※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

32 / 122
猫の日イベント(side)

 潜水艦は海底を進んでいる分、サイクロン等の影響は受けにくいかと思いきや、案外そうでも無い。寧ろ海底だからこそ海域が変わっても中は混沌としてる場合がある。

 その為にナミの指示で海面に出たり、潜ったりを繰り返し予定していた航路から大きく外れた。だが、この連日の気象問題を考えればそれは致し方ない事だろう。

 寧ろ全員が無事に生きて、船にも問題がない事は感謝すべきだ。そう思って近くに島があればナミを少し休ませてやろうと、ベポの元へ相談に向かえば途中で会ったのは困りきった顔をしたイッカク。

 

 「どうした?」

 「食料が、不足してます。ハッチの閉め忘れが1部あったようで、海水に浸かってしまってました。申し訳ありません」

 「それなら、俺の方からも報告します。恐らくは同じ理由からでしょうが……インクが旅立ちました」

 

 その声に振り向けば困りきったを超えて、泣きそうな顔をしたペンギンがいる。俺は休ませるのが可能な島ではなく買物をできる島を探す為、方向転換してナミの元へ向かう。

 そうして事情を説明すれば、頷いて海流を見つめ、海底の岸壁を見詰め……わかったわと頷かれる。いや、俺が分からねェよ。

 そんな突っ込みは誰もできないままに、再度ナミの指示でポーラータング号は進み始めた。それから数時間後に到着した島には、猫が大量にいて……ナミの瞳がキラキラと輝く。

 結果、俺達の静止を無視して買出しすると言う名目で猫に突進して行くナミを見送る事になった。ったく……ナミがにゃんにゃんにゃんと鳴くのは、俺の腕の中だけで充分だろ。

 流石にそれは言えなかったが、そればかりは俺が弱い訳では無いと言いたい。そんな事を考えていたが、やる事は多いので先にそちらの対応にあたる。

 ……それが悪かったのか、ナミが帰らない。測量してるにしても時間がかかり過ぎている。

 嫌な予感がした俺は、数人の見張りを残して全員でナミを探す為に駆り出した。人に迷惑をかける事を良しとしないナミは、私物の買出しはそれこそ1人では行かない。

 自分の置かれている立場はわかっているナミだから、1人での買い物に時間がかかるのはおかしい。……時間がかかるものの時は、必ず誰かを伴うってのに……。

 背筋を冷たい物が走る。まさか……ドフラミンゴにでも見つかったのか?

 早合点だとわかっていても、不安しかない。海軍に追われてるには静か過ぎる。

 どうしても嫌な予感しかしねェ。ナミ、無事でいてくれ。

 

 「何処だ!ナミ!!」

 「にゃー……」

 

 猫の鳴き声につられて辺りを見れば、やたらと猫がいる事に気付く。本当に多いな……。

 まさかいくらナミでも、猫に連れ去られたとかは無いだろう。そうなると、とりあえず人の集まる場所……酒場にでも行くかと足を進める。

 見えていた酒場に近付く為に数歩進んだ所で、フワリと感じたのはナミの香り。そこで足を止めて辺りを見るが、やはりナミの姿は無い。

 

 「何処だ?……近くにいるのはわかるんだが……」

 「にゃー……」

 「猫……?」

 

 俺が探してるのはお前じゃない。そう思いながら見てみれば、ナミと同じ毛色の猫がいる。

 ……まさか。流石にそれは、ない、よな?

 それでも似ているからか、頬が緩む。そうして俺は自然と声をかけていた。

 

 「似てるな。……おいで」

 

 それでも言葉に合わせて手を伸ばしちまうのは、あまりにもナミと似てたから。もし違っても、この猫は手元に置きたい。

 手離したくない。欲しい……と、思っちまった。

 猫はそれに応えるように駆け寄り、手に擦り寄る。甘えるようなそれに、なんだか愛しさが増していく。

 そのまま抱き上げても抵抗しない猫に、飼い猫かと首輪を探すが無い。その時、強く感じたのはナミの香りで……。

 

 「あれ?ナミ?」

 「にゃ!」

 

 猫は当然のように返事をして、頷く。そんな馬鹿な事があってたまるか、何言ってんだと自分に突っ込むよりも早く、猫の身体は光り輝いた。

 そうして人の姿に戻ったナミは、自分の頭の上や尻に触れて生えてるものの感触を確かめている。もう、何を言えば良いのか分からない。

 

 「わかってくれてありがとう。気付いて名前呼んで貰わないと戻れなかったみたいなのよ」

 「……そうか」

 

 起きない事は無いと言われているこの海でも、恋人が猫になるのが普通かと問われたらきっと多くの人間が首を横に振るだろう。それでも嬉しそうに笑うナミを責める事もできず、そのピクピクと動く耳に視線を奪われるばかり。

 

 「この耳とかも暫くあるみたいだから、その間この島に停泊して貰える?安全の為に」

 

 暫く生えてるらしいとの言葉に、確かに検査は必要だろうと判断して頷く。少し不安そうな瞳を見ちまったんだから、俺に逆らえる筈も無いんだけどな。

 

 「……わかった」

 「ありがとう!」

 

 満面の笑みを向けられて、俺の思考回路は停止した。解剖したいとは思わないが、その耳と尻尾を弄り倒したいと思って何が悪いのか。

 そんな事を考えてる俺の目の前で、ナミの尻尾が揺れる。どうやら、何かを考えているらしい。

 それから考えが纏まったのか、俺の手を握って笑いかけて来るナミ。愛しさが止まる所を知らない勢いで、手が勝手に動いてその頭を撫でていた。

 それに対して無防備に瞳を閉じるから、そっとその額にキスを落としてやる。その時、近くを通り過ぎた母娘の会話が聞こえて来た。

 

 「広場の猫ちゃん飼いたい!」

 「保護猫はどんな病気あるか分からないから、どうせ飼うなら綺麗で健康なんだから、ペットショップの子で良いじゃない」

 「だってあの子達、お家ないんだよ!?あの子達連れて帰るーっ!!」

 

 その会話から、どうやら広場で保護猫の何かをやってると気付く。そして当然のように反応してるナミに、行くかと声をかければ頷かれた。

 潜水艦で猫を飼うのは無理だからと説得しつつ、先程の猫がナミでは無かった時は連れ帰る気だったなんて、当然誰にも知らせないままに黙殺しておく。誰も知らない事なら無かった事にしても、何も問題ない。

 港が近いからか、広場の周りでは魚関連の屋台が多く開かれている。その中で幾つかの店を覗いて、適当な焼き魚を買えばとりあえずナミに食わせようと決めて、近くの椅子に腰を降ろした。

 味見を兼ねて1口食べてからナミにそれを差し出せば、ぱくりと食べるその様子が本当に猫を餌付けしてる気分にさせられるものだった。その時、ふっと漂う臭いは病気特有のもの。

 それはナミも感じたらしく、俺の袖を遠慮がちに引っ張る。その様子が、妙に幼く見えるのはペタリと萎れた耳のせいだろうか。

 

 「ロー……あの猫ちゃん達……」

 「病気や怪我してんのが大半だな」

 「ロー……」

 「…………俺は、獣医じゃね「ロー……」わかった」

 

 名前を呼ぶだけで全てを伝えて来る恋人に、俺が勝てる筈も無い。だが、俺は焼き魚を食いたかったんだがな?

 保護猫の責任者を呼んで少し話をすれば、大喜びで治療を任された。なので猫達の治療を開始すれば、ナミが横で手伝ったりしつつ魚を時々俺に食わせてくる。

 

 「両手塞がってて食べられないでしょ?」

 「なら、後でナミの両手が塞がったらナミにも食わせてやる」

 「ありがとう」

 

 本当に嬉しいらしく、ナミの耳はピンと立ち、尻尾がご機嫌に揺れる。……これが数日で消えちまうのは、正直勿体ないな。

 そんな事を思いながら、やれる範囲で治療を続ければ集まる人達。その内に、治療を終えた猫から順番に引き取り手が見付かり、新たな〝家族〟として迎えられて行くのを眺めていれば、ナミも嬉しそうに微笑んでいた。

 

 「……ナミは、俺の猫だから誰にもやらねェぞ」

 「ふふっ……!ローの傍に居られるなら、ペットでも十分よ」

 「ナミは大切なクルーだ。それとも……俺の家族になるか?」

 

 俺の言葉に固まったナミに、ちゃんとしたプロポーズもそろそろ考えておきたいと思う。愛しい恋人を、誰にも奪われない為に、そしてその名に姓を持たせる為に。

 家族になってくれと、どうしたら伝えられるだろう。断られるとは思わないが、どうせなら喜ばせてやりたいとその細い身体を強く抱き締める。

 

 「今はまだ、何も考えなくていい」

 「ロー……」

 「ちゃんとしたのは、指輪用意してから伝えてやる」

 「馬鹿……。そんな事言われたら、何時まででも、待っちゃうわ」

 

 微笑むナミが愛しくて、人集りができてるのも忘れて重ねた唇。今の俺には、可愛い猫しか見えてない。

 今日が猫の日だと言うのなら、俺は俺の猫を甘やかしたい。俺だけの猫を独占したいと願って、何が可笑しいだろう?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。