偉大なる航路の情報が足りねェとの話になり、それでも1度入ってみれば測量士が有り得ない天候変化により死んだ。この海を測量士無しで、航海士だけで航海しろってのは無理があるかとの話になり、測量士を求めて最弱の海へと行ったのは、1番安全な海であるからだ。
平和ボケして能力だけある奴を力で服従させるのが1番手間もかからねェと思っていた俺は、適当な島を求めて移動する中で近くの島へと向かう船を見て衝撃を受けた。女が1人で船を動かし、今にも死にそうなその姿で……けれども真っ直ぐに船だけは動かしているその手腕に驚かされたからだ。
気付かれない程度の距離を保って付いていくと、女はその体をふらつかせていると分かる。船を岸につけて、俺の船を認識してから俺を嫌そうに見て逃げようとしたのを捕まえて、少し揶揄ってみれば全力で攻撃された。
プライドの高い猫のような女は、想像を遥かに超えたいい動きをするが、体は限界を遠に超えていると分かる。その体が崩れ落ちるように倒れるのを支えてやれば、罵詈雑言が向けられた。
その後プライドの高い気高い猫は、俺に何度口説かれても縋り付く事なく自由にしている。頼る事を知らないかのように、弱った姿を隠して強気に振る舞うが……本当は今にも砕け散りそうだとその瞳を見れば分かっちまう。
魚から解放すれば、この気高い女が手に入るかもしれないと考えた俺は、高過ぎるその能力と男好きする体とを持て余す猫を救う事で〝仲間〟にする事には成功した。それも、求めていた以上の能力を持つ測量士であり、それなのにそれは副業であるという。
本業である航海士としては、既に神掛かっているその能力により幾度と無く救われ、最初に偉大なる航路に入った時の苦労が何だったのかと思わされる程快適な船旅を続けている。つまり、文句はねェんだよ……仲間って意味じゃな。
戦いの度に血の匂いで体調を崩すのも、お人好しの甘ちゃんなのもまァ、許してやれる。だから、問題はそこじゃねェんだよ!
問題は、いつまでも想いが伝わらねェ鈍さだ。この良過ぎるスタイルと、可愛い顔で、男を知らねェ訳でもない癖して、何だってこんなにも鈍いのか。
おかげで未だ単なる船長とクルーでしかねェ。〝この俺様〟が、必要があるとは言えナミに1部屋与えてやってるってのに、全く俺の想いに気付かねェとはどういう事だよ!?
「キッド……それがナミだ」
「あぁ!?」
「それと、多分あそこまで鈍いと、想いを伝えきる前に手を出せば〝性欲処理〟か〝道具として使われている〟とでも判断されるぞ」
「なんだよ、それ。あの無駄に美味そうで無防備な体を見せ付けられて、今後も手を出すなってのか!?」
「……初めから鈍いと忠告はしただろう」
キラーの言い分に畜生と言いながら不貞寝する俺に、近付く阿呆は基本的に居ない。……1人いるが、それが今話題の渦中にいる女であり、さっき部屋で『毒をもつ危険生物』とか言う本を読んでいたから暫くはその本に夢中だろう。
そんな俺の予想を裏切り、頭を撫でて来る馬鹿猫のそれで起こされても、俺は寝たフリを続けていた。それは、最近俺を見ると俯いて逃げ出す事がある為に、無防備に近付いてくれたナミを怯えさせたくなかったのが大きい。
「愛してるわ」
聞こえて来た声により、飛び起きなかった俺を誰か褒めろ。褒め讃えろ!
そんな事を考えていたら、そっと額にキスをしてくるナミに、俺の呼吸は今にも止まりそうだ。ナミは、俺をどうしたいのか。
そのまま俺に抱き着いてきて、甘えるようにして寝ちまったので動く事も出来やしねェ。だが、そうか……ナミが最近おかしかったのは、俺を想っての事だったのか。
……なら余計に、どうして俺の思いが伝わらねェのか。俺はそれを、世界に問い正したいような気持ちになっていた。
暫くして起きたナミは、俺が起きているのを見ると顔を赤くして慌てて逃げようとするから、その腕を思わず掴む。俺は、お前が欲しいってのに、何故こうも伝わらねェのか。
「……次に、似たような事があれば、犯すぞ」
「ご、めんなさい。なんか、あの……」
「今回はいい。それより……何処か人のいる島につけろ」
「……人がいるかは分からないけど、半日もあれば多分島に付けますよ」
「だから、敬語で話すんじゃねェよ!」
「あ……。うん、ごめんね。航海士としての話をしてる時は仕事だからと思う為なのかな、キッドを〝上司〟として見ちゃって。……気を付けるわ」
そう言って笑ったナミは、俺から逃げるように去って行く。ナミが俺に惚れてるなら、後は俺の想いが伝われば良いだけだ。
……それが難関なんだがな。そしてナミの言葉通りに島に着いた。
本当に航海士としては恐ろしく高いその能力に舌を巻きながら、俺は人が住んでいるらしいその島に、キラーを連れて降りる事にした。酒場へと向かい、やり場のない多くの感情を消化する為に酒を呑んでいたら、海賊王になると言った俺を笑う奴らがいて、それを切り刻む。
いつもの様に血塗れになった俺にキラーが言う。勿論キラーも似たような状態だ。
「明後日、オレンジデーとかいう日があるらしい。オレンジ色の物を大切な人に送る日らしいから、ナミに何か渡してみたらどうだ」
「……考えてやるよ」
何故ここで素直に礼を言えねェのかと自分に思いながら、俺は島の中を適当に散策してナミに似合いそうなオレンジ色のワンピースを購入した。〝ワンピース〟な時点で気付いてくれると有難いんだが、その程度で気付くなら苦労はしてねェよな。
そんな事を考えながら、迎えたオレンジデー当日。俺の指示通りに無事船を島につけた褒美として出掛けさせてやると言えば、何故か財布などを鞄に入れながらメモを手に部屋の中をチェックし始める。
……そうか、買物したいんだな。……って駄目だろ。
このままだと必要品の買出しにしかならねェ。どうしたらデートだと認識するんだこの阿呆は!
「ナミ!」
「ん?」
「これを、着てこい」
渡した箱には先日買ったワンピースが入っている。ナミは首を傾げながらそれを開けて、可愛いとその表情を綻ばせてから俺をじっと見詰めて来た。
何だと思って見れば、少しずつ顔を赤く染めて、それから頭を振り、小さく呟く。諦めたようにその瞳に影を落としながら。
「キッドが意味を分かってる訳な「今日は、オレンジデーだろ。
「え?……っ!?あの、私っ!」
口をパクパクと動かすナミに、本気で可愛いなと思うが口に出せずに背を向ける。まだ、出掛けてもいねェのに、襲いそうだ。
着替えが終わったら出て来いと言い残して甲板に向かうと、キラーとヒートが剣を振り回して遊んでいるのが見えて、楽しそうだなと思う。それをどかりと座って眺めていると、フワリと蜜柑の香りがして部屋から出てきたなと分かり視線を向ける。
ワンピースに入っていた白の花柄に合わせたのか、白の靴と帽子、鞄を身に付けているのが見える。髪がオレンジ色だからか、白とか似合うよな。
「……似合うな。行くぞ」
「あの、キッド、さっきのって……」
「……行くぞ」
甲板で、他の野郎共がいる所で続きなんざ言えるか馬鹿野郎と、内心で悪態つきながらナミの腕を掴み歩き出せば、足をもつれさせるから仕方ねェ奴だとナミを横抱きにして船を降りる。顔が近くなり、ナミは真っ赤になってその顔を隠すように俺に抱き着くから……このままホテルに直行する事にした。
俺に理性を求めるんじゃねェよ。買物はまた別な機会にやらせてやる。
ホテルに直行すると、慌てたような声を出してバタバタと足掻き始めるが、単純な筋力で勝てると思うんじゃねェよ。部屋に入るのと同時にナミをベッドに投げ落として、ドアを閉めて後ろ手に鍵まで掛けてやればナミが切なそうに瞳を揺らす。
「先に体を手に入れれば、性欲処理の道具として……」
脳裏でキラーが言い出したので、ベッドの上に座って微かに震えながらも勝気な瞳で俺を見ているナミに、俺は静かに視線を向けつつ確かに想いを伝えておくべきだなと思う。ただ、性欲処理の為にってんなら、こんなに耐えてねェよ馬鹿がと内心で毒づきながら。
「……ナミ、俺がお前にこれ迄手を出さなかったのは、伝わってなかったからだ」
「なにが?」
キョトンとした顔で小首を傾げる無防備さ。お前、男にホテルに連れ込まれて、ベッドの上にいる自覚を持てよ。
「俺が、お前に……惚れてるって事がだ。ナミ、俺のものになれ。全てにおいて、俺だけのものになれ」
航海士としてのお前も、測量士としてのお前も、天候を自在に操る魔女のようなそれも……全て、俺のモノだ。勿論、女としてのお前もな。
「でも!」
「ん?」
「私が、初めてキッドに言われた言葉に間違いは無いのよ。私は確かに、何人もの男に抱かれてる。……だからこそ、使われたくはな「あの時は……悪かった。ナミの気を引きたかったんだ。……ナミを女として求めて、能力が俺の望んだものだったから手に入れた。それにな……ナミ。俺だって他に何人もの女とこれ迄経験がある。だから気にすんな」」
俺の言葉にナミは首を横に振り、男と女じゃそんなの違い過ぎるなんて言うがよ。お前、お綺麗にも程があんだろ。
海賊だぞ。孕んだとしても、その父親が分からねェってのが普通だろうが。
海賊が暫く拠点にした地域の女は、誰の子か分からねェ同じ時期に産まれるガキで溢れるのが1般的だろ。なのに……何だっててめェはそんな事に拘る。
「……俺が、ナミの最後の男ならそれで良い。ナミは、これまで通り俺を愛していたら良い」
「キッド……?」
「ナミは俺を〝愛してる〟んだろ。頭撫でながら、言ってたもんなァ?」
「やっぱり起きてたの!?」
真っ赤になってベッドで立ち上がったナミは、その瞳に羞恥と怒りを滲ませる。それに俺は煽られちまう。
「あの言葉利用して想いを伝えるのはフェアじゃねェだろうから、あの場で襲わずにいる為に寝たふりしてやったんだ。感謝しやがれ!んでもって、さっさと脱げ!」
「なっ……なによそれ!?もう少しムードってもんがあるでしょ!?」
「……着てるもん切り裂くぞ。嫌なら自分で脱げ、ナミ」
「……キッドの、馬鹿!」
そう言いながらも素直に脱ぎ始めて、それなのに俺がやったそのワンピースを大切そうに畳む姿に限界を迎える。……優しく脱がせてやる余裕が無ェから、脱いでもらったんだ。
生意気な、気の強いお前も、甘ちゃんで、儚いお前も、誰にもやらねェ。お前は俺のものだ。
「海賊に狙われた宝だって自覚しろ。いい子にしてれば、大切にしてやる」
今日が大切な人にオレンジの物を贈る日ならば、お前からも
Happy orange day……中々素直になれない2人の想いは、こうして漸く結び付いた。何日も帰らない2人を探す為にキラーが街を破壊し始めるのは、また別な話だろう。
これにて一旦助けIF作品は掲載完了です。この先追加で書きましたら、それに合わせて途中に差し込まれますので、気長にお待ち頂けましたら幸いです。