告白……プロポーズと言えるものはした。それに対して、頷いても貰った。
左手の薬指に、婚約の証としてつけてくれているその指輪を見れば確かにそれは幸せに思えるが、まだそこまでだ。結婚式は、難しいだろうねぃ。
俺は四皇白髭海賊団の1番隊隊長で、何もしなくても目立つ。その上で、ナミは宝玉だ。
ナミは戦えない女じゃないが、戦える女でもない。……優しいを超えて甘い。
いい子を超えて、お人好し。なのに無駄にプライドが高くていざとなった時の覚悟とか矜持は半端ねェから……命さえ危うくなる。
だからこそ、隠して守る方が確実で、目立たせる事が恐ろしい。……つい最近まで苦しめられていた事を思えば、本当にこれ以上はリスクにすら近づかせたくないんだよなぃ。
そんな事を考えながら見張りをしていたら、急激に深まる霧に驚かされる。安全の為に船を泊めるよう指示を出した時、蜜柑の香りがして慌てて飛んで行く。
勿論、文字通り。すると霧を相手に争っているような態度を取るから、慌てて駆け寄りその体を支える。
……軽いな。まだ、食べ物を口にするのに怯えが残っているんだろうか。
そんな状態でも、迷惑かけたくないのと言わんばかりに抵抗する姿。頼る事が苦手な、不器用な女がここに居る。
なァナミ。俺は、そんなにも頼りないかよぃ?
「この程度、甘えには入らない」
だから、もう少しその傷を俺に見せてくれないか。分からなければ、守る事さえ難しい。
泣きそうな顔で見上げられて、俺はナミを抱き上げて船内に戻ると静かに寝かせる。そうしなければ、強がりなナミは何も言えないだろうとわかるのだ。
様子を見るに、あの妙な霧が原因だろうなぃ。霧が晴れたら、とりあえず近くの島で休ませてやりたい。
そう思って親父に1報を入れれば、ナミを頼んだと言われるのでそれに是と答えておく。とりあえず、親父としても最近入ったばかりの可愛い娘は心配なのだろう。
「マルコの心配性」
「ナミにだけだよぃ」
俺の言葉にもう……なんて言いながら本気にしないナミを眺めて、強く抱き締める。すると俺の震えに気付いたらしいナミが、俺の背を軽く叩きながら言う。
「私、イースターのイベントやりたいの」
「イースター?」
慰めるような言葉が来るかと思ってたから反応に困る。その上知らない単語だった為に顔を上げると、ナミが楽しそうに笑う。
それが少し幼くて、本質としてはこっちなんだろうに、それを出せる相手が限られてるんだよなと思えば少し切ない。隠さなければ、生きられなかったのだとわかっていて……失わずに生きてきたその強さが眩しく思える。
「兎と卵のイベント。詳しくはWebで!」
「〝うぇぶ〟ってなんだよぃ?」
「言い間違えたのよ。机に出版したくて書いたの置いてあるから、それを見てくれると助かるわ」
言い間違い……か。本当に嘘の下手な女だよぃ。
そう思いながらそれに是と答えて頭を撫でれば嬉しそうに笑う。視線を合わせて、それから唇を重ねようとした時にナミの頭に変な感触が。
そっと手を離せばナミも驚いた顔で居て、互いに何だろうかと首を傾げる。けれども直後にナミの頭上から1対の長い耳がピョコンと生えてくれば、言葉が勝手にこぼれ落ちていた。
「頭の上にあるものは……目の錯覚かねぃ?」
俺の言葉にナミは鏡へと駆け出す。そして己の頭上と尻にあるそれを確認して悲鳴を上げながら、何これと繰り返すから悪魔の実では無いのだと確信する。
……まァわかっちゃいたがねぃ。それでも、ならば残る可能性は1つだなと思いながら、慰めるように笑いかける。
「似合ってるし、可愛いよぃ」
「ちっがぁう!!」
「違わないよぃ。ナミは元々可愛いだろぃ。認めろよぃ」
「可愛いけど!可愛い顔してるけど、そうじゃないの!!」
可愛い自覚があるから、アーロンから上手く逃げ回れたのだろう。それがなければ今頃穴だらけにされていただろうと思えば、もう少し早く助けてやりたかったと思わされる。
それを隠す為に笑う。ナミに不安な思いはさせたくないからねぃ。
「ナミは、性格が可愛いよぃ。それと良く合う兎の耳と尻尾だ。健康被害がないのなら、そのままでも構わねェと思うがねぃ?」
「構うわ!!」
しっかり毛が逆立っているから、ナミの体の1部となってるのは理解出来た。とりあえず、耳を切り離して終わらせるって事は出来ないらしい。
そこにナース達にも兎の耳が生えたと連絡が入れば、やはりあの時の霧が原因だと気付く。それにより当然のように、その可能性が高いからと確証を求める作業が入る。
そうして確証を得る為に動いたメンバーが買出しも行って、そのままついでにイースターとやらの準備を進めたのはある意味当然と言えるだろう。何せ、ナース達を含め女が全員兎になっているのだから、兎と卵のイベントをやるのにこれ以上のチャンスは無いと判断されたのだ。
「マルコ?何してるの?」
「イースターの準備だよぃ。ナース達とナミにはそれぞれ卵探しをして貰う事になる。ナミは青い卵探してくれたら大丈夫だよぃ」
「あ、色別なんだ?」
好きな色を探されると後でチェックするのが大変なので、人により手に入れていい卵の色が違うのだ。ハルタは考えるのが面倒で、他の卵の横に置くような形を選んで設置したらしい。
「そういう事だねぃ。1人5個の卵を探せば解決だよぃ。全員が見付けたら、イースターの食事が運ばれて皆で食事になるから、それ迄はナミとナース達は卵探しで楽しんで、男達は仕事を続行って事になるねぃ」
「青い卵って事は……マルコが隠したの?」
「あァ……そうだが、何かあるかよぃ?」
少し気恥しそうに俯いたナミの言葉を待てば、上目遣いに言葉を紡がれた。それは、まァ……ナミは小柄だからねぃ。
「……高い所に隠されてたら、私背が届かなくて見つからないかもって……」
「そこは考慮してあるから、普通に探して大丈夫だよぃ。誰かの居室と、仕事をする為の部屋以外のモビー船内。甲板を含む。これが隠し場所の条件だよぃ」
俺の言葉に頷いたナミは、ナース達に混ざり籠を手に駆け出した。兎達が楽しそうに探してきゃぁきゃぁと笑うそれを聞きながら、書類仕事を進める。
ナミの事だからどうせすぐ見つけるだろう。そう考えて居たのだが、開始から1時間程した時、ナミが半泣きで俺の所に来た。
どうしたのかと首を傾げると、どうしても卵が1つ見つからないと言う。……おかしいな、簡単な所に隠したんだが。
見つけた場所を聞けば残るは食堂のソファ席に隠したそれだけの筈で、皆を待たせちゃうからと落ち込むナミの頭を撫でながら案内する事になった。そうして到着した先で、俺が隠した筈の場所に卵が無い事に気付く。
仕方なくその付近を探してみると、卵の殻の1部を発見して……。誰か壊して、バレるのが怖くて何処かに移動させたなぃ?
これはもうナミの責任下にねェし、犯人はだいたいわかる。まァ……探してたのがナミで良かったよぃ。
「……ナミ、もう見つけた事にして食事にしよう。誰かが壊して、証拠隠滅したらしいよぃ」
「……そうなの?私、どうしようかなと思って……」
「気晴らしに楽しんで貰おうと思ったのに、泣かせちまったら意味ないねぃ。……ナミの泣きそうな顔も、可愛いけどなぃ」
「悪趣味……」
そんな事を言いながらそっと肩を抱きせて、良い子だと頭を撫でてやれば子供扱いしてなんて言う。だが、これ迄子供で居られなかったんだから、少しくらい子供でいてもバチは当たらねェだろぃ。
Happy Easter……。皆で食事を楽しんでいる中で、卵を破壊した犯人がエースだったと気付いた男がそれを叱り、それを兎が庇った為に兎が代わりにオシオキされる事となる。
それにより兎が泣いたとしても、それは男を喜ばせただけだろう。今日も変わらず、モビーは平和である。