※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

35 / 122
この作品は各キャラのラスト固定です。
この作品には、序章があります。


母親のような顔(子拾)side

 何処へ行くつもりだと隣に居るべき温もりが離れようとするのを引き留めようとその腕に手を伸ばす。だが、測量して来ると呟くように言ったナミは、するりと俺の手をすり抜けるように島へと降りてしまった。

 いったい何があったのかと、これ迄に無かったナミの行動に、俺は眉間に皺が寄るのを抑えられずにいる。無闇に追いかける訳にはいかないのは、ナミのおかしな様子故だ。

 夢遊病の患者と動き方が似ていた。意識の無い人間のような動きに、何かあると言う事は分かる。

 そうなれば偉大なる航路にいる事を考慮して、下手な動きは出来ねェ事だけは間違いない。ここで頼れるのは、やはり1人か。

 

 「コラさん、何か知らねェか?」

 「眉唾物の話なら、聞いた事がある。確か女を引き寄せて、その愛を受けて育つ植物がいる島があるとか」

 

 コラさんの言葉に、眉間に皺が寄るのを抑えられない。愛ってそんな目に見えず触れられもしない物を、どうやって何を受けるつもりなんだ。

 まさか……?

 

 「愛される為に、女が1番愛する人間の姿に擬態するらしい。ただし、幼児の姿にしかサイズ的になれないのだと聞いたな」

 「幼児?なら、大丈夫か」

 

 思わず安堵の息と共に呟いた俺に、コラさんはあァと納得した様子を見せた。それから頷いて大丈夫だと、そう言う類じゃないと言って笑ってくれたが……即座にそれを警戒した俺がおかしいのだろうか。

 動物の体液を求める為に、殺す植物や、辱める植物も少なくない。何度も使えるように、辱める植物は意外と多いのも不安になった理由だろう。

 

 「擬態するのは理解したが、その植物を捨てて行くとかは出来ねェのか?」

 

 正直に言うと、危険物質をナミの傍に置いておきたくない。だが、無理だろう事は理解している。

 

 「呼び寄せられた女の愛を貰う為に、繋がる所があるらしくてな……。植物を害したり、島から引き離すと女に害が出るらしいんだよな」

 「……完全に眉唾だと助かるが……あの様子だとな」

 「あァ……本当にな」

 

 俺とコラさんがそんな会話をしていたら、お包みに包まれた乳幼児を愛しげに抱えて帰ってくるナミの姿が見えて、間違っていなかったらしいとコラさんと視線を合わせる。そんな俺達の会話を聞いていたシャチが、ボソリと呟く。

 

 「誰の姿なんでしょうね?」

 

 その言葉に心臓が嫌な音を立てた。ナミは俺の恋人ではあるが、コラさんをいつも気遣っていて、優しくしている。

 ベポを可愛いと言っては猫っ可愛がりしているし、母親と姉に対する愛は尋常じゃねェ。だとするならば、俺の姿とは限らねェのかと、今更気付いたからというのも大きい。

 指先が冷たくなるような感覚に、震えそうな程になる。背筋を冷たいものが走り、風邪でもひいたかと微かに自嘲してしまう。

 

 「……ただいま。あのね、ロー、お願いがあるの」

 「なんだ?」

 

 帰って来たナミが少し不安そうな顔をしていて愛らしいが、そもそも第1声で〝お願い〟だとは本当に珍しい。となれば言い出す事は、その腕に抱えている子供の事だろう。

 ナミは基礎が甘い。女子供には特に。

 それも愛する人間に似ているとなれば、見捨てる選択肢が無い事はわかり切っている。なんだってこんなお人好しがこれ迄生き抜いてこられたのかと、心から思わされる程だ。

 ……そんなんだから、ドフラミンゴだとか鷹の目から狙われたんだと思い出して、少しではない不快感に襲われる。あの野郎共……必ず始末してやる。

 

 「この子の親を探したいの。もし、見つからなかったら、私、この子を育てたいわ」

 「……見せてみろ」

 

 俺が1言そう言っただけで、ナミは嬉しそうに無邪気な笑顔で子供を抱いたまま俺に近付いて来る。〝死の外科医〟なんぞと名をつけられようとも、俺が人を極力殺さずに居る事をナミは知っていて、だからこそ……俺の言葉1つで許可を得たのだと理解したのだろう。

 基本的な所では、賢いんだよなとナミを見て思う。目の前に連れてこられた子供に手を伸ばせないのは、その子供の姿を見るのが怖いからか。

 ……怖い、だと?

 この、俺が?

 

 「ナミ……その子供だが、誰かに似てるとかあるのか?」

 「え?……な、んで?」

 

 その顔を赤く染めて、ナミは動揺して見せる。だから俺は誰かにやはり似ているのかと小さく息を吐き出しつつ、俺を動揺させる天才であるコラさんとナミ相手には1生平常心なんてものは保てないだろうと思わされる。

 

 「ナミが愛しそうに抱いていたからな」

 「そっ……んな、こと、無いと思うわ。普通よ、私は普通!でも、そうね……似てて、可愛いなとは、思ったけど」

 

 誰に、似てるんだよ。そう言いかけて、妙な動きをする心臓を鎮める為に深呼吸してから、そっとそのお包みの頭部を外した。

 その瞬間、その場にいた全員が動きを止めた。頭の上に双葉の生えた乳幼児は、三白眼で真っ直ぐに俺を睨み付け、スっとその瞳を細めると挑発的に唇を微かに歪ませてナミの上着を掴む。

 それにナミはどうしたの?なんて微笑みを浮かべて言いながら顔を寄せて、そして……乳幼児がナミの唇に自らの唇を触れさせた。それを受けてナミは、あらおマセさんねと笑いなんでもない様子で愛しげな眼差しを向ける。

 とりあえず、乳幼児は俺に瓜二つだ。だが……何故かあまり安心感は無い。

 むしろ不快だ。なんなんだこれは。

 

 「ナミ、それを育てたいのか?」

 「うん。……あ、もしかして何かこの子に心当たりあるの?それで育てたくないの!?」

 「……それは、植物らしいから、育てられねェと思うが……ナミが言うならどうにかしてやりたいな。コラさん、どうなんだ?」

 「俺が知ってるのは、さっき話したので全てだからなァ」

 

 その時奥からペンギンが1冊の本を手に出て来た。そして、俺にあるページを開いて差し出してくるからそれに視線を向ければ、恐らくコレの事だろう記述が載っているのが確認出来る。

 

 「ナミ」

 「なぁに?」

 

 ナミは返事をするが、その心と視線は乳幼児に全て向けられている。……そんなに可愛いのか?

 優しく微笑むナミは、明らかに母親の顔になっていて……それに何故だが少し胸が痛んだ。その原因は恐らく分かっている。

 死んだ筈の、喪った筈の家族を思い起こさせるからだろう。何も知らないままに生きて居たのと、知っていて喪ったのではやはり多少異なる。

 愛や温もりを何も知らないのならばただ飢えるか、飢えている事に気付かないままに生きられる。だが……知っている場合は飢えるだけでは無く、渇望し、そしていざ手に入ろうとした時……それを喪う恐怖に足が竦み手を出せなくなる。

 この暖かな空間に、俺が近付く権利等あるのだろうか?

 

 「ロー……もし、私に子供が出来たら、こんな感じの息子になるかしらね?それとも、私に似た息子かしら?」

 「なんで息子で決定してるんだよ」

 「だって、ローは娘ならお嫁に行かせない気がするんだもの。それは可哀想だわ」

 

 そう言ってクスクスと笑いながら、ナミは俺を手招く。求められるままに近付くと、そっと俺と似た植物の手と俺の手を握らせて楽しそうに笑う。

 

 「今はね、疑似体験だと思ってくれたらいいと思うのよ。だから2人共仲良くね?」

 「できるか」「うー!」

 

 俺と乳幼児の声が重なり、それを受けてナミは優しく笑う。そうして……そっくりね、流石は擬態してるだけの事はあるわと言う。

 だが待て、なんだってその情報を持ってるんだ?

 

 「ナミ、その情報何処で?」

 「え?だってさっきペンギンが持って来て、ローが読んでた本なら前に読んだ事があったもの。だとしたら該当するのはって思い出しただけよ。そうなると……水と光と私が必要なのね」

 

 事も無げに言ってるが、読んだからって全て覚えては普通いねェんだよ。何の為に皆本を手元に残すと思ってやがるんだか、覚えて居られるなら手元に残して船に無駄な荷物を増やす筈も無い。

 そうは思うが、ナミのこういう所は今に始まった事ではない。だから、仕方ねェよなと自分に言い聞かせて溜息を吐き出してから、笑いかければナミはその顔を少し赤く染めた。

 

 「ローは、狡いわ。笑顔1つで私を翻弄するんだから」

 「……それなら、誰もナミ程狡くねェだろ」

 

 思わず呟いた俺のそれに、ナミは首を傾げる。だが俺はこれ以上自滅して色々と言う前にと、ベポに言って日中ナミが甲板で過ごしやすくなるように、準備を整えさせる事でやり過ごした。

 いつの間にか、暖かな空間の中心に俺は引きずり込まれていると言う事に、この時は気付く事が出来ていなかった。幸福というぬるま湯の中で微睡んでいる自覚が、持てずにいたんだ。

 夜になり植物が寝静まったのを確認して、ナミに手を伸ばした。だがその時、それを阻止するように植物が泣き出してナミを俺から奪う。

 俺とナミの時間を奪い、愛を甘受するだけではなく俺への愛を奪うと言うのか。なら俺も、それなりに戦うぞと、多少ではない苛立ちの中で考える。

 だがそんな事をしたらナミに何が起きるとも知れない為に、数日だけだと己に言い聞かせる。何年も探して、だが何処かで諦めていたその温もりを今は俺のものに出来ている奇跡のようなこれが現実なのだ。

 ただどれ程不快に思えても、ナミと再会した時の傷付き弱りきっていた姿を思い出せば、この程度なんという事は無い。……俺の子がもしも本当に出来たならば、俺はドフラミンゴへの復讐劇を辞めるだろうなとふと思う。

 ドフラミンゴと本気で戦うには、理由が希薄になりすぎているのと、リスクが高すぎるのが理由だが。現在俺の傍でコラさんが生きていて、ナミは手元にいてくれている……。

 奴がナミを犯した事の他に、何も怨みと呼べるものがない今、本当に子が出来ればそれを守る為にも、俺は戦う事を辞めるだろう。……確かにリスクは高い。

 ドフラミンゴが生きている限り、俺の持つオペオペの実の能力を諦めはしないだろうし、コラさんの命を狙い続けるだろう。そして当然、ナミを自分のモノにしようとし続けるだろう事もわかっている。

 それでも、いや、だからこそ……子供が出来ちまえば、関わらない方向で未来を模索するだろうなと素直に思う。ふと視線を向ければ、植物である筈の小さな命を、愛おしそうにあやすナミに、自然と笑みがもれる。

 幸福とは目に見えるもので、温もりとは触れられるものだったのかと思えば、そう思わせてくれるコラさんとナミの存在がどれ程大きいかを痛感させられる。それ程に2人は、俺にとって特別な存在なんだよな。

 それからの数日は、時折植物を切り刻みたくなる程に苛立ちはしたが、基本的にはコラさんがお爺ちゃんよろしく植物を甘やかし、ナミが母親のような顔で植物をあやしていた。その2人が、時折妙な事をしそうになるのを、俺が慌てて止めるという状態で過ぎて行った。

 甘やかし続けられたその植物といざ離れるとなった時、まさかのコラさんが大号泣でナミは必死にそれを宥めていた。……これは、コラさんの為にも子作りするべきかと本気で頭を悩まされる。

 だが夜になればナミはただ別れを耐えていただけで、本当は寂しく思っていたらしいと思い知らされる。ハラハラと涙を落として、俺に甘えるように抱き着いてくるその様子を見て、俺は卑怯にも己に言い訳をする。

 これは、2人の為なのだと。俺があの、温もりの日々を手放したくない訳では無いのだと。

 

 「ナミ、なら……本物を作ってやるから……協力しろ」

 

 そう言ってベッドに押し倒した俺に、涙でぬれた瞳を向けて微笑んだナミは、よろしくお願いしますと呟くように言った。本当はあの幸福な環境が、日常になれば良いと感じていたのだという事に、俺は気付かないフリをして、愛しい温もりを精一杯の優しさで胸の中に閉じ込める。

 後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。




この先このキャラクターは不定期更新となりますので、予めご了承ください。
このキャラクターにこの先追加される作品は、全てこの作品より手前に挿入されます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。