エースを慈しみ、サッチを生かす助言を寄越した女に会い、強がりで気高いその女に、手を出さずには居られなかった。薬を飲ませる為にした行為で、その甘さに溺れたのは俺の方だ。
他人の為にその身を犠牲にして、その心から血を流しながらも自分以外の誰にも傷つかないで欲しいと言って微笑む姿が痛々しく思えた。初めは、同情だったのかも知れない。
それでも、高過ぎる能力と美しい姿がその不幸を呼寄せる原因だと気付けば〝守りたい〟と〝甘やかしたい〟と思わされていた。何も、本人は悪くない所が切なかったんだ。
そう思わされた時点で、俺は負けて……いや、惚れていたのだろう。荷物を先にモビーへと送って貰うようにと、ナミは家族に頼んで最低限の旅支度を早々に終えた。
エースを探す為に飛び立とうとした俺は目的地が定まらずに居たが、ナミがドラム王国の近くで黒髭の目撃情報を聞いたわなんて言うので、とりあえず情報収集の為に向かってみる事にした。エースを追い掛けているからと、エースの噂を追い掛けていては後手後手に回るからと、ナミは笑う。
雪国に向かうならば、その服装は良くないだろうと中継地点になりそうな島で冬物を買わせれば、ナミは最低限の物しか用意しようとしない。それも明らかに、機能性重視だ。
もっと可愛いのがあったろぃ?
「ナミ、それだけでいいのかよぃ?」
「荷物になると困るでしょ。冬物は嵩張るもの」
やっと普通に話してくれるようになったが、初めの内は本当に悲しくなる程に丁寧な口調で話されていたのだ。だから取り敢えず、普通に話してくれた事に感謝して、甘える事の苦手なナミの頭をそっと撫でる。
綺麗な髪だと思う。天使の輪とヤラが浮かび上がるのを見て、本物の天使もこんなだろうかと思ってしまう程。
「もう少し何か欲しい物は無いのかよぃ?」
「……筋肉が欲しいわ」
「何を目指してんだよぃ。それと質問の趣旨からズレてるよぃ」
「ふふっ、落ち着いたらインクが欲しいわ。ペンはあるし、紙も何処でも買えるけどインクは酷いのもあるから」
手を見れば分かる。いつもペンを手にしているのだと。
小さなその手にはペンダコがあり、それ用の軟膏でも用意してやるかと少し考える。それにしても、無欲だねぃ。
「インクは俺が厳選してた物を積んであるから、モビーについたら好きに使えよぃ」
「本当に!?ありがとう!」
多分これ迄で1番良い笑顔と、煌めく瞳を向けられた。故郷が助かった時は、笑顔ではなく泣き顔だったからねぃ……。
「……紙も、それなりに良い物を用意してあるよぃ。ペン先がダメになっても困るからねぃ」
「モビーに行くのが楽しみだわ。でも、私本当にお邪魔していいの?」
「俺のサポートしてくれるんなら、是非乗って欲しいよぃ。馬鹿が多くて仕事が溜まる1方でなぃ」
「ふふっ!事務系なら得意だから任せて」
そう言いながらクスクスと笑うナミは、本当にシスターとかが似合いそうな雰囲気で、海賊だとは誰も思わないだろうと思わされる。……こんな子が、海賊に身を落とす事を余儀なくされるとはねぃ。
初めは移動しつつ通常の宿で泊まって居たが、ナミからの提案で最近は酒場の上にある連れ込み宿に泊まるようになった。それはまァ、俺が耐えれば良いだけと思っていたが何気無いナミの言葉で心が軋んだような、そんな音を聞いた気がした。
「部屋2つ取ってもホテルの1室より安いんだから、そこまで節約しなくてもいいと思うけど?部屋別にしないと女も買えないでしょ。……まさか、白髭海賊団ってそんなに金欠なの?」
男としては欠片も意識していないのだと突き付けられたような気がして、苦しくなってしまう。同情のようだったそれがいつの間にか恋心へと変わっていたのは、自分で気付いていた。
守りたいと思った時には、きっと愛していたんだろう。それなのに、これが片想いなのだと突き付けられた俺は……無意識でその細い腕を掴み、抱き締めるのと同時に唇を重ねていた。
分かっているのになぃ。俺の事は〝エースの兄〟として慕ってくれているのだと。
この甘く優しい生き物の世界には、自分の〝家族〟しかいなくて、その家族にエースが君臨しているのだと。その上、あの〝赤髪〟とも懇意でともすれば惚れてるのかも知れねェとは……難易度が高すぎるだろぃ。
そんな事を考えている俺からのキスに、ナミは何故か抵抗せずにいる。それにより〝恩人〟であり〝エースの兄〟だから抵抗出来ないのだと気付く。
なら、このまま貰っても良いだろうか。たわわに実った果実と、細く優美な肢体に触れても、手に入れても良いだろうか。
「……ナミが欲しい」
ベッドに押し倒してから言うなと言われるかも知れねェが、余り男慣れもして無い様子から、身体から離れられなくしてみるのもひとつの手法かと思い至っちまう。呆然とした様子を見せていたナミは、少し困ったように笑って、俺を見ると小さく頷いた。
「……こんな部屋だものね。それに、ここに泊まろうと言ったのは、私だったわね」
そして微かに自嘲するような空気を纏うから、部屋のせいだと思ってるのが分かってしまう。……伝わらねェもんだねぃ。
「でも私は、生娘じゃないわよ?」
「……それは、抱いてもいいって事かよぃ?」
そんな事は知っている。あの時の状態で、分からねェ筈もないだろう。
力づくで犯されたんだと、嫌でもわかる状態だった。それなのに〝守る〟為にと独りで足掻く姿に、心が囚われたんだと思い知らされる。
なのにまだナミは、独りで何かと戦っているかのような様子を見せる。……そんなに、俺はまだまだ〝他人〟なのかよぃ?
「勘違いさせてたら悪いと思ったのと、何も知らないお嬢ちゃんをご希望なら、そういう雰囲気で対応するけど、どうしたらいいか聞いておきたくて」
今にも泣きそうな雰囲気で、そんな言葉を口にして……そうか、あの時お前を襲った奴はお前に金を払ったのか。そうされた事で心の何処かは救われ、同時に何処かが壊されたのだと知る。
「演じなくて良いから、抵抗だけするなぃ」
抵抗されたら、虐めそうだと思って、同時にこれ以上〝何か〟を演じさせたくは無いと思った。冷たい魔女の姿は、演技でしかなくて、家族や村人を想い涙する姿が隠されていた弱さだと知っている。
素のお前は……まだ幼さの残している、優しさを垂れ流しにしてる無防備な物書きでしか無いのにな。分かっていて、抱こうとする俺も大概だが。
そんな俺に全て任せると言わんばかりに微笑み、力を抜いたナミに今はまだ、片想いでも良いからお前が欲しいと……強く思わされた。脱がせてみれば肌に痛々しく残る暴力による鬱血の跡に、1瞬切なくなる。
「……ナミは、綺麗だねぃ」
この怪我はあの村人達を守る為のものであり、その事を恩に着せる事もなくただ無事でいてくれた事を喜べるその心が、本当に美しいと思う。まるで女神の……女神?
まさか……〝赤髪の女神ちゃん〟かよぃ!?
こりゃァ、手強い訳だと内心で笑ってしまう。あの赤髪がいくら口説いても途中で小鳥のように去ってしまったと、嘆いていたのは何年も前の話だ。
だが薬を飲ませる時に、助けを求めたのは確かに赤髪とその副船長だった事を思えば、そうとしか思えねェ。年齢が問題だとしても、幼い頃から海賊だったと言っていた事を踏まえればもう、確定だろう。
「跡は、消されましたから……本来なら傷だらけですよ」
「ナミ、口調が敬語に戻ってるよぃ」
口にする言葉とは違い、内心ではあの魚人海賊団をもう少し徹底的に叩くべきだったかと思う。……強姦の跡とは違うそれが多くあったのは分かっちゃいたが、そうか消されたのか……。
どれ程の拷問を受けたのか。それを気にする様子もない程に、それが日常化する程に行われていたのかと思えば……良く生きていたと褒めてやりたくなる。
……いや、死ねなかったのか。守るべき存在がいたから、死ぬという選択肢が存在しなかっただけなのか。
そんな事を考えていた俺に、ナミはそっと腕を伸ばして、首の後ろに手を回す。……辞めろぃ、期待、するだろうが……!
「マルコ……何も、考えられなくして……」
震える俺の為だろうか、ナミはそんな言葉を口にして俺を誘う。それに簡単に煽られた俺は、自然と低くなった声を響かせる。
「煽るねぃ……。それなら、お望み通り……可愛がってやるよぃ」
痛みを与えないようにたっぷりと愛撫を繰り返せば、必死で声を耐える姿に欲情する。このままだと無理に挿れそうだと思って、それを抑える為に唇を重ねれば何故か縋るように応えるナミに、何を怯えているのかと思う。
……おいおい、まさか、強姦された経験しか無いのかよぃ!?
動揺する俺に、ナミは瞳に涙を溜めて、微笑むと妙な言葉を口にした。……そうか、俺はお前の中だと客か。
「……今夜は、お金なんていらないけど、中には出さないでね」
「少し、黙ってろ」
お前を抱いた……いや、犯して金を残した馬鹿は、その内聞き出して始末してやるよぃ。殺気立つのは、その言葉により心の1部が、完全に壊されていると分かったからだ。
強姦し、金を支払ったから合意だとでも言うのか。巫山戯ていやがる。
これ以上哀しい言葉は聞きたくなくて、俺はナミに深く口付ける。その間もその身を高めてやれば唇を離した時に、抑えきれなかったらしい声が発せられた。
何も耐えなくていい。何も、苦しむ事は無ェよぃ。
「挿れるよぃ」
「待って、ゴムを……」
言葉を無視して挿れればナミは、1瞬その瞳を揺らす。聞いてやるか。
壊れそうな程にひび割れた心をその精神力だけで支えているお前に、他に行けない理由をやりたいと思った。……子供が出来たら、ちゃんと俺が産ませてやるから宿らせちまえよぃ。
子供がいればその為にお前は、生きる事を諦めなくなるだろう。何も守るものが居なければ、その心は砕け散りそうだと触れてみて気付かされた。
弱い所をゆっくりと探し、いくつか見つけたがその中でも特に弱い所を探り当てれば、自然と笑っちまう。そんな俺を無防備な瞳で見上げるナミを優しく撫でてから、弱い所だけを狙い刺激すれば縋るように俺に抱き着いて、待って欲しいと哀願される。
「え!?や!待って……!そこ、だめ……ぇ……!」
「もう、良い所は確認済だよぃっ!ナミ……!」
「やァ……!あぁぁアぁっ!」
「何も、考えられなくしてやるから、抵抗するなぃ」
俺の言葉に素直に従うナミに、逆らえない環境がそうさせたのかと思えば胸が苦しくなる。……俺の色に、染め直してやる。
片想いだと分かっていても、恩人に抵抗出来ないのだと分かっていても、俺はお前の全てが欲しいよぃ。それなのに声を耐える姿に、俺の胸に宿る苦しさは増すばかり。
「ナミ……愛してる。声を、聞かせろっ!」
「ンンッ!」
足を広げろと言えば広げるし、力を抜けと言えば抜くのに、声を頑なに聞かせまいとするのは、それだけが唯一許されて来た事だとでも言われているようで……。魚人海賊団は何処に囚われていたんだったかなと、怒りと共に考える。
「意地っ張りだねぃ……何処まで耐えられるか、見せて貰おうかねぃ!」
「やっ……!んー!」
何もナミは悪くないというのに、どうしてもナミを貪っちまう自分がいる。中に何度も放ち、その度に瞳が辞めてと悲しげに揺れるのは分かっていて、だが俺はそれを辞めるつもりは無ェ。
けれどもその身体は既に俺に堕ちていて、甘い声が響くばかり。なのに、心は……堕ちて来ねェんだから切ないねぃ。
「ひど……ぃ……や、ああん!ださな、いでって……いったの……んんっ!!」
聞こえねェよ、そんな言葉。俺は、受け入れてねェし、出さねェなんて言ってねェよぃ。
言葉の代わりに腰を動かせばそれに応えるように締まるそれに、俺の方が止まれなくなる。爪先を細くしならせるその姿は、背徳感を刺激する。
最奥に欲を放つ度にその首を横に振るナミには、まだまだ理性が残ってやがる。何も、考えるなってのに。
「何も考えられなくは、なってねェない。大丈夫だ、何かあれば責任は取ってやるよぃ」
「やだ……こども、でき、ちゃ……う……!」
本気ではないのだと、想って等居ないのだと、そう言っているのと同じ意味にしか取れない言葉を聞いて、心臓にナイフを突き付けられたような気持ちにさせられる。……あァ、いっそ壊しちまいたい。
「責任取るって、言ってるだろぃ!」
「いやぁぁぁ!」
悲鳴の合間に、俺は祈るように言葉を落とす。いっそ孕めと、願うように。
何をしても意識を取り戻さなくなったその身体から己を引き抜き、やり過ぎたと頭を抱える。虐めるつもりは、無かったのになぃ。
せめてもの詫びにとその身体を清めて、ベッドを整えてからナミを寝かせてやる。触れられる距離にいたら、寝ていても襲いそうな自分に嫌気がさすが、どうにもならずそっと身体を離すとソファに腰を降ろしてナミを眺める。
結局、俺はその後眠る事が出来なかった。……エースを見付けて、早く連れ帰ろう。
そして、安全な場所で、叶うならば俺の隣で……笑っていて欲しい。いつか、俺の想いが少しでも伝われば、嬉しいんだがなぃ……。