私は現状の自分の立場がよく分からない。航海士として何かをやるべきなのか、ナースとして医療に携わるべきなのか、それとも事務をやるべきなのか……。
はたまた、ヤンチャな弟であるエースの手網となるべきなのか……。何も仕事を任されないのは、私が余所者であるからなのかな?
ただ、何故か私の部屋は白髭さんと同室で、白髭さんは私に部屋で好きにしているだけでもいいなんて言う。そんな意味のわからない甘やかし方をして来るのは、何か理由でもあるのかな。
その事をマルコさんとサッチさんに相談したら、部屋で何か書いてるだけで価値があるんだから当然だろなんて言われてしまう。でも、そんなの価値と呼べる筈もない。
……皆、私がエースの姉だからって甘すぎると思うのよ。その上、白髭さんは私を揶揄ってくるのだ。
好きだとか、可愛いだとか……。もしも私が本気にしたら、どうしてくれるのかと言いたくなるような優しい眼差しで、柔らかな声で……。
本気なら、そりゃ嬉しいけど……有り得ないものね。そう思いながらペンにインクを吸わせる。
いつまで置いといてくれるのかな……。エースの為に、必要も無い私まで背負い込むとか……エースは本当に、白髭海賊団の人達に愛されてるわね。
とりあえずサッチさんの死は阻まれて、エースは飛び出さなくて済んだ。少しここを離れて挨拶したい相手もいるのだと言うエースの為に、今マルコさんが日程を調整してくれてるらしい。
マルコさん付きで、ルフィやシャンクスと会ってくるらしい。……少し羨ましくて、それを思わず口にしたら何故か白髭さんが不愉快そうになり、何人かが倒れる事件が発生してからは、シャンクスの名前を私が出すのは禁止されてしまった。
「今度は何を書くんだ?」
「それが決まらなく……って、白髭さん?考えてくれました?」
「双子岬の件か?」
「えぇ」
私は、海賊王を苦しみから解放したというクロッカスさんなら白髭さんを治せるのではないかと思って、白髭さんに話を振ってみたのだ。けど、本当の事を伝えなかったからか白髭さんは乗り気じゃなさそうで……。
でもだからと言って確実に治せる保証もないのに、息子である皆さんに期待させるような事は言えない。それにきっと、白髭さんは治したいから行こうなんて言ったら、断るんじゃないかなって思ってしまったのよね。
椅子をくるりと回転させて、ベッドに腰掛けている白髭さんに視線を向ける。相変わらず私の感覚で見ると、大きい人だと思う。
「ナミが俺の女になるって言うなら、モビーを向かわせても良いんだがな……クジラに逢いたいってだけじゃ、そんな理由でも無けりゃ向かえねェよ」
白髭さんの病気を治せるかも知れないから行ってくれとは、言えなかった私にも責任はあるけど……。それは酷いと思う。
断り方も色々あると思うのよ、私は。そんなに双子岬に行くのが嫌なのかな、でも、私は白髭さんを喪いたくない。
ふぅと息を吐き出して、それなら乗ってやろうじゃないと心を決める。揶揄われてばかりってのも、何となく癪なのよね。
「……白髭さん、優しくしてくれる?」
「あ?」
「私を女にって言うけど、私……色々な意味で自信なんてないもの。……優しく、してくれる?」
白髭さんの上着を掴んで問い掛ける。その時白髭さんを見上げれば、何故か固まった。
石像のように固まり、動かなくなった白髭さんに、どうやら揶揄っただけで私がそれを受けるとは思ってなかったらしいと知る。……人で遊んでるから、そんな事になるのよ。
全くと思いながらも首を傾げてみた瞬間、白髭さんの瞳が私を貫くように鋭いものに変わり、何事かと思った瞬間には唇が重なっていた。その瞬間、熱いものが白髭さんから伝わって来て……。
まさか、冗談じゃ無かったの?と1瞬心が期待してしまう。
それ程に、激しさの中に労るような優しさが含まれていて……動揺を隠せない。これはただ、揶揄う為のキスじゃない。
想いが、濁流のように私に流れ込む。本気で、口説かれてるような口付けに、私はどうしたら良いのか分からなくなる。
「……覚悟は、決まってねェみたいだな?」
僅かに離れた唇の間で囁くように言われれば、私も思わず本音が零れる。だって……そんなのは、予想外で。
「……本気で、口説かれてるなんて……思っても見なかったから。揶揄ってるんだと思ってたのよ……」
「……逆ならあっても、俺からはねェだろ、普通」
少し呆れたような声で白髭さんは言うけど、そんな事ない。信じないだろうって相手を、そうやって大人が揶揄う事は珍しくないもの。
でも、その言葉に心が震える。期待してしまって、思わず見上げながら言葉を紡ぐ。
「私、本気にして良いの?」
「本気にして貰わねェと困るな」
「なら、私白髭さんのものになるわ。だからお願い、双子岬に向かって!」
「……そんなにクジラが好きか?」
盛大な勘違いをされてるのは分かってるけど、それでも良い。白髭さんが助かる可能性があるなら、それに賭けたい。
そして……この想いを……。期待して痛い目を見るのとは違うのなら、白髭さんの元に居られる事はそれだけで十分すぎる幸せだもの。
そう思った時白髭さんは私をひょいと持ち上げて、当然のようにベッドに落とした。それに驚いて視線を向ければ、色気のある笑みを向けられてしまう。
「経験がない訳じゃねェこたァ分かってる。だが……無理矢理だったんだろ?」
「なんで……」
「ンなもん、ナミの性格と体の状態で分かるだろうが。……それで、俺が怖いか?」
なんで、怖がらないといけないのかわからない。そう思って首を傾げれば、何故か溜息を落とされてしまう。
「……ナミ、俺のモノになるって意味、分かってるか?」
「恋人か、女かになるって意味よね」
「……体格差もある」
「そうね、明らかな体格差はあるわね」
「……怖く、ねェのか?」
その問い掛けに、嗚呼そうかと思う。白髭さんの方が、不安なんだと……。
年齢差のある恋愛は、いつだって歳上の方が不安になる。もっと若いのがいいと言われるのではないかとか、自分に自信を無くしてしまったりだとか。
価値観の違いとか、知ってる時事的な事柄の違いにより会話が合わない事もある。その上で、白髭さんとは体格差もあるから……。
「私は、ずっと以前から憧れて来た人に助けられて……夢を見てるみたいな気持ちだったの。だから口説かれても本気にしなかった。本気にして傷付くのが怖かったから、逃げてきたのよ」
「ナミ?」
不思議そうに白髭さんは私の名を呼ぶ。その声は、戸惑いが満ちていて……その1言で今の思いを雄弁に伝えてくれる。
好きだなと思う。優しくて、強くて、だからこそ脆いこの人を私は好きなんだと再認識させられる。
「私は、好きな人になら、何をされるのも怖くなんてない。……暴力として行う事も出来るけど、運動としても……その、愛の育みとする事も、それは、相手次第でしょ?」
後半が恥ずかしい。物凄く恥ずかしい!
その為に顔を見られなくなり、明らかに茹だってるだろうと自覚してる。そんな私に白髭さんは、壊れ物を扱うように優しく触れて来た。
「……いきなり繋がりたくなるから、煽るな。寧ろ少しは怯えろ」
「怯えるのは、無理だわ」
素直に言えば、白髭さんは私の肌に優しく触れて来た。白髭さんの方が怯えてるようなその動きに、私は小さく笑うと自ら服を脱ぎ捨てる。
「……残さず、食べてね?」
「ナミ、お前……この状況で煽るとか、勇者か?」
この場合の勇者は絶対褒めてない。それ位は分かる。
でも、耳を赤くしてる白髭さんが可愛くて、ふっと笑みが浮かぶ。本当に……何だろう、抱き締めたい。
想いのままに白髭さんに抱きつけば、白髭さんはそれを慌てて受け止めてくれて、どちらからとも無く唇を合わせると白髭さんの指が背を滑るように移動する。ただ、指が触れただけ……それも、背中に。
それなのに、私の体はビクリと反応して唇が塞がれていなければどんな声を出てたかと思えば、赤くなるのを止められない。そんな私に白髭さんは休む間を与えまいとするかのように、平然と翻弄してくる。
唇が離されるとそれだけで、その瞬間に声が吐息と共に零れ落ちる。私だけが、高められる。
「っ……は、ァっ!」
「成程な、だいたい分かった」
「な、にが……?」
「ナミの癖と、弱い所だ」
何それ!?
そんなに長い事色々やってないよね!?
そう思っていたら、耳元に当然のように囁きが落される。
「ナミは、全身が弱い……少なくとも、俺が相手の時はな」
「っ!!」
言い返せない!
そう思った直後、白髭さんは私の中に指を差し込んで来て、その圧迫感に1瞬腰が引ける。けど、それに気付いて辞めようとしたのを感じ取れば、その腕を押さえ込むように掴む他道は無い。
だって……白髭さんが苦しそうな顔をするから。自嘲したような笑みを浮かべるから。
「辞め、ないで……っ!」
「だが、ナミには……」
「大丈夫だから、私を、可愛がって……お願い」
白髭さんはその瞬間、1瞬動きを止めて……余り煽るなと言ってるだろうにと目元を赤く染めた。それがなんとも言えず可愛くて……私はそれに小さく笑う。
そんな私に白髭さんはじっくりと時間をかけて、受け入れられるように慣らしてくれる。でも私がイキそうになると、その動きを止めて様子を見てくるのだから、底意地は悪いと思う。
「どうする?今日はイって終わりにするか?」
「……そうしたら、白髭さんは、何も……」
「充分楽しんだから、気にするな」
「……馬鹿ね、嘘が下手よ」
もう既に凶悪なんて言葉では言い表せないようなレベルの膨らみを見れば、この人はまったくと思わず溜息を落としたくもなる。だから体に力の入らない今ならと、言葉を向ける。
「……白髭さん」
「名を、呼んでみちゃくれねェか?」
「ニューゲート?」
「あァ……そう呼べ。ナミは、俺の女だろ?」
その瞬間の笑顔は、卑怯だと思った。悪戯っ子のような瞳で、それでいて色気のある表情で……。
羞恥心も、プライドも、私にはもう、何も無かった。ただ、私も翻弄されるばかりなのは嫌だから……。
「ニューゲート……あのね?」
「ん?」
「このまま、2人共熱さを持て余して終わりにするか、それとも……私にその熱をくれるか、選んで」
「っ!馬鹿か、そんな事」
優しいニューゲートだから、私を気遣って、私だけ高めて終わらせようとするのなんか分かってる。でも、そんな事にはさせない。
「どちらにしても、1緒が良いわ。お願い……」
「どちらを選んでも、ナミはつらいだろうが」
「ニューゲートは辛くないと言いたいの?」
「男はいつでも抜ける」
「……馬鹿ね、本当に。なら、こう言い直すわ」
呆れた。やっぱり今日、私を抱くつもりなんか無かったのね。
こんなにも思わせぶりに色々言っても、最後には私を気遣って辞めてしまう。私の事だけを考えて、自分の事は無視して。
そんなのは嫌よ。自分のモノにすると言ったのなら、最後まで責任取って貰いたいわ。
「ニューゲートを……ちょうだい」
「……っ!?ナミ!」
「私、ニューゲートが欲しい」
「……これで、手を引っ込めたら、男じゃねェな」
困ったように、照れたように、でも何処か嬉しそうに……ニューゲートは笑った。だから私も笑う。
そのまま私の事を高め、精一杯解してくれた。繊細な指使いに、優しいその対応に泣きそうになる。
そうしている中で耐えられなくなったのは、恐らく私が先だったと思う。だからお願いと言って誘った私に、辛かったら言えと言いおいて、ゆっくりと差し込まれる熱塊。
文字通り体が引き裂かれるのではないかと言う状態になり、それでも、体が受け入れ態勢に入っていたから随分楽な筈で……私はゆっくりと息を吐き出す。汗が、落ちる。
苦しくて、痛くて、叫びそうになっても、それだけは意地でもしない。それをしたら、ニューゲートが傷付くのなんて、わかり切ってるんだから。
「やめる、か?」
「……痛いのは、今だけだから……もう少し、頑張って。それとも、ニューゲートは痛いの、耐えられない?」
「…………ナミが男前過ぎて、1瞬何を言われたか分からなかったぞ」
そう言って入れてる側だってつらい筈なのに、笑った。その笑顔が柔らかくて、私の胸は、心はこれ以上無いくらいに堕とされていたと思ってたのに……更に堕とされる。
もう、どうしたら良いのか分からなくなる程に、心が乱される。全てを委ねて、甘えてしまいたくなる。
ニューゲートの事しか、考えられなくなりそう。それが恐怖な筈なのに嬉しくて……。
それから時間を掛けてゆっくりと奥まで繋がる頃には、どちらの呼吸も乱れていて……。私の痛みが落ち着くのを待ってる様子のニューゲートに、その腕にそっと口付けてから微笑みかける。
「……会う前から、憧れて来たの。出逢って、庇われて、助けられて……私は、恋に落ちた。今は……ニューゲートの優しさに包まれて、愛情に変化させられそうだわ」
その瞬間、中にいるニューゲートが脈動した。それに悲鳴のような声が出れば、煽ったナミが悪いと言われてしまう。
時間も何も分からなくなって、ただ、全身に溢れてもまだ足りない程の愛情を注がれて……私は笑い返す事しか出来ない。だって、私は今幸せだから。
永遠にも、1瞬にも感じられる幸福の中で、私は笑う。愛しい人の腕の中で。
それから数日、身動きが取れなくなったのは言うまでもなくて、でも……幸せだなと思って笑う。その後、ニューゲートが約束通り双子岬に向かってくれた事で、運命が大きく変わろうとは、この時はまだ誰にも分からなかった。
貴方がいる、それだけで過ぎる程の幸福なのだと、私は体と心で思い知らされている。波間の向こうは、明るい未来を示すようにいつも煌めいているように、私には見えていた。