ミホークに散々にお願いした結果、何やら身の危険を感じる事も多大にあったけど、漸く島につけて貰える事にはなった。なので、私は島に到着する前にとシャワーを使わせて貰っている。
下着とか消耗品を得なければ、この先困る事になるのは火を見るより明らかだもの。ついでに……もしこのまま共に旅を続けるのなら、調理器具とかも揃えたいわね。
そんな事を考えていた私の後ろで、ドアが開く音が聞こえた。それにより振り向けば、ミホークが堂々と入ってくる所で、少し呆れてしまう。
待つ事が出来ないくらいの何かがあったとは思えないし……実は露出狂とかなのかしら?と鍛えられているその体を見ながら考える。けど今は取り敢えず、私は自分の汗を流す事に専念したい。
「ナミは少し、動揺して見せる位の事は出来ぬのか」
落胆を隠さないミホークの言葉に、私は泡を流しながら振り向かずに答える。大好きなお風呂だけど、邪魔されたのもあり少しではなく、不快なのもあって多少トゲがあるのは自覚していた。
「それをしたら何かいい事があるのかしら?無いのなら、無駄な事をしたくないのよね」
いつもの洗剤達では無いし、蜜柑が無いから蜜柑洗剤を作れない為、入浴後蜜柑の香りが自分からしない事に少しの落胆をしてしまう。汗を流し終えた私は風呂から上がろうとしたのに、何故かミホークが私の腕を掴んで離さない。
ミホークのシャンプーとかを使っている上に、船内は麝香の香りが充満してるから、それでなくてもいつもミホークがそばに居るような感覚なのに、やめて欲しい。何がミホークの目的なのかも、よく分からないから余計に嫌なのだとは思う。
「何が不満だ」
「何の事?」
寧ろ色々聞きたいのはこっちよ。聞いても答えてくれないし、何故か場合によっては揶揄って来る事もあるから、真意は掴めないけど。
そんな訳で、ミホークの言い分が理解出来ずにいたら、呆れたように溜息をつかれた。それからすぐに手を離したミホークに、何故か睨まれる。
「シャワーの後は必ず、少し気にいらない様子で髪を弄っているだろう」
言われてみれば、蜜柑の香りがしないのが気に入らなくて、それが態度に出ていたかもと思う。流石にそれは居候というか、保護して貰ってる身としては不味いかと反省する。
態度、最悪だったわね。今も含めて。
「……ごめんなさい。シャンプーが変わったから、それを気にしてただけなの」
「シャンプー?何でも同じでは……あァ、ナミはその香り1つで、警戒心の強さが変わる程であったな」
ミホークは本当に面白そうに言うけど、私には精神安定の価値もあるものだから、笑い話では無いのよ。だけど本当は我儘を言える立場じゃないのも、痛い程によく分かってるのだ。
取り敢えずミホークには、身に纏う香りがある日伽羅に変わったら嫌でしょうと言って納得して貰った。その間もミホークは平然と体を洗っていて、本当にこの男は自由人だなと痛感する。
私はその会話により漸く解放されたので、シャワー室から先に出て身支度を整えると、表に出て見た。島が近付いているのが見えて、少し嬉しくなるのは不可抗力だと思う。
市販のシャンプー等を買い込んで、島で売ってる蜜柑を買って、自分でシャンプーを作ろう。その元手は適当にスればいいのだから、カモがどれだけいるかが大切だけど、そこは運に頼るしか無いわよね。
それと、何日滞在してくれる予定なのかも重要になるわね。下着とか、月ものの道具も買い揃えないといけないし……あ、薬とかも欲しい。
今後また島で荒稼ぎする事を考えたら、化粧品も必要よね。騙す為なら、着飾るのも仕方無いもの。
でも、ミホークの城に幽閉されるなら、そんなに荷物増やす訳にはいかないかな。でもなぁ、欲しいって言うより、必要なのよね。
そんな事をつらつらと考えていたら、強い風に煽られて足が前に出そうになってしまう。その刹那、腰に力強い腕が回されて引き戻される。
背後に厚い胸板を感じて、私は安心してしまった自分に驚愕する。それを誤魔化す為に、艶やかに見えるだろう笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「何かご用かしら?」
「海に落ちそうだと思ったまで」
咄嗟に何も言い返せなくて、私は少し俯いてしまう。確かに絶対に落ちなかったとは言えないし、ここはお礼を言うべきだったと気付いたから。
反省もあり俯いたままでいた私の首に、ミホークの唇が押し当てられて、体がビクリと反応する。どうしてミホークはこう、何をしても官能て……イヤイヤ、すぐに手を出そうとしてくるのか。
「……っ!や、めて!」
身を捩りながら抵抗すれば、簡単にその手を離されて私はバランスを崩す。そのまま転びそうになるのをミホークは易々と受け止めて、余裕の笑みで私の体制が整うのを待つ。
それがまた悔しくて、私はお礼が上手く言えなくなる。細く息を吐き出しながら体制を整えて、ミホークを見つめると、ミホークが僅かに動揺した様子を見せた。
最近少しだけミホークの表情や態度から、読み取れる感情が増えた気がする。それでも、分からない事もまだまだ多いけど。
それにしても、ミホークならいくらでも女が寄ってくるでしょうに、どうしてそんなに溜まってるかんじなのかしら。私で手軽に発散しようとしないで欲しい。
「……助けてくれた事は、感謝してるわ。ありがとう。でも、変なイタズラはしないで」
私の言葉が終わるのとほぼ同時に、船は港に到着した。だから私はミホークから逃げるように、ヒョイっと船を降りて歩き出す。
「飢えた狼が、いつまでも耐えられると思うな」
後ろから追ってきた言葉に驚いて振り向けば、何かを投げ渡された。それを無意識で受け取れば中にはベリーが入っていて、咄嗟にミホークを見上げる。
「買い物をしたいのだろう。それで足りるか?」
「……ありがとう」
自分で稼ぐつもりだったけど、カモがいなかった時の事を考えたら、本当にありがたい。素直にお礼を言って船から急いで離れたのは、先程の言葉が耳に残っているからなんて事は……少ししか無い。
必要な物を購入して、大荷物になったところで1度船に戻りそれを置いて、また出掛けるついでに少し稼いでというのを何度か繰り返して、最後に調理器具と調味料を購入しようと船を降りる。ミホークは帰ってる様子が無いので、ミホークも何処かで買い物でもしているのだろうと判断しのも大きい。
調理器具と調味料を買い揃えて近くの酒場に入れば、妙に閑散としている事に気付く。時間を考えればこれから混むのだろうかと思いつつ、カウンターの端に腰掛けて適当なお酒を頼む。
噂話や情報を得るのにも酒場はどうしても重要になる。だからここに来たけど……どうにも良くない雰囲気で、私はお金をカウンターに置くと店を出ようと席を立った。
雰囲気の良い店ならば、何曲か演奏して小銭でも稼ごうかと思ってたけど、ここは色々な意味でハズレだわ。本能が帰れと言っているもの。
そこへ3人組の男が立ち塞がり、私の退路を塞ぐ。賞金首でもない私を捕まえる利点など無いだろうに、何がしたいのか。
「さっきからいい飲みっぷりだったからな。それに、見かけねェ姿だ。少し話でも聞かせてくれよ。酒は奢るからさ」
「悪いけど、私帰らないと。お腹すかせて待ってるのが居るのよ」
ある意味で嘘はついてないし、持ってる物も調理器具等だから真実味があるだろうと思う。けれども男達は引き下がらない。
押し問答の末に、ジョッキ1杯だけ付き合えば良いとの話になり、私は渋々席についた。そうして出された酒にはわかり易く1服盛られている。
この様子でら、飲まないと解放しないと分かっている。だから私は、躊躇いはあるけど飲み干す事にした。
この薬は安物だけどそこまで体に害も出ないし、何より慣れてる。私に薬を飲ませた事で、3人は油断するだろうから、その隙をつけば逃げるのは容易くなるもの。
既にこの3人組から盗れそうな物は貰ってあるし……問題は無いかな。こんな時、クリマタクトの無い状態が不安を煽る。
酒を1気に飲み干して、男達の話を聞いてるふりして様子を伺っていたら、突然背後から聞き慣れてしまった声が聞こえた。驚いて振り向きつつも、咄嗟に荷物を手にした事で、ミホークに逆らうつもりが無い事の証明になりはしないだろうか。
「ナミ、何をしている」
「ごめんなさい、帰して貰えなくて……」
「そうか」
それだけのやり取りで、いつの間にか周りに集まっていた人達も海が割れるように道を作る。私を取り囲んでいた3人組もミホークが視線を向けただけで、フラフラと離れてくれた。
それは貫禄故か、それともミホークが有名人だからなのか。どちらにしても助かったのは確かで、私はミホークに自ら歩み寄る。
「ミホーク、迎えに来てくれてありがとう」
「……帰るぞ」
低く唸るように答えたミホークについて行けば、建物と建物の隙間に突然連れ込まれた。それに驚いてる私を無視して、ミホークは突然乱暴に私を建物の壁に押し付けると、無言のままに唇を合わせてくる。
薬の効果が無くても立っているのが難しくなると言うのに、こんな事されたら不味いと咄嗟に抗おうとすれば、ミホークの口付けが乱暴なそれに変わった。歯列を割り侵入してきた舌は自分のテリトリーだと言わんばかりに、口内を蹂躙して喉の奥までも堪能される。
それに対して私の体は熱くなり、体から力が抜けていくのが分かる。私を抑え込む為にあった筈の手によって、何とか立っている状況になり、それでも唇を離しては貰えない。
それでもただ、やられっぱなしではいられないと反射的に抵抗してみるけど、圧倒的な体格差の前には全く無意味。1瞬だけ離された唇に、必死で呼吸を繰り返す私の元へ降り注がれたのは、低く唸るような声。
「何故、薬入りだと知っていて呑んだ。俺を煽っているというのならば、それは成功したと言えるだろう」
「なっ……?」
私が答えるより早く、言葉はすぐに飲み込まれる。優しさの欠片も無い口付けが、ただ奪う為だけに私に襲い掛かって来た。
喉の奥まで舌を差し込まれ、痛い程に吸われて、たっぷりと注ぎ込まれた蜜を喘ぎながら呑み込むだけ。何度も逃れようと首を振っては、追い掛けてくるミホークの唇に再び捕らわれ、更に強く貪られる。
繰り返される拷問のような口付け。ミホークが何に怒っているのかさえ、私にはまったく理解出来ない。
唇を離したミホークが、唾液に濡れた私の唇を舐めながら、低く問う。その声にさえ、今の私の体は反応してしまい、それが悔しくて情けない。
「そんなに、飢えていたのか……?それなら、この場で抱いてやるが」
間近に覗き込んでくる双眸が、周囲の光を反射してギラギラと妖しく輝いている。その言葉の意味するところを漸く理解しても、何があってそんな事を言われているのか分からない。
「何を……言ってるの!私は、寧ろ触らないで欲しいくらいよ!」
「では、1人で立って帰れるか?」
言いながら手を離すミホークに、私の体は力なく座り込んでしまう。そんな私の顎を掴んで、無理矢理上を向かせるとミホークは暗く嗤った。
「今宵は、辞めてやるつもりは無い」
ゾクリと全身が粟立つ。これは、あの日のミホークと同じ空気で……。
私は……もうあんな扱いを受ける気は無い。そう思ってミホークの手を振り払う。
その勢いで壁に縋って立ち上がると、振り向きざまにミホークをキッと睨み付けた。恐らくはそれが良くなかったのだろうけど、ミホークが禍々しい気配を発してきて、それにより本能的に体がミホークから逃げようとする。
けれどそれをミホークが許す筈もなく、強引に腕の中に抱き込まれる。思わず両手を伸ばして、ミホークの顔を押し退けようと力を入れた。
「い、嫌だって……言ってるのよ!」
「……怯えた子ウサギの様な瞳をしても、もう容赦はせぬ。辞めてやるつもりは無いと言っただろう」
抗う手はすぐに捕えられ、逞しい腕の中に抑え込まれてしまう。慣れてしまったその温もりに、何時もならば安心出来るというのに……。
そう、安心できるように、なってしまったのだ。その理由は、よく分からないけど。
「ミホークなら、いくらでも女が寄ってくるでしょ!あの日もそうだったけど、私は本来ミホークの遊びに付き合うつもりなんて無いのよ!」
「……ならば、俺ではなく他の男達に回され、遊ばれたかったと言う訳か」
「……っ!よくもそんな下劣な事を!」
怒りに目の前が赤く染まり、火事場の馬鹿力宜しく抜け出した手を振り上げて、ミホークの頬を狙う。けれども僅かに頬を掠っただけで、再び易々と封じられてしまった。
だけど、その行動が更にミホークの怒りを煽ったらしい。それを理解しても尚足掻く私に、ミホークが恫喝するように声を荒らげる。
「ナミが元々何処の姫であったのかは知らぬが、今は俺のものだと言うことを忘れるな!」
後ろ手に掴まれて、腕が痛みを訴えるけど、抵抗できる力では無い。今までずっと、力加減してくれていたのだと痛感する。
そのまま壁に押し付けられて、背後から動きを封じるように押しかかって来たミホークの手が、ウエストに伸びてくる。ミホークの服を着ているから、そこにはベルトがある訳で……。
「やっ!ミホークッ!……お願い、外は……いや……」
誰に見られるともしれない所で、何となく馴染んでるような気がしていた相手に無理矢理、また体を暴かれるなんて……。悔しさと羞恥から涙が零れそうになるのを堪えて、けれども声は勝手に震える。
ミホークの手は力を緩める事は無いけど、ベルトに置かれた手は動きを止めている。それにより、話を聞いてくれるつもりはあるらしいと分かった。
「お願い、ミホーク。お願い……だから……」
それなのに、言葉は明らかなる哀願で……。それしか言葉が出ないのは、怯えからか、甘えからか、既に自分でも分からない。
けれども体は震えていて、呼吸も苦しい。ドフラミンゴに操られていた時のように、心を凍らせる事さえ、いつの間にか心に踏み込まれていたらしくて、出来なくなっている。
ミホークは私の腕を引っ張り自分の胸に私を抱き込むと、マントの中に私を隠すようにして抱き上げる。その雰囲気がいつものミホークに近くなっていて、ホッとしてしまう。
「抵抗したら、その場で犯す。部屋に到着するまで、大人しくしていろ」
私はその言葉に小さく頷くと、ミホークの首に自ら腕を回した。それを受けてミホークは小さく溜息を落としてから、私が落とした荷物を律儀に持ってその場を後にする。
船に戻るのと同時に、ミホークは私をシャワー室に押し込んだ。何事かと見れば、ミホークは少し愉しそうに笑うと唇を動かす。
「……他の男の臭いをつけているのは、気に入らぬ。洗い流せ。……衣服は用意しておいてやる」
傲慢なそれに逆らえないのはよく分かっていて、私はそれに頷く事で応えるとシャワー室に逃げ込んだ。本当に怖かったけど、ミホークは最後の最後には理性を取り戻してくれたし……悪い人じゃ無いのよね。
そうは思うけど、腕には跡が残っているし、体は小刻みに震える。インペルダウンに行くのでは無かったと言うならば、クリマタクトと短剣だけは持ってきたかったのに……。
そうしたら、あの場だってもっと気軽に超えられて、こんな事にはきっと……ならなかったのに。そう考えても過去は変えられないし、無いものは無いのだ。
ミホークの物を使っているのだから仕方ないけど、やはりシャワーを浴びるとミホークの匂いになるのが少し違和感というか……。何より、薬の影響でシャワーさえ浴びるのが辛かった。
取りあえずは冷水で全てを済ませた事で、随分薬の影響は治まったけど……。ミホーク、勘弁してくれたりしないかな……。
未経験ではないけど、あんなに怒られる謂れも無い。ミホークって、本当によく分からないわ。
脱衣所に出るとそこには、ドレスが用意されていた。……まさか、これを着ろって?
ロココ調の華麗なドレスと、ガーターベルト、コルセットに、絹の靴下。けれども他の下着は無い。
あの、変態がっ!何考えてんのよ、本当に!!
だからと言って、タオルだけで出て行くのもどうかと思えば、震える手でそれに手を伸ばすしか無い。コルセットが1人で着けられるタイプであるのに少しホッとして、仕方なく身に付けていく。
羞恥に悶えながら脱衣所を出れば、ミホークはマントを外したいつもの服装で赤ワインを優雅に傾けていた。そのミホークの視線が私に向かい、ふっと笑みに変わる。
「やはり、似合うな。気位が高いから、何処ぞの姫のような衣装が似合うかと思ったのだが……想像以上だ」
その瞬間、私は見なくてもわかるくらいに真っ赤になった。その声と顔で、優しく微笑みながら褒めるな!
下着が無かった事に色々言おうと思ったのに、つい俯いてしまい声も出せなくなる。そして次の瞬間には、足元を見ている私の視界に何故かミホークの靴が映った。
「え?」
思わず顔を上げれば、目の前にミホークの顔があって……。咄嗟に下がろうにも後ろは、今閉めたばかりの脱衣所のドアがあるだけ。
「今更逃げるな。先程は外は嫌だと言うナミの願いを叶えてやっただろう」
「……っ、そん、なの……」
文句を言い終わるより早くミホークにソファまで運ばれて、横たえられてしまう。ミホークはソファの前に跪くようにして、足首に、脛に、膝頭へとドレスを捲りながら唇を這わせていく。
「やっ……ぁ……」
私の声を聞いたミホークは突然体を起こすと私の隣に座り、ドレスに合わせて身に付けていた髪飾りへとその手を伸ばす。けれどもそれはフェイクだとすぐに分かる。
ミホークは私の項に指を這わせ、耳元で囁く。甘く、少し掠れたような声で。
「髪飾りがイマイチだったな。次は別な物を用意しよう」
「ミホーク!」
「じっとしていろ。綺麗な髪を痛めたくない」
ミホークの指は、私の首筋や耳朶等の敏感な所を的確に愛撫していく。薬の効果か、元々のミホークの技術か、それだけで簡単に高められているのを自覚する。
熱い息が勝手に漏れる。その私の唇に指を触れさせて、私が自ら唇を開くのを待っているのは、私から求めさせる為だと嫌でも分かってしまう。
「外で無ければ、良いのだろう?……それにしても、相変わらず髪を拭くのが……ナミ……水を浴びて来るとはどう言うつもりだ」
「だって……」
言葉を途中で止めて咎めるように言われた事で、私は思わず言い訳するとうに唇を動かしていた。悪い事はしてない筈なのに。
「どうした?」
「いつもは、そうして……抜いてきたんだもの。慣れてるのよ、あの薬」
熱い吐息に隠されるようにして告げた真実に、ミホークが動きを止める。その表情が驚愕に塗り変わるのを見て、どうしたのかと首を傾げるとミホークは喉の奥で笑った。
最近になってミホークのこの笑い方は、本当に楽しい時のものだと分かったけど……何が楽しいというのか。と言うか、その楽しそうな様子が何故か少し怖い。
「そうか……あの魚共、綺麗に3枚におろすべきだったな。すまなかった」
「どうして、アーロンが……」
「慣れる程に薬を使用していたと言うのに、その身は俺が犯したあの日まで無垢であった。……それにより導き出せる答えなど、そう多くは無い。あの日は無理に犯したが、今宵は優しくしてやる。忘れられぬ夜としよう……」
言葉が終わるより早くしっとりと重なってきたそれを、今度は自ら唇を開いて受け止めてしまう。より深く、より隙間なく合わさる角度を探して、何度も互いに位置を変える。
確かに怖いと思っていたのに。逃げたいと思っていたのに、逆らえない。
「はっ……ぁ……」
その度に荒い息が甘やかに漏れる。溢れる蜜が、唇の端から伝わり落ちていく。
それを追い掛けて、ミホークの舌が唇から離れ、顎から喉へと這い降りる。瞬間、ゾクリと背筋に走った痺れは、不快感の伴う悪寒とは違う。
理由の分からないほどに敏感になった肌が、擽るようなミホークの舌の感触に喜び、震えているのだと気付かされる。もっともっとと、貪欲に。
そんな馬鹿なと思うのは、前世での経験故なのか。無理矢理犯された時とは違い過ぎる状態に、薬だって抜けてる筈なのに、こんな事になるなんて思ってもみなかったと内心で唸る。
「何を考えている?」
ふと、耳に落ちた囁きに私は我に返った。見詰めるミホークの瞳が、私の視線を縫い止める。
「俺といる時に、誰の事を考えていた?」
「別に、誰という事は……」
「この時位は、余所見をせずに……俺だけを見ていろ」
さわりと太股を撫でられる感触に、私はハッと視線を下ろした。いつの間にか、ドレスの裾は太股が顕になる程まくり上げられている。
更にはミホークの体が私の足の間に割り込んでいる。これでは足を閉じる事も出来はしない。
「ひェへ!?」
「こんな時に、考え事をしていたナミが悪い」
ミホークはニンマリとほくそ笑むと私の両足を抱え上げ、触れるどころか勝手には見る事も許されない筈の場所を顕にさせる。その瞬間、ミホークの瞳が欲情に燃えるのが分かった。
「み、見ないでー!」
必死に椅子の肘掛けに縋って逃げようとするけど、圧倒的な力の差の前に、両足はこれ以上出来ない程大きく割開かれる。高く浮き上がった双丘の間から、誰にも触れられたくない入口が姿を現す。
それは私の怯えとは逆に、期待に打ち震えて確かに濡れている。それが見なくてもわかる状態にあるからか、ミホークは小さく息を飲む。
「体は既に期待で震えているな」
「ち、違う!」
「違わぬ。俺を狂わせ、どうしたいというのか……」
「やっ……やめてェー!」
いくら叫んでも虚しいだけ。微々たる抵抗はミホークを煽るだけ。
1番恥ずかしい場所を視線に晒され屈辱に耐える顔は、どうしようも無くミホークの嗜虐心を燃え上がらせるだけなのだが、その事は余裕のないナミには分からない。
「何故嫌がる?」
「こ、こんなの……嫌がるのが、当然で……!は、恥ずかしいに決まって……!」
羞恥に顔を赤く染めているのが自分でも嫌という程分かるから、本気で泣きそうになるのを堪えるしか出来ない。こんな事で、無様に泣きたくない。
「拒否されればされる程、虐めてやりたくなる。金で体は許しても、心までは許さぬと突っぱねるナミを、思い切り辱めてやりたくなる」
「なっ……!?人を娼婦みたいに……!」
「金は、支払った筈だが?」
「でも、あの時のお金は……!」
「知っている。ナミの気高さに、俺はあれだけの価値はあると勝手に判断したに過ぎぬ。それに……その時々で表情を変えるナミに、俺は犯したあの日以前に、出逢った直後から惹かれていたのだ」
そう言ってミホークは両足を肩に担ぎ上げて、敏感なそこに顔を埋めていく。その瞬間、自分でも信じられない程艶めいた悲鳴と共に全身を震わせる事となった。
それでも残る理性が、待ったをかける。あの時は前座らしい事が殆ど無かったのもあるし、どうしたって慣れない行為に心が竦む。
「や……めて!そんな……汚……い」
「入浴してきたばかりで、汚い等という事がある筈も無かろう。何よりナミの造形は美しい」
そこで言葉を切ると、ミホークは突然咎めるように言葉を向けて来た。それに反論しようと唇を開いていたのは、きっと私の痛恨のミスだろう。
「それに、このままにしていては、風邪をひくぞ。水で全身を洗うなど狂気の沙汰だ。……2度とするな」
「ひ……やァっ……!ミホ……ゃぁ……!」
ピチャリと恥ずかしい部分を舐める音が、部屋を暫く支配する。そこから先は、声を出さないように耐えるしか出来なくて、その音は余計に鮮明に響き渡った。
そんな私の様子に、時折唇を離しつつミホークは舐めるのを辞めずに言葉を紡ぐ。名を呼ばれると、クルとかなんとか。
「やっ……やめてェ……。そこは、いやぁー!そこで、喋らな……で……。もう、やめ……!」
「それは、本心からの懇願か?」
問い掛けながらも舐る事を止めないミホークに、それさえも刺激となり私を身悶えさせるしかない。それに対していやいやと首を振る私にミホークは小さく、愛らしいものだなと囁くと行為を続行する。
「んっ……ぅ……やぁ!」
「拒否する事しか知らぬのか。それならば、もっと嫌がる事をしてやろう」
柔らかく開く入口に、ディープキスの要領で強引に舌を捩じ込まれた。身の内をぬめり動くその感触に、あまりの衝撃にそれが現実のものとは思えなくなる。
「……妙だな」
ミホークは僅かに顔を上げて、私の入口をまじまじと覗き込むと指だけ1本差し込んで、くるりと輪を描く様に掻き回す。それだけで敏感な内壁は、ミホークの指を求めるようにキュウと絡まる。
「まさか……そうか、天夜叉から逃げ切れなかったか」
「な、何で……!」
「俺の知らぬ癖がある。随分念入りに抱いたと見えるな」
「そ、んなのっ!しっ……知らないっ……!」
いくら否定しても、ミホークの顔には嫉妬の色がありありと浮かんでいて、それが何故か少し嬉しいと感じてしまったのだから、この感情を認めるしか無いのかも知れない。それでもやはり、恐怖心はある訳で……。
何しろどっちを見ても体格差はあるし、身体の鍛え方が違うし、こっちは初心者だし!どうしたらミホークが落ち着いてくれるのか分からない。
「天夜叉は悦かったか?」
「そんな、の!ミホークに、関係ないでしょ!?」
「どの口が、そのような生意気な事を言うのか……!」
ミホークはそう憎々しげに吐き捨てると、更にもう1本強引に根元まで捩じ込んで、乱暴に抜き差しを開始した。柔らかくなっているのは抜け切っていない薬のせいか、相手がミホークだからなのか。
狭い入口を無理矢理押し開き、それでも飽き足らずに更に指を増やそうとする。突然の暴挙に、本能的な自衛手段として内部の異物を排除しようとギュッと締める。
「ひっ……やァぁぁー!」
痛みよりも恐怖に私は喉を震わせる。首を振り、腰を揺らして、ミホークから逃れようと足掻く。
「やだ!怖いっ!」
叫ぶとミホークの動きが止まった。そしてそれ迄とは1転し、心配そうな声が返ってくる。
「アレに抱かれてもその初さか。……約束を破るところであったな。すまぬ」
「や、約束って……」
「優しくすると、言ったであろう」
ミホークの顔を見れば少し落ち込んだ様子で、申し訳なさそうにしているから、つい体から力が抜ける。どうして20歳以上も歳上の男が可愛く思えるのか。
「いじめて悪かった。だが……俺も男だからな、嫉妬位する」
「嫉妬って、どうして……?」
ミホークは私を保護しただけで……他に何も無い筈なのに。独占欲と勘違いしているのかな。
私の呟くような問い掛けに、驚愕と放心を混ぜ合わせたような微妙な表情を見せる器用なミホークは、次の瞬間絞り出すような声を出す。
「……ナミは、まさか、本気で気付いて居ないのか?何度も想いは伝えただろう?」
「え?なんの、話?」
指は抜かれる事無くはまっているのに、会話は妙な流れになっていく。ミホークは深く溜息を落とすと、困ったように笑った。
その笑顔に毒気を抜かれて見つめていると、思ってもみなかった言葉がミホークから放たれる。
「俺はナミを愛していると、こう言わねば伝わらぬか?」
思考が完全に停止した。冗談や嘘を言ってる様子は無いし、そんな事をするような悪趣味な人ではないと分かってるけど……え?
「伝わるよう、今回は大切に……優しくしてやろう」
ミホークの言葉に脳がついて行かない。期待と不安に瞳を揺らしてミホークを見れば、ミホークが優しく笑った。
「覚悟しておけ、ココを俺ので満たす」
「あ、あの日だってそれは……」
「あの日は俺の欲望を押し付けただけだ。今宵は違う」
まだ取り出されてもいないのにあの日と違って確認する余裕があるのもあって、その大きさが伺える事で恐怖を感じて私は精一杯の拒否をする。けれどもミホークは慣らしてやると言って、想像もしなかったような愛撫を繰り返して来た。
そうして下半身だけを丹念に30分以上も愛撫され、イキそうになると動きを止めるというのを繰り返される。最後には啜り泣きの嗚咽に塗れて、懇願させられてしまうのも無理のない話だと思う程に。
なのに、理性がそれをさせない。それどころか、いい加減にしろと睨み付けてしまう自分がいる。
「まだまだ、始まったばかりだ。優しくすると言っただろう」
「も……もう、や!こんな、ことなら……っ!い、たいほうが、マシよ!」
それは本音だった。こんな辱めを受け続ける位なら、引き裂かれた方が幾分マシだろう。
けれどもミホークは、その言葉に反応する。私の睨みなど意に介さずに。
「それは、俺のを挿れて欲しいと言う事か?」
薬の効果のせいだと思いたくても、明らかに開発されていると分かる自分の体にミホークが息を吹き掛ける。あの日のように何も考える余裕が無い方が、もしかしたらマシかもしれないと思ってしまう。
「あぁっ!いやぁ!」
「何が、嫌なのだ?」
ピチャリとわざと淫猥な音をたてて、ミホークは舐めてくる。もう、耐えられない!
身のうちからプライドがグズグズに崩れていきそうで、屈辱に泣き濡れながら、唇を開く。この羞恥から逃れる為の唯一の言葉を言う為に。
「もう……挿、れて……」
それが更なる悦楽地獄の始まりとも知らずに。愚かにも私は、ミホークに懇願してしまったのだ。
ミホークが鷹の目と呼ばれるのがその瞳故だけではないと、ナミは1晩で思い知らされた。鷹は残忍で、獰猛で、狡猾……それでいて美しい。
時には四足の獣のように、時には華麗なる貴族のように、また時には単なる変態のように。けれども類まれなるテクニックはそのままにミホークはナミを翻弄する。
あらゆる体位を試して、あらゆる角度で挿入して、ナミがもっとも感じるポイントを1晩かけてじっくりと探し出した。あの日は欲望のままに、暴力として貪っただけだったそれを反省するように。
そうして朝日が登った今は、ナミを自分の太ももに座らせた状態で深々と繋がり、ソファのスプリングを利用して上下に激しく揺さぶっている。それはミホークの尽きる事の無い欲望を満たす為であり、ナミの全てを知り尽くす為でもあった。
「あっ……ひぃ……!やっ、もう、ミホーク!そこ、やァぁぁ!」
嫌と叫べば叫ぶ程、ミホークはソコを中心に攻める。だが、もう何を口走っているのかさえナミには分からない状態にあった。
私は既に何度イカされたのかも、自分では分からなくなっていた。慣らされた体は快楽だけを拾い集めて、恥ずかしいほどに淫らにミホークを咥えこんでしまっている。
確かに恐ろしい程の異物感と圧迫感はあったけど、それを遥かに凌駕する快楽に私は自分がどれ程淫らな体を持っているのか思い知らされた。最奥への1突きで、全身が愉悦に震える。
その瞬間、最後まで頑張っていた理性の欠片さえ吹き飛んでしまった。あまりの羞恥から、もはや思考する事さえ放棄したとも言える。
後にはただ、快楽を貪る器と化した体が残るだけ。既に剥ぎ取られたドレスは床に散乱していた。
今なお体に残っているのはコルセットだけ。そのコルセットの上で揺れる大きな物には、既に何度も嬲られ可哀想な程に赤く充血した尖端があり、それでもまだミホークの舌を誘うように立ち上がっている。
それに容赦なく刺激を与えられて、ナミは快楽とも痛みとも分からないそれに悲鳴をあげる。開放される筈もないのに、ただ夢中で首を振りながら。
「やっ!もう……許してェ……」
懇願するそばから、新たに与えられる愉悦の波。それに時折戻って来る羞恥心と理性が待ったをかけるから、必死に堪えようとする。
その姿がミホークの欲望に火を付けて、止まる事が無くなっている等という事に、ナミは気付いていない。つまりは、無意識で煽り続けているのだ。
こんな筈じゃなかったと思っても、インペルダウンで朽ち果てる筈だったと思っても、無駄な事。生涯離すつもりは無いと宣言した男に、囚われてしまった時点でこの快楽地獄から抜け出せる未来など、何処にも存在していないのだ。
「はっ……ぁ……ミホ……ク」
「本当に厄介な女だなナミは」
何処か嬉しそうに紡がれるミホークの声に、私の意識は遠のいていく。手加減して、優しく抱いていてこれなのだから、この先がどうなるのか位、考えなくても分かる筈だったのに、この時の私にはそれがまったく分からなかった。
快楽の波にのまれて、時の経過さえ分からなくなっていたのだから。永遠に続くのでは無いかと錯覚する程に、甘やかな拷問に近いそれは、中々に終わりの時を迎えようとはしなかった。