部屋に入るとそこには邪魔するなと言うオーラ全開で、何かを1心不乱に描いているナミの姿が見える。こうなったナミはもう何をしても無駄である事は、この船に乗ってる者ならば新人でも知っている程だ。
だが珍しい事にベッドに手紙が置かれていて、明日はイベントをやらないかと書いてある。どうやらこうなる事を見越して、俺の気分を下げない為に考えてくれたらしい。
こんな事がある度に、こいつは本当に何歳なのかと疑わしくなる。幼子がいじけないように、悲しまないように仕事が終わったら1緒に遊ぼうとでも言うかのように、必ず俺に対して何かしらの対策をしているのだから。
兎も角俺1人では準備も出来はしないからと、ベックに手紙を見せて相談すれば仮装して菓子の交換程度ならば、金もかからないからと船全体でやる事に決まる。ナミの衣装を何かと考えた時、ベックから呆れたような視線を向けられた。
「顔が原型留めてねェぞ。まァ、程々にな」
どうやら俺の思考を読まれていたらしい。陸についてすぐに2人分の衣装を用意しに走れば、色々と揃っている島だった為に望み通りの物が手に入った。
夜ベッドに入る時声はかけたが、やはり気付いていないので明日の朝、ベックに叱られてからのイベントになるかと小さく笑い、早々に眠った。抱き枕が居ない事でどうにも眠りが浅くなるのは、もう仕方の無い事だろうか。
朝になる頃、ナミが動いた気配で目を覚ました。だが、何をとち狂ったのか1人で納得した様子を見せたナミが机に向かったのを見て、思わずその頭を殴る。
それに涙目でこちらに視線を向けて来た。それに自然と落ちる深い溜息と共に、風呂に入るよう言って脱衣場に昨日買ってきた衣装を置いておく。
……あの衣装だけでも、充分お仕置きになりそうだとほくそ笑んだ俺は、恐らく悪くは無いだろう。似合わない事だけは有り得ねェからな。
暫くすると脱衣場から唸り声が聞こえて来て、その葛藤が手に取るように分かればさてどうするかと反応を待つ。ドアが開いた時、中から出て来たナミは頭に猫耳をつけた状態で、猫の尻尾がついたオレンジ色のビキニ姿で出てきた。
恥ずかしそうにしていなければ、恐らくここまでの破壊力は無いのだろうが、潤んだ瞳で俺をその姿で見てくるから俺は理性と戦う事を強いられる事となった。……これを他の奴らに見せるのは嫌だなと、そう思う程度には破壊力がある。
「ナミ、徹夜は禁止だと言っただろ。今日のイベントはそれで過ごしてもらうからな」
「シャンクス、ごめんなさい!流石にこれは恥ずかしいから!ね、許してよー」
言いながら飛び付いてくるこの子猫に、俺が勝てる日は来るのだろうか。いや……来ないだろう。
自分用に用意した吸血鬼のマントを溜息と共にナミにかけてやれば、それはそれでまた卑猥だ。なんだこの生き物は、このまま部屋に閉じ込めておくべきか。
「シャンクス……ごめんなさい……」
俺が無言でいる事に対して、どうやら怒ってると思っているらしいナミに苦笑する。手招けば素直に擦り寄ってくるから、その細い体を強く抱き締めてベッドに2人で転がる。
「……少し寝ろ。ベックに徹夜した事がバレたら、それこそ泣いても許して貰えねェぞ」
色々なものを誤魔化して、大人のふりをしてそう囁けばナミは小さく頷いて俺に縋り付くように腕を回してくる。それに俺も抱き締め返して、夜まではとりあえずこのまま寝ちまうかと、怠惰な事を考えた。
その時ナミが妙に甘えた様子で擦り寄って来たから、どうしたのかと視線を向ければ少し不思議そうに俺を見詰めてくる。本当に、猫みたいな奴だよな。
「……どうした?」
「私が眠らない保証なんて無かったのに、どうしてこんな衣装にしたの?」
「ナミは猫だからな」
つい素直に答えれば、それの持つ別な意味に気付いたナミが顔を赤く染めて俺の胸に顔を埋める。それが擽ったいのと、猫耳が動くのが妙に可愛く見えてついその背中に指を滑らせれば可愛い声で鳴いてくれる。
それから目元を染めて俺を睨み付けてくるが、それが煽るだけだと何故気付かないのか。衝動的に唇を奪えば、あえかな声をナミがもらす。
そのナミの後頭部を抑えて深く貪るように口付ければ、何も考えられないと言うようにぽやんとした表情になるから俺も抑えが効かなくなる。だがその時、髪が濡れていない事に違和感を感じて唇を離した。
「ナミ、風呂に入ったんじゃないのか?」
「だって、これから〝寝る〟のなら、……濡れてたらシャンクスの迷惑になるかなって」
このナミが言う寝るがどちらの意味なのか、暫し考える。ここで普通ならば先日男女の関係となったのだから、そういう意味だろうと思われるが……相手はナミだ。
素直に睡眠としての意味合いで言っている可能性も充分に考えられる。俺はそう分かっていて、あえて勘違いをする事にした。
「どっちにしろ入り直す事になるから……構わねェか」
「シャンクス?」
幼い子供が信頼を寄せるような表情で、ナミは俺を見る事が多い。絶対に安全な相手だとでも言うようなそれに、いつも本当は1番危険な相手の腕の中にいるのだと何故気付かないのかと思っちまう。
俺はいつまでも安全な優しいお兄ちゃんでいるつもりはねェと、内心で呟いてから唇を動かす。悪戯な笑みを浮かべて。
「ナミ、Trick or Treat」
「え!?待って、何も持ってないわよ!」
「なら、悪戯だな」
馬鹿だな。何も無いのも、俺の用意した物しか身に付けてないのも、すべて分かってるさ。
そう思いつつ、その言葉を飲み込んで俺はナミをそのまま組み敷く。それの意味が分からない程には、鈍くはなかったようで、困ったように、恥ずかしそうに、ナミは視線を逸らす。
それからふっと笑って、俺を誘う。その変化はまるで幼い姿が演技であるかのようにさえ、思える程で……。
「……残さず、美味しく食べてね……?」
「当然だ……」
お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。だからお菓子のように甘いその身を俺に差し出せと……食らいつく。
楽しいイベントの日は今正に始まったばかり。生意気な子猫は飢えた吸血鬼の腕の中で、可愛らしい鳴き声を響かせ始めた。