ふと、自分の行動を振り返ってみる。先日の島で猫の里親を探している時、こっそりと買っておいた首輪をナミにつけさせたのは、二人だけの猫の日をした時だったかねぃ?
その首輪を俺が気に入ってたからか、猫耳と尻尾が消えてからもその首輪をつけたままになっている。少し動くとチリチリと鳴る鈴が、ナミがこの腕に居るのだと実感させてくれるのだ。
だと言うのに、この馬鹿猫は強風吹き荒ぶ中で俺の腕から抜け出そうとするから、腕に力を込めて阻害してやる。けれども半分寝惚けている俺から抜け出すのはわけないらしく、枕を代わりに差し込んでふわりとかけられる毛布。
その瞬間にナミの香りが強くなって、俺は強烈な眠気に襲われちまう。更にそれを増長させるのは、優しく撫でてくるその手の温もりだ。
寝惚けた俺を残して着替えるナミは、久々にパンツスタイルだ。つい先日までは尻尾を刺激しない為にとミニスカートだった事を思えば、精神的に随分楽になる。
部屋を出たナミを見送ってから身体を起こし、そっと後に続けば甲板から次の島へと視線を向けているナミが見えた。風が強い島だと分かるので、何か危険物が飛んで来ないとも限らないからと足を進めた時、思わずその足を止める程度には強い風が吹き付けて来る。
グッと足に力を入れた瞬間、見えたのは最近ナミが何か直してたショールが飛ばされて行く所だ。ほつれてでもいたのかと思っていたが、そういう事を今気にしてる場合じゃなくなった。
海へと向かうそれを追い掛けて手を伸ばしたと思ったら、そのまま落ちそうな勢いで身を乗り出しちまう。慌てて姿を変えて取りに行き、甲板に戻れば少し惚けた様子で俺を見つめる瞳。
無言のままそっと、けれどももう飛ばないように巻き付けてやれば僅かに頬を染めるその様子に、内心首を傾げちまうのは当然だろう。その時にふと青い小鳥が刺繍されてるのに気付けば、頬を染めてる理由に気付いちまってなんとも言えないむず痒さに襲われる。
ほつれを直していたのでは無く、これを刺繍していたのか。本当に……この可愛い生き物は、俺の理性を何だと思ってんだかねぃ?
「あ、ありがとう……」
「海に落ちなくて良かった」
思わず漏れたのは俺の本音。俺は結婚していても、全く心が休まる気がしない。
少しでも目を離せば、そのまま何かに奪われるような恐怖感はどうしたって強いのだ。その上、この年齢差だ。
……いつか、普通に考えれば俺の方が先に逝く。その時が来たら俺は……自分が何をするか分からなくて、それが怖いよぃ。
「ふふ……」
「ん?」
突然笑いだしたナミにより、沈殿しそうになっていた感情と意識が浮上する。悪いモノを全て祓うとでも言わんばかりのそれは、当然当人に自覚などない。
それでも、救われる。その微笑みひとつで、俺の心は簡単に穏やかになるのだ。
「私、甘ったれになったなぁって思って」
「……足りないねぃ」
この程度、甘えのうちに入るかよぃ。そう言おうとした時、再び吹き付けた強風。それにより今回飛ばされそうになったのは、まさかのナミ本人で……俺は慌ててその身体を抱き締める。
そうして飛ばされるのを防いだが、このままでは不安だねぃ。そう思った時親父が見えて、考えるより早く声が出ていた。
「親父、半休貰うよぃ」
「グラララララ!!たまには二人とも有給消化しろ。……楽しんで来い」
「助かるよぃ。……ナミ」
呼びかければ小首を傾げて、それから親父を見上げて頷くそれを確認してから俺に視線を戻すから、そっと姿を変じた。そんな俺にナミは嬉しそうに飛び付くが……。
「マルコ!モフモフ……」
いつも思うが、鳥の姿の方が好きだと言われたら虐め倒しそうだよぃ。まァ……こんなにも喜ばれるなら、嫌な気分にはならねェけどなぃ。
無言で乗れと示せばナミは素直に俺に乗るから、そのまま飛び立つ。初めは強い風が邪魔だったが、気流に乗っちまえば楽なもんで島を上から眺めていればナミが真剣な様子で島を見てるのが分かる。
それが測量してるのだと気付けなければ降りただろうが、分かっちまえばそれが終わるまではと上空で旋回してやる事にしたのも当然だろう。それから差程時間をかけずに測量を終えたのか、身体から力を抜いたのが分かるのと同時に頭だけ振り向けば、ナミが笑顔で頷いた。
「ありがとう。測量終わったから、もう大丈夫よ」
俺がそれに頷けば、ナミは俺にしっかりと抱き着く。それを確認してから島へと降り立ち元の姿に戻れば、ナミはサッと距離を取ろうとするからその腰を抱いて軽く啄むようなキスを落としておいた。
それだけで真っ赤になるナミは、本当にいつまでも初心なまま。悪い大人の格好の餌食だねぃ。
「なっ……!?マルッ!?」
「逃げるなよぃ。……こんな所で、食ったりしねェから」
俺のキスが理由か、それとも言葉が理由か、項まで赤く染めたナミが俺に抱き着く形でその顔を隠す。結果的に項が見えて結局何も隠せてない事は、指摘しないでやるかねぃ。
そのまま暫くナミを抱き締めていたが、落ち着いてきたらしいナミから何処か目的地があるのかと訊ねられた事で仕方なく首を横に振る。それでも、腰を抱く腕を離す予定はねェけどなぃ。
「予定は無いが、春島だから服でも見てみるかよぃ?」
「うん。でも、疲れない?」
「体力には、自信がある方だよぃ」
心配そうに聞かれた言葉に笑っちまう。船乗りは体力勝負な上に、俺はガキの頃から船で生きてきたってのに。
歩くだけで疲れてたら、船乗りは出来ねェよぃ。そう思って、揶揄うように口にした言葉にナミは少しばかり不満そうに唇を尖らせた。
「そんな事言ってると、荷物持ちでこき使うわよ」
「おう、任せろぃ」
思わず笑えば、ナミは勝てない……なんて呟いてから俺の腕にその身を寄せる。無意識で胸を押し付けてくるナミに、勝てないのは寧ろ俺の方だよぃ。
そのまま無言で歩き出す俺に、ナミは気にした様子も見せない。小柄なナミと並んで歩くと、親子に見えてんじゃねェかと少しばかり不安になるがそこは仕方ないだろう。
「あ!」
何か気になるものでもあったのか、ナミは思わずといった様子で足を止めるからその視線が向けられている店へと足を向けた。それに戸惑いつつ歩くナミに、甘えるのが本当に下手だなと痛感させられちまう。
それからそっと俺の腕から手を離して、小物に手を伸ばす。そこにあるのはメモスタンドで、色々なデザインがある中でナミが手を出したのは青い小鳥の形をした物。
それもクリップが生えてるタイプではなく、嘴で胸の所に咥えるタイプだ。だがそれなら、隣に橙色の猫が抱き締めるスタイルの方が良いのではないかと思う。
隣の台に視線を動かせば桜の飾りがついたイヤリングを見付けて、その隣に同じデザインのピアスも見付ける。春島らしいそれに手を伸ばして、穴は開けてやれば良いかと猫のメモスタンドと共に纏めて購入した。
その後ナミが会計をして戻るのを待ち、共に店を出れば甲板で受けたのより少し強い風に襲われる。ナミを拐われてなるものかと抱き締めれば、それが伝わったのかナミが気恥しそうに笑うのでつい互いに見つめあっちまう。
春一番が春を連れて来る風だと言うのなら、俺からナミを奪わないでくれよと思う。春の女神を思わせるナミだからって、風が俺の春を奪わないでくれ。
そこが街中どころか、店前だなんて事も忘れて二人の世界に入ってた俺達が正気に戻るのは、買出しに来たサッチに俺が殴られてからとなるが、そこは不可抗力だろう。……買ったピアスは、今度穴を開けてから直接つけてやろうとその髪にキスを落としながら考えていた。