どこからか、目覚めを誘う鳥の囀りが聞こえる。……気持ちのいい朝だわ。
身体は奇妙な気怠さを残しているけど、それでも不快な感じはしない。……怠いって、なんで……?
半濁した意識の中で疑問を感じて、瞼を開けると目の前には精悍な男の顔があった。前にもこんな事があったと思いながらも、声にならない悲鳴を上げて上体を起こした途端、異常な鈍痛が腰に走る。
瞬間的に蘇ったのは意識を無くす前の自分の痴態と、この男の不敵な瞳。娼婦でもあそこまではいかないだろうと言いたくなるような、そんな状態にされて、散々に弄ばれて……。
愛を囁く甘い声と共に、内部なのかどこからなのか不明な淫猥な音さえ、くっきりと耳の奥に残っているかのように思い出されてしまう。その為にやっていた時以上の羞恥が全身に巡り、余す所なく赤く染まっているだろうと自分でわかる程。
『1晩で、俺無しではいられぬ身体にしてやろう』
そう自信満々に言い切った男は、稀代の色事師もかくやと言わんばかりに、私を翻弄した。百戦錬磨のテクニックに、簡単に溺れさせられてしまった自分が情けない。
それ以上に、身体中に残るキスマークや腰の痛みが、不快でないのがもっと悔しい。身のうちにまだ、何かが燻っている。
認めたくないと心のどこかが叫ぶ。そもそも順番がおかしい。
淡いトキメキからの、手繋ぎデートに、触れるだけのキス……なんて手順は流石にいらないとは言えどもよ。沈没しかけているのを助けてあげた恩人である筈の人間に、口移しで果物押し込み、人の安眠しているところに潜り込んできて、その上で突然何かに怒って強姦。
確かにもうダメかと思った所で助けてはくれたものの、言葉足らずで、武器もないままに連れ去られるようにしてここへ来たのよ。そうして共に過ごして慣れてきたかなって頃に、また突然理由も分からないままに怒り狂い体を弄ばれて……。
それから……それ、から、恋愛感情かもって……。それは流石におかしいと、私は言いたい!
そこでふと妙な事に気付く。いや、気付きたくなかったけど、アレだけ中に放出された筈なのに残滓による不快感が……無い。
と言う事は……?
答えは自ずと限られる。何故ならばここには2人しか居なくて、その片方である私は今目覚めたばかりなのだから。
強姦した時もそうだったけど、気を使う所が間違ってるから!助かるけど、助かるからこそ嫌だって事もあるのよ!!
意識のない間に好き勝手されたかと思うと、それだけで行き場の無い怒りが腹の底から湧き上がり、燃え上がり、煮え滾る。なのにその犯人は、いつの間にか移動したらしいベッドで私を抱き枕にして寝ていたというのだから、憎しみすら抱いてしまいそうになるのもわかって欲しい。
思わずというか、無意識の内にミホークに馬乗りになり、両手をその首へ伸ばす。このまま首り殺してやったら、どれだけスッキリするだろうか。
そう思った瞬間、ミホークの唇が笑みに歪んだ。薄らと開かれた瞳は愉しげで、抵抗する気配さえ無い。
「その細腕では、並の男でさえ締め殺せぬだろうと思うが?」
「くぅっ!」
悔しい、悔しい、悔しい、悔しいぃー!
恐らくは私が飛び起きたあの時からミホークは起きていたのに、私が隣で身悶えてるのを眺めて楽しんでいたのだろう。この余裕。
年齢差があるからなんてそんな理由じゃない。この男の性格の悪さだ。
「殺されねばならぬ程悪い事をした覚えは無い。昨夜はナミも、嫌がってはいなかったであろう?」
「……っ!い、嫌がったわ!」
「そうか。では、自分から挿れてくれと哀願して来ても、今後は無視して更に卑猥な言葉を言わせねばならぬ様だな……?」
「ひ……卑怯よ!ミホーク、狡い!」
泣きそうになっている自覚はある。いつもより咄嗟に出る言葉が幼いのは、ミホークに対する甘えなのか。
そんな私の尻にミホークは手を伸ばす。それだけで身体は、簡単に火を付けられたように反応する。
「やっ……触ら、ないで……!」
「何故?ナミから乗ってきたと言うのに。自ら俺の上に跨り、その身を震わせ、俺に熱意を持って触れたのだから……求められていると言う事だろう?」
「なっ……!誤解を招く言い方しないで!」
わざとだと分かっていて、反応しなきゃ良いのに反応してしまう私。それに対してミホークはその口元を笑みに変えて、明らかに揶揄いの色を含んだ返事をする。
「ん?事実だろう」
「そ、れは、そうだけど!言い方ってものが……!」
「今も俺の上で、身体を震わせているのはナミだろう」
「それは……!怒りに震えてるのよ!ミホークには理由も分からないみたいだけどっ!」
ガルルと唸りたい気分で言えば、ミホークはしたり顔で頷く。そして、平然と返事をして来た。
「分かっている。ナミは、己の意識の無い間に朝までナミの中に俺が中に放っていたものを、勝手に掻き出した事が不快だったのだろう?」
「そう、だけど……さっきから、言い方が……!」
「これからは無理矢理覚醒させてでも、ナミの意識のある状態で掻き出してやろうとは思うが、今回は既に終わっているのでな……。いや、だが、それ程言うのならば、今すぐに実演してやるから、それで我慢して貰おうか」
私の苦情に対してミホークは仕方ないとばかりに妙な事を言ってきて、それに私は動揺し、混乱する。あれ……そんな話だった?
なんか……私が今すぐ抱いてって言ったみたいな、そんな流れになってない?
ミホークの指は混乱する私の中にするりと侵入してきて、指で中を掻き乱される。それにより肌が粟立つのは不快だからだと言いきれるのかと、その視線で問われているのがわかり唇を噛む。
それなのに身体は指だけでは嫌だと言うかのように反応して、簡単に快楽の渦へと落とされそうになる。それを理性で押し留めていれば、楽しそうにミホークが笑う。
「感じているな」
「あっ……いわ、ないでっ……」
羞恥のあまり泣きたくなるのを堪えて睨み付ければ、1瞬ミホークの動きが止まり、それから獰猛な笑みにその質を変えた。嫌な予感がしたのは、言う迄もない。
「今後はナミの希望も可能な限り叶えてやろう。その対価は……この体で支払ってもらう」
「ミホーク!最低よ、いい加減にして!」
言いながら逃げようとする。けど、指は中で蠢いていて、腰は鈍痛があってはそれが成功する筈も無い。
ずり下がった時に触れてしまったソレは、先程まで散々使われていた筈なのに、見なくても分かる程に大きくなっている。逃げようと浮かせた腰を利用されて宛てがわれたそれは、まるで自分から求めたかのようにも見える状況に追い込まれてしまう。
「や……やめなさいよ、朝から……」
それに対してミホークは溜息を落とすと指を1気に引き抜くから、突然の喪失感に身体はビクリと震える。そこへ当然のようにミホーク自身があてがわれた。
私が言葉で抵抗するからか、ミホークは言葉ではなく体で私を抑え込み入口を押し開いて中へと侵入して来る。入口付近の内壁が擦れるだけで、大袈裟な程に反応する身体に私が唇を噛めば、ミホークはそれを許さないと言うように唇を重ねて来た。
その為に私の喘ぎはミホークの口に吸い込まれる形となったけど、拒否するだけ無駄とばかりにミホークは奥まで平然と侵入して来る。だから私の身体は、それだけで耐え難い快楽に飲み込まれてしまう。
どうしてこんな事になってしまっているのか。わからない……もう、何もわからない。
「あっ……あぁァぁー!」
突然離れた唇が、抑えていた妙なる嬌声を響かせて、ミホークを受け入れていく。悦楽地獄とも言える時間は、こうして再び幕を開けた。
ミホークが満足するまで弄ばれ、有言実行とは正にとばかりに意識のある状態で掻き出されて、それに反応してしまえばまた貪られるのを繰り返された。そうして結局……最後には、文句言わないから、もう虐めないでと泣きを入れる事となったのだ。
そんな私はお陰様で、現在身動きが1切取れなくされてしまっている。それによりいい加減にしてと怒り狂った為か、ミホークが少し反省したと言ってくれたのだ。
何もさせずに許したら良くないのは分かったので、私は最低限必要な物をベッドまで運ばせて、先日行った島の地図を描いている。……素直に許す事も甘える事もできないなんて、本当に私……可愛くないわ。
それにしてもミホークは、私をどうしたいというのだろうか。地図を1枚描きあげて、引続き海図を描こうとした所でその手をミホークに掴まれた。
「ナミは、何者だ?」
「航海士と測量士、操舵手を兼任出来る腕前はあるつもりよ。後は、最低限の応急処置程度の事なら1通り出来るわ。後は……そうね、歌姫も暇だとやるわね。でも、それだけ」
私は何者でもない。私は本来生きる筈だった人の居場所を奪った、言うなれば虚無の者だもの。
「……単なる優秀で美しい女だとでも言いたいのか」
「他に答え方が分からないわ。でもそうね、もし違うと言うなら……今の私は、ミホークのペットかしら?」
その言葉が何故かミホークに火を付けそうになったらしくて、慌てて土下座する勢いで謝罪した。その後、何とか無事に会話に戻れるようになるまで数刻、謝罪だけで済むはずもなく貪られた私は荒い呼吸を繰り返している。
そんな爛れた時間を私とミホークは過ごしていた。けど今は、私が描き終えた海図と地図をミホークが食い入るように見詰めているので、それが少し怖い。
「……見事なものだな」
ミホークに褒められれば、悪い気はしない。だからつい、私の口は軽くなっていた。
「そうでしょ。だから……小さい時から、自分の目で見た世界地図を描くのが夢だったの。その為に、自分の航海術で旅をしようって思ってたのよ」
この言葉にミホークは暫く固まり、そして……不愉快そうに眉を潜めた。何か失言したかとミホークを見れば、強く抱き締められる。
身体に力が入らないから、ただそれを呆然と受け入れてるけど、ミホークの腕が、身体が震えてる。近くなり過ぎてその表情が見えないから、何を言えば良いのかも私には分からない。
「何故……素直に、もっと早くそれを言わない。ナミが望むなら、何処まででも俺が連れて行ってやる」
「え?」
ミホークはそれから、言葉を多く語る事はなく、雪崩込むようにまたも私を貪った後は当然のように船の進路を変えた。シッケアールには向かわずに、人の住まない島を重点的に巡り始めたのだ。
それがどうやら、私の夢の為だと気付くのに時間が掛かったけど、どうやら私はミホークに大切にされているらしいとは認識出来た。気に入って貰えてる理由は分からないけど、私もミホークといるのは嫌じゃないから、こんな関係も悪くないと思えてしまう。
この次に到着した島に赤髪海賊団がいて、そこでシャンクスやエースと遭遇する事になるなんて、思っても見なかったけれど……。波間の向こうを目指して進みながら、夢の地図を描く日々は、まだ始まったばかりだ。