※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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バレンタインイベント(side)

 迷子の子猫を拾ってくるよぃと言い残して飛び出した俺を、誰も止めなかったのは俺の怒りを感じ取ったからだろうか。迷子の子猫は呑気に道端で試食していて、そのついでに何かを店主に聞いている。

 おいコラ、何してんだと声をかけようとして手に持っている酒やら、背負っているカカオやらを見て言葉を飲み込む。……まさか、バレンタインとか言うやつかよぃ?

 数年前に〝宝玉〟が広めたイベントで、イゾウが唐辛子を仕込んだチョコを配ったり、ハルタが山葵を仕込んだチョコを配ったりして大騒ぎになるそれを思い出す。被害者は大概サッチだったから構わねェが、ナミは酒とカカオで何をするつもりなのか。

 宝玉がナミだと知ったのは、エースを連れ戻す為の旅の途中で……その旅の途中はナミをエースの実の姉だと思っていた。だが、実際は義姉でありエースが惚れてるとなれば心も穏やかじゃなくてだな……。

 まァ、肉体関係はあるのに何故か関係が恋人と呼べそうもない雰囲気であるが為に、現在これ程に不快になってんだよな。分かってるんだがねぃ。

 不快なのは不安が理由であり、恋人でもねェ俺にナミの行動を制限する権利なんかねェ事は。それでも、気に入らねェ。

 これで買ってるその材料や道具が俺の為じゃなかったら、何をするか自分でも分からねェよぃ。どうしたらあの鈍い女に、俺の気持ちが伝わるのか……。

 買い物はいつの間にか大半が終わっているようで、ラッピング系の店に入ると中でまた楽しそうに見ている。買ってる量を考えると1人分では絶対に有り得ねェなぃ。

 ……帰ったらサッチを蹴り飛ばそう。なんの意味も無くそう決意し、出て来たナミを回収して帰れば、俺の言葉をそもそも聞いてねェ。

 

 「ナミ!俺はあの島には行くなと言ったろぃ!」

 「私は行きたいと言ったわ」

 「駄目だと言われたら従えよぃ!」

 「……私、謝らないし反省しないわよ」

 「ナミ!」

 

 その先はフンっと言ったきり何も聞こうとしねェで、ナミは俺に背を向ける。……犯すぞコノヤロウ。

 思ってもそんな事をすれば色々な意味で拗れると分かるから耐えるしかねェんだがなぃ。溜息を落として、俺はナミに謹慎処分を隊長として命じる。

 それにはナミも反応して、小さく頷いた。だが、出て行こうとした俺の服を掴んで、不安そうな顔をするのはどうなんだよぃ。

 

 「夜は、帰ってくる?」

 「ナミ……。……っ!ここは、俺の部屋でもあるからねぃ。いい子に反省してろぃ」

 「反省はしないわ」

 

 この、頑固者が!

 何故そこで、口先だけでも謝ろうとしないのか。融通が効かねェにも程があるだろぃ!?

 そう思ってナミの手を振り払い部屋を出れば、振り払われた手を見て切なそうにその瞳を震わせているのが見えた。……どうしろって、言うんだよィ。

 部屋の鍵を外からかければ、ナミが中から出るには壁かドアを破壊するしかなくなる。分かっていて、閉じ込めてはみたが恐らく反省はしないだろうねィ。

 俺に体は許しても、心を許さねェ癖してナミは、基本的に無防備だ。俺の気持ちも、全く伝わってねェしなぃ。

 

 「マルコ、ナミちゃんは?」

 「部屋で謹慎させたよぃ。本当に危なっかしいヤツで困るなぃ……」

 「マルコも少しは素直になれよ。あの子はストレートに言っても通じねェ位だろう?お前迄頑なになったら、そこで終わるぞ」

 

 心配そうなサッチに、八つ当たりしようとしていた俺の気持ちは萎えていく。本当に、このフランスパンは優秀だよィ。

 いつも食材しか見てないフリして、皆を見ているのは分かっている。そうやって陰ながら皆を支えているのが、サッチと言う男だ。

 

 「忠告、感謝するよぃ」

 「……マルコ!諦めるなよ。ナミちゃんの事」

 「サッチ?」

 「お前、ナミちゃんと居る時、いい顔するんだよ。大切なら諦めるな。俺は……マルコには、幸せでいて貰いてェ」

 

 恐らくは、若い頃に荒れていた俺を思い出しているのだろう。俺は確かにナミと居る時は、心も穏やかな事が多い。

 優しくて、お節介で、温かいサッチからの思い。それに思わず苦笑が浮かび、溜息と共に吐き出すように言葉を返す。

 

 「……ありがとう。諦められるなら、とっくに諦めてるから、気にするなィ」

 

 泣きそうな顔をするサッチに、本当に優しい奴だよと思う。料理人ってのは、優しくないとなれないのかねぃ?

 安心して欲しい。俺はなんだかんだ言っても、お前を親友だと思ってるし、苦しめたり悲しませるつもりはねェんだよぃ。

 結局その言葉を口にする事は無かったが、心配するサッチを宥めてから仕事に戻る。それにしても、ナミが1人いないだけでこんなにも仕事の効率が落ちるとは、痛手だよぃ。

 夜部屋に帰ると俺が帰ったのに気付かない様子でラッピングを続けるナミが居て、完成した物を袋に投げ入れては次の箱をラッピングしているのが見えた。器用に指先を動かし続けるナミは、真剣な顔をしている。

 袋には何番隊と言う表記があるから、どうやら全員分作ってるらしいと分かる。1番隊から8番隊までは完成している様子で、現在は9番隊のそれを作っているらしい。

 包装されてない箱をいくつか開ければ中身は同じで5個ずつチョコが入っている。その5個がそれぞれデザインが違うから、味も違うのだろうなと思いつつ、その箱を戻した時ナミが驚いた様子で振り向いた。

 

 「帰ってたの?ごめん、気付かなくて」

 「これの為に、買い物へ?」

 「……うん。全員分用意したくて、でも、品質とか色々考えたらあの島にどうしても行きたかったの」

 「……荷物持ちも必要だろぃ。安全性も考えて、今度はデートさせて欲しいところだよぃ」

 

 俺の言葉にナミは微かに目元を染めて、俯いた。どうやら照れてるらしい。

 それから僅かに恨みがましい視線を向けて来る。何かした覚えはねェがなぃ。

 

 「そんな事ばっかり言ってると、その内刺されるんだから。……今度から、考慮するわ」

 

 誰に刺されると俺は死ねるんだろうねィ?

 そんな事を思いながらナミの頭を撫でて、ナミに刺されたら死ねると気付く。ナミは覇気を使える上に、愛用している武器が海楼石だ。

 

 「それにしても、これどうやって準備したんだよぃ?」

 「チョコ作るのはクリマタクトがあるから、比較的問題ないの。もう、チョコは出来たから、残りはラッピング作業だけよ」

 「なら、続きは明日にして、今日は寝るよぃ。明日も1日、謹慎してろィ」

 

 笑う俺にナミはその瞳を大きく見開き、それから笑った。ありがとうと言って。

 こうして、全てを言わなくても伝わるナミの賢さに頼ってしまうところがあるのは、自覚している。だからこそ恋愛系だけ伝わらないのが本気で謎なんだがねぃ。

 そっと顔を近付ければ静かに伏せられる瞳。だが……その心は何処にあるのか。

 宿代代わりに抱かれてる……そんなところなんだろうと分かっている。分かっていても、溺れているのだから俺の罪でもあるのは、理解している。

 

 「ナミ、今夜は何もしねェから、安心して寝ろよィ」

 

 俺の言葉にナミは驚いたような顔をしてから、頷いた。その日もまた俺は、愛しい女をただ、抱き締めて眠る。

 それから数日後、訪れたバレンタイン当日。各隊の隊長に全員に回してくださいと袋を渡して明らかな義理チョコ配りを終えた後で、各隊の隊長と親父には他とは色の違う包みに入れたそれを渡して行く。

 それは明らかに他の隊員とは区別されてはいたが、その中で特別待遇なのはエースだ。明らかに、デカい。

 

 「エースは質より量でしょ。皆様のは中にお好きなお酒入れてあります。体調の悪い時は食べないように!」

 

 それから全員に向かってナミは言う、悪魔のように笑って。それでもきっと誰も、怒る事は無いだろう。

 

 「ホワイトデーは3倍返しねー!」

 「「「「「しまった!忘れてた!」」」」」

 

 受け取ったのを確認してからのそれに青ざめる男達。だがよぃ、そのチョコ原価は殆どかかってねェから大丈夫だと思うよぃ?

 そんな中でクスクスと笑うナミは、本当に可愛い。それにしても、俺は渡されてねェんだがなぃ?

 

 「ナミ?」

 

 俺が呼び掛けると、ナミはビクリと肩を揺らしてから、小さく応える。

 

 「……部屋に、置いてきちゃったのよ。後で、渡すわ」

 「ん。楽しみにしてるよぃ」

 

 義理チョコなんぞどうでもいいが、1人だけ貰えねェのは流石につらい。そう思っていたが、その日の夜、部屋に戻るとソワソワしているナミがいてどうしたのかと思う。

 そして、部屋に入った俺に押し付けるようにチョコを託して甲板へと駆け出して行った。何だと思うが、手元に残された箱が他とは明らかに違っていて、少しの期待を込めてそっとそのリボンを解く。

 すると箱を包んでいる物が布だと分かり広げると中からカードが1枚落ちた。腰に付けている物が草臥れていたから変えて欲しいと書かれたそれに、嬉しくなる。

 そして、続いている言葉に息を呑む。それは、歌だったから。

 

 『明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな』

 

 ……そうだよな、融通の効かない頑固なナミが好きでもない相手に、抵抗もせずに抱かれる筈が無かった。俺は即座に飛び出して、ナミを追い掛ける。

 腕に抱き締めた細い体は震えていて、鈍いのは俺の方だったと思い知る。だからこそ、今夜はしっかり伝えようと思う。

 

 「ナミ……俺は遊びで抱いたつもりはねェよぃ。俺の女になれ。大切にする」

 「……セフレって事?」

 「馬鹿か。俺の〝恋人〟になれと言ってる。愛してるんだ、ナミの事を」

 「……体だけ、目当てだと、思ってて……」

 

 そう言って涙を流すナミに、悪い事をしたなと思う。言葉が……足りてなかったのは、俺の方だったと理解してそっとその涙を指先で掬うように拭う。

 

 「言葉が、足りてなかったねぃ。俺は、ナミに初めて会ったあの日からずっと……惚れて、愛し続けているよぃ」

 

 俺の言葉にナミは小さく返事を返してくれる。それは……小さくて波の音に掻き消えてしまいそうなものであったけれど。

 

 「私、マルコさんが、好き……」

 

 自然と重なった唇は少し塩辛く感じたが、さてこのままとりあえずどこかヘナミを連れ去ろうと決めて、姿を変える。するとナミが先程までより嬉しそうに飛び付いてきて、人の姿よりこちらが好きとか言ったら、犯り殺すよぃと凄んだ俺にナミが視線をそらした。

 ……こら、ナミ。そうは思うが、まァ今は許してやろうかねィ。

 Happy Valentine……漸く手に入れた恋人と公言できる立場を胸に、男は最愛の人を連れて飛び立つ。誰にも邪魔されない所で今宵2人で過ごそうと囁けば、女は嬉しそうに微笑み頷いた。

 そのまま3日ほど雲隠れした2人を他の家族が心配して探す程、彼等はこの日から数日、互いの事しか見えなかったようだ。

 

明けぬれば暮るるものとは知りながらなほ恨めしき朝ぼらけかな 藤原道信朝臣

訳:夜が明けたならばいずれ日は暮れること、そしていつかまた逢う事が出来るとはわかっていますが、貴方と別れなければならない夜明けが恨めしく思えてなりません。

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