もりに私は故郷のお母さんを思い出してしまいついつい、甘えてしまいました。···って、日向子さんは私より少し年上なだけなのに失礼な事を考えてしまいます。
更に他の同期生のシェフの方々もやって来て、代わる代わる私の作ったテリーヌに対して高い評価をつけて下さいました。わ、私何だか恥ずかしいべさ···
そして堂島シェフの提案により、
不服ながらこの食戟を受けた四宮シェフはえりなちゃんを睨んで午後の課題の準備のため帰っていきました。こ、怖いです···
アワアワしていたら他のシェフの方々が私達の前に集まり、何やら負けてしまった際の処遇を提案してきてくれました。え、えとこれって何だべさ?
オタオタしている私をえりなちゃんは引っ張り上げて挨拶もソコソコに午後の課題の場所へと向かう為、廊下を歩きます。私はどんどんえりなちゃんの行動に対して我慢が出来ず押さえていた感情を爆発させ、みっともなくえりなちゃんにぶつけてしまいました。
私、やらかしちゃいました····
そんな私をえりなちゃんは優しく抱きしめて食戟を挑んだ理由を話してくれました。私を助けさせて欲しいと言ってくれました。
私は感激してしまいましたが···何故かえりなちゃんはどさくさ紛れに私のお尻を妙にやらしく揉んできました。
さすがに場所が場所なだけに私はえりなちゃんに抗議するとえりなちゃんは何の躊躇いもなくその場で土下座して私に謝りました。
私は呆気にとられて思わず吹き出してしまいました。もう···えりなちゃんったら···♥
私はグジグジと悩んでいたのが馬鹿らしくなりなんと言うか···妙に吹っ切れちゃいました。私は今の私の全てを食戟にぶつけようと覚悟が決まりました。えりなちゃんと一緒に私は絶対負けない!
~
午後の課題を早々に終わらせた私は恵ちゃんの試験の場所へと急いだ。
試験場所へと着くと恵ちゃんはやけに落ち着いて私の姿を見ると満面の笑みを見せてくれた。
どうやら恵ちゃんは僅かながらも自分の殻を破り成長したみたいね。これなら四宮の野菜小物太郎のやつにもギャフンっと言わせられそうね!
「えりなちゃん、私頑張るから···絶対一緒に食戟に勝つから!」
いつになく強気な発現に私は驚きつつも逆に頼もしい言葉に私は勇気が湧いてきたわ!
ほぼ同時にお互いの手を差し出し合い手を繋いで一緒に決戦の場へと強く踏み出した。
こうして私と恵ちゃんで非公式ながらも四宮との食戟が始まるのでした。