ネックレスのチェーンが切れたと悲しそうに言って、ナミがそれを大切そうに箱に閉まっていたのは覚えている。次の島で直すからなんて言ったナミとその後少し話をして、そう言えばナミは俺以外の隊長には〝さん〟を付けて呼んでるなって話になった。
その中で何か不愉快になっちまった俺がナミを襲って、戸惑いながらも抵抗をしないナミを貪った。でも、そう言えばもう大分長い事ナミの声を聞いてないなって思う。
ギシギシと悲鳴を上げるのは、ナミの身体かそれとも俺のベッドか。どちらにしてもナミは既に声もなく、ただ唇の動きで辞めてと繰り返す。
もう辞めてやるべきだとわかっていながら辞められないのは、俺の中にナミに対する不安が燻っているからだ。俺は……ナミに甘やかされるばかりで、どうしたら繋ぎ止められるのかさえ分からないでいる。
「いい加減にしろぃ!!」
突然蹴り飛ばされて床に転がった俺が見たのは、ぐったりとしたナミとそれを支えるマルコ、そして怒りの眼差しで俺を見るナース達の姿だった。そのままナミは連れ去られて、1人残された俺の前に現れたのはハルタで、覇気を纏った腕で壁に押さえ付けられちまう。
その時になって、実力差を思い知らされる。普段は家族だから、兄弟だからと手を抜いてくれてたのだと教えられた気がした。
「……エース、いい加減にしないと、俺も怒るよ?」
「ハルタ……」
そんなに低い声が出せたのかと思う程に、低い声で威圧される。ハルタは普段その内面を中々見せようとしないのに、どうして今回は……こんなにも怒り狂っているのだろう。
「甘えるよりも、成長して支えてやるべきだろ。傷付けて、振り回して、やっと落ち着いたかと思ったらこれ?……俺はエースの兄だけどさ、余り酷いと……ナミを貰うよ」
「ハルタ!?」
「……訂正はしないよ。覚えておいてね?」
ニッコリと笑ったハルタがそう言って立ち去る後ろ姿を見送って、俺は自分の身体を強く抱き締めて震えた。……あれは、本気だとわかっちまったから。
それが俺に対する怒りが理由なのか、本当にナミを女として見てるのかは、俺には判断できなかった。けど、ハルタの様子から見て、他にも似たような事を思ってる兄貴達が居ないとも限らないのだと気付いた俺は、慌ててナミの所を目指す。
「ナミ!」
「……寝かせておいてやれ。3日お前の相手して、1睡もしてなかったんだ。随分衰弱もしてる。話なら、起きてからにしろよぃ」
「ごめん……」
「謝る相手が、違うだろぃ」
そう言ってマルコはナミの居るだろう医務室へと入って行き、俺は1人その場に崩れ落ちた。そのまま迎えた翌朝、ドアの真横で体育座りしてた俺に気付いたナースが悲鳴を上げる。
それによりマルコが出て来て俺を呆れたように見ると、風呂入って飯食って少し寝たら顔出せと言うので、それに従う。俺は悪魔の実を食ってから、風呂が苦手なんだよなァ。
マルコも同じような悪魔の実の能力者なのに、暇があると風呂に入るんだから訳が分からねェと思う。そんなマルコには汚い状態で医務室に来るなとよく言われてるので、お湯を被ってるんだけどな。
お湯を被って汗を流してみれば確かに汚れていたらしいと気付いて、どうしようもねェなと思いながら身支度を整えて医務室へと向かう。途中で会ったサッチに飯を持ってけと言われて、ナミとマルコの飯を持って向えばドアの前で追い返される事は無かった。
「エース……」
部屋に入るとナミがベッドにいたんだが……明らかに衰弱していて、これは怒られて当然だと気付く。飯を持って来たと言った俺にナミは、苦しそうにその表情を歪ませてから視線を反らすと、その後俺に視線さえ向けてくれなくなる。
怒ってると言うより悲しんでるのだと分かれば、どうしたら良いだろうかと考えて色々な言葉を重ねてみるけど、ナミはマルコ経由で渡された飯を見詰めて動きもしない。マルコがそんなナミに食えと言って無理に食わせてるけど、それさえ大変そうにしているのだから、反省もする。
「ナミ、ごめん!」
「……エースは、何が気に入らないの?」
「それが、わからねェんだ。その苛立ちとか、色々なもんをナミにぶつけてた。お詫びになるなら、なんでもするから……」
怒ってくれても良いし、泣いてくれてもいいから、感情を抑えないでくれ。俺を……見てくれ。
そう思ってナミのいるベッドの近くで膝をついたら、ナミが俺に困ったような視線を向けてくれた。ほら、また、俺は甘やかされてる。
「なんでも?」
「おぅ!なんでも!!」
「なら……明日1人で買物に行かせて」
誰かに気兼ねせずに1人で買物に行きたいと強請ったナミに、俺は逆らう事も出来ずに頷く。そうしてその日はナミをゆっくり休ませる事になった。
その間に俺は親父の元へ向かう。そこで親父に殴られながらもナミの明日の仕事の免除を頼めば、俺の雑用が増やされてバタバタと船内を駆け回る事となった。
途中で会ったビスタに聞いたら、この雑用が増えた事は俺への罰であって、ナミの仕事の肩代わりではないらしい。なら、ナミの休みは貰えないのだろうか。
「なら、ナミは?」
「ハルタとイゾウ、サッチとマルコ、ナース達から休暇申請がとっくに出てる。必要な休暇だと言う事でな」
「……俺、ナミの分だと思ってた」
「ナミの仕事は寧ろ内勤だから、エースに肩代わりは出来ないだろう。ほら、次は甲板掃除だろ。さっさと行け」
そうして俺は雑用を繰り返しながら、兄貴達や姉貴達にボロクソに言われ、笑われ、揶揄われる。その為に買物から帰ったナミに泣き付く事となった。
その様子にまた皆から笑われたが、俺はもうナミから離れねェ!!ひっつき虫で結構だ!!
結局その翌日はナミの聞いて来た島に向かう事になり、俺はナミが作ってる毛糸のパンツを眺めながら仕事は良いのかと1応聞いてみる。それにナミは少し唇を尖らせながら、酷いのよ……なんて言うのだ。
「何が酷いんだ?」
「後3日は仕事するなって、ペンとか全部奪われたの。文字書きたい……」
その言葉でそういやナミって仕事中毒者だったなと思い出す。それにより少し呆れた視線を向けて、だからこそ今毛糸のパンツを作ってるのかと納得する。
その後その毛糸のパンツを鬼役に進呈してるのを見て、俺は豆まきの時に鬼役では無くて鬼に豆をぶつけてやろうと決めた。ナミは何も知らずに呑気に笑っているが、俺としては楽しくないんだよな。
恵方巻きを食べて、いざ豆をまくとなった時、迷い無くハルタにそれを投げればハルタが即座に俺の投げた意味に気付いて応戦して来る。互いに1歩も引かずに戦い始めれば、辞めろとばかりにマルコが俺達2人に豆を投げ付け、それにより俺がマルコも敵と見なせば、それはハルタもだったようで三つ巴戦となる。
「うるァ!!」
「とわりゃァ!」
「覇気纏わせないと、豆も当てられないとか狡いよ!2人共!!」
そんな俺達に親父は笑うが、気が付けば隊長達ほぼ全員が豆のぶつけ合いに発展していて、それを見たナミが隊長達全員に豆を投げ付けた。それも怒りをたたえた微笑みで。
「節分の豆まきとは、無病息災を願う行為であって、豆合戦ではありません!いい大人が何してるのよ!?」
「「「「「すみませんでした!!」」」」」
半数弱が頭を下げ、残りは漸く開放されたとばかりに息を吐き出す。けど、ハルタがその直後俺に豆を投げて来て、つい俺がそれに応戦したらいい加減にしろとナミからまた叱られちまった。
でも、余り俺にハルタが豆を投げてたら、ナミがハルタに豆を投げ始めて、結局その日は豆合戦の日になっちまう。なのにハルタは俺にしか豆を投げ返さなくて、ナミは無傷のままだ。
鬼は外福は内、そんな掛け声も無いままに、俺達は無病息災よりもストレス発散の為に豆を投げつけ合った。こんなやり方でもご利益ってあるんだろうかと思いながらも、俺もそれを楽しんでいる。