バレンタインデーと言う日が、女が想う相手にチョコ等を贈る日であり……その返しの日としてはホワイトデーなるものがあるらしい。さて……ならば何を返すべきか。
あの日はチョコと宴と、そして、ナミを貰ったからな。そうなると俺から、どんな礼をすればナミは喜ぶのか。
そんな事を考えていると、いつもマルコの所に新聞を大量に運んでから移動するニュースクーが、マルコを経由せずに真っ直ぐナミのいる部屋に入るのが見えた。とは言え、そこも元々は俺の部屋なんだが。
様子を見に行けば、ナミが幸せそうに箱の中身を見ながらお礼に菓子を渡している姿を見る。その様子にん?と思ったのは表情があまりにも幸せそうだったからだろう。
差出人の名を見てその謎は即座に解けたが……まァ、ナミらしいと言えるかと小さく笑う。箱の中身はマシュマロと言う菓子らしい……とナミの言葉で分かる。
だが、相手が悪過ぎて勝てるとは思えねェな。そう1人で苦笑しつつ、マルコの待機場所になりつつあるソファに腰を下ろした。
あの姉相手にナミの心を奪うのは、なかなかに骨だろう。依存、執着、妄執……どれも正解のようで少し違う気がする程だ。
その時俺に攀じ登る可愛い兎に気付くが、そのままにさせてみればなんと当然のように俺の口にその菓子を押し込んで来た。何がしたいのかと視線を向ければ、小首を傾げて特別よなんて言い出す。
「ありがた過ぎて、涙が出そうだ」
既に意味がわからねェと思いながら言えば、ナミはそうでしょーと笑い出す。可愛いその笑顔につられるようにそのままの勢いでそっと押し倒しそうになり、思い止まる。
連日じゃナミが持たねェな。バレンタイン以降、少なくとも5日に1度はナミを抱いているが連日にはならねェようにしている。
流石に壊しちまうからな……。そして、多分ナミは死ぬその瞬間まで拒まねェだろうと最近分かってきた。
俺は、ナミに愛情で包まれている。クジラ、クジラと騒いでいたのも、俺の為だったからなァ。
体調はお陰様で随分と良くなり、ナミは今やこの船で〝お袋〟の立場を得ているが、若いからか息子達がそう呼ぶのは何か特別な時だけのようだ。そんな事を考えていたら、ナミが飲み物を差し出して来る。
それを受け取るとナミは、俺から視線を外して静かに窓の外を眺めた。その姿が美しくて、俺はそっと視線を外す。
新雪に足跡を残したくなるのと似たような心持ちで、ナミに襲い掛かりたくなる。海賊からは本来最も縁遠い筈の、清浄な空気を醸し出す。
襲わねェ為に1気に飲み物を飲み干してから、早々に部屋を出た。だが、ホワイトデーの贈物と言われるものが何も思い浮かばなかったし、それについての話は出来なかったなと自嘲する。
その上、俺には金がねェからな。どうしたもんか。
浜辺に落ちていた貝殻の1つでも、道端に咲いていた花の1本でも喜びそうなナミ。だからこそ、何かをとは思うが何1つ浮かばないのだから笑えねェ。
海王類を仕留めたとしても、それは船の食料になり息子達が喜ぶだけだろう。……まァ、息子達への返礼品としてはそれで終えちまおう。
そうして何も決まらないままに時は過ぎて、とうとうホワイトデー当日になった。そしてその日に息子達からもナミに贈物……お返しを用意しているのだという事をスッカリ失念していたとは、俺も耄碌したものだと自嘲する他俺に何が出来ただろうか。
朝一でナミにお返ししたのは、ハルタだった。それを見てオイと思った俺はおかしいのだろうか。
「ナミ!これ、お返し!中身は食事に使って貰う予定になってるんだけど、さ」
「ありがとう。これ、夜光貝?」
「そう!図鑑で名前見てさ、夜月明かりとかで光るのかと思ってたら光らないんだってね。俺頑張って潜ったのに、少し損した気分だよ」
そんな事を言いながら不貞腐れたような顔をするが、それに対してナミが笑えばハルタもつられたように笑った。金をかけない方法で手に入れた物である為か、ナミは気兼ねなく受け取ったのだが……それがまた、なんとも複雑な気持ちになる。
海に潜ったか。能力者には無理なやり方だな。
その次にイゾウが黒かと思うような色の珊瑚を持って来て、部屋に置いときななんぞと言う。それを受け取ったナミは1瞬で湯だり、あわあわし始める。
「どうした?」
「え!?」
「イゾウから貰ったそれがそんなに嬉しかったのか?」
「あ……の、えっと、ね。ニューゲートは珊瑚、赤珊瑚の石言葉知らない?」
「ん?」
それから小さな声で言う。俺も自分に対して、よく聞き取れたなと言いたくなるような声で。
「安産のお守りとして、贈られる事の多い物なのよ……。や、宿ってないけど」
その瞬間先程のナミが見せていた反応を理解出来て、同時に胸に広がっていたモヤモヤした物が霧散した。同時にナミが余りにも可愛く思えて手を伸ばした時、咳払いが聞こえて視線を向ければサッチがいた。
「俺からは食事の時間だと言う連絡と、真珠な。加工するかは任せる。今日の飯で身は全部使うから、こっちは好きにしていいぜ」
「皆、お金かけないで高級な物を……しかも沢山ある」
「1つ2つじゃ全員の腹を満たせねェからな。それに盗んだモンとか、奪ったモンだとナミは喜ばねェだろ?なァ、親父?」
「……そうかもな」
無造作に袋に入れられたそれを受け取り、嬉しそうに笑うナミに複雑な気持ちになりながら溜息を落とせば、サッチはニンマリ笑って去って行く。そんな中でナミは、今日それぞれに貰った物を机の上に並べて困ったような顔をした。
「これ迄必要性感じなかったけど、飾り小棚が1つ欲しいかも」
それなら作ってやれそうだと思い、どんなのが良いんだと問い掛ける。すると貰ったのに放置できないから、貰ったこれらを飾れたら充分なんだけどねと笑うナミ。
その顔が優しくて、俺はその笑顔に癒されていた。その後、マルコからは星砂を渡されている。
「ハルタやイゾウと違って潜れねェからなぃ。砂で勘弁してくれよぃ」
「……潜られると困るから、本当に星砂嬉しい。ありがとう」
つい先程綺麗な魚がいると言って海に飛び込んだエースを思い出したのか、ナミはお礼を言いつつも何だか疲れたような顔をしていた。それにマルコは笑って軽く頭を撫でてから行くが、無闇に触るなと思った俺は心が狭いのだろうか。
その後ジョズからは能力で作ったと言われたダイヤの欠片を、ビスタは真っ赤な薔薇の花束を渡して来て、ナミはそれぞれにありがとうと返すが……。薔薇は駄目だろ、おい。
「ナミ」
「なぁに?」
「俺以外に笑いかけるな。今日はもう、部屋にいろ」
言葉にした時ナミは1瞬放心したような顔をしたが、その後に爆発する勢いで顔を赤くすると、素直に頷いた。それから俺に抱き着いてきて、幸せそうに笑うとそっと触れる程度のキスをして来る。
「ニューゲート、私も、愛してるわ。その、部屋に……いるわね」
それからも部屋の入口にはお返しが積まれたが俺が嫌がるからとナミはドア越しに対応して、それでも集まった貰い物を見て棚が欲しいともう1度、今度は切実な様子で呟いた。その貰った中で1番大きな物がイゾウから贈られた最高級の赤珊瑚だとナミは言うから、それを1番上に乗せる形で飾れる物を用意してやるかと思う。
それの横には、エースから渡されていたペン立てでも置かせれば、少しは今日貰った物が片付くだろう。そうと決まれば、ナミへのお返しが揃ってから棚を造ってやるべきだろうと自分に言い訳して、俺は今度こそナミを抱き寄せる。
それにナミは不思議そうにするが抵抗は無い。その上で笑い、甘えるように擦り寄ってきてくれるのだ。
「ナミ……」
「ニューゲート……」
自然と重なり合う唇。キスひとつで伝わる想い。
伝えられるのは、ナミの優しい心と、愛しているという真実。何度となく角度を変えて繰り返されるそれに、ナミの体からは次第に力が抜けて行く。
「ニューゲート……も、おねがい」
「ナミを貰うぞ」
「うん、貰って。……返品は受け付けておりませんので、悪しからずご了承ください」
「誰が返すか。ナミの全ては、俺のモノだ」
その身だけでなく、心だけでなく、眼差しも、声も、全てが俺のモノだ。この体格差だ、辛くねェ筈もないと言うのに、ナミは笑うから……俺はそれにより甘やかされている。
ホワイトデーのお返しに、貰っている本人よりも反応する男を女は可愛いと笑う。それに対して女を腕に抱いていた男がどんな返しをしたのかは、2人だけが知っていればいい事だろう。