※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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家族のマーク

 名を教えろと耳元で囁かれる。それだけで小さく震えた自分の体が、少しだけ疎ましい。

 私の体は、クラッカーさんに助けられる直前に、ほぼ休み無く2日違う男に抱かれている。それから異様な程に、刺激に弱くなった事を痛感させられてしまう。

 恐らくは天候の変化に敏感なこの体の特性故の事だとは分かっているけど、何とも情なく思うしそれが泣きたくなる程に卑しく思える。だからと言ってそれをクラッカーさんに言っても仕方ないから、声を震わせないように気を付けつつ言葉を返す。

 

 「私はナミよ。クラッカーさん」

 「……俺を、知っていたか」

 

 少しばかり嬉しそうに笑うクラッカーさんに、とりあえず解放して欲しいと願う。何故なら今私は、ベッドの上に居るから。

 あの日助けられ、保護された後、クラッカーさんの指示のもと忙しくも慌ただしく時は過ぎて、クラッカーさんの船で私はビッグマムの元へと運ばれている。まだ顔を見てもいないのに、コノミ諸島にはビッグマムの海賊旗が掲げられていて、現在進行形で護られ続けているのだ。

 本来ならば寿命か菓子を提供する事になるのを、何をどうしたのか私がクラッカーさんの傍にいるのならば、どちらも無くていいと言う事になったらしい。これが〝らしい〟というのは、私もクラッカーさんからの話を聞いただけに過ぎない為に、情報が曖昧なのが理由。

 私の荷物を纏めて船に乗せられるのと時をほぼ同じくして、船が直り即刻航海をはじめたのだけれど、その翌朝私がサイクロンの発生に気付いて教えて、それから回避した。その後は少し休むように言われたので言葉に甘えて小説書いたりして……気付いたら数日が過ぎていたらしく、しこたま叱られたのよね。

 その後でまた隙を見て海図を描き始めたら突然腕を掴まれて、睡眠薬入りの高カロリー点滴で強制的に眠らされて、目覚めた瞬間が冒頭である。即ち私は、憐れな被害者であると思う訳です。

 

 「名前、教えたんだし、ドイテクレマセンカ?」

 「あ?なんで退く必要がある。ナミは、俺の持ち物だ。そうだろう?」

 「それは、どうなの……?」

 

 私が首を傾げていたら、クラッカーさんは真剣な顔で私に問い掛けてきた。それに動揺をしなかった私を、誰か褒めてくれないかな。

 

 「それで、何故俺を知っていた。手配書の俺と今の俺は別人だろう」

 「……私、海賊歴長いのよ。それなりに情報網はあるの。だから知ってただけよ」

 

 不味い。ここで漫画知識ですなんて言える筈も無い。

 内心で焦る私に対して、クラッカーさんは少し楽しそうな調子で言葉を口にした。その雰囲気は穏やかで、私はそれにつられるようにして自然と表情が緩む。

 

 「長いっても、俺よりはどうしたって短いだろう」

 「それは、そうでしょうね。でも、私は6歳の頃から海賊やってたようなものですから」

 

 私の言葉にクラッカーさんは嫌そうな顔をして、左肩に触れてくる。そしてアーロンの刺青を忌々しそうに見ると、突然大声で船医を呼び寄せた。

 船医が部屋に入るのと同時に私の上から退いたクラッカーさんは、刺青を消せと命じて部屋を出て行こうとするから慌てて呼び止める。立ち去ろうとするクラッカーさんの背中に、何故か恐怖にも似た何かを感じてしまった。

 

 「クラッカーさん、待って!」

 「あァ!?」

 「刺青は綺麗になんて消えないのよ。だから、上から何か描かないといけないわ」

 「……なら、ウチのマークでも入れるか?」

 

 思いがけない言葉に私がクラッカーさんに驚きの視線を向けると、クラッカーさんは可笑しそうに笑った。そして、私の傍に戻って来るとベッドに腰掛けて私の肩に触れる。

 それはその無駄に大きな図体からは想像も出来ないような繊細な触り方で、痛々しい傷に触れるかのように優しく触れて来るのだからやるせないような気持ちになる。……どうして、この人は私に優しくしてくれるのかな。

 あの時確かに気に入ったとか言ってたけど、その後の言動を考えるにペットかオモチャを気に入ってる感覚としか思えないし、それだとしてもそもそも論で何を気に入ったのか分からない。私は何を求められているのかな。

 望む姿を演じてみせる覚悟はあるんだけど、何を求められてるのか分からないと困るわ。そんな事を考えながら、質問の答えを口にする。

 

 「居候ですらない私に、誇りを入れる権利は無いと思いますけど?」

 「……ナミは、自分の立場と価値を勘違いしている」

 

 何を言われているのか分からなくてクラッカーさんを見詰めると、その手を私の頬に当てて、クラッカーさんは事も無げに言う。もしもその表情に少しても何か含みがあれば、私はその言葉を聞き流していたか揶揄われたと判断しただろうけれど、その表情も瞳も真剣そのものだったから……私は、言葉から逃げる事が出来なかった。

 

 「ナミは、俺の女だ。1目見て気になり、会話して欲しくなり、泣き顔に欲情した。……そして、お前は俺の手を取った。もう、逃がすつもりはねェよ」

 「……居候とか、保護してるとか……じゃ……」

 「その程度の存在の為に、旗を無償で貸し出すか。ナミは、俺の女だ。だから、印を刻んでも問題はねェよ」

 

 そう言って言葉を切ったクラッカーさんは、呆然としている私の唇に自らの唇を重ねて、即座に離れると不愉快そうな顔をした。それを呆然と見ていたら、少しの苛立ちを含んだ声が聞こえて来る。

 

 「キスの時は瞳を閉じろ。……それと、刻むかはナミの心1つだ」

 

 そう言って再び触れ合う唇に、とりあえず眼を閉じて受け入れれば満足そうな気配を感じるけど、私のキャパは既に限界を超えている。何がどうなってるのか分からなくて、でも、どうやら私がここにいることでクラッカーさんに迷惑を掛けたりはしないらしいと理解した。

 唇が離れた時、私はそっと問い掛ける。

 

 「とりあえず、私はここにいて邪魔になったりはしないのね?」

 「…………待て」

 

 え?

 勘違いしてた?

 私、邪魔になってる?

 そう思って、不安な気持ちでクラッカーさんを見上げればクラッカーさんは私を見て少し硬直して、頭を抱え、それから深い溜息を落とした。それから、クラッカーさんは私と視線を合わせてくるから、何かなと思いながらもそれを素直に受け止める。

 

 「ナミに俺は今、最大級の告白とヤラをしたつもりなんだが、通じてねェな?」

 「……コクハク?」

 

 首を傾げた私をクラッカーさんは徐に抱き締め、それから小さくこんなに鈍い奴は初めてだと呟いた。その時小さく背後から声が聞こえた。

 

 「あの、とりあえず刺青の対応させて頂いても?」

 

 存在を忘れ去っていた船医さんに、申し訳ない気持ちいっぱいで謝罪する為に振り向こうとしたら、クラッカーさんは後で呼ぶと言って追い出してしまった。それに対して船医さんは何も言わずに退室するから、私はどうしたのかとクラッカーさんを見詰める。

 

 「……この俺が、こんなにも振り回されるとはな」

 「クラッカーさん?」

 「……呼び捨てにしろ。変な気分だ。遠慮もするな。俺は気の強い生意気な言動をするお前が気に入っている。素は、こっちのボケた方なんだろうがな」

 「ボケ!?なっ!人が恩人だと思って大人しくしてたらなんなのよ!?」

 「あァ、それでいい」

 

 私が怒っているのに、クラッカーは何故か満足そうに笑うから本気でイラッとする。なんなのよ、この男!

 そう思って怒っている私の腰を抱いて、クラッカーは笑う。でもそれが馬鹿にしたようなものじゃないと気付いてしまえば、どう反応したら良いのか分からなくなる。

 ……その、無邪気そうに見える笑顔に、心臓が1度大きく脈打つのを感じて、言葉を失う。なんだろう、こんなに体も大きくて、どうしてたって勝てる筈も無い相手なのに……可愛いと思ってしまった。

 

 「……クラッカー、私、この刺青の代わりに入れるのは、家族のマークにするわ。だから」

 

 言葉は、最後まで紡げなかった。ベッドにまだ寝ていろとでも言うように押し倒されてしまえば、私にそれに対して抗う力なんてある筈も無い。

 最初と同じ構図で、最初と同じ相手で……なのに、妙に嬉しそうなその笑顔に、顔が赤くなる。……まさかと、自分の変化に思うけど、それを何処かで認めたくないと騒ぐ自分もいて……。

 

 「ナミ?」

 

 ……きっと、私風邪でもひいたんだわ。そうとしか、思いたくない。

 恩人なのに、感謝もさせてくれなくて、よく分からない事ばかりを口走って……そんな相手に恋してるかも、なんて……そんなの。不毛過ぎる。

 

 「……風邪、ひいたみたい。刺青は、またにしてくれる?」

 「確かに、赤いな。……仕方ねェ奴だ。なんだってそんな弱っちィんだよ」

 

 そう言いながらもクラッカーは船医を呼び戻して診察するように命じつつ、何故か刺青の入れ直しを指示していて……家族のマークについて私は何も伝えてないのにと思った。まさか、クラッカーがビッグマム海賊団のマークを〝家族のマーク〟と認識していたのだと知るのは、刺青のそれを綺麗に入れ直された翌日の事となる。

 そこまで来て漸く、クラッカーの自分のモノ宣言が持つ言葉の意味を理解して、不毛だと思っていたそれが叶うかも知れないと僅かに期待してしまう。それと同時に、1生治らない病にかけられてしまったかも知れないなんて。

 そう思った私は、どうしたらいいのか分からなくなりその場で蹲ってしまう。そんな私を見付けたクラッカーに、その後超絶心配される事となったが、それは不可抗力だったと言いたい。

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