花見の時には酷い目にあった。それにより俺が、二度とイゾウに余計な事は言うもんかと心に誓ったのは当然と言えるだろう。
触らぬイゾウに祟なし。だいたい何でかは知らねェけど、ナミまでノリノリだったしよー……。
そんな事を考えていたら、突然霧が出て来て、何事かと辺りを見渡す。その直後、嗅ぎなれた香りがして視線を向ければ霧の向こうに人影が見えた。
誰であるのかさえよく分からない程に深いその霧の中で、その人影が蹲るように倒れそうになれば、咄嗟に駆け寄りそれを支える。その香りから、その人影がナミなのは間違いなかったし、何より家族であれば誰であっても倒れるのは危険だから支えたいと思う。
だと言うのに、ナミは俺だと認識していながらその手を振り払おうとする。まァ、ナミの思考は読めなくもねェんだけど、だからこそ不愉快になるんだよ。
甘える権利はないとか、そんな事を考えてるんだろう。1人で立つ事に慣れ過ぎてるんだよな。
頼る事、甘える事が本当に下手で苦手で……。でも俺は、ナミの恋人だろ。
「この程度、甘えには入らない」
俺の言葉に含まれる怒気が理由なのか、ナミは泣きそうな顔をするから……また間違えただろうかと不安になりつつ抱き上げて部屋に連れて行く。可能な限り優しくベッドに寝かせてからマルコに連絡を入れると、即座に島を目指すと返事があった。
「島に、行くの?」
「あァ、ナミの体調を鑑みてって事らしいぞ」
「……皆、私を甘やかし過ぎよ」
困ったようにそんな事を言うナミに、良いんじゃねェのと言えばナミは首を傾げる。だから重ねるように、ナミの事が可愛いんだから好きにさせてやれよと笑えば、泣きそうな顔で笑った。
「私、イースターのイベントやりたいの」
「イースター?」
突然の言葉に驚き繰り返せば、ナミが頷く。どうやら島に向かうならお礼をって事だと気付く。
「兎と卵のイベント。詳しくはWebで!」
「〝うぇぶ〟ってなんだ?」
「言い間違えたのよ。机に出版したくて書いたの置いてあるから、それを見てくれると助かるわ」
笑いながら言うナミの言葉に俺は頷く。金のかからないイベントの提案なら、確かに皆への礼にはなるだろうからな。
そんな訳で納得した俺はナミの居るベッドに腰掛けて、その頭を撫でる。すると、その感触のおかしさに気付き慌てて手を退ける事となった。
俺とナミは互いにその顔を見て、何だろうと首を傾げる。その直後、ナミの頭上からぴょこんと生えてきたそれに、思わず言葉が口から飛び出していた。
「頭の上にあるものは……目の錯覚か?」
俺の言葉を受けて立ち上がったナミは、迷いなく鏡の前へと歩む。そしてその生えたものに手を伸ばして、今にも泣き出しそうな顔で言う。
フサフサのそれは、ナミによく似合ってる。泣きそうな顔は庇護欲を誘う。
「何コレ!?なんなのー!?」
「うさ耳だな。猫耳の方がナミっぽいけど」
「そんなのは見れば分かるのよ!!なんで生えてるの!?」
理由なんか俺に分かる訳ねェだろうに。ナミがいつも教える側なのを分かってねェのかな?
にしても、震える耳が感情を教えてくれてこれも良いなと思う。ナミが可愛い。
「ナミはうさ耳も似合うから問題はないと思うぞ」
「誰も、似合う似合わないの話なんかしてないのー!!」
半泣きで怒るナミが可愛くて、その度に揺れる耳が本気で愛しい。そっとナミを抱き締めて、もふもふとした耳に歯を立てないように唇で挟むように食いつくと、悲鳴をあげるのに逃げ出さない様子から力が抜けるらしいと気付いた。
どちらにしても力で俺に勝てないナミだから、結局同じではあるんだがな。そう思いつつ抱きあげようとしたら、尻にあるもふもふしたものに気付く。
それを撫でれば艶のある悲鳴を上げるから、俺の理性はそこで切れた。当然美味しく兎を頂いた俺は、ナミが動けなくなってるのを横目にイベントのそれを届ける事にした。
親父に説明して紙を出したら、横から手を伸ばしたハルタがそれを受け取り、珍しく協力するなんて言う。それにより親父も金もかからねェから良いだろうと言われたので、ついでにナミに耳と尻尾が生えた事を伝えると、霧のせいだと説明された。
1時的な事だと言われれば、少し残念に思っちまうのも仕方ないだろう。だって、可愛いし……。
「親父、俺がこれの指揮をとるよ。任せてくれる?」
「珍しいな、ハルタ」
「いい事、思いついたんだ」
ハルタがニンマリと笑えば親父は嫌そうな顔をする。それでも認めるのは、本当にいつも悪戯と呼んで問題ない範囲で収めるのと、やり過ぎた時はちゃんと後始末するからなんだろう。
「……程々にな」
「当然だろう?大丈夫、誰も怪我したりしないから」
親父はハルタの言葉に嫌そうに眉を寄せると、大きな溜息をついた。その悪戯が何になるのかを理解できないままにナミの所へ戻った俺は、その数日後に行われたイースターイベントで雄叫びをあげる事になるとも知らずに、愛しい兎との時間を満喫していたのだ。
「……へ?」
「聞こえなかった?お花見の時の写真を卵に隠したんだって。エースの写真は赤くペイントされた卵に、マルコの写真は青くペイントされた卵にって感じかな」
「俺の、花見のって、事は……まさか……?」
声が震える。いや、身体が小刻みに震える。
そもそも誰が写真なんか撮ってたんだよ。ってハルタしか居ないか。
とりあえず、嫌だ。夢か嘘だと誰か言ってくれと願うが現実は無情で、ハルタは楽しそうに言葉を続ける。
「アンちゃんとナミゾウの手の甲にキスしてるシーンとか、アンちゃんがナミゾウを抱き上げてるシーンとかだよ?他にもあるけど、その2つは欲しがる奴が多くて……イベントの景品にはうってつけだよね!!」
声にならない雄叫びをあげて、ナミに事情を説明した俺が探すぞと言ったら首を傾げるナミ。何が分からないのか分からねェ!!
回収しなかったら大変な事になるだろう!?
「私達が持ってても意味ないと思うから、あげれば?」
「俺の女装と、ナミの男装だぞ!?」
「エース、美人だったわよ。……あ!そっか!」
納得した様子にわかってくれたのかとホッとする。だが耳を揺らして嬉しそうに笑うナミに、何故か嫌な予感がした。
「エースは客観的に見てないから、見てみたいのね。わかった。探すの手伝うわ」
「そうじゃねェよ!!俺の黒歴史だよ!!……何より、ナミの写真を別な奴になんて、渡したくねェ」
俺の言葉に少し時間差で赤くなったナミが、協力すると言ってくれたので赤い卵探しに全力を尽くすぞと心に誓ってイベントに参加をした。
ナース達も同様に耳と尻尾が生えた為、尻尾に刺激を与えない為にとビキニ姿の上からパーカーを羽織ってるだけの面々に、野郎共は大喜びだ。ナース達も同じ姿だから、ナミのそれに文句を言えねェのが苦しい。
まァ、俺のつけた跡が大量にあるから牽制にもなっていいかも知れないけどな。にしても、気怠気な様子が本当に色っぽいよなァ。
籠を手に卵を探し回るナミは、驚異的な可愛さと色気で……襲いかかりたくなるのを必死で耐える。愛しいナミはそんな事とも知らずに、青と赤の卵を籠に入れていた。
って、青?なんで、青?
「ナミ、なんで青?」
「マルコさんに事情説明して、赤いのと青いの後で交換して貰えるようにしてあるの。マルコさんも探してくれてるから安心してね。1人でも人数多い方が取りこぼし減るでしょ?」
「そういう事なら、紫も探しな。協力してやるよ」
「「イゾウ」さん!!」
声が揃ったのも当然だろう。それに薄く笑ったイゾウがナミを見て眉を寄せたと思ったら、俺の頭を殴る。
しっかりと覇気を纏ってる拳だ。ロギアだからってのはあるだろうけど、マジで痛いからな!?
「何すんだ!?」
「ナミが妄想のネタにされる可能性考えろ。牽制より、ネタにされるリスクの方が高いだろうが。……本当に手のかかる弟だよ。……ハルタには、後でお仕置きが必要かねェ」
俺はその時、般若と言う言葉を思い出した。ナミに関わると、イゾウは時に容赦しなくなる。
うん、気をつけよう。そんな事を思った俺は間違っていない筈だ。
それでもイベントとしては大成功だろう。四番隊が用意してくれた卵や肉の料理を好きに食べながら卵を探して回る俺達は、白の卵にまさか親父の写真が入ってるなんて知らずにいた。
後にそれも探せば良かったと喚いた息子達に、親父が爆笑したのは当然だろう。だがそんな事は知らない俺達は、各自自分の写真を回収しようと躍起になっていた。
Happy Easter……。楽しい宴はいつでもドンチャン騒ぎで、今日もモビーは平穏な時間を刻んでいる。