※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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お花畑な私※

 いつもと同じようにベッドからそっと抜け出した私は、机に1枚の置き手紙を残す。これをやらないと、見聞色の覇気を使う事も忘れてか、もしくは私への嫌がらせか、シャンクスは大声で私の名を呼びながら船内を動き回るのだから面倒だけど仕方ない。

 手紙には、シャワーを浴びてきますと書いただけ。それが終わったらまた戻って、この紙に次の目的地を記入する事になる。

 明らかにミホークさんと会ったあの日から、シャンクスは過保護になった。それが嫌かと言われたら、恥ずかしいから嫌だけど……不愉快って訳でも無いのだから、随分毒されてると思う。

 ……こんな髭親父の何処が良いのかと自分に問い掛けるけど、即座に〝全部〟とハートマーク付きで答える脳内に居るお花畑な自分の首を絞めて、勝手に赤くなる顔を誤魔化そうと歩き出す。恐らく今1番の敵は、自分の脳内に生息するこのお花畑な自分だ。

 と言うか、シャワーは部屋についてるの使ってんだから書かなくても分かるだろうに。やっぱり嫌がらせ?

 シャワーを浴びながらそんな事を考えていたら、どうやらシャンクスが起きたらしいと分かる。本当に私が起きて少しすると、シャンクスも起きてしまう。

 でも、起きてるのにシャンクスの腕の中に居るとか……恥ずかしくて出来ない。ベルメールさんの蜜柑の香りが漂うのと同時に、気持ちが落ち着いて来る。

 私用の荷物に蜜柑の木があって、それを基本的に皆で食べるなら構わないだろうと言って船で育てさせてくれるのだから、幹部の皆は私に甘いと思う。皮だけは全て私が回収して、洗剤類や入浴剤に作り替えてるけどね。

 花畑な自分を始末して、気持ちを落ち着けた私は身支度を整えて部屋に戻る。でも脱衣場のドアを開けた瞬間に伸びてきた腕に捕えられて、何故か頭を拭かれてしまう。

 小さい時はベックが拭いてくれてたのに、最近はベックの所へ行くのをこうして阻止されるのだから不思議。何があったんだろう?

 

 「おはよ、シャンクス」

 「ああ、おはようナミ」

 「シャンクスもシャワー浴びる?」

 「1日に2度も3度も浴びねェよ。なんだってナミはそんなに浴びてんだ」

 「分かった。説明しましょう」

 

 キリッとして言った瞬間、シャンクスから静止がかかった。どうやら聞きたくないらしい。

 なら何故質問したのよーと膨れれば、ベックと話せそう言うのはと何故か溜息を落とされる。でもね、寝てる間に人間がかく汗の量って半端ないし、海にいるから夜お風呂に入らないで寝たら、ベッドがやっばい事になるのよ。

 だから最低2回は入りたいし、途中波とか被ったら浴びるのは当然だと思うんだけどなぁ。ベックに前話したら船医も呼ばれて、全員に徹底したいよななんて言ってくれたのに……どうしてシャンクス達は理解してくれないのか。

 シャンクスは能力者じゃない筈なのに……。そんな事を考えてる間に髪を拭き終えたシャンクスが、勝手に私の髪を調えてた。

 そのまま任せていたらポニーテールにされて、何故かシャンクスは満足そうだ。まぁ、シャンクスが良いならそれで良いけどね。

 2人で揃って部屋を出て、私は甲板へ、シャンクスは食堂へ向かう。起きてからなら別行動しても、案外大丈夫なのよねー。

 甲板で進路やら風向きやらを確認して、辺りの波目を確認する。そろそろ肉だけ不足してるから近くの島に行こうなんて話になってたけど……そう思って前を見る。

 ん……?この風は、サイクロンじゃないけど、嵐が来るわね。

 

 「皆!4時の方角から嵐が来るわ!1時の方角に舵を切って!」

 

 私の声に反応して、皆が朝食を口に入れたまま飛び出して来た。おかげで声は1切聞こえない。

 いや……せめて飲み込んでから出て来てよ。終わってから、また食べれば良いじゃない。

 これで世界政府さえもが恐れる四皇だ、と言うのだから分からない。なんだか微笑ましくて笑っていたら、ベックが近付いてくるのが見えた。

 

 「良かったわ。ベックまでモゴモゴしてたら、どうしようかと思った」

 「阿呆。指示が出せなくなるだろ」

 

 そう言ってベックが笑うので、ならアレはどうするのかと口をモゴモゴさせているシャンクスを示せば、頭を抑えてから楽しそうに笑うのだ。だからベックも、シャンクスを本当に好きよねと思う。

 そんな私の思考を読んだらしく、お互いにななんて唇の動きだけで言われてしまえば、赤くなって顔を背ける他何が出来るだろう。否定できないし、するつもりも無いから余計に。

 嵐から逃げ切り少しすると、見張りが島が見えたと言い出した。そんな所に島があるなんて聞いてなかったので、思わずベックに視線を向けると、知らないと肩をすくめられる。

 上陸して平気か確認してから、その島で食料調達したいわねと話して私も食事に向かう。それから皆が調査してくれてる間にと海図を描いたりしながら過ごして、上陸して問題無いとなってから測量して来ると言って船を降りた。

 人のいない島だと聞いているからか、シャンクスも気を付けろよなんて言うだけで止めない。それどころか、気を付けるのはナミを襲おうとする獣の側だろなんて、そんな話し声が聞こえてくる。

 私はあんた達と違ってか弱い女の子なのよ!と、いくら言っても誰も本気にしてくれないのが悔しい。でも、漸く左手でシャンクスが稽古付けてくれるようになったから、子供の頃よりはマシになったらしいと思って、誇らしさと嬉しさに緩む頬を抑えて歩いていた。

 ベックとシャンクス以外は、そんなに強くなってどうするんだとか言ってたけど、まだまだ弱いと思うのよね。途中見付けたキノコとか野草を入手して歩いていたら、背中がゾワリとして近くの木の枝に飛び移る。

 見れば今まで私のいた所を何かが渦巻いて……消えた。それにより犯人に当たりが付けられてしまう。

 ヤバい。シャンクス、助けて。

 思わず声に出さずにシャンクスに助けを求めつつ、枝に伸びて来た糸を避けてまた地上に降りると、その足元を狙われた。クリマタクトで風を起こして少し着地点をズラして相手に向き直れば、楽しそうに笑っている巨人へと視線を向ける事となる。

 この世界だと普通なのだとしても、私の感覚では十分巨人だ。別れ際に迎えに来るって言ってたけど、どうやって私の居場所を……。

 

 「フッフッフッフッフッ……こんな所で会えるとはな。感動の再会だ……約束通り、嫁に貰ってやるよ」

 「私は、その言葉を受け入れてないわ。それに、心配症な兄と嫉妬深い彼が許さないと思うのよね」

 「海賊がんな事気にする訳ねェだろ。行くぞ」

 「お断りよ」

 

 冷たく言ってみるけど、隙が無さ過ぎてどうしたらいいか分からない。でも、この場にいない人達に縋る訳にもいかないからと、気を引締める。

 捕らえようとして来るドフラミンゴの糸を避けて、逃げて、躱して、そうして少しずつでも船に近付こうと試みる。けど、実力差の前では無駄に近い。

 それでもちょこまかと逃げ回っていれば、飽きたな……なんて言葉と共にドフラミンゴが能力を使って小さな鳥籠を展開する。しまった!と思ったところでどうにもならない。

 この鳥籠、元は糸なんだし、能力者の能力なんだから斬れたりしないかしら?そう考えて短剣を取り出して斬りつけるけど、手応えは無い。

 能力者本人にしか、海楼石は効果を示さないのかしらと思って、短剣に少し視線を落としてから次の手をどうするか考える。でも、敵に背を向けた時点で私の敗北は決まっていたのだ。

 簡単に捕えられた私は、抵抗も虚しく体は地面を離れて空高く飛ばれてしまう。それでも抵抗しようと暴れれば、耳元で舌打ちが聞こえた。

 

 「いや、離して!シャンクス!ベックー!」

 

 声の限りに叫んだ瞬間、これまでに経験のないレベルの覇気を当てられて意識が落ちそうになる。体から力が抜けても大丈夫なようにしっかりと抱かれていたようで、落ちる事は無かったけど、いや……寧ろ落としてくれたら、クリマタクトで落下をどうにかして、後は自力で帰るのに。

 

 「はな、し……て……」

 「意識を、保てたか」

 

 驚いたような声が聞こえた直後、楽しそうに肩を震わせたドフラミンゴはその直後移動速度を上げて私を問答無用で連れ去った。……これ、無事に帰れても今後1人で絶対船をおろして貰えなくなる流れよねなんて、何故か絶対帰れると信じてる自分がいたりする。

 到着した島は賑やかで、本来なら瞳を輝かせて店に繰り出したいところだけど、窓から侵入した部屋の中に投げ捨てられた今、そんな呑気な事はしていられない。上空から見る事が出来たから、さっき居た島とこの島の測量はだいたい出来た。

 私の〝知識〟と移動中に得た情報からここがドレスローザで、現在位置は王宮だろうと分かる。さて、どうやって逃げ出すか。

 岩か何かの能力者が居た筈だし、記憶とか思考とかを読む能力の人もいる筈よね。どうにかしないといけないのに、絶望的な状況に体は勝手に震えそうになる。

 震えるな!私は、シャンクスの元に帰るんだから!

 四皇と七武海の全面対決とか、なんの冗談かと思えば自力で逃げるしかない。そう決意して立ち上がった私を、ドフラミンゴは可笑しそうに眺める。

 

 「まだ、諦めねェのか。大人しくしてれば、なんでも与えてやるぜ?〝宝玉〟サン」

 「それは別人だっ「な訳ねェだろ。もう、調べはついてる」」

 

 ドフラミンゴはスッと手を動かして糸を放つ。私は短剣でその糸を切り裂く。

 

 「なァ……ココヤシ村がどうなっても、構わねェのか?泥棒猫?」

 

 呼吸が止まるかと思った。調べてあるって、そんな所まで……?

 

 「戸籍が存在しねェから苦労したんだぜ?ナミの容姿的特徴から、泥棒猫なのは確認出来たが、それが何処に住んでいるのかは全くの不明。だが……」

 

 そう言ってニタァと笑ったドフラミンゴはアーロンパーク壊滅直後に私が東の海で姿を見られなくなった事で、共に捕えられたのかと調べ、違うならば拠点となっていた島に引き篭もったかと確認に行ったと言う。そこからは簡単だったと笑われる。

 船で助けられた事があると言えば、村の人達は私についてなんでも話してくれたと。抵抗して村を滅ぼされるか、大人しく従うかを選べと残酷に笑うその顔は、正に夜叉。

 突き付けられた選択肢に、私は笑う。それならば、答えは決まってるもの。

 ……ごめん、シャンクス、ベック、皆。内心で謝ってから、迷わず舌を噛もうとした私に気付いたらしく、ドフラミンゴは私に先程の数倍強い覇気をぶつけて来る。

 今度こそ耐えられなくて意識が暗転してしまい、気が付いた時には裸でベッドに繋がれていた。動くと四肢と首に繋がっている鎖が、ジャラッと音をたてる。

 その音に全身が総毛立つ。嫌だと、怖いと泣き叫びたくなる。

 呼吸がうまく出来なくなっていたら、部屋に入って来たドフラミンゴが私のそれを見て顔を歪めた。それから人を呼ぶと何かを指示して、私に大股で近付いてくる。

 

 「トラウマか。原因は、鎖だな?」

 「っ……る、さい!」

 

 声さえ、上手く出せない。でも、屈したりしないとドフラミンゴを睨めば、本当に男をその気にさせるのが上手いなと呟かれる。

 言われてる言葉の意味が分からない。怖い、苦しい、シャンクス、助けて。

 無理矢理重ねられた唇。口内を蹂躙する長い舌は、いつものそれとは全く違っていて……。

 震えて動かない体を情けなく思いながらも、微かにでも体を動かすと聞こえる音により思考が定まらなくなる。それなのに、心が叫ぶ。

 

 「シャンクス、助け……」

 

 その瞬間前座も無しに、凶器と呼ぶのも烏滸がましい様なモノが私を穿いた。悲鳴さえでないようなそれに、涙が勝手に零れ落ちる。

 どうやって呼吸をしているのかも分からない状態で、痛みと呼ぶ事も許されない苦痛に苛まれる。喘ぐように、音にならない声でシャンクスとベックを呼ぶ私に、ドフラミンゴは容赦なく腰を動かして来て……。

 次第に体が痛みや苦痛を軽減する為に濡れていく。そうなると、痛みの中に、苦痛の中に違うものが混ざり始める。

 呼吸が出来るようになるけど、ただの痛みなら体はつらくても心は耐えられるのに……。感じたくないのに、身体は痛みを軽減しようと快楽を上手く拾ってしまう。

 

 「いゃ……も、やだ!」

 「……体は、よくなって来たみたいだがなァ?」

 

 ドフラミンゴの動きに合わせて水音が聞こえる。望まない快楽に、それでも心は屈しないと睨み付ければドフラミンゴが愉悦にその表情を歪めた。

 

 「そう、こねェとな。お前が簡単に堕ちねェ事は分かってて、犯してんだ。……安心しろ、体や心が壊れても、永遠にナミだけを愛してやるよ」

 

 死刑宣告された方がどれだけマシだろう。舌を噛もうとする度に激しく穿かれては、それも上手くいかなくて……鎖の音を聞けば身動きがうまく取れなくて……。

 私の意識が暗くなりかけた時に、ドフラミンゴが私の顔に何かを触れさせたと思ったら口枷を付けられてしまう。口を閉ざす事が出来なくされて、舌を噛めなくなった私にドフラミンゴは満足そうに笑う。

 その時、爆発音が聞こえた。余裕のない今覇気で調べる事は出来なくて、それでも分かる。

 シャンクス達だと、疑う事も疑問に思う事もなく、確信的に。それにホッとして体から力が抜けるのと同時に、意識も落ちて行く。

 敵を前にそんな事が許される筈ないのに、私は既に心も体も限界だった。どうしてドフラミンゴが私に執着するのかなんて、考える余裕は私には無い。

 後に嫁取り戦争と呼ばれる事となった四皇の1角と七武海の全面戦争は、こうして始まった。その戦争は長くはかからず、四皇が嫁を攫って逃げた事で解決したと歴史は語る。

 私がレッドフォース号に戻り数日。色々な意味で落ち着いた私は、傍を離れようとしなくなった自分の船長に視線を向ける。

 

 「シャンクス、心配かけてごめんなさい。……助けに来てくれて、ありがとう」

 「……助けに行くのが遅くなって、悪かった。体格差もあり、つらかっただろう。よく、生きててくれた」

 

 ここで何度も死のうとして、阻止されたと言ったら怒られるかなと思って口を噤む。それに、ドフラミンゴに犯されたのは初めてでは無いもの。

 知られたら、嫌われるかな。情けないと、呆れられるかな。

 

 「天夜叉から聞かされたから、ナミが襲われたのは初めてじゃねェってのも分かってるが、だからこそ……よく、生きててくれた」

 「……シャンクス……ありがとう……ごめんなさい」

 

 知られていた事に少なからず衝撃はあるけど、それでも離さないと言ってくれる温もりに泣きそうになる。不安を全て分かってると言いだげに優しく微笑まれて、涙を落とさない事がだんだん難しくなるのを誤魔化すように、その胸に顔を埋めた。

 優しい温もりに包まれると、ああ帰ってきたんだと、安心するし嬉しくもなるけど……。私は襲われた時、抵抗らしい事が何も出来なかった。

 情けない。何が子供の頃よりは強くなっただ。

 何も……変わってない。私はまだまだ、弱い。

 村の事も、シャンクスが大丈夫だと言ってくれたから、何かして貰ったんだとは分かる。私はこの恩にどうやって報いたら良いんだろう。

 その時、シャンクスの手が顎に触れて、直後に唇が私の唇と重なった。優しいそれに、でも私は数日前に……と、戸惑う。

 

 「ナミ、俺が怖いか?」

 「違う!でも、私は……」

 「なら、上書きさせろ。……優しくしてやる」

 「馬鹿ね……。シャンクスは、いつでも優しいわ。ごめんね、もっと強くなるから……だから……」

 

 もう何も言うなとばかりに塞がれた唇。その優しくも甘い口付けに、心も何もかもが絡め取られるような気持ちになる。

 羽毛の中に埋められているような、優しくも擽ったいようなそれに、何とも言い表せない感情が渦巻いて涙が零れ落ちる。それは決して、マイナスのものでは無いけれど……。

 優しく労わるようにその涙を唇で拭うと、シャンクスは小さく何も考えるなと言うから、素直に身を任せる。シャンクスと繋がった時、もう離れたくないと思わされる程で……。

 いつも少し残ってる髭に手を伸ばして、少しジョリジョリするそれを撫でる。数日前に倒した筈の、お花畑な私が表に出て来るのを感じる。

 

 「シャンクス、大好き。私は、シャンクスがいい。シャンクスじゃなきゃ……いやなの」

 「あんま、可愛い事言ってると……優しくできなくなるぞ」

 

 そう言って笑ったシャンクスの瞳は、何処か陰りがあった。だから私はその首に腕を回して、耳元に唇を寄せると囁く。

 

 「優しくしなくて、良いから……。シャンクスになら、何されても平気よ」

 

 その瞬間、中にいるシャンクスが明らかに脈動して、大きくなったのが分かり悲鳴をあげれば、シャンクスの獰猛な瞳と視線が交わった。後悔するなよと言葉を落としたシャンクスに、貪られる。

 シャンクスはおそらく自分を責めてるから、私は翻弄されながらもシャンクスを抱き締める。私は大丈夫だと、言葉よりも確かに伝えられるから。

 千の言葉を贈ろうと、万の言葉を紡ごうと、不安を拭うにも、絶望を溶かすにも足りないから。だから私にその渦巻く感情を吐き出してと願いながら……。

 それから3日、私とシャンクスの姿を見た者は居なかった事だけ、ここに残しておきたい。

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