第四次聖杯戦争、万能の願望機たる聖杯を巡って行われた魔術師たちの闘争。それが世界最後の闘争になったことは、極わずかな魔術師しか知らない。
とある平行世界では第三次の時に汚染されたり、汚染はされずとも盗まれたりしているのだが、この世界においてはどちらも起きず、第三次までの無色の聖杯のままであった。
そのため破壊という選択肢が生まれることもなく、聖杯戦争は滞りなく進み、そうして世界は平和になった。
七人の魔術師たちが集い、己の願いを叶えるために戦った聖杯戦争、その最後となった第四次の勝者の名は衛宮切嗣。彼の願いは”恒久的世界平和”。それは聖杯の手によって叶えられ、ウェイバー・ベルベットと勝者である衛宮切嗣以外の五人のマスターの命だけが、最小にして最大規模、そして最後となる聖杯戦争における犠牲者であった。
衛宮切嗣が成した世界平和の形とは、『戦う理由の忘却』である。
相手に対しての攻撃の意思を持ち込んだ時点で、世界全体にかけられている暗示魔術によってその原因となった意思を忘却させられる。
戦争の最中だった兵士は、戦車の砲撃を行おうとして、どうしてそれをしようとしていたのかわからなくなり、動きを止めた。それは彼だけではなく相手側も同じこと。
それだけではなく、上層の人間も『どうして戦争を行おうとしているのか』という理由を忘れてしまい、すぐに戦争は終わりを告げた。衛宮切嗣の願った通りに、世界中から戦争というものが奪われていく。
そしてそれは、彼にとってある種の地獄を生み出した。
「これが、契約にあった次代の『聖杯』です」
「ええ、ありがとう。確認をしても?」
「無論です」
ある場所で、二人が契約を果たしていた。
一人は少年と言ってもいいかもしれない程度の年齢の男、そしてもう一人は人工物めいた自然発生とは思えない美貌を持つ女性。
後者はメイド服を着ていてトランクを持っている。そのトランクを差し出して『聖杯』と言い切った。
これは、第四次聖杯戦争においてアインツベルンが用意した触媒。その入手に際して行われた契約である。
「人間……?」
トランクの中身を確認した少年が見たのは、幼い少女の姿。
胡乱な視線を向ければメイド服を着た女性……アインツベルンのホムンクルスが説明を開始する。
曰く、第三次聖杯戦争の際に聖杯が破壊されてしまったために聖杯の守り手を作ることにしたのだと。
彼女の体を解析すれば、これが聖杯であることは確認できるはずだ、と。
それを聞いて少年は少女に触診を行い、納得したのか頷いた。
「ええ、これで契約は完了しました」
「では、私はこれで。イリヤスフィール様をよろしくお願いします」
トランクを閉じる。
中で眠っていた少女の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
次代の聖杯にして、アインツベルンの最高傑作。
少年がこれを手に入れることができたのは、
そして同時に、アインツベルンが求めていたアーサー王の触媒として最適なエクスカリバーの鞘を保有していたことにある。
結んだ契約はこうだ。
”アインツベルンにアーサー王の鞘を譲る代わりに、アインツベルンが輩出したマスターが第四次聖杯戦争の優勝者になったら、次の聖杯戦争のために用意しているだろう次代の聖杯を譲る”
アインツベルンのマスターが勝利したならば、それはアインツベルンの目的が達成されたということであり、すでに次代の聖杯を失ったとしても問題はなかったためにその契約は結ばれた。
そして、衛宮切嗣が勝利し、アインツベルンの目的は達成されなかったが、自己強制証明の効果で渡さないわけにもいかず、渡した後に殺す、というのも攻撃の意思を持ったとして交換に使われたホムンクルスからその命令が消去される。
さらにアインツベルンの長であるアハト翁も、次の聖杯戦争で勝利するため……つまりは戦いのための意思を持ったことで聖杯戦争も根源に行くことも、契約を破らなければならない全ての理由を忘却させられた。
そういった理由によってアインツベルンからイリヤスフィールはこの少年に譲渡されたのだ。
「それにしても当てが外れたなぁ」
アインツベルンのホムンクルスが去った後、少年は呟く。
元々の彼の予定では、優勝したアインツベルンが次の聖杯戦争で使う予定だった聖杯を譲り受けることで六十年後、自分の家が目的としている研究を一気に数世代分進める予定だったのだ。
聖杯を使って根源に至るのはアインツベルンが優勝して実行している時点で、どのような手段なのかは知らないが不可能となる。それならば自分の家の研究を進めてしまった方が合理的だろう、と考えていたのだが、これでは実行できそうにない。
少し調べただけで聖杯だとわかる、魔術を受けたのかトランクの中で未だ眠っている少女は肉体を聖杯とする上でいじられているのだから、短命だということは大前提となる。
つまり、もうこの時点で六十年後に少女を聖杯として願いを叶えるのは不可能だと言ってもいい。
「仕方ない、か」
別に彼らが契約を破ったわけではない。
それは少年も理解していて、六十年後の聖杯戦争のため、ついでに今回のアインツベルンが勝率を上げるために他の家に渡らないように集めていた触媒のほとんども無駄になってしまったことを悲観する程度。
特に、世界で初めて脱皮した蛇の抜け殻などは遠坂が手に入れようとしていると聞いてかなり無茶をして手に入れたので赤字ではあるのだが、それでも立て直しができないほどではない。
「とりあえず、彼女を母体にして……」
特に、イリヤスフィールの存在はそこまで大きな補填になるわけではないが、少年の家の魔術師としての格を考えれば、本来ならばどれほどの金を積もうと手に入らないぐらいに優秀な魔術師だ。
彼女を母体として次代の魔術師を生み出せば、聖杯に願った時よりは遅くなるだろうが、それでも普通に自分たちで手に入れられる程度の母体で生み出した時よりも確実に進歩の速度は速くなるはず。
そう信じて、少年はイリヤスフィールを母体とする上での調教について考えながら自らの家へと帰るのだった。
「目を覚ましたんだ」
イリヤスフィールが目を覚ましたのは、準備を整え終えたタイミングだった。
少女を母体として調教するということを決めてはいたが、今の少女の肉体はあまりにも幼い。
なので、今はまだ人間の子を孕ませるために犯すことはできない。
というわけで、少年は少しずつ快楽に馴染ませながら母体としての調教を行うことにした。
どうせ、彼女を誰かに渡すわけでもない。処女じゃないとダメ、というわけでもないし、むしろ今のうちに心を折っておいた方が多分楽だ。そんな程度の思考。
少年の使う魔術はそこまで目新しいものではない。
間桐の家と同じ、使い魔の使役を、間桐よりも浅く広く。
蟲だけではなく動物も使い魔には含まれ、最大では魔獣クラスの幻想種まで存在していたりする。
その中から、イリヤスフィールを犯すために蟲を選んだ。
小さい蟲たちならば幼い少女の肉体に入り込んで、快楽を与えるには十分なものだから。
そのタイミングで、彼女は目を覚ましたのだった。
「もうちょっと眠ってた方が良かったのにな」
「あなた、誰?」
気品溢れる白いドレスに身を包んだ幼子はきょろきょろと周囲を見渡して、そこで声を発した少年を見つけて尋ねた。
少年には別にイリヤスフィールを苦しめて喜ぶような性癖は──今のところは──存在しないので、もう少し寝ていてくれた方が色々と捗ったのだが、こうなっては仕方がないと諦める。
「なんていうのが正しいんだろうね?」
イリヤスフィールはごまかされたと感じたようでムッとしているが、実際、少年にも答えはわからない。
「うーん、そうだね。俺が誰なのかはまた後で教えてあげるから、それまでの間はこの子たちと遊んでてよ」
そう言って、彼女を横にしていた魔術工房の四隅に視線を向ける。
そこから出現してきたのは無数の蟲たち。使役されている、少女の体に快楽を教え込むだけの存在。
男根のような見た目をした蟲たちは生理的嫌悪感を煽るのか、後ずさりしようとして、そこでようやく足に枷がついていることに気がついた様子。
足枷の先には鎖で繋がれた鉄球があり、イリヤスフィールの動きを制限している。
「い、いや……」
少女は、首を横に振りながら泣きそうな顔で逃げ出そうとしているが、それは何の意味もなさない。
足の鉄球をどうにかしないことには少女は逃げ出すことは不可能で、そして今の彼女は気が動転していてそんなことを考えている余裕がない。
「いやああああああああああ!」
そうして、殺到する蟲たちに悲鳴をあげる姿を横目に、少年はその部屋から外に出た。
あ、ちなみにこんなことになったのでこの世界ではSNSが発展しても互いを罵倒したり、攻撃的な意思が出てくることはありません。いじめとかも起きることはないです。やろうとしたらそのための理由を忘れて、暗示をかけられた状態のままそこから離れて、ということになるので。
代わりに、魔術師が「根源に辿り着くための尊い犠牲だ」とかやってるのは「相手に攻撃する意思」ではないので止まることはないです。人間を資源としか見てない状態では彼らには自分が攻撃をしている感覚がないので。切嗣はそれを「多くの人間が犠牲になるから」と相手を人間と理解した上で殺そうとするのでアウト。魔術師を嫌悪して殺そうとするのと、必要なので殺そうとするのだと話は別なのだ。