カンカンと何かを作る音が聞こえて目を覚ますと、何かを作っているニューゲートが見えた。頭を少し動かしてその動きや、作られている物を見つめてしまう。
私が良く使う辞書や辞典を1番下に、これ迄と同じように机に置いておけるように考えてくれてるらしい棚が組み上げられて行く。それの上にホワイトデーに皆から貰った物を収納しつつ飾れるようにしてくれてるのだと分かれば、少し気恥しいような……でも、嬉しいような暖かな気持ちになりながら、その作ってくれている姿を眺めた。
ニューゲートの肌を汗が伝うのを眺め、今日は夏島の気候だっけなんてそんな事を思う。ニューゲートは優しいから、だから皆に慕われてるのね。
「……そんなに見詰められると、穴があきそうだ」
「だって、ニューゲート見てると時間忘れちゃうんだもん。それだけ好きなんだから、仕方ないでしょ?」
「あァ……そういやまだ言ってなかったな。ナミ、おはよう」
「えぇ、ニューゲート。おはよう」
言葉と共に唇が降ってきて、私はそれを迎え入れる。そうして唇が重なる瞬間に、私はやっぱりニューゲートが好きだわと再認識させられるのだ。
僅かな時間重なっていただけで、すぐに唇が離れようとするのが寂しくて追い掛けると、ニューゲートは微かに笑って深く口付けてくれる。それに私も答えていたら開いてるドアを無駄に叩きながら、咳払いをするサッチがいた。
「あらサッチ、おはよう」
「おぅ、おはよう……って、そうじゃねェよ!?食事だってんだ!毎朝毎朝何してんだ!」
「何って、おはようのキスだけど?」
私が答えるとうがァー!とサッチは叫び親父!と怒鳴る。何故かご機嫌ななめな様子にどうしたのかなと少し心配になり、ニューゲートを見あげたら優しく微笑まれて頭を撫でられた。
「恋人もいねェ息子に、何羨ましいもん見せてんだよ!!」
「お前ェらに恋人が居ねェのは、俺の責任じゃねェだろうが!」
そう言ってニューゲートはグララララと笑い、私は会話の意味がよく分からなくて首を傾げる。あんなに沢山美しいナースが居るんだから、隊長達は皆良い男なんだしすぐに恋人作れそうなのに……。
そっか、ニューゲートに甘えてるのね。そうと分かれば話は早いと私は微笑みを浮かべてサッチを見たけど、サッチには何故か嘆かれてしまった。
食事をして、海図を描いて、天候の異変があればそれを伝える。……そうしていながら隙を見て探し出したのは、1つのカメラ。
集合写真でも写して、皆に写真立てに入れて渡してあげようと計画しつつこっそり準備を進める。形ある思い出も、少しは欲しいわよねと思うから。
流石に本当に全員ってのは無理だから、隊長全員とニューゲートの写真にしたいな。そうしてイゾウやマルコ、ハルタに話を持って行くと嬉しそうに笑いながらそれに頷いてくれて、協力してくれる事になった。
それは恐ろしい速度で話が進み、その日の昼には準備が整った。隊長達とニューゲート、ナース達とニューゲートの写真を1枚ずつ撮影してから、まだ結構フィルムが残ってると気付いて各隊のメンバーとニューゲートの写真も撮影して行く。
現像はマルコが全員分用意してくれると言うので、ナースとクルーは自分とニューゲートが1緒に写ってるそれを各1枚ずつ所持できる事となる。それに対して、隊長達は隊員と写ったそれと、隊長達と写ったそれの2枚だからホクホクした様子だ。
写真立てのそれについては、各自で用意させればいいとイゾウに言われて、私はカメラマンを終えると1人頷いてからカメラをマルコに託した。
「……これ、まだ数枚フィルム残ってるなぃ」
「そうね?」
「ナミは、親父と写ってねェよな」
「そうだったかしら?」
笑って誤魔化そうとしたけど、その会話を聞いていた他の隊長達とナースはそれを許す気はなさそう。その直後……突然マルコがニューゲートに向けて私を投げると、慌てた様子でニューゲートが私を受け止める。
その瞬間を器用にカメラに収められた。写真は良いとして、人をボールみたいに投げるなー!
「ナミが怪我したらどうしてくれる。投げてんじゃねェ」
「それは親父が抱き止めれば良いだけだろぃ。良い写真取れたぜ?」
「ニューゲート、マルコがイヂメル……」
「可哀想にな。後で叱っておくからな」
「うん!」
少し巫山戯て甘えてみれば、ニューゲートもそれに乗ってくれて、そんな私とニューゲートに皆が呆れたような顔をする。そんな時ハルタが妙な言葉を口にした。
「ナミにウエディングドレス着せれば、親父白いの羽織ってるからいつでも結婚式できるよね」
「ナミ、やるか?」
「ニューゲートが望むなら何でもやるけど、まだそんな気無いでしょ」
「……そうだな。プロポーズはしっかりしたいから、その後が良いか」
また揶揄って……!
期待してないけど、胸が少し痛い。それを誤魔化す意識も、少しはあったと思う。
「なら、楽しみにしてるわ。ニューゲートからのプロポーズ」
そう言って意趣返しにニューゲートの唇に自らの唇を合わせると、ニューゲートはそれに迷いなく応えてくれた。そのまま周りに人がいるのも忘れて、私はそれに没頭する。
呼吸が苦しくなって、酸素を求めるようにもう無理と思って唇を離す。けど、ニューゲートはそれを許してくれなくて、結局私から力が抜けきる迄翻弄される。
「……ナミから仕掛けてきたんだ。もう少し味わせろ」
「ニューゲート……も、無理」
「何言ってやがる、まだキスしかしてねェぞ」
「だって、ニューゲートのキスって幸せな気持ちになるから……何も考えられなくなるし、もう力入らないもの」
答えた私をニューゲートは抱き上げると即座に解散を告げて、それにより皆の前だった事を思い出す。真っ赤になった私に、ニューゲートは忘れてたのかと言う。
それに対して、覚えてたなら手加減してよと泣きそうになりながらつのってみる。けれども、ニューゲートは笑うばかりで相手にしてくれない。
部屋に戻ると当然のようにベッドに沈められて、首に、肩に、胸にとキスをしながら脱がせて来る。昔はこんなに大きく無かったんだがななんて言うニューゲートに、気にしなくていいのにと思う。
「ニューゲート……好きよ。確かに若い頃のニューゲートに興味はあるし、その頃があったから今のニューゲートだとも思うけど……」
「ん?」
「私は今のニューゲートの事が好きだわ。不安なら何度でも伝えるわよ、私はニューゲートを愛してるって」
「……ナミは、本当にいつも男前だな。その癖、反応が可愛いと来たら溺れるしか道はねェよな」
そう言ってニューゲートは泣きそうな顔で笑うと、ゆっくりと私の中に自身を埋めて来た。何度と無く繰り返されてきたけど、それでもその度に多少ではなく苦しかったり痛かったりは確かにする。
それでも、構わないと思えるくらい優しくされているし、愛情を伝えられている。だから気遣うように見詰めて来るニューゲートに、私はいつも笑い返せるのだろうと思う。
「ナミは、俺に甘過ぎる」
「ニューゲートが、私を甘やかしてるんだから、私だって少しは甘くなるわ」
「……ナミは、悪い男に騙されそうだな」
「あっ……!もう、話しながら動くとか、ダメっ!」
ニューゲートは私の弱い所を狙って動くから、言葉を上手く紡げなくなる。それでもニューゲートは、返事を求めてくるからタチが悪い。
返事をしようと口を開くと喘ぐ声が自分から出て、ニューゲートはそれに対して意地の悪い顔をすると、もっと聞かせろなんて言ってくる。私が恥ずかしいから嫌だと、声を抑えてるのを分かってる癖に……。
「やぁだ!あァっ……!ソコ、だめっ!」
「ここか、分かった」
駄目だと言ってるのに弱い所を攻めて来るから、なんにも分かってないじゃない!とそう言いたいのに、口からは甘い声だけが出て言葉にならなくなる。声を抑えたくてニューゲートにキスすると、ニューゲートはそれを受け止め、貪ってくる。
ニューゲートは悪い男に騙されそうだなんて言ってたけど、私には騙される理由もないのよ。だって私は、ニューゲートにしか興味が無いんだから。
もしもニューゲートが悪い男で、私を騙していたとしても、それならそれで構わない。助けられたその瞬間から、私の心はニューゲートにあったし、私がニューゲートを求めたんだからそれくらいの事は覚悟の上。
体格差も年齢差も実力差も、全て分かっててもそれを問題だとは思えなかったのよ。それくらい、私にはニューゲートしか見えないの。
だから、不安にならないで良いのよ。それでも不安なら、私の全てでその不安は取り除いてみせる。
「んっ……!私も、海賊だって、ニューゲートは、忘れてる?」
「どういう意味だ?」
「私は〝信じる者は自分で決める〟わ。そしてその判断が間違ってる事は、絶対に有り得ないの。私は……」
言葉を切ってニューゲートの頬に触れる。それにニューゲートの瞳が揺れて、困ったような驚いたような……いいえ、戸惑いの表情を浮かべた。
「ニューゲートを信じてる。信じたからには、例え何をニューゲートが選んでも、私はそれに従うだけ。殺されても本望よ。それが私の〝信じる〟って事なの。だから、裏切られるとか間違ってたなんて事は有り得ないのよ」
「ナミ……」
「でも、それは船長であるニューゲートに対して。私は私の男をただ、愛したいと願ってるわ」
真っ直ぐに見詰めて言えば、ニューゲートは泣きそうな顔で笑う。その少し情けない顔が愛しい。
「ナミは、俺をただの男にしちまうなァ……」
「当然でしょ。私を抱いてる時だけは〝ニューゲート〟の名前以外何も持たせないわ。それ以外の肩書きは、少しだけ忘れて……ね?」
「難しいな。俺は今、名も捨て去って〝獣〟になりそうなのを抑えてる」
そう言ったニューゲートは獰猛に瞳を煌めかせるから、私はそれに受けて立つわと笑う。その直後、その耳元にそっと囁く。
「滅茶苦茶に、して……」
それから私が2日ほど動けなくされたのは、まぁ当然の事として……。動けるようになった時には、私の机にはオレンジ色の可愛い棚が設置されていた。
それを見て私は思わず呟く。心から思った事を。
「棚が、ニューゲートみたいだわ」
「どういう意味だ?」
「息子達を守り、それでいて引き立たせてる。皆からの物が皆だと考えるなら、だけどね」
「……上手い事言っても、本棚は作らねェぞ」
「あら、ケチね」
そう言って私はニューゲートに笑いかける。ニューゲートもまたそんな私に笑ってくれる。
海は今日も変わらずに波音を響かせ、私もまたいつもと変わらずに、ニューゲートと幸せな時を多くの宝物に囲まれながら過ごしている。製図台の端には、いつの間にか2人の写真が飾られていた。