誕生日の祝いをした後、俺はナミにプロポーズをするタイミングを計り続けている。だが、そう上手く話が進む訳もなく、頭を悩ませていた俺は着港したタイミングで夜景の綺麗なBARがあると聞いて頷く。
酒の力を借りて、告白ってのも……まァ、悪くはねェかもない。そう思うのは、断られるとは思わないが、気付かれない危険性が高いのは分かっている為だ。
そういう所だけ、ナミは恐ろしく鈍いのだ。まァ……俺も人の事は言えなくもねェが。
蜜柑の世話をしつつ時折波間を見詰めては潮風に乱される髪を押さえ付ける姿は、確かに女神を連想させる。優しく微笑む事の多いナミが、実は脆い心を有しているのは知っている故に……俺は想いを上手く伝えられずに居た。
ただナミは己の心を守る為、高いプライドでコーティングして強気に見せかけているだけ。だからこそ本来は、叶うならば誰も傷つけずにただ海と蜜柑を友として生きていたいのだと言う事を……知ってはいるんだがよぃ。
ごめんなぃ、ナミ。俺はナミを手放してやれねェよぃ。
「マルコ?何かあった?」
「いや……何か異変はねェかよぃ?」
「今の所問題ないわ。何か気付いたらちゃんと言うか「ナミ、明日予定は空いてるか」」
言葉を遮って言った俺にナミは小首を傾げながら、何も無いと思うと言う。だからと言ってナミが暇な訳も無いから、時間を作れるって意味なのは分かってる。
「夕方から、空けとけよい」
俺の言葉に頷いたナミは蜜柑を1つ俺に手渡して、後で食べてなんて笑う。その無邪気な笑顔に、俺もありがとうと笑ってその場を後にした。
そして翌日の夕方、陽もだいぶ沈んだ頃に声をかければ素直に着いてくるそれに、少し笑っちまう。これで、俺の手で何処かに売られでもしたらどうするつもりなのか。
「警戒心がねェなぃ」
「マルコは私を傷付けないもの」
「……愛故に束縛し、傷付ける事も……有り得るだろい」
俺の言葉にナミはクスクスと笑うと、そっと首に腕を回して来た。身長差の為に、ナミが俺の耳元で何か言う時にはそうする他無いのは分かってるが……妙に蠱惑的だ。
蜜柑の香りが俺の理性に揺さぶりをかける。若ければ、これだけで問答無用で部屋に連れ込んでいただろう。
「マルコになら、殺されても本望よ」
「ナミ」
咎めるように名を呼べば、艶やかな笑みで俺に言う。それは当然のように。
「私を殺せば、マルコは生涯私を忘れられない。傷付けても、何しても、その心は私に捕らえられて、その内私にした事以上の苦しみがマルコを縛るもの。その覚悟があるなら、いつでも好きにしてくれて構わないわ」
……これが、18歳の小娘かと思えば恐ろしくもなる。愛しい女であり、大切な仲間であり、エースの姉。
そして恐らくは、まだ何かやろうとしているのだろう。サッチを生かしただけでは、ナミの中で手柄とは認められないのだろうから。
「勝てそうもねェない」
「たまには勝たせてよ。いつも私が負けてるんだから」
俺はナミに勝った記憶なんざ1度もねェよぃと思いながら、その細腰を抱いて目的地へと向かう。到着したBARでカウンターに腰を降ろしながら酒を頼めば、ナミは驚きを隠さずにいるからその頭を撫でながら言葉を向ける。
「たまには、2人だけで呑むのも良いだろぃ」
「うん……ありがとう……」
「ここは、夜景が綺麗だと聞いたからねぃ」
自然や綺麗なもの、可愛い物が好きだろぃ?と、言葉にせずに視線で問いかければ、幼さの残る笑顔を見せたナミ。その姿に、ポケットに入れたまま時を長く過ごしている指輪をどう取り出せばいいかと、内心で溜息を落とす。
他愛無い会話を繰り返しながら、カクテルを呑み続ける。そろそろ切り出せるかと会話の途切れた瞬間にナミを見れば、メニュー表を見て動きを止めているのが確認出来た。
何を見ているのかと視線を追えば、見ているのがシンデレラカクテルを中心としたノンアルコールカクテルだと分かり、酔い始めたのだろうかと首を傾げた。その瞬間ナミがゆっくりと唇を動かし、問い掛けてくる。
「私の書いた作品に〝白雪姫〟って言うのがあるのは知ってる?」
「知ってるよぃ」
突然の問い掛けに、けれどもナミの……いや、宝玉の作品は全て読んでいる為に頷けば、アルコール度数の高い酒を平然と頼みつつナミは嬉しそうに笑う。たまに見せるこの年相応な様子に、それだけ心を預けてくれてるのだなと認識するのだ。
「騙されて毒の林檎を食べさせられたお姫様は、王子様からの優しいキスで息を吹き返すんだけど……まぁ、実際には有り得ないわよね」
そう言って顔を俯けたナミは少しではなく憂いを帯びていて、なんと声をかければ良いだろうかと悩ましく思う。そんな時、ナミが続けて言った。
「好きな人からのキスで目覚めるとか、憧れるわ」
「キスで毎朝起こしてやろうか?」
何も考えずに言ったその言葉に、ナミは笑った。本当に嬉しそうに、小首を傾げて。
「……お願いしちゃおうかな」
毎朝ナミと同じベッドで目覚める許可を出されたと言う事は、今ならと口を開こうとしたら、ナミがフラリと立ち上がった。そして、風に当たってくるというから、そのふらつく体を支えようと俺も立ち上がるが少し遅かったらしい。
明らかに頭部を強打したと分かるそれに、慌てて名を呼ぶが反応が鈍い。小さく舌打ちして、意識があるならと体調を確認したくて言葉を重ねる。
けれどもナミは縋るように俺の腕に手を伸ばした直後、迎えに来て欲しいと言って意識を手放しちまう。頭を揺らさないように気を付けつつ、そっと身体を抱きあげれば、慌てて飛んで来たマスター達が部屋を用意したから休ませてくれと言う。
距離移動させるのもと言うのもあり頷き、明らかに挙動不審なそれに質問をいくつか投げ掛けて答えを得てしまえば、ナミを部屋のベッドに寝かせてから頭を抱えたのも不可抗力だろう。記憶を、失うだと……!?
そう思った直後、忘れられるなら、あんな壮絶な過去忘れちまった方がナミの為かも知れないと気付く。俺はまた、1から始めればいい。
けれども目覚めたナミの様子に、その考えは吹き飛んだ。これは、戻ってもらわねェとない。
「貴方は、いったい。
「ナミ、何も分からないのかよぃ?」
問いかければ俺以外の事は覚えているらしいと分かり、性格が少し変わってる他は特に大きな問題も無さそうだなと判断する。つまりは、この状態では、あの壮絶な過去は残っているという事だ。
それなら失われた記憶は俺に関する事のみか。それは……認められねェなぃ。
微かに怯えを見せるナミは、いつもより幼い。だがナミである事に変わりはなく、記憶を戻す手段としては、身体から思い出させるというのも確かに1つの手段だ。
無防備に見詰めてくるその瞳に魅せられる。ここには、兄弟達も誰もいねェんだし……久々にその身体を堪能しても良いだろうかと考えたのも不可抗力だろう。
いつもは俺の部屋か、ナミの部屋と化してる資料室で声を殺して抱かれているナミだ。声を出せる環境にいる今、好きに可愛がって何が問題なのか。
そう思って触診だと言いながら身体中を愛撫していけば、聞いた時も触診だと信じて素直な言葉を俺に伝えてくれる。恥ずかしそうにしながらも、診察だと言われて疑う事をしないナミは、純粋なのか馬鹿なのか。
……正直、エロ可愛い。これは、我慢できそうにないねぃ。
「あっ……そこ、や……!」
「そこって、どこだよぃ?」
「んっ!秘部、に、指……やぁ……!」
「どうして、嫌なんだ?」
「だっ……ぁ、変に、なっちゃ……!きもち……ぃの……」
これは、どんな試練なのか。普段なら、絶対言わないだろう言葉の羅列。
愛しい俺の女。もっと……俺に溺れちまえ。
「気持ちいいなら、構わないだろぃ」
「やぁ!あたま、おかしくな、る……!」
「触診を嫌がるなら、仕方ないねぃ」
そう言ってその場所に指ではなく舌を這わせれば、甘い声が断続的に聞こえ始める。涙をその瞳に浮かべて、俺の頭を押そうと力の入らない手で抵抗するが、もうこれは煽られてるとしか思えない。
わざと音を立てて吸い上げてやれば、甲高い悲鳴と共に身体を痙攣させるから、直前で動きを止めてその顔を覗き込む。火照った顔で、けれども少しの怯えを宿した瞳で俺を見るナミに、妙な背徳感が刺激される。
「挿れるよい」
「やっ!嫌ですわ!それは、診察じゃありませんもの!」
脳裏で太い注射だが痛くないとの言葉が浮かび、直後にだから診察の一環だと浮かんだが、流石にそれはどうかと思って口を噤む。愛する女は、いつも強がってばかりで……それが少しもどかしかったのも確かなのだ。
いやいやと言うナミを軽く押さえ込んで、突き立てるようにナミの中に欲望の塊を押し込めば、はふはふと口を動かしながら、その瞳から涙を1雫零した。それが快楽からのものであれば良いが、違ったなら酷い事をしているのだと今更気付き、どが、もう、辞められそうにない。
包み込む熱は、明らかに俺を求めていて、いつもの反応と余り変わらない。……待てよ、だとするならば、ナミはやはり俺を覚えてはいないという事か。
二人きりで、他に見られたり聞かれたりする可能性の無い今、いつものように、警戒している反応だと言うなら、そういう事になる。俺はナミにとって、今は〝知らない男〟なのか。
「ナミ……愛してる」
そう言って、そっと唇を重ねると半分程入っている状態にまで引いていた腰を1気に最奥まで穿いた。悲鳴は口の中に貰い受けて、何度もお預けにしていたその熱を開放された衝撃で、ガタガタと震えるナミの身体を強く抱きしめる。
唇を離して、中を掻き回すように堪能しつつその身体を抱き起こし上に乗せてやれば、より深く繋がった事で断続的に甘い声を響かせる。それにより視界的にもナミの姿を堪能できた俺は、同時にそうする事でしやすくなったキスを角度を変えて何度も行う。
その途中でナミの反応が変わってきて、ん?と思いながら腰を動かせば、気の強いいつものナミの顔になって俺の頬を抓りあげてきた。指に覇気を纏い、確実にダメージを与えて来る辺りが、本物だと分かり俺は抓られたまま嬉しくて笑っちまう。
「も……まっ……て!」
「お帰り、ナミ」
「んっ!迎えに、来てって、言ったけど……こんな、やり方……!」
「居場所を伝えなかった、ナミが悪いよぃ」
責任転嫁しつつ俺の熱も解放しようと腰を激しく動かせば、下からの突き上げになったナミが半泣きのような声で喘ぎ、俺の首に腕を回した状態で再び限界に達した。その締め付けで俺も中に放てば、意識があるのが不思議な様子で、ナミが荒い呼吸を繰り返しているの確認する。
「ナミ……」
「も、馬鹿。マルコの、馬鹿!」
「怯えながらも素直な様子を見せたナミも、可愛かったよぃ」
笑えばナミは目元を赤く染めて、プイっと顔を背ける。それからゆっくりと俺の胸に頭を預けると、胸を撫でて来るから辞めろと内心で思う。
愛する女が甘えてくれて、小さな悪戯をする姿に、劣情は刺激され続ける。まだナミの中に俺が居るのだと、自覚して欲しい。
「マルコ……
「……約束してやるから、それ辞めとけよい」
「え?」
顔を上げたナミは、驚いた顔をしていた。それを見て俺は正直な所を吐露し、同時に本能に抗うのを放棄する。
「煽られて、止まれなくなる」
「…………今、出したでしょ!?」
「煽ったのはナミだ。諦めろぃ」
声を抑える必要のないこの場所で、誰にはばかること無く愛しい女を好きに抱けるのだ。多少のハプニングがあったとしても、構うものかと笑い……満足する迄付き合って貰おうかと〝海賊らしい笑顔〟を向ける。
心配かけられた分と、焦らされた分もここで精算してもらおうと言った男のそれは、女には死刑宣告にも等しかったのだろう。けれども、体力が持たないと悲鳴を上げながらも、結局受け入れてしまうのだ。
今宵も幸せな恋人達は、多少の問題は軽く乗り越えて、互いの熱に溺れ行く。ただ、プロポーズは先延ばしになってしまった様子だが。