※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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正月イベント21(side)

 隙間風のようなものを感じて目を覚ますと、腕の中で丸くなってる筈の温もりが部屋を出て行くところだと気付いた。ナミは俺を置いて……何処に、行こうとしてんだ?

 寒がりな癖に、こんな気候の日に俺から離れるとか本当に珍しい。寒い海域では、俺から離れようとしないナミなのによ。

 ドアが閉まった後でのそのそと起きた俺は、ナミに貰ったマフラーとセーターを身に付けて表に出る。最悪の時は、ナミにこのマフラー巻き付けてやろう。

 1応の防寒対策はしてるだろうけど、どうしたって心配になるからな。自分の事は後回しにするナミだから、どうしても……な。

 部屋を出れば頬や指先に突き刺すような痛みを感じて、これは随分と寒いらしいと気付く。そういや、近くには氷山の島があるって聞いたな。

 そんな海域で、更には明け方となれば寒いのも当然。こんな気候の中で、海や天気に変な所もないのにナミは何をしてんだろう。

 海と空の区別がつかない時間帯に、ナミは既に見えにくくなっている星を見ているように思えた。深夜ならばまだ、空には星があるのに……この時間帯は星が薄くなり、月明かりで照らされた海なのか、それとも星なのかの判別がつきにくくなる。

 寒さがピークになったのは、その僅かな時間の後。俺には全く持って納得出来ないが、朝日が登る時間の方が深夜より寒いらしい。

 見張りやるから実感や体験はしてるけど、その理屈は解らねェ。太陽が出てんだから、寒さが和らぐべきだろうと思うんだよなァ。

 納得いかない……と胸中で呟いた時、ナミの呟くような声が聞こえて来た。それは何処か、祈りにも似ていて……神聖な儀式のようにさえ思える。

 

 「あけましておめでとう。今年も1年、平和でありますように」

 「ナミ」

 

 名を呼べば振り向き、俺を見て少し驚いたような顔をするから、多分俺がいると思わなかったんだろうなと気付く。その直後に俺に抱き着いて、小さく囁くような声が聞こえて来た。

 

 「寒かった……」

 

 その言葉にそうだよなと思って抱き締めれば、俺の体温が高いからなんてのが言い訳にならない程に冷たい身体がある。心配になってマフラーをナミに巻き付ければ、ありがとうと言って笑ってくれた。

 だけど、その身体の震えは止まらなくて……そんなに身体が冷えているのかと心配になる。それとも、また悪夢でも見て怯えているんだろうか。

 俺はナミの震えが落ち着くその時まで、その身体を冷たい潮風から守るように抱きしめていた。そうして震えが落ち着いて来た時、ナミが俺を見上げて笑顔を作るから問答無用で部屋に連れ込んだ。

 ……ガキの頃から、ナミだけを見て来た俺に……作った笑顔向けて気付かれないと思うんじゃねェよ。そう思って不愉快になってた俺の傍で、部屋に到着するのと同時に小さく笑うナミ。

 何かおかしい事があっただろうかと首を傾げたら、俺に視線を向けて唇の動きだけで何か伝えてくる。……うーん〝ナ・イ・シ〟?……ナイショか!!

 答えが分かれば笑えて来る。たまにやるこんな些細なじゃれ合いが、本当に楽しい。

 

 「生意気だぞ、お仕置だ!!」

 

 そう言って傷付けない程度に、けれども逃げられない強さでナミを抱き締める。ナミの震えは、もう完全に止まっていた。

 俺が全てから守ってやる。もう、独りで泣かせる事はしないから、弱さを隠さないでくれと祈るように願う。

 

 「もう、寒くないか」

 「うん、ありがとう」

 

 そう言って微笑んだナミがあまりにも幸せそうで、俺を愛しているのだと言葉にしないままに伝えて来るから、俺は無意識で抱き締めている腕に力を込めていた。代わりに震え出した俺を、ナミは咎める事もなく受け入れてくれる。

 そうして暫くナミからの愛情に浸っていたら、いい匂いがして来た。それに釣られるように手を離せば、ナミは何かを思い出した様子で机に書類の束を取りに行く。

 

 「どうしたんだ?」

 「マルコさんに、届けなきゃいけない書類があったのよ。朝食開始から宴になるから、それまでゆっくりしててね」

 「どうして隊長である俺が知らない情報を、平になったばっかのナミが持ってんだよ……」

 

 俺のツッコミは聞こえなかったのか、ナミは素早い動きで俺の目の前から姿を消した。神風って言葉を思い出したのは、ある意味当然と言えるだろう。

 勿論、神風についてナミに何か言えば永遠と重苦しい話を聞かされるんだろうけどよ。でも、気象現状を利用した防衛とかって頭の痛くなる話をされるよりはマシだろうか。

 さて……と、どうすっかなァ。とりあえず、いい匂いが俺を誘うからと足を向けてみれば、色とりどりの料理が並べられている。

 う、まそー……。少しくらいなら、食べてもわかんねェよな。

 積み上げられた料理の入った箱を見て、そっと5個くらいそれを拝借してからその場を去る。物置に隠れて、そんな状態でも両手をパンっと合わせるのは忘れない。

 

 「頂きます!!」

 

 それぞれの箱には色々な物が入っていて、適当に持って来た五段がその全てだと理解できた。それにより俺は楽しい気持ちになりながらそれを流し込むように食い、最後に残っていた海老の尻尾もやはり食べるかと重箱に手を伸ばした時、その手が掴まれる。

 誰だろうと思って振り向いた時、そこに居たのは般若よりも恐ろしいイゾウと、呆れた様子で俺を見てるハルタだった。これがサッチなら、謝れば許して貰える気がするけど、相手がイゾウではどうにもならない。

 と言うかいつもなら俺と1緒に摘み食いするのに、なんでハルタまでイゾウ側にいるんだよ!?

 

 「エース……いや、アンちゃん。駄目だよ。盗み出したら……僕が疑われたじゃないか」

 「あ、悪ィ!ハルタもよくやるもんな」

 

 疑われたから怒ってたのかと納得して笑えば、ニッコリと笑みを向け直してきたのはイゾウ。その笑顔だけで、きっと大半の人間は硬直するだろう。

 

 「エース……おせち料理を摘み食いするのは、流石に許せねェな。オシオキ……楽しみにしてな」

 「イゾウ様、どうか、どうかご慈悲を~!!」

 「「許さないよ」」

 

 正直、この二人に勝てるのなんてマルコかナミ、もしくは親父だけである。つまり俺に勝ち目は無い。

 その後すぐに、海楼石の鎖で縛り上げられた俺の目の前で二人は相談を開始する。その結果、イゾウから告げられたのは俺が嫌だと何度も騒いだのを思い出したからなのだろうが……。

 

 「エースには、最低でも今日は〝アン〟として生きて貰おうかね」

 「なっ!?」

 「安心してよエース。方法は二つあるからさ。ひとつは前回のようにナミに女装させて貰う事」

 「他にもあるのか?」

 

 あ!!俺が自分でやるなら、俺要素残して笑われて終わりに……。なんて、半ば本気で考えた時、指を立てて説明していたハルタが笑った。

 

 「股間のモノ、切り落として1生〝アン〟として生きるか……だよ」

 「鬼か!?てか、無理だろ!!今日は俺演し物で王子役をやる予定で「調度いい、相方の台詞なら覚えてるだろ?舞台で姫を演じきってみな。そしたら、許してやるよ」」

 

 明らかに姫の方が台詞も多く、舞台にいる時間が長い。何せ演目が〝白雪姫〟なのだから。

 キスシーンがあるからというだけの理由で、それに決めた俺はナミの台詞や動きを全てなんて覚えてなくて……。血の気が引いていく。

 

 「セリフ、おぼえてな、い。です」

 「……エースが継母役やるなら、台詞は減るよ」

 

 ハルタの言葉に期待を込めて顔を上げた俺は、その瞬間にふと嫌な事に気付いた。そうなると、王子役は……?

 

 「王子と入れ替わりになるから、そうなるとハルタがナミとのキスシーンだな。構わないのか?」

 

 イゾウの言葉が決定打となり、俺は頭を抱えたくなるが縛られていてはそれもできない。その時、聞きなれた声が飛び込んで来た。

 

 「白雪王子と、七人の小人にしましょう。語尾変えれば男女が逆でも話は成り立つわ」

 「「「ナミ」」」

 「任せて!美しいお姫様に、してあげるわ」

 「継母が白雪王子殺そうとする理由って何さ」

 

 楽しそうに笑ったナミは、どうやら俺へのお仕置に賛成らしい。空になった箱を見て、困ったような顔をしてるから多分そうだ。

 それでも、ハルタの突っ込みにはイゾウも同意するように頷いた。けれどもナミは、当然のように解決策を提案しちまう。

 

 「継母は、我が子を身ごもってしまった!!なので、王子の存在が邪魔になったのだ!!」

 「流石は小説家。話作るのが早いね」

 

 感心したように言葉を返したイゾウのそれを最後に、俺が女装して姫が王子を娶る話を演じる事が決まった。そうして俺はナミの手で美しいお姫様にされて、予定通りの台詞のまま王子と姫の性別入れ替えと言う笑える劇を行う事になった。……んだがよ!?

 王子となった白雪が、マントを翻して振り向いた時……ナース達は黄色い悲鳴を上げるし、俺が「王子様……私と結婚してください」と言った時には兄弟が泣き出したんだから、意味が分からねェ。とりあえず俺が思い知ったのは、ナミは男になっても俺の中で何も変わらないって事だけだ。

 舞台が終わり、妙な疲労感に苛まれつつ親父の元へと向かえば頭を撫でられる。カツラ越しだけど。

 

 「もう、摘み食いすんじゃねェぞ。人数分しか、お節料理は用意されて無かったんだからな」

 「え!?」

 「珍しい食材や、縁起のいいもんが多くて、食べ放題にできなかったんだよ。その代わりに餅は食い放題だがな」

 「……ごめん」

 「ナミがな、サッチ達と協力して上手くやってくれたから、後で礼言っとけ」

 

 そうして俺は手渡された箱に目を輝かせた。さっきより少し少ない量になってる物があったけど、俺が勝手に食ったそれと同じ物だったから。

 

 「これ、良いのか?」

 「グララララララ!!元日は酒とお節料理無かったら、盛り上がらねェからな!!反省したなら、もう行け」

 

 そう言われて船縁へと移動した俺は、重箱の隅からつつくようにしてそれを食べて行く。今度は流し込むような食べ方ではなく、大切に噛み締めるようにして。

 そんな俺にナミが酒を持って近寄り、無言のまま隣に腰をおろすから、何だか心が暖かくなる。俺は結局、皆に甘やかされてたんだと気付かされたから。

 食い終わるのと同時に、俺はナミを腕に抱き締める。甘ったれな俺だけど、この船には沢山のいい男が居るけど、ナミだけは絶対誰にも渡したくないから。

 そうして俺は、大切な人達に囲まれながら、Happy new year!!と言葉を紡ぐ。愛しい女を他の誰にも触れさせない為に強く抱き締めている。

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