バレンタインとか言う日に、ナミは何もくれなかった。ナース達は色々くれたけど、俺はそれが引っ掛かってる。
だから、ホワイトデーはナミに意識して欲しくてナミの見てる前でそのお礼を渡したけど、困ったように笑うばかりで反応らしいものは皆無だった。ナミの村を助けて、そのまま連れ去るようにして共に過ごしてきた。
体を重ねたのも1度や2度じゃねェのに、ナミはまだまだ俺を弟としてしか見ちゃくれねェ。クソッと甲板の端にあった樽を蹴ったらジョズに叱られ、俺は余計に腐る事になった。
イヂケタような気持ちで甲板の端に転がっていたら、そのまま寝ていたらしくて、頭を撫でてくれる優しい手の感触で意識がゆっくりと覚醒して行く。ナミからの溢れんばかりの愛情に、俺は包まれている事を自覚させられる。
「愛してるわ」
優しいその声と言葉に飛び起きそうになるのを耐える。……分かってんだ、どうせ弟としてだろう。
少しやさぐれたような気持ちでいたら、俺の額にキスをしてから、ナミが抱き着いてきた。そのまま甘えるように擦り寄り、俺の理性が切れそうになったところでナミが言った。
「お休み」
……は?
慌てて体を起こしてみても既にナミは夢の中で、もう少し早く起きて部屋に連れ込めば良かったと後悔先に立たずとかって言葉を痛感する。だけど……なァナミ、お前はいつになったら、俺を男として見てくれるんだ?
眠るナミの髪を撫でながら、深い溜息を落とす。俺は今も昔も、ナミしか見えてねェし、女として好きだってのにさ。
それから数日後、いつもの様に甲板に出た俺はナース達からプレゼント攻撃に合っていた。オレンジデーだからと言われて渡されたそれらに、表面的な笑顔と口先だけでありがとうと言っていたらナミと視線が合った。
なのにナミは悲しそうな顔で瞳を揺らすと、何処かへ駆け出してしまう。どうしたんだ?
珍しいそれに慌てて追い掛けたが、ナミの素早さは神がかっていてすぐに見失っちまう。仕方なく部屋に貰った物を置きに行くと、誰も居ないのにナミの匂いが強く感じ取れる。
ナースの部屋にナミを移動させる話は出たが、話が出る度に全て蹴り飛ばして今も1緒に俺の部屋を使ってるんだから匂いがするのは当然。だが……そうじゃねェ……この部屋にナミはいる。
「ナミ、居るんだろ。3数える間に出てこなかったら……壊れても止めねェぞ」
そう言ってゆっくりと〝1〟と言った瞬間、空間が歪んでそこにナミが姿を見せた。その体に触れようとしたら、ペシりと手を叩かれて小さく触らないでと言われる。
触る事を拒絶されたのなんて初めてで、どうしたんだと思うのと同時にナミが震えている事に気付く。……ナミは、こんなにも小さかっただろうか。
「ナミ?」
「……分かってた、のに。勝手に、期待して、勝手に傷付いてるだけなの。ほっといて……お願い」
「ナミ……」
見ればつらそうに涙を耐えている様子で、どうしたんだよと慌ててその手を伸ばし、暴れるナミを強く抱き締めればナミが泣き出した。微かに震えるその声で、離してと言いながら。
「沢山いる女の1人でも良いなんて、私は思えないのよ!離して!他の人が良いなら、そっちに行って!もう……私に触らないで……!!」
「何言ってんだ?」
「期待しちゃうから、触らないで……ちゃんと、姉の立場で、エースの事見守るから……少し、時間を「ナミ、俺の事〝女として〟好きで居てくれたのか」」
期待に声が掠れる。嘘だろと思いながら問いかければ、ナミが覇気を纏い攻撃して来た。
寧ろ覇気だけじゃなくて殺気さえ滲むそれを抑えて、その勢いのまま床に押し倒せばナミが泣きながら、声を震わせた。その顔は痛みに苦しんでいる。
「……ちゃんと割り切るから。だから、忘れて。大丈夫、私、ちゃんとエースの恋を応援「いや、俺が女として求めてるのナミだけだから」」
何か絶対ェ勘違いしてる。俺はナミ1筋だからな!?
「……うそ、よ。だって、エース〝私には〟ホワイトデーに何も返さなかったし、今日も……プレゼント貰って嬉しそうにしてたし……」
「そりゃ、ナミがバレンタインに何もくれなかったからだろ」
「……あげたわよ。食べたじゃない、私の作った蜜柑チョコ!チョコの中に蜜柑が入ってるの、あげたわ!」
言われてみればマルコからの書類と戦ってた時、疲れてるみたいねと言いながら最初は丸かったチョコを貰って、触ったら房に別れたそれを……食ったな。美味かった。
「……ごめんなさい。バレンタインのチョコだって認識してなかったから、いじけてたんだ」
「ホワイトデー、私にだけ何も返さないから、勘違いしてんじゃねェ的な事をエースは思ってるんだと分かって、だから距離置こうとしたら……エース突然怒って、休みの度に動けなくなるまでして来るから、訳わかんなくて……」
突然避けられて、つらくて無理矢理体を何度も繋げたのを思い出せば、勘違いした挙句何してんだ自分と思う。悪いのは、俺だった。
そんな状態でも、受け入れてくれていたナミに、だからこそ誰にでもこんなに甘いのかと思って……。苛立ちで酷く扱ったのは間違いねェ。
ナミを俺が、傷付けて苦しめていたとここで漸く気付かされる。守りたいと思っていた筈なのに、俺が苦しめていた。
「ごめん、ナミ。勘違いして虐めてた」
「……エース?」
「ナミに弟としてしか愛されてないと思ってて、つらくてさ……チョコもバレンタインのだって認識してなかったから、俺の事少しは男として意識して欲しくて、ナース達の所に入り浸ってただけだ。……俺は、昔も今も、ナミしかいらねェよ」
「…………嗚呼、夢ね。都合がいいと「現実だよ!俺が悪かったから、俺の想いを否定すんな!」」
叫ぶように言って、そこでナミが手に何か抱いてる事に気付きそれを奪い取る。慌てた様子で手を伸ばして来るけど、俺の為に用意した物だよな?
……違ったら燃やしてやる。
袋を開ければオレンジ色のマフラーが出て来て、先端には白髭のマークが、その逆の先端には俺のイニシャルが入っている。明らかに手編みのそれに驚いて視線を向けたら、ナミが真っ赤になっていて……。
「それ、渡して、この恋は終わらせるつもりだったの。もう、身体だけなんて、耐えられなくて……」
そう言って静かに涙を落としながら、ナミはその顔を何も無くなった両腕で隠そうとする。だからその腕を掴んで顔を覗き込めば、首を横に向けられちまう。
「俺が悪かったから、その泣き顔、ちゃんと見せてくれよ。……すっげー可愛い」
「……ばか」
「おぅ!馬鹿で結構だ。このマフラーもちゃんと使う!」
「……上着着なくても、マフラーなら使うと思って作ったんだから、その……使わなかったら、いじけるから」
普通怒るとか泣くとかだろ。そう思ったけど、どうやらナースに妬いてくれたのに、怒るんじゃなくて泣いて身を引こうとしたナミだと思えばそれも納得出来る。
俺が全部悪かったから、頼むよナミ。ちゃんと話して、やり直そう。
しっかりと逃げずに、想いを伝え直すから……そんなにつらそうな顔で泣かないでくれ。壊したくなるくらい、その涙が綺麗だから。
そっと涙を拭って、即座に繋がりたいのを我慢して、必死で言葉を伝える。俺の愛する蜜柑に、お前だけが愛しいのだと幾度と無く繰り返す為に。
Happy orange day……勘違いで傷付けて、それでも漸く通じ合った想いに女が今度は嬉し涙を流すまで、男はじっと我慢する。愛する女は後にも先にも、お前だけだと幾度と無く繰り返しながら……。