※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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バレンタイン(side)

 目覚めると食事の支度は出来ており、ナミは机に向かっているのが見えた。だが……ベッドに残る香りの方が強い等有り得るのか……?

 なんとも言い難い違和感からふと手を伸ばしてみれば、掻き消えたその姿に昨日の会話を思い起こす。……そうか、俺が駄目だと言ったにも関わらず……ナミは1人で行ったか。

 

 〝この近くにある島なんだけど、明日行っても良いかな?欲しい物があるのよね〟

 

 この船からどうやって移動したのかと、考えるまでもない。空を文字通り飛んで行ったのだろう。

 近くにある筈のその島を見て、俺は口角が上がるのを感じた。ナミには、どんな仕置きをしてやろうかと考えながら船を動かす俺は、恐らくはまた性格が悪いと言われるのだろう。

 島について少しすると人の会話が聞こえて来て、何故か気になり足を止める。儚げなお嬢さんがひったくりを投げ飛ばして、老婆とその孫を助けたというのだ。

 ……ナミは儚げな容姿ではないが、もしやと思うには充分過ぎる。助けられた相手が〝老婆〟と〝孫娘〟だ。

 女子供年寄りに弱いナミならば、助けるだろう。その儚い少女はそのまま姿を消したと言うが、さて……?

 そもそも儚げなお嬢さんが、ひったくりを投げ飛ばした時点で怪しい。そんな事を考えつつ少し歩くと、風に乗ってナミの香りがした。

 風に乗って来たと言う事は、どうやらこの風上にいるらしい。儚げな姿と言うのであれば、いつもとは異なる姿だろうというのは分かるので少し気を付けて辺りを見れば、背格好の似た女を見付けた。

 足を向ければその女は真剣な顔で宝石を睨んでいて、その後何やら加工を頼んでいる姿を眺める。受け取った物を大切そうに片付けてから、胸元から取り出したメモを確認し歩き出す姿にナミだと確信する。

 様子を見ていれば本当に1人で買い物をしているだけと分かり、何故俺が1緒では嫌がったのかと思わされる。買った物をどこかから取り出した大きな袋に詰めて背負う姿に、儚げな美少女の演技を忘れているぞと少し笑う。

 それからまた別な店に入ったのを見て、もう充分だろうと店前で待機すれば出て来たナミが顔色を変えてた。にも関わらず、それから素知らぬふりで逃げようとしたのを捕える。

 俺がナミを逃がす筈も、間違う筈も無かろうに。主はまだ、俺の想いを理解出来ていないのか?

 そうして連れ帰りつつ叱り続けたが効果は無い様子で、仕方なく部屋から出るなと言って甲板に出る事さえ禁じればナミは分かったと頷き、素直に引き篭った。素直に従ったからには、少しは反省していたのだろうか?

 船を出して少しすると海賊船を見付けたので、戯れに切ってみれば何故か怒り狂う者達。通行の妨げだったのだ、仕方無かろう。

 沈めた証拠として旗だけ貰い受けてから、先へと進めようとすれば無謀にも挑みかかってくる弱き者達。それを軽くいなして、センゴクに1報を入れてから甲板で座っていると中から甘い匂いが漂って来た。

 ……風呂にも入りたいところだったから、丁度良かろう。そう匂いの元が気になっていた事に対して内心で言い訳しつつ中に入れば、ナミが真剣な顔で鍋を見ているのが分かった。

 見ればチョコで何かやっているらしく、そこで漸く何が起きているのかを理解する。確か……バレンタインといったか?

 そうか、それ故に俺に着いてくるなと……だが、武器無しで出掛けた事は叱らねばならぬ。そうは思うが、明らかに俺の為にチョコを作っている恋人をそれ以上どう叱れば良いのか俺には分からず、暫し入口でその様子を伺う。

 そんな俺の様子に気付かず、ナミは半円型の入れ物にチョコを流し込み始めた。その姿に今は話し掛けても無駄とわかり、風呂場へ向かう。

 風呂場にはナミの物が増えており、なんだかんだと共にいるようになりそれなりに時が過ぎた事を知る。風呂から出るとナミは既にチョコのそれを片付け終えており、俺に視線だけで問い掛けてくる。

 不安そうな顔で〝まだ怒ってる?〟と。何だこれは、俺にそんなにも喰われたいか。

 

 「ナミ、何故俺の禁止した行為をした」

 「……ミホークの事が、好きだから」

 「そうか、ならば仕方あるまい。……当日は寝かせぬぞ」

 

 俺の言葉にナミはサッと顔色を赤く変えて、挙動不審になる。その様子にいつまでも慣れぬなと内心で笑えば、ナミは自ら俺に飛び付いてきた。

 

 「もう、怒ってない?」

 「ナミ……今壊されたいか?」

 「なんでそうなるの!?そんな要素何処にも無い会話だったわよね!?……怒ってないなら、クリマタクト返して!探したのに見つからないのよ」

 

 言われてからそう言えば預かったままだったと気付きそれを見せれば、それだけでナミは嬉しそうにする。だが確かこの武器は赤髪から貰ったと聞いたな……。

 返すのが少し嫌になり伸ばされた手を躱して上に手を移動させれば、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら返してー!と騒ぐ兎。うむ、なかなかに愛らしいな。

 

 「……っ!ミホークの馬鹿!どうして意地悪するのよ!」

 「赤髪から貰った物を大切にするからだ」

 「なら、ミホークが用意してくれてもいいのよ?私はクリマタクトの性能があれば文句言わないわ」

 「……ほぉ、では1度返そう。今後の為に考慮してやる」

 「……ミホーク?」

 

 返してやったのに何故か不安そうに俺を見るから、その頭を軽く撫でる。クリマタクトの性能をもつ、海楼石性の物をいつか用意してやろうと考えながら、撫でられた事で気持ち良さそうに瞳を閉ざすナミに先に寝ていると告げてやれば、ハッとした様子で俺を見た。

 それから少し頬を染めて、お風呂入ってから寝るから、先に寝ててなんて言うが……それをやればナミはソファで寝る事が多いのが問題だ。うむ、仕方あるまい。

 

 「ソファで寝ていたら、朝身体中が痛くなるようにしてやる。嫌ならば素直にベッドに入るのだぞ」

 「……ミホークは、どうしてそう……!体だけが目当てなんだから、たまには他の女にして頂戴!私、持たないわ」

 「俺はナミの体だけを求めた事など、1度たりともない。ナミの全てが、俺のものだ。……次に逃げたら、船旅は終わりだと覚悟しろ」

 

 身体だけが目当てなんだから……か。まさか、本気で分かっていないのか?

 流石にそれはあるまいな。恋人となって、随分経過したのだから。

 

 「なっ……!それ、どういう……意味……」

 「分からぬか?俺の家に閉じ込めて、2度と外に出せなくしてやると言っている。……毎日足腰立たぬようにしてやるから、安心しろ」

 

 俺の言葉にナミは信じられないようなものを見るような顔をしてから、風呂場へと駆け出した。逃げる時も足音をさせぬのは、長き泥棒生活の名残だろうか。

 そんな日々を過ごして、数日後。約束の当日を迎えた。

 朝からナミは俺の為にとチョコを用いた菓子を作りつつ、俺とのんびりとした時を過ごす。無論食事もハートを何かしら使った可愛らしい物となっていた。

 だが……うむ、共に食す物しか無いとは思えぬがな。それともあの時買っていた物は、俺のものでは無いのか?

 だとしたら誰への物だ。多少では無い苛立ちが夕刻に迫る頃には俺を包み、ナミはそんな俺に不思議そうな顔をしている。

 それから時折机に視線を向けては、俺に視線を戻す事を繰り返しているそれに、もしやと思い机に近付けば悲鳴が上がった。それを無視して引き出しを開ければ、中にはラッピングされた箱があり、それを手にするとナミが湯だった。

 ふむ……兎の丸茹でか。なかなかに珍しいが、そちらも後ほど食してやろうと思いながら箱を開ける。

 中にはいくつかのチョコが入っていて、その中央にある物だけが少し大きい。その大きな物を摘むと、ナミが妙な奇声を上げたが反応を見るに俺への物で間違いは無さそうだ。

 

 「俺の物では無いのか?」

 「……ミホークの、物です」

 

 消え入りそうな声で答えたナミにふっと笑ってから齧れば中から出てきたのは石で、濃い青のその石はトルコ石では無い硝子光沢を持ち、トパーズとも異なる。何だこれは?

 角度により色に深みを増すそれに、思い当たるものは無い。単なる硝子玉をナミが寄越すとも思えぬ。

 

 「ナミ」

 「……タンザナイトよ。誇り高き人、冷静って意味をもつ石だから、その……ミホークみたいだなって、思って……だから……」

 「……寧ろ、ナミだろう。ナミの愛する海の色でもある。誇り高き存在と評するのならば、俺よりもナミが相応しかろう」

 「ミホーク……」

 

 石をよく見れば、ネックレスにそのまま付けられるよう金具も設置されていた。俺はそれを迷う事無く取り付けると、そっとその石に触れる。

 そのつもりは無いだろうが、装飾品を贈る事の意味は〝独り占めしたい〟だ。ならば、独占して貰おうではないか。

 

 「ナミ、主の想いは受け取った。今後は主を常に身に付けていよう」

 「なんか、その言い方ヤダ」

 「ナミ」

 

 もう1度その名を呼べばナミはふらりと俺に近寄り、そっと俺に抱き着いてきた。真っ赤に湯だったその姿のままで。

 

 「俺が、欲しいのだろう?」

 

 問いかければ顔をあげて口をパクパクと動かすから、俺はその髪を掬うようにしてそっと口付ける。それにナミは小さく体を揺らしてから、頷いた。

 

 「私、ミホークの全てが欲しいわ。ミホークの1番は常に夜で、求めているのは強い敵なのだと分かってるけど……それでも私は、ミホークが欲しい」

 「……やろう。俺の全ては、ナミのものだ」

 「ミホーク」

 「好きにしてみろ」

 

 言ってベッドに座れば、ナミが俺の服をそっと脱がせて来る。細い指先が俺に触れて、唇が胸に触れる。

 さてナミに何処まで出来るか、楽しませて貰おうか。ナミが俺のものであるように、俺もナミのものなのだからな。

 

 「それにしても、ナミは大いなる勘違いをしている」

 「勘違い?」

 

 俺の服を脱がせながら、ナミは首を傾げる。その仕草は愛らしいが、手は俺の体を擽るように動き続けている。

 

 「夜は気に入っているが、何かあれば直す事も、変える事もできる。だが……ナミに替えはきかぬ。故に、俺にはナミの方が大切だ」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間ナミは俯き、そして顔を上げると妖艶な微笑みを浮かべた。いつもの子兎とは違うその表情にどうしたのかと思った直後、俺の急所にそっと触れてゆっくりと唇を開いた。

 

 「今夜は……私が可愛がってあげるわ」

 

 待て、俺は主にそんなものを教えた覚えはない!

 そう思うのに、ナミは当然のように滾るそれに口付け、舐め始める。主は俺にされる迄未経験だっただろうと言おうとして、無駄に上手いそれに言葉を飲み込まされてしまう。

 視線を向ければナミは笑う、愉しそうに。そして、囁くように言葉を口にする。

 

 「全て任せて……良くしてあげる」

 

 誰に仕込まれた!?

 僅かではない嫉妬に近い感情と動揺を悟られぬよう冷静を保とうにも、ナミの指と唇が俺を翻弄する。好きにしろと言った手前、静止も出来ぬ。

 だが……たまには良いか。誰に仕込まれたかは、後程ゆっくりと聞き出せば良い。

 Happy Valentine……普段は逃げ回る兎が、珍しく攻めてくるのを鷹は喜び受け入れる。何をされようとも、鷹にとってみれば愛らしい兎でしか無いのだから。

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