寒くねェのかと皆に聞かれるけどよ、こういう格好してるとナミが心配して駆け寄ってくるから耐えてるのだとはとても言えねェから、つい口を閉ざす。雪がチラつきはじめたら、ナミの足音が近付いてきたから、内心でほらなと思う。
「エース!風邪ひいちゃうから!もう、冬の気候だけはちゃんとしてっていつも言ってるのに!」
ぷりぷりと怒りを示すナミを抱き締めて、こうすれば暖かいから構わねェだろうと笑えば余計に怒られた。謎だ。
そうか、照れてるのか!そう思って耳を舐めれば小さく体を震わせて、思いっきり人の腹に拳をめり込ませて来た。
それも、覇気を纏って。これが彼女で良いのか、俺?
「人のいる所で、そういう事しないでって、何回言ったら覚えるのよ!」
そう言いながら指先に覇気を纏わせて耳を抓り下ろすナミに、俺は素直に謝るしか道は無い。そうしてならばと部屋にナミを誘導すれば、思いの他アッサリと頷かれた。
部屋に入るとナミが少し座っててと、俺の部屋なのに俺の行動を勝手に決める。逆らう理由も無いので大人しくそれに従えば、乱雑だった俺の部屋が1瞬にして片付いて行く。
それも俺が使い勝手に困らない配置で物が置かれて行くから、凄ェと思わず叫びたくなる程だ。それからナミは俺に、大人しく待ってなさいと言いおいて部屋を出て行く。
……いつまで俺はナミの弟枠なんだと、何度思ったか知れねェ。それでも付き合うようになってからのそれは、大半が照れ隠しだと言うのにも気付いている。
強気に何かを言う時は、ナミ的に恥ずかしい何かをしようとしていたり、隠してる時だ。だとするなら、今も何かを隠しているのだろう。
それから少しするとカラカラと言う音が聞こえて来て、その音が近付くとそれに合わせていい匂いが漂って来た。その香りが近付くのに合わせて腹が鳴り、そしてそのタイミングでドアが開かれた。
そこには美味そうなナミ……じゃなくて、美味そうな物を運んで来たナミがいた。それを俺の部屋のテーブルに次々と並べて、まだ台車に食料が残ってる状態で台車を中に入れるとドアを閉めた。
「メリークリスマス、エース。……クリスマスっぽい物を作ったから、食べてみて」
「って、ナミの手料理!?懐かしいな」
「アンタ達と過ごしてた時の、ジビエ料理とも言えないような丸焼きを料理として換算しないで!……エースの為に、真面目に作ったんだから、あれと比べないでよね」
そう言ってプイッと顔を俺から背けたナミは、項まで赤い。その様子に、目の前にある料理よりナミを食べたいと思った俺は、間違ってなんかいねェ筈だ。
だが、ここでがっつけば恐らく泣かれる。もしくは諦めたような顔を向けられる。
そして最後には甘やかすように笑って、俺を許すんだろう。……こんな事を繰り返してりゃ、弟から出られねェよな。
「……ナミ、悪かった。ごめん。1緒に食おう」
声をかければ振り向いたナミが、小さく頷いて勝手に怒ってごめんねなんて言ってくる。その様子が可愛くて笑えばナミは不思議そうに首を傾げてから、怒ってないなら良かったなんて微笑む。
優しく微笑むその顔も嫌いじゃねェけど、楽しそうに笑ってる顔を見たいと思う俺は贅沢なんだろうか。たまには、腹抱えて笑って欲しいとまでは言わねェから、楽しそうに笑って欲しいと、そう思っちまう俺は我儘なんだろうか。
俺はナミの作ってくれた料理を口にして……固まる。そして、ナミに問い掛ける。
「……ナミは、料理人だったか?」
「そんな訳無いでしょ。こんなの、生きる為に最低限必要な事ができるって程度よ」
「……お前、自分に厳し過ぎやしねェか?」
そんな事を話しながらナミと料理を食べて、俺が寝て、起きた時にはナミが俺の顔を拭く。そして、熱い物は無かったと思うけど、怪我とかするかも知れないから気を付けてよねなんて心配そうに言われちまう。
そんなナミの頬に俺が寝た時に飛んだだろう物がついていて、それを舌で舐め取れば顔をこれでもかと赤く染めて、口を無意味にぱくぱくと動かし始める。そんなナミに驚かせたかと気付いて、素直に謝る。
「俺が寝た時に飯が飛んだみたいでさ。勿体ないから、食った。驚かせて悪かったな」
「ぅー……」
「ナミ?」
「なんでもないっ!……そ、そんな事より、これ、プレゼント」
唸ってたと思ったら突然手渡された箱。何なんだと思いながらもそれを受取り、開けてみると中にはセーターが入っていて、何も考えずにそれを広げて見れば自然と顔がニヤけた。
オレンジに近い赤系の色をしたセーターは、まるで俺の炎のようでもあるが、俺の炎の色とナミの髪の色を混ぜたようでもあり、それがまた嬉しい。そう思っていたら、何故かナミが俺の事を見ていない事に気付く。
普通反応が気になる所だろうと思いつつセーターの背中側を見て、まさかとセーターとナミを見比べる。間違いようのない程に綺麗に編まれているソレは、白髭のマーク。
黒と白の毛糸で綺麗に編まれているそれを見て、特注と言うよりこれはと思い至る。
「ナミの、手編みか?」
「……エースが、寒くても服を着ないのはマーク隠したくないのかなって思ったから……マーク入ってたら、着てくれるかなって」
何だこの生き物は。絶滅危惧種か、それも自ら襲ってくれと言ったが故に絶滅危惧種になったとかってやつか。
そんな意味のわからない思考を、深呼吸して落ち着かせる。そして、肩から力を抜く。
「ナミ、ありがとう。なら、これは着るようにする」
「エースは、何着ても似合うと思うから色々着てみたらいいと思うのよ」
「……そっか、ナミはそんなに俺の事が好きか」
「なんでそうなるの!?」
「何着ても似合うって思うのは、その相手の容姿を褒め讃えてるのと同じだろ。もしくは目に入れても痛くない程に愛してるか」
俺の言葉にナミは言葉を詰まらせて、それから小さく否定出来ないのが悔しいなんて言うから、思わずナミの腰に腕を回して抱き寄せていた。その細い体を強く抱き締めれば、戸惑ったような声が聞こえるが、今は少し黙ってて欲しい。
「ナミが可愛すぎて、おかしくなりそうだ」
「私は、エースが愛しすぎて、もうおかしくなってるわ」
「ナミ」
「エース」
互いに見つめ合い、自然と唇が重なる。何度も繰り返すそれの合間にナミは、俺の名を繰り返し呼び続けるから、俺もまたナミの名を何度も呼ぶ。
名を呼ぶ事、呼ばれる事。当たり前のようなそれが、本当はとんでもなく価値のある事なんだと俺は知っている。
名前を呼ぶ事が出来る幸福と、名前を呼ばれる事の幸福を噛み締めながら、俺はナミの名を呼ぶ。存在する事を許し、許される行為が名を呼ぶ事だと知っているから。
「ナミ、俺からもプレゼントだ」
「エースから?」
少しも想像してなかったような顔で俺を見るが、既にナミの顔は赤く熱り瞳も潤んでいるから喜ばれてる気がしちまう。実際は繰り返されたキスの余韻だと、ちゃんと分かっては居るんだけどな。
渡した小さな箱を手にしたナミは、その細い指先を微かに震わせる。そして、ゆっくりとそれを開けて中身を無言で取り出した。
それから微かに微笑むと中身を俺に差し出して、髪を上げて項を晒した。それから耳を赤く染めて、小さく呟くように俺に言う。
「つけて、くれる?」
無言で受取り、ナミの首に今あげたそのネックレスを付けてやれば、髪をパサりと下ろしてから俺の方を振り向いた。そして、楽しそうに、嬉しそうに笑う。
「ね、似合う?」
「……俺が選んだんだから、当然だろ」
そう言葉にしながらも、ナミのその笑顔が、見たかったそれが見られた事が何よりも嬉しいと感じた。ナミに笑っていて欲しいと、何処か壊れそうなそれじゃなくて太陽に向かって笑いかけてる花みたいに笑って欲しいといつも願っていたから……。
Merry Christmas……俺が太陽になってその笑顔を引き出したいと思っていた。そして、その笑顔をずっと守りたいと、願っている。
雪の中で寒さに震える小さな花でも、俺がその雪を溶かすから……だからずっと、傍で笑っていて欲しい。それだけが俺の心からの願いなんだと、そう言ったらまた、その笑顔を見せてくれるだろうか。