俺にとって何よりも恐ろしいのは、俺の愛しいお
俺は、強欲だな。海賊らしい海賊だったのだと、今更ながらに自覚させられる。
先日猫と化したナミを愛でて、部屋に閉じ込めて、耳と尻尾が消えるのを待ち出航した筈が、その後も何かの拍子に飛び出すそれらに翻弄されたのはナミだけじゃない。寧ろ、俺達の方が大変だったと言えるだろう。
尻尾が敏感だからと紐の下着を身に着け、丈の短いスカートで動き回られては見守る方はたまったもんじゃない。過保護な兄達は勿論、心配して仕事にならねェし、若い奴らは刺激されて仕事にならねェ。
そして俺は、恋人のそんな姿を見せられて、平常心は保てずにいたって訳だ。だが、まァ……流石にやり過ぎた自覚はあるがね。
それでももう、2日程は生えてないから落ち着いたのだろうと思う。……厄介な能力者が居たもんだ。
そんな事を夢現に思い出したのは、腕からナミが消えて意識が浮上した為だろうか。俺の傍を離れんなって、何度言えば覚えるんだかな。
尻尾が無い事を確認しつつ着替えている姿を、枕を抱きながら確認していれば先程頭を撫でられた気がしたのは夢では無かっただろうと気付く。そんな事に気を取られている間に、部屋を出て行ったナミを追いかける為にと俺もベッドを出て身支度を整える。
そうして甲板に向かえば、朝には着港予定の島をじっと見詰める後姿があった。既に猫の耳も尻尾も無い筈なのに、喜び揺れる尻尾の幻覚が見えそうな程のそれに、島についたら共に降りようと誓う。
その時突風が吹き付け、俺でさえ微かによろめいた。それはつまりと思いナミを見れば、肩にあった布が飛ばされて行くところで……。
風相手にソレを取り戻そうとしているのか、海へと身を乗り出しつつ手を伸ばすナミの姿。仕方なく銃弾を抜いて、空気砲へと変えた短銃を飛ばされる布へと向ける。
撃つ場所を間違えなければ、布は空気の反発によりこちらに帰って来る。ある意味力学の原理に近いが、その説明は端折らせて頂こうと思う。
そうして無事に俺の手元に引き寄せた布を手にすれば、その様子を見ていたナミが俺を呆然とした顔で見つめてきた。本気で俺の行動に驚いているらしいナミに、呆れ半分と照れくささ半分で無言のまま近付けば、ナミは黙って待っている。
そんなナミに布を巻き付けてやれば、何故か顔を赤らめる。それが不思議で問い掛けようとした時、気付いちまった。
ドクロの前に銃でバツを描いた刺繍が、その布の端にされている事に。その銃は俺の愛用している物と、フォルムが良く似ていて……。
俺の、海賊旗……か!?
なんだってナミはこう、可愛い事をしでかすのか。しかも背後のドクロは、ちゃっかり白髭だと言う念の入れよう。
「あ、ありがとう……」
「海に落ちなくて良かった」
さりげなく話題を避けてみるものの、この刺繍は暫く俺の脳裏から消えないだろう。こうして俺は、ナミに翻弄され続けるのだろうなと笑っちまったのはある意味不可抗力。
それにしても、本当に落ちなくてよかった。春島の海域とは言え、この時間ならまだ海水も冷たいからな。
そう思った時、ナミが突然笑い出した。それに疑問の声を漏らせば、可愛い笑顔で妙な事を言われちまう。
「私、甘ったれになったなぁって思って」
「……足りない」
俺の言葉に小首をナミが傾げた時、先程よりも強い風が吹き付けてナミの身体が浮かび上がる。それを行かせるかと抱き寄せて、そのまま部屋に連れ戻せばそのままベッドへと逆戻りだ。
ずっと、こうして二人でいたいと言ったら……ナミは困ったように笑うだろう。それが分かるから、その言葉を飲み込み別な言葉を向ける。
「折角二人きりなんだ。もっと甘えな」
「これ以上甘えたら、溶けちゃいそうよ」
「それは、是非見てみたいもんだ。なら本当に溶けるか確認する為にも、俺が勝手に甘やかすとするかね」
そんな他愛ない睦言を囁きながら、ナミに似合いそうな服を選んでみたり、髪をセットしてみたりする。俺が結局は楽しんで、春らしい装いになったナミを伴い部屋を出る頃には朝食の時間になっていた。
折角だからと朝食は皆と共に食べつつ、その隙に蜜柑の世話をしに行こうとするナミを押し止めて朝食を口に押し込めば、案の定笑いが起きる。そんな様子を微笑ましそうに眺める親父に、休みを申請すれば追い払うような仕草をされたが……まァ、俺が休みを貰いたいと言うのは大抵ナミ絡みだから仕方ねェかもな。
「期間は」
「三日で」
「……無理させるなよ」
何故か親父から、物凄く心配そうに言われちまう。それが気に入らないとは、何故か思えなかったので軽口で返す。
「させた事ァねェな」
「どの口が言ってんだ!?」
「記憶にございません」
「政治家か」
他愛ない掛け合いが案外楽しい。それは聞いてる兄弟も同じらしく、ニヤニヤと笑っているので親父も困ったように笑うばかりだ。
「俺が海賊なのは、親父が1番よく分かってんだろ」
「ったく……。認知症には、まだ早ェだろ……」
「人とは、忘却する生き物なりってな。……ナミ、行くよ」
そんな会話の横で、クスクスと笑っていたナミを連れ出す。背後から虐めんなよとか、つらくなったら逃げて来いなんて声が聞こえたが、逃げようとしたらその体力は奪ってやるさねと小さく笑う。
そんな俺にナミは小首を傾げつつ、目的地があるのかを聞いてくるから、首を横に振り答えた。ただ、ナミとのんびり島の散策をしたりしたいだけだからね。
「ここは春島だから、ナミの喜ぶ花も多いだろうと思っただけさね。……簪でも、新しいのを買うかい?」
「そうね……あ!」
「ん?」
「猫になってた時、私だって気付いて貰ったお礼に何かあげたいから、今日は私が好きな物買ってあげるわ」
「……なら、揃いの物を買おうか」
叶うなら、二人が身に付けられる物がいいな。そう思って笑えば、ナミは嬉しそうに頷くから、さて何が良いだろうかと考える。
いくら小物とは言え、ハンカチでは持っていても意味を見いだせない。ならば……。
そう思って見たのは時計屋で、だが腕時計は海では壊れやすいからどうしても懐中時計になっちまうので、ハンカチと同じ理由で却下だ。ブレスレットは、ナミは姉から貰ったそれを後生大事に身に付けているから、他がいいだろう。
指輪はペンを使うナミには邪魔になりかねねェし……となると、何が良いんだろうか。そんな事を考えながら途中でナミに似合いそうな洋服を見付けては着せてみたりしつつ、歩いて行く。
着せてはみたが、ナミはなかなか買おうとしないので結局冷やかしになっちまったけどな。その時ふと目に止まったのは、ストールピンだった。
ストールだけでなく、マントやローブを留めるのにも使えるから、悪くもないだろう。この島らしい、春を連想できる物を用意したいと選び始めれば、薔薇のコサージュに似た物をナミが手にした。
流石に俺が身に付けるにはと思ったのと、返り血を浴びた時悲しい事になるからとそれに近い水に濡れても大丈夫そうな素材の中から選んで行く。……ナミなら、髪の色と被せない為には白か青だろう。
花言葉を思い出しつつ、手に取り……青はマルコを連想するからやめて、白にしておく。それは驚く程に軽く、戦いの邪魔にもならなさそうだった。
「あら
「これかい?」
「ええ、鉱物名はセピオライトで、通称ミーアショムって呼ばれるの。煙草のパイプとして加工される事が多いのよ」
「そうか。ふむ……」
その時店主が石の持つ意味として、想像力を高める効果と、ネガティブ思考を追い出す効果があると言われていると言ったので、購入を決意した。ナミの為に存在するような石だと思ったからな。
そして迷わずナミのショールを留めるのに使えば、白薔薇をモチーフにしたそれは良く似合うと思えた。そんな俺には、ナミがそっと上着に装着してくれから、軽くひと撫でしておく。
「揃いのものというのは、良いもんだな」
「そうね、繋がってる気がするものね」
笑うナミが愛しくて、抱き寄せたのと同時にまたもや強風が吹き付ける。俺からナミを奪おうとでも言うのかと、見えない敵を睨み付けたのは俺の心に余裕が無いからだろうか。
春一番が春を連れて来る風だと言うのなら、俺からナミを奪わないでくれよと思う。春の女神を思わせるナミだからって、風が俺の春を奪わないでくれ。
そんな事を本気で思いつつ、近くに良い宿が無いかと考える。風が俺からナミを奪えないように、宿でしっぽりしたいと強く願ったから。