ルフィの安否が分からなくなり、もうすぐ2年だ。そんな時に気晴らし兼ねて何か変わった事をさせてやりたいと、向かった先が今回到着した島である。
なので到着と同時にナミと遊びに行こうとしたのに、なんか色々仕事押し付けられて出かけられない。何故今回に限って、こんなに仕事があるんだ?
「可笑しい。これ、ベックの仕事だろ?」
「いや、本来お頭の仕事をいつも副船長がやってるだけだから、お頭の仕ご「なら、やっぱ、ベックの仕事だろ。俺、船長だし。酒飲んで暴れるのが仕事だと思「……次の仕事だ。阿呆な事言ってると、島に降りられずに出航になるぞ」」」
ベックが俺の言葉を遮って、そんな酷い事を言う。俺は書類をペラペラさせながら軽くいじけて、そして……ベックの眼力に負けて仕事を開始した。
ウダウタ言いながらも終えた仕事を確認した俺が、甲板に転がるのと同時に聞こえて来た歌声。よいせと身体を起こして向かえば、歌うナミが居る。
その近くに干されている地図を見れば、この島の物だと分かる。完成度の高すぎるそれに、これで趣味ならプロは立場ねェだろうがと溜息を落とす。
歌う姿は真剣で、でも何処か楽しそうで……うーん、ナミは多才だな。そう思いながら歌の終わるタイミングで拍手してやれば、恥じらった様子を見せる。
それにより抱き締めて甘やかしてやろうと思って近付いたが、机にある譜面を見ればもう1度しっかりと聞きたくなった。今、この島でやってるイベントに合わせただろう歌は、興味を引かれて当然だろう。
「ナミ、もう1度歌ってくれ」
「え!?」
「聞かせてくれるな?」
拒否なんか出来る筈がないと知っていて問いかければ、案の定ナミはごにょごにょと言いながらも、仕方ないわねと頷いた。そして歌い出せば、ワノ国を思わせる歌詞で、今回のイベントをイメージした物を作ったと知る。
聞き終えると同時にナミを連れて表に出れば、むさ苦しい奴らが何やら紙で真剣に物を作っていた。足を向けては見るが、何してんだろうかと首を傾げるしか俺には出来ない。
よく見れば、本を広げて何かを作っている事に気付いた。だが結局よく分からずに、途中で立ち止まり立ち尽くしていたらナミが楽しそうにその輪に入り込む。
「何してんだ?」
「ナミが買い揃えた道具だから、驚かせてやろうと思って先に準備してたのに……お頭もう少し粘れよー」
「……それ、まさか、七夕飾りか!?」
「おう!ほら、星だ!!」
「いや、明らかに……丸まった紙屑だろ」
素直な感想を言う俺に、ナミは容赦ない肘鉄を入れてからそれに鋏を入れるよう言い出す。そして言われるままにヤソップが切っていった結果できたのは、天の川で……。
お前、凄いなナミ。そんな声が上がるのに、ナミは簡単な飾りの作り方を教えるのに必死でお世辞としか思って無い様子だ。
ルーに視線を向けたら、七夕用に料理を考えてるらしく、ナミのレシピと自分のレシピを見比べて悩んでいる。何だかそれが微笑ましくて、俺も漸くそれに混ざった。
そうして完成した飾りを、皆が楽しげな様子で笹竹にぶら下げていく。笹竹を寝かせたまま取り付けてるのは、上に手が届かなくなるからだと気付いたベックがそれを立てちまうとナミが悲鳴を上げて、ベックに酷いと言い募る。
「大丈夫だ。ナミを抱いて空に浮いててくれる奴は何人もいる。たまには甘えてやれ」
「いつも甘えてるのに」
「足りねェ。とりあえず、短冊に願い事書かないと、飾れる物が尽きてるぞ」
言われて見れば確かにと気付いたらしいナミが、ベックと俺を見比べてへにゃりと笑う。それから何かを書いてから、素直にクルー達に言って飾り付けをする為に抱き上げてもらっている。
兄妹か父娘か……どちらにしても疚しさを感じない触れ合いに内心で胸を撫で下ろす。大切な仲間と、本気でやり合いたくはねェ。
「何書いたんだかな」
「『憧れの人達に少しでも追い付けますように』と、書いてあった」
「ベック、お前な……」
「お頭はナミと、この後出るだろ。そこの広場で振舞い酒もやってるらしいから、程々に楽しんで来い」
言葉は明らかに俺に向けているのに、ベックの視線はナミに固定されている。穏やかな空気で、煙草の煙を時折吐き出しながら。
そもそも俺は誰が書いたのを気にしてるとか言ってねェのに、正確にナミのそれを伝えて来やがる。……ナミ、お前が慕ってる兄貴、中身はこんなだぞ。
妹の短冊に何が書かれてるか見て、人に告げ口しちまう奴だぞ。そして、自分のお頭を蔑ろにしてるんだぞと内心でブーブー言っておく。
「ベック……ナミにだけ甘過ぎねェか?」
「妹に優しくして、何が悪い。世界一可愛い妹だ。泣かせるなよ」
世界一のシスコン兄貴は、そう言って俺を見て笑うから、俺はそれに頷くしかない。この兄貴が、いもうとに対してどんな想いを抱いているのか、知らぬはナミだけなのだから。
「楽しそうだな」
「ナミが笑ってりゃ、この船は比較的いつでも楽しくしてる。3日経って帰らなかったら、切り落としに行くから安心して楽しんで来いよ」
「安心できる要素がねェぞ!?」
そんな俺達の会話にクルーは笑い、話を聞いていなかったらしいナミは小首を傾げる。そんなナミにヤソップが風呂入ってそのままデート行って来いと声をかければ、恥ずかしそうな顔をして俯くからおっさん達は微笑ましそうに眺めるばかりだ。
風呂に向かったナミが戻ると、相変わらず髪から雫が落ちていてそれを拭いてやる。折角の浴衣が勿体ないだろう。
髪を拭くついでに髪を簡単に纏めてやると、少し物足りない気がした。うん、後で何か髪飾りでも買ってやるかと小さく笑う。
そのまま外で食事させるのは難しいだろうからと皆で食事を済ませてから出発した為に、船を出発する頃には世界は夜闇に包まれていた。それでも、イベントのメインが夜だからか屋台や露店を含めて多くの店もあり、暗い世界になってはいない。
「ナミ」
「なぁに?」
少し先を歩いていたナミに声をかければ、くるりと振り向き首を傾げる。風で揺れる浴衣の袖が、妙に印象的だ。
誰にも見せたく無くなる位に可愛くて、無防備な様子。思わず両手を広げて、自嘲しちまいそうになるのを堪えて言葉を告げる。
「おいで。ナミが離れると、俺が寂しい」
「……!?もう、シャンクスの馬鹿」
そんな風に言いながらも抱き着いてくる愛しい温もりに、似合いそうな髪飾りを探しながら歩く。それにしても困った。
「駄目だな」
「え?この髪飾り可愛いと思うけど?」
「ナミが可愛すぎて全て見劣りする」
「シャンクス!?」
驚いた様子を見せるが、正直な俺の本心だ。とりあえず星の形してるのか、天の川イメージの揺れるやつが欲しいな。
それにしても、ナミは店員に対してにこやかに対応し過ぎだろ。惚れられて、襲われたらどうするつもりなんだ。
「俺の織姫、他の男に笑いかけるなよ。そんな事をされたら、その男達全員斬り殺して回りたくなる」
「物騒な彦星ね……」
恋人のイベントだからか、店にも揃いの物が多く並んでいたので、髪飾りとブレスレットのセットになってる物を選んだ。ナミに髪飾りを、自分にはブレスレットをその場で互いにつけ合えばそれだけの事で笑ってくれる。
世界を滅ぼしても、ナミが笑ってくれるならそれだけで充分だとか言ったら、仲間達に殴られるだろうか。……いや、同意して共に世界滅ぼすな、アイツらは。
ナミに関しては、全員沸点が低過ぎる。何も知らないのは当人だけだ。
「どうかした?」
「振舞い酒、ちゃんと残ってるかなと思ってな」
「ふふっ!なら、急ぎましょ。私もお酒呑みたい」
そうして共に向かった会場で振舞い酒の種類の多さに2人で喜び、制覇するぞと息巻く。その為か、次第にナミの足取りがおぼつかなくなり、そういや結構呑んだな……と気付いた頃には俺に絡み付いて離れなくなっていた。
「ナミ?」
「んー……動いちゃやー……」
普段は酒も強いのに、チャンポンになっちまったからなァ……。それでもこの状態は珍し……って、ストロー?
あんまりにもナミが酒に強いからって、ストローつけちゃまずかろう。振舞い酒を出してる奴を軽く睨めば、視線をそらされちまう。
仕方ない、少し休ませるか。そう思って途中で手に入れた水を手に、俺はナミを抱えたままベンチに腰掛けた。
「ナミ、水だ。飲め」
「や!お酒がいい!」
この酔っ払いがと思った直後、視線を上げたナミが綺麗……なんて呟くから、それにしても合わせて視線を向ける。すると空一面に天の川が広がっていて、それには流石に俺も圧巻の1言だ。
「見事だな」
「織姫といたいからって、彦星が働かなくなるから、引き離されちゃうらしいの。だから、シャンクスはちゃんと船長しててね」
「引き離されても迎えに行くから問題ねェよ。俺はナミ無しだと3日持たねェからな」
「私、シャンクス無しだと、三時間持たないわ」
そう言って俺の首に抱き着き、そのまま首に吸い付いてきたそれは愛らしく……理性が崩壊した。抱き上げてしまえば、向かう先なんてどこでもいい。
他の人間がいなくて、だが折角だからこの星空が見える所で、愛しい女を腕に閉じ込めておこう。今日も織姫と彦星は、年に一度の逢瀬なんて耐えられないと、引っ付いたまま離れない。