新婚旅行が終わって帰った直後、大掃除やら何やらの雑務に追われたのはナミが優秀過ぎるからなのだろうか。それもあり、ナミは新年にやるゲームについての話し合いに出る事さえ出来なかった。
……除夜の鐘まで起きてるとか言ってたが、この海域では聞こえないよぃと教えた事で少し早めに寝かせた筈だ。だと言うのに、何故この蜜柑はベッドから転がり落ちようとしているのかねぃ。
モゾモゾと何かを着込んで表に出るナミは、机に飾ってある小鳥を軽く撫でてから出て行くから、そんなに気に入ってたのかと思う。あんなにも大切にしてくれるなら、壊れにくい素材の物にしてやれば良かったかねぃ?
普通ならばナミも見張りを交代で受け持つ筈だが、ナミは寝ていても天候に関してのみ見張りを常にしているからという理由で免除されている。ナミがいれば水銀計等も不要となるから、本当に有り難い。
航海するに当たり、水銀は重要だが毒性も高く、叶うならば使いたくないのが船医としての意見だ。だが、どんな環境にも対応し、船で使われる計測器の大半が水銀を用いて居るのだからこれは不可抗力とも言える。
それをナミは、不要な物にしてくれる。ナミに何かあった時の為に保管はしているが、常に使える状態にして置かれる訳では無い事を鑑みれば、どれ程人体への安全性が高まるかは分かろうというものだ。
有り難すぎる存在であるナミに、その自覚はない様子だがねぃ。少しは自分の価値を正しく理解して欲しいと、家族一同願ってやまないが、恐らくその願いが叶う日は来ないだろう事も知っている。
海と空の境界線が分からなかったのが嘘のように、ゆっくりとその境界線を示し始めた太陽を見詰めて、ナミは祈るように言葉を口にする。その声は本当に、それを願っているのだと伝わる程に優しく穏やかだ。
「あけましておめでとう。今年も1年、平和でありますように」
「ナミ」
そのまま朝日に溶けて消えちまうような気がして呼び掛けた俺に、ナミは振り向くと同時に駆け出してきた。そのまま抱き着いてきた身体が小刻みに震えていて、寒かったと言われれば冷たくなりすぎた身体を抱き締めたのは当然の行動だろう。
弱くも無いが強い訳でも無い身体の持ち主に、心配するなと言う方がおかしい。風邪でもひいたら、どうするつもりだったのかねぃ。
俺に震えを隠せる筈もないからか、素直に抱きしめられているナミに、大丈夫だと言う言葉の代わりにただ抱き締め続ける。朝日は憎たらしい程に美しいが、この時間帯が1番冷えるのだとナミが知らない訳も無いよなと思う。
震えが次第に落ち着き安定した時、ナミが俺に作った笑顔を向けたから、そんな事するなとの言葉の代わりに部屋へと連れ戻す。もう、年始の願いを祈りは終えたのならば、いつまでも寒い所にいる必要は無いだろう。
俺に連行される間、抵抗する素振りを見せなかったナミが、部屋に着くと同時に小さく笑い出すから何かあったかと首を傾げる。そんな俺を見て悪戯に瞳を細めてから、唇の動きだけで〝ナイショ〟なんてナミが言うから、俺はそれに〝お仕置き〟してやる事にした。
どこにも逃げられないように抱き締めれば、嬉しそうに笑うナミ。その身体はもう、震えていない。
「もう、寒くないか」
「うん、ありがとう」
言葉と共に向けられたのは無垢な笑顔。この笑顔が傍にある奇跡に、泣きそうになっちまえば腕には勝手に力が籠る。
この細い身体では、俺の腕力相手で痛みが無い筈もないのに、ナミは嬉しそうに微笑む。だからこそ、俺は余計にナミを抱き締める腕に力を込めるしかできなくなっちまっていた。
漸くナミを解放できた時には、即座に内出血や骨折等が無いかを確認したが、コラーゲンを摂取するのが最近気に入っていたらしいナミは無傷だった。コラーゲンは美容に良いイメージが強いが、じつは骨の柔軟性を高めて骨折をしにくくする効果もあるので、摂取できそうな時は男女の性別や年齢を気にせず誰でも得ておいた方が良い。
「マルコの心配症!大丈夫よ」
「……し過ぎて困る事はないよぃ」
そんな事を言いながらも、無傷のナミをまたもや抱き締めて離せなくなっているのだから笑えない。その状態をナミも拒まないからと、ついその状態をキープしちまう。
それを誤魔化すように言葉を紡ぐ。それは、何とも情けないものではあるが。
「今日は新年の宴をしつつ、双六大会をする予定になってるんだがなぃ」
「うん」
「ナミは、俺のチームだよぃ」
「……え?双六にチームなんてあるの?」
ここでやる双六は、
俺とナミはチームなので、俺がふるったサイコロの結果をナミが行い、次にナミがサイコロをふるうと言うシステムになる。勿論相対するのは全員が参加する訳にも行かないので、隊長達が隊を代表して出る形となる。
そんな中でナミが出る事に決まったのは、ナースの代表が満場一致でナミに決まった事が理由だ。その時に俺は慌てて、ナミのペアだけはと勝ち取ってきたのである。
「後でルールは説明してやるよぃ」
そうしてナミに簡単な説明をしながらも、甲板で行うから寒くないようにとナミに色々と着込ませていく。その出来栄えに満足してから表に出れば、親父がちょうど良く新年の挨拶をしていた。
それを聞いてそれぞれが食事や酒を楽しみ出せば、双六の会場作りが開始される。それの手伝いや指示を終えて戻れば、何故かナミは親父の膝に座って昆布巻を食っていて……。周りからの視線が……痛いよぃ。
昆布巻の意味を知らずに食ってるのか、それとも知ってて気にせずに食ってるのか。どちらにしても、動揺してるのは俺だけらしい。
「マルコ?」
「ナミ、昆布巻の意味を、知ってるかよぃ?」
「昆布巻……は、〝こぶ〟だから〝よろこぶ〟に通ずるとして、縁起が良いとされていて、また〝子生〟と書いて子孫繁栄の願……い、を……!?」
視線を上にあげながら答えていたナミが途中で言葉を妙な形で詰まらせる。その様子に、成程と笑ったのは当然だろう。
それにしても、本当に反応が可愛いよぃ。親父はそんなやり取りを微笑ましそうに見詰めているだけで、口を挟もうとはしない。
「喜ぶ方だけで食ってたのかよぃ?」
「う、ん……」
真っ赤になったナミに笑いながら、親父から取り返せば俺に顔を埋めるのだからたまらない。真っ赤に湯だったナミを持ち帰っても、今日は食えないのが残念だねぃ。
それから決められたペアで双六の盤上に移動すると、開始される双六大会。優勝商品は、親父と共に行ける温泉旅行だ。
つまり、全員本気だ。温泉旅行はふたつの隊しか行けないのもあり、全員が血走った眼差しで見詰めている。
隊長頑張れとの声援が飛び交うが、これはもはや運に頼るしかないのが通常だ。しかし……ねぃ?
「ナミ、サイコロは得意かよぃ?」
「三つまでなら、目を操れるわ」
「俺は二つまでだが……それなら何とかなりそうだねぃ。優勝、勝ち取るよぃ」
親父との、温泉旅行。俺もナミも、この戦い……負ける気がしない。
必ず勝つと視線で合図して始めた双六は、指示が微妙な物は飛ばしつつ最高の目数で推し進めて行く。指示の中には、餅を食えとか、歌え等もあり見ている側もやる側も楽しめるものが多いのが特徴だ。
「エースのマスは……次にサイコロふる時まで片手で逆立ち」
「はァ!?」
「当然摘み食い禁止」
「ヒデェ!!」
なんて会話が入ったりしながらの平和な時間。それでもコンスタントに同じ目だけ出して進む俺達に勝てる者はなく、無事に優勝を果たせばイカサマだとの声がかかる。
それを受けてナミが笑う。カジノ業界で恐れられてる美女がナミだと知らない兄弟達に、言われた目を出してあげるわと宣言したりするから、それだけで1発芸扱いとなったのはある意味当然の事。俺もそれは今回の凄腕により知った話だ。
……カジノに出入りして金を荒稼ぎしていた……とは、聞いていたが、まさかイカサマではなく実力だと誰が思うのか。だが、ナミの性格ならイカサマは難しいだろうと、今更思い至るのだから情けないねぃ。
「親父、モビーは平和でいいねぃ」
「呑気にしてると、拉致されるぞ」
親父の言葉を受けて視線を戻せばイゾウ達までナミの周りに蔓延り初めていて、慌てて腕に抱き込めばまたしても起きるブーイング。だが、ナミは俺の女だからなぃ!?
守る為に背後から抱き締めた俺にナミは驚いた顔をしてから、破顔する。その笑顔ひとつで、俺の心は瞬時に少年に戻らされそうになるのだから恐ろしい。
優勝おめでとうとの言葉や、弟達やナースからのお礼の言葉を受けたり、エース達から呪いの言葉を受けたりしながらも俺はナミを離さない。少しでも傍から離せば、奪われちまうらしいと知ったからねぃ。
そうして俺は、大切な人達に囲まれながら、Happy new year!!と言葉を紡ぐ。愛しい女を他の誰にも触れさせない為に強く抱き締めている。