※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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この作品は各キャラのラスト固定です。
この作品には、序章があります。


1番の敵(子拾)side

 航海士としてのナミの腕を疑った事は無い。出逢ったその瞬間から、現在迄の間に、ただの1度も。

 そのナミが他の誰にも何も見えない物を見付けて、指示を飛ばすのはいつもの事と言えるだろう。ただ、今回は少しばかり様子がおかしい。

 

 「……知らない島が見えるわ」

 「島?天候の異変じゃなくてかい?」

 「えぇ、あの島……地図に無いわよね……?」

 

 ある程度の条件が揃わないと入れない島ってのも、この偉大なる航路には存在する。だが縄張りの範囲からそう離れても居ないこの海域で、島の見落としがある筈が……あった。

 確かにそこに存在するのは初めて見る島で、俺は即座にマルコと親父に声をかけてどうするか相談する。それによりマルコが飛んで行こうとしたのを親父が止めて、船を直接島に泊める事になれば警戒するなと言う方が無理な話だ。

 親父は困ったような顔で、多分ナミが降りる事になるが誰も追うなよと言う。そして実際にナミが船を降りて行くのを見れば、その理由に思い至る。

 

 「親父……この島……」

 「あァ……植物の島だ。呼ばれたのはやはりナミか」

 「いい子だからな。……お人好しなレベルで」

 

 つい本音を零しつつ、過去に読み得た知識を呼び起こす。とある島では植物が育つのに愛情が必要であり、それを得る為に女を呼び寄せる。

 呼び寄せた女に寄生し、三日間愛情を受けた後解放する。その愛情の強さにより草となるか樹となるかは変わるが、愛情を得る為に女が最も愛する者に擬態する植物故に、ある程度寄生する女には年齢制限もあるらしい。

 ……だとするならば、ナミはその条件に合致し過ぎる。ナミならば大樹を育て上げるだろう。

 どうしたらいい?

 8年も奴隷に落とされていて尚、ナミはその優しさを失う事無く……寧ろその優しさで持って生き延びて来た。それを思えば、呼ばれない方が不思議な位だ。

 慈愛の女であり、同時に残酷過ぎる女だ。それとも……恋人である俺だけにその愛情を向けて欲しいと願う俺が、強欲すぎるのだろうか。

 不可抗力だと分かっていても、ならば結末はと思えば深い溜息が落ちる。命にも肉体にも何も問題は起きないだろう。

 それでも不安は着いて回る。何せ、過去に喪った息子に擬態した植物により、それとの別れに耐え切れず狂った女も居たとの記述を思い出しちまったからだ。

 それでも、優し過ぎるナミのその心を守る事が俺に出来るのだろうか。親父はナミの害になる事はしないだろうが、守る事は俺の役目だ。

 その時フラリと帰って来たナミは、俺に泣きそうな視線を向けてから切なそうな笑みを浮かべた。そして、親父の元へ向かうと、キリッとした表情で言う。

 

 「親父様、この子を育てたいです。駄目なら、母親を探してください」

 「……子供の顔を見せちゃくれねェか?」

 

 親父が言えば、困ったうな視線を1瞬俺に向けてから、小さく頷いて布に包まれていた子供を陽の中に晒す。それを見れば親父が感嘆の声を出して、俺は少しばかり顔が熱を持つのを感じる。

 それが明らかに、俺だったから。少しじゃなくて不安だったと言ったら、言われた相手はきっと例外なく笑うだろう。

 それくらいに俺はナミに溺れているのだ。不安そうにしているナミにそっと近付き、ありがとうと声をかけるとナミが泣きそうな顔で俺を見上げる。

 

 「イゾウ……この子に、この子の母親に覚えは?」

 「ナミだろ」

 「そんな訳……!!」

 

 その時親父が耐えられないと言うように笑い出す。それにナミが視線を向けると、親父は笑いながら三日間頼むぞと言い出した。

 それを聞いたナミは暫し固まり、それから顔を赤くすると俺とよく似た子供を強く抱きしめて、小さく震え出す。震える理由が分からずに手を伸ばすと、俺が触れる直前にナミが縋るような視線を向けて来た。

 

 「どうした?」

 「う、たがって、ごめん、なさい……」

 「……あァ、そういう事か」

 

 思わず声に出してしまう程拍子抜けした。そりゃ、俺に擬態してるんだから、疑っても仕方ねェだろう。

 そう思ってナミをそっと抱き締めると、ナミの腕の中に居る子供が俺に攻撃を仕掛けてきた。ほほうと思いその頬を抓ると、ナミの頬が同時に赤くなり、そっと指を離す。

 

 「悪かったね。寄生ってのは、そういう意味か」

 「驚いたわ……」

 「まぁ、それなら俺が攻撃されとくから気にしなさんな」

 「そんなの……!」

 「俺にはダメージにもならねェさ。……だが、この植物は弱く儚い。それ故にナミへと弊害が出るなら、仕方無いさね」

 

 そう言って痛みがあった筈なのはナミなのに、俺を心配そうに見詰める愚かな猫。それを胸に閉じ込め、そっと唇を重ねる。

 その間中、俺を気に入らなそうに俺を攻撃し続けた子供を無視していた。だが、ナミは視線を1身に集めつつ行われるそれに耐えられない様子で涙を浮かべたので途中で解放してやったら、子供を抱いて逃げられてしまい、やり過ぎたかと内心で笑う。

 

 「可愛いな……」

 「イゾウ、虐めてやるな」

 

 俺の呟きに親父が呆れを隠さずにそう言うから、適当に笑って頷く。それからそっと視線を巡らせれば、親父が自分の定位置の隣にナミの為に場所を用意するよう指示してくれて、それなら安全かと自然笑みが浮かぶ。

 

 「……ナミ関連だとその笑顔が見られるなら、仕方あるめェな。……このあほんだら、ナミを大切にしろよ」

 「そうだな。親父と兄弟の次に大切にするさ」

 「……1番に持って行ってはやらねェのか?」

 「んな事したら、寝所からナミは動けなくなって、1生俺の可愛い人形になるぜ?」

 

 半ば本気で言ったそれに親父は微かに表情を引き攣らせ、今位の距離感が良いかもなと笑った。それにそうだろうと笑って返したが、内心は不安だらけだ。

 俺もナミも、親父のように強い訳では無い。ナミは、兄弟達のように何かあっても生き抜く事を諦めない訳でもない。

 俺の明らかなる弱点であり、愛しき女だ。ならば抱き潰し動けなくして守るのが1番安全で確実だと分かるが、それをしないのは心の中で距離を必死で保っているからに他ならねェ。

 掠り傷の1つさえ、親父より大切な存在にしちまったのなら俺はそれを許しはしないさね。そうなれば、きっとナミの心は壊れちまう。

 だから、距離をおく。そんな俺を1番に愛してくれる存在を、どうしたら泣かせずに済むのか。

 そう、1番に愛してくれているのは分かっているんだ。それでも、俺以外にも向けられる暖かなそれが、時に許せなくなるのだから、俺の心の狭さが分かろうというものだ。

 その上でナミが確実に嘆くだろう未来を憂いて、俺はそっと島を睨み付ける。他にその時の俺には、出来る事が何も無かった為に。

 それからの三日間は、恐ろしく穏やかで暖かな日々だった。その為にいつ本物を産ませるのかなんて兄弟や親父に言われては、真っ赤になるナミを眺めて過ごす。

 ……俺が、閉じ込めなくてもナミを守れる強さを得たら、作りたいところだがな。最強の敵は、俺自身だなと溜息を落とす。

 

 「イゾウ、愛してるわ」

 「あァ、知ってる。……そして俺はナミに、溺れてるよ」

 

 そう言って微笑むナミの額にそっと口付けを落として、運命の日を迎えた。これから別れだと言う事を知らないとでも言うように、優しく子供を抱き締めているナミに、違和感しか無い。

 森の中に共に向かい、そっと子供を連れて行き、子供が降ろせと言わんばかりに暴れ出すまで、ナミはその表情を変えなかった。そっと地に降ろせば、子供がナミにそっと手を伸ばし、首を傾げた。

 

 「まぁー、ぱーに、いーめらーた?」

 

 微笑んでいるナミの頬に触れて、そう言ったガキに頬が引き攣る。いつの間にか父親認定されていたのは良いとして、お前の中で俺はナミをいじめる存在か。

 そう思った直後、そうだよなとも思う。にしても、これの他は俺には何を言いたいのか分からない言葉を羅列していると言うのに、それにナミは普通に受け答えしてるのが恐ろしい。

 ナミ曰くこの位の年齢の時は、その子供ごとに独自の言語を使うので、意思疎通が難しいらしい。マルコ語とエース語をそれぞれが使うようなもんだと言われれば、面倒としか思えねェ。

 か行を言えずにた行に変換して喋る子が比較的多いのよなんて笑うナミに、出産経験や子育て経験は無い筈だよなと少し首を傾げる。そうとは知らずに笑っていたナミが、今は作られた美しい微笑みを浮かべているのが切ない。

 そうしていつの間にか別れを済ませたナミは、樹へと姿を変えた子供だったそれを見詰めて表情を失い、崩れ落ちたまま動きを止めている。……それを見て、子供の為に〝母親〟を演じていたのかと気付く。

 その為に微笑みの仮面を付けていたのかと。なら、今俺がやるべき事は……。

 

 「……ナミ」

 

 まだ、本当の母親になって貰うには、俺が力不足だ。そして、ナミは優し過ぎる。

 そんな思いを抱きつつ、そっとその体を抱き締めれば縋るように着物の袖を掴むナミ。その頭を抱えるように、植物から隠すように抱き締める。

 涙も見せずに震えるナミに、泣かせてやらないと壊れるなと理解する。触れるのも難しかった期間の分、可愛がってやろうと決めてその顎を掴むと強制的に深く口付けた。

 森の中で襲いかかったケダモノに、それはやだと泣き出した女は、けれども泣かせる事を目的とした男にそれは無意味。何時までも帰らない2人に呆れつつも、仕方ないかと許した船長の判断で2日程追加で停泊していたが、それの責めを負うべきは加減を知らぬ男のみだろう。

 後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。




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