自然と重なった唇。ベックが何で突然して来たのかは分からないけど、私としても嫌では無いのでその首に腕を回してもっと……と、言葉の代わりに行動で伝えてしまう。
そんな私にベックは当然のように付き合ってくれちゃうから、いつまでも互いの唇が離れない。そんな時、私の身体が気候の異変を感じ取る。
そこで何も考えずに、ベックを押し退けて駆け出せばベックは暫しその場に残ってた。けど、肩を震わせながら遅れて姿を見せてくれたので、怒ってはいないらしいとわかる。
今回発生したこの世界でサイクロンと呼ばれる現象は、元の世界でもお馴染みの物である。問題は合わさっている所にある……と、言えるけど。
地球では、台風と呼ばれる物が何処の海域で発生するかにより、ハリケーン、サイクロン、台風と呼び分けられている。なのでその呼び名が変わる線を超えるとハリケーン〝女性名〟が台風〝今年何個目か〟に呼び方を変更されるという決まり。
それに対してこの世界では、竜巻と台風の合算であり、発生したその直後が台風の厄介さピークの強さになると言う面倒臭いものである。だからこそこの海では、サイクロンは厄介な現象だと言われているけど……。
「シャンクスはサイクロン斬って突き進めるんだから、私いらないじゃない」
「全ての異常気象に反応し、対応できるナミが不要な訳ねェだろ。……さっきも伝えたが、俺にはナミが必要だ」
無意識で声に出していた呟きは、しっかりとベックの耳に届いていたらしく、当然のように甘く囁き返されてしまった。それにより先程の言葉の意味を私が勘違いしてたと気が付いて、でも……。
「ベックが、私の全てよ」
「そこは、少し改良した方がいいな」
「……だめ?」
迷惑かな。重たいのかな?
不安になって見上げれば、優しく微笑んでくれる。甘やかされてる事はちゃんとわかってるの。
「頼って貰えるのは嬉しい。依存されるようには……仕向けた。だが、俺だけで世界を構成しちまうと、将来困る事になるからな」
「そうなの?」
よく分からなくて首を傾げたら、ベックが私の腰に腕を回して抱き締めてきた。そして子宮の真上を撫でながら、雄の顔をするから、顔が自然と赤くなる。
その場所を撫でられる意味は、分かるけど、でも!そんな風に脳内で混乱する私に、ベックは無駄な色気を振り撒きながら駄目押しで問い掛けてくる。
「困る事に、なるだろ?」
「なら、ないかも、知れないでしょ!?」
「薬飲んでるの、辞めるか?」
「馬鹿じゃないの!?こんな、毎日が災害みたいな生活で、本当にそうなったら困るのは皆なのよ!?」
私個人としては構わないというか、居たら可愛いだろうなと思うけど……この海では難しい。我が身ひとつ守れないのに……そんな事、あ!
「そんな事より!防災訓練するとか、防災グッズ揃えるとかしておかなきゃ!!」
「そんな事って……まァ、今はまだそうだな」
喉の奥で笑いながら、ベックは私の頭を撫でて来る。それが気持ち良くてつい目を細めてしまえば、会話は途切れるのが本来だろう。
けれどもそうならないのがベックだ。案の定人の頭を撫でながら会話を続ける。
「防災訓練は無意味だろう。軍艦百隻が来ても対応出来るような奴等に、そんな物は不要だ」
「おい、ベック、何他人事みたいに言ってんだ。お前もその代表だろ」
ヤソップがケラケラと笑いながら言えば、ベックは違いねェと答える。そんなやり取りがなされれば、私も確かにね……と思う。
でも、1応は彼等も人族の筈。例え素手で岩を砕き、銃弾の全てを躱し、銃か剣があれば1人で軍艦を沈められるのだとしても……人である、筈。
「うー……」
「どうした?」
「皆が人間辞めてて、私だけか弱い美少女航海士だなんて……完全に足手纏いだなと思って……」
「自分を知らないとは、こういう事か」
何か無礼な呟きがヤソップから聞こえたけど、ベックは私を甘やかすように頭を撫でつつ髪を弄り始めた。……どうやら髪型が気に入らないらしい。
髪の1部を三つ編みにして後ろでそれを結び三つ編みを花冠みたいに見立てた髪型にして、ベックは頷く。それから私の長い部分の前髪を楽しそうに指に絡ませるから、どうしたのかと首を傾げてしまう。
「前髪がこれで目立つようになったな」
「え?」
「折角俺と揃いなんだから、目立たせてくれてもいいだろ」
「気付いて、たの!?」
「当然だろ。出逢った頃は、こんなに分かりやすく長くなってなかった」
その言葉に顔が熱を持つ。けど、もう、私にはどうにも出来ない。
そんな私に皆が笑うけど、笑い事では無い。こっそりやってた前髪お揃いがバレてたとか、もう、やだ。
「自分で穴掘って埋まるから、スコップください」
「船大工が泣くから船に穴開けんなよ」
そう言いながらルーが私に飲み物とケーキの乗ったトレイを見せるから、頷いて近くのチェアに腰を降ろす。私が差し出された物を食べながら溜息を落とせば、いつもの大幹部様達が酒を片手に集まって来て防災グッズの方に話を進めてくれた。
どうやら忘れられてた訳でも無ければ、完全に否定されてた訳でも無いらしい。ただ、何故か防災グッズって言ってるのに兵器を作ろうとするヤソップが居たけど。
それに乗り気なのが我等が〝大頭〟シャンクス船長である。これは、泣いてもいい案件じゃないかしら?
そう思って溜息ひとつ。なのに皆も何故か、シャンクス達に同意を示し始める。
「攻撃は最大の防御ですからね!」
「災害と戦おうとしないでよ……」
「〝災害〟の名を持つようなのとは戦って来たが……今回はサイクロンとかの対策だろ。あまり虐めてやるな」
「ベック~!!」
唯一の味方だと抱きつけば、甘やかすなよとルーからひと言。皆が苛める。
……今は甘やかして欲しいです。そう思ってベックの服をキュッと掴む。
「ベック」
「ん?」
「甘やかして」
「……お望みのままに」
そうして膝の上に移動させられた私はベックに抱き着き、優しく抱き締めてくれるベックに身体を預ける。すると突然、シャンクスが吠えた。
「イチャつくなー!!」
「普段なかなか甘えてくれない歳下の恋人が、甘やかせと珍しく言ってきたんだ。それなのに、膝に座らせて、落ちないように支えてるだけだろ。他には何もしてない俺の理性を褒めとけよ、お頭」
「サイクロンはナミが解決出来るし、防災グッズなんざいらねェだろ!!」
「……動けない日もあるからな。性別の違いを考慮してやれ」
ベックの言葉により、サイクロンの時に私が寝込んでるのを想定してくれた皆が真剣に話し合いを開始してくれた。本来ならば必要な気圧の変化や波の高さをはかる物がこの船には無いのだと、この時になって気付く。
驚く私にベックは言う。いつもと変わらない、柔らかな笑みを浮かべて。
「ナミが居るならそんな物不要だろう。なら、その分の金と場所はナミの本とか置かせてやりたい」
「皆が私を駄目にする」
「ナミが優秀すぎるから、ご褒美だ。甘んじて受け取れ」
そう言葉を続けたのはシャンクスで、どうやら知らぬは私だけだったらしい。なのに部屋はいつの間にかベックと同じになってた上に、私物も少ないからとその分甘やかされてるらしいと知る。
そんな事してると、幹部以外の人達から不満が噴出するんだから……。と、結構本気で思う。
そんな不安は、でも何故か楽しそうに笑ってくれる皆により言葉にする前に溶けて消える。結局、私が体調悪い日にだけ使う用にと、ライフセーバーが着るようなライフジャケットを人数分と、予備を少し用意する事で決まった。
「……ねぇ、それって、悪魔の実の能力者だけは日常的に身に付けた方がいいんじゃない?」
「悪魔の実の能力者だと知れ渡ってるやつならそれでいいが、知られてないなら能力者だと宣言してるような物だから、俺としてはオススメできない」
「……よし、分かった。それなら〝不死鳥マルコ〟と〝火拳のエース〟を引き抜きましょう!!」
軽い冗談で口にしたそれに、皆が良いな!!と同意するから慌ててしまう。冗談だから、人様に迷惑かけないでー!!と叫ぶ私に、皆が笑い出す。
デザインとかも赤髪らしいのにしたいと騒がしくなるのを見て、皆が生きてる幸福を噛み締めるのは、村の事があったからかな?
少し過保護過ぎるとは思うけど、想像も出来なかった幸福に包まれて、私は笑ってしまう。今日もやっぱり、私の周りは笑顔と愛で満ちてる。