※この作品はR-18です。

助けIFシリーズ   作:夢枕 七変化

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感情の捌け口※side

 天夜叉は不敵に笑う。自分の部下を引き連れて、俺の仲間達と敵対する。

 既に国は原型を留めてはいない。俺達は今ストッパーを失っているのだ。

 それでも、先に手を出したのは天夜叉達だ。その結果、この場所がどれ程荒れ果てたとしても、誰にもそれを責める権利はねェ。

 

 「俺の女に、よくも手を出してくれたな……?」

 「あ?あァ……赤髪の女になる以前から、俺とナミは……深ァい、仲だゼ?」

 

 剣を持つ手が微かに震えた。恐らく、こいつの今の言葉は本当だろう。

 鷹の目の他にいた、ナミを犯した存在。それは確実にいるとわかっていた。

 だから、それ程動揺しなかった。もし、予想外なら今頃俺の理性は消え失せ、この場は粉塵に帰していただろう。

 

 「外で、誰に見られるとも分からないような所で、ナミが俺のモノをしゃぶり……足を自ら広げて、俺に可愛がってくれと泣いて強請ったんだゼ。それを横取りしたのは……寧ろ、お前だろう。赤髪」

 「……脅迫でもしたか。もしくは、その能力で操っただけだろう」

 

 この男の言葉に嘘は見えない。ならば残される可能性はそれだけだ。

 幼い頃から妙にそういう行為に対して知識はあった。だが、自らがその対象とされる事を怯えに近い勢いで拒んでいたのをこいつは知らないのだろう。

 迷いの無い俺に、天夜叉は少しばかりの声の調子を変えた。その理由までは分からないが、何故か俺を昔から知っていたかのように振る舞う姿に寒気に近いものを感じちまう。

 

 「流石は……他の男を選んだ未来でもナミの〝大切な人〟であるだけの事はあるか。ここで揺れてくれた方が……楽しかったんだがなァ?」

 

 天夜叉の言葉が、よく分からない。違う未来があり、それを知っているかのような言葉。

 いくら見聞色の覇気を鍛えて未来を見る事が可能になっても、それは今の状態から先の未来であり、別次元の未来は見えないし、見えても役には立たない。なのに、何を言ってるんだ。

 天夜叉は言葉を向けて来ながらも、攻撃の手を緩める事はない。俺もまた、その攻撃をいなしながら思考を止める事も出来ないでいる。

 

 「……そんな〝大昔〟の事はどうでもいい。天夜叉、連れ去ってから現在迄、ナミは無事なんだろうな!?」

 

 覇気を纏い繰り出した剣に、天夜叉は小さくない舌打ちをして躱して行く。汗が流れているのは目視できるが、それはこちらとで同じ事。

 恐らく実力だけならば俺の方が断然上だが、下手に殺してしまってはそれこそナミの身が危うい。だからこそ、殺さない程度にと思うから、加減をしにくいんだ。

 明らかに天夜叉は何処かに力を分散してる。その分散された先がナミの所だった場合……生命の危険になった瞬間にナミが殺されるのは想像にかたくない。

 

 「あァ……生かしてある」

 「っ!?……それ、は……!?」

 

 どういう意味なのか、手荒に扱ったのか。心を破壊したのか、廃人にしたのか、それとも薬漬けにでもしたのか!?

 嫌な考えばかりが脳裏を過ぎる。それでも、答えを聞かないと言う選択肢は無い。

 俺の宝に、仲間に、恋人に……傷をつけたと言うのか。ならば、生かしてはおけね……。

 

 「……俺のせいとは言えねェぞ。ナミが、舌噛んで死のうとした。それを俺が、何も噛めなくして……生かしてやったんだ」

 

 感謝してくれよ?と、蔑むように言われて……ならば何故ナミが死のうとしたのかと考えれば、殺気立つのも当然と言えるだろう。寧ろ、良くぞ愛刀を粉砕しなかったものだと己を褒め讃えたい。

 

 「良い締りだったぜ。可愛く腰振って、ニャンニャンと鳴いてなァ?」

 「……そうだろうな。ナミは、敏感で非力だ。力づくなら、誰でもその状態を作り出せるだろう」

 「……過去の男はどうでもいいって言いたいのか?」

 「いや……どうでもは、良くねェさ。ナミが、泣いたなら全員敵だ……!!」

 

 俺の覇気を受けて苦しそうに喘ぐその姿。同じように覇気を使えても、格と言うものがある。

 これ以上こいつに構う暇はねェ。早く行かなければ、ナミが壊れる。

 

 「ベック!」

 

 呼ぶだけで伝わる。俺は覇気を用いて、真っ直ぐにナミの居場所へと向かい歩き出す。

 俺に向かう敵を、仲間達は許さない。俺は今、ナミを連れ戻す事だけを念頭に置いて動けばいい。

 ベック相手に、力を分散した状態で勝てると思うなら、それを続けたら良い。意識が無いのか、弱ってるのか、微かな気配だけを出して居るナミを求めて足を進める。

 怒れるベック相手に力を分散等出来る筈も無いから、俺が到着する頃にはナミの傍に置いてるだろうそれは消えてるとの判断だ。……できるなら俺がとどめを刺したいから、殺してくれるなよと思いつつ足を進める。

 時折まだ建物の中に残っていた邪魔なものが襲いかかって来るが、砂埃を払うのと大差ない。邪魔な物を斬り捨てながら進んだ先にあったのは、重そうな扉が1つ。

 ここに至るまでの絨毯の色が赤いから、ナミがこの廊下を見てもそれと気付かれないで済むだろうか。扉の前で考えたのは、そんな些細な事。

 優し過ぎるナミは、誰が怪我をしても気にするからな。今回の事を知ったなら、自分のせいで誰かが傷付いたと、己を責めるかも知れない。

 だが今はそんな事よりもとドアを開ければ、卑猥な姿に縛り上げられていた。聞いていた通りに舌を噛めないように口に装着された道具が見えれば眉が自然と寄っちまう。

 意識が無いのは確実なのに、何やら音が聞こえて近付けば、身体に装着された道具がナミの身体を無作為に刺激しているのが分かり……即座に全てを取り払う。意識がなくても身体は反応していたらしく、これで暫く目を覚まさないなと思う。

 縛られていたそれから解放してやれば、荒かった呼吸が落ち着き、汗で湿ったその身体を抱き上げれば、力無く身を預けて来る。くたりとしたその身体は熱く、だがこの汗の量ではすぐに冷えるだろうとコートを脱いでそっと包めば、何とも言えない気持ちにさせられた。

 こんな状態でも、ナミからは蜜柑の香りが漂う。汗で張り付いている前髪を避けて、その可愛い顔を覗き込んでも目覚める気配は皆無。

 近くに落ちていたナミの私物や武器を手にして、俺のコートの中で泳ぐようにしている存在を傷付けないように連れ帰る。その途中では覇気を撒き散らして、砂埃達とさえ戦わずに済むようにしていたが、ヤソップからの合図で方向転換して向かった先ではそうも行かない。

 幹部らしいそれを右手で相手しながら、早くナミを休ませてやりたいと思う。この身体が熱を発していなければ、死んでいるのではないかと思う程に深く意識を沈ませているナミに、今だけは少し感謝する。

 意識が無いなら、どれ程残忍に振舞おうともナミを悲しませずに済む。生き物だった肉片を踏みつけながら船に戻る為に足を進める俺は、髪が赤くて良かったと思わされる位の惨状になっていた。

 

 「ナミ抱いててその顔はいただけねェな、お頭?」

 「抱いてなきゃ、この国滅ぼしてるだろうな」

 「違ェねェな!!」

 

 明るく笑うヤソップが、俺の1味においては良心と呼ばれる程優しい存在なのは中々に理解し難いだろう。人は見掛けによらないとはこれだろうか。

 そんな事を考えながら船に戻れば即座に出航となり、置土産にと砲弾を投げようとしてベックに辞めとけと言われちまう。ナミが目覚めた時、それを知ったら悲しませるぞと言われれば確かにと思うばかりなのだから、俺もまだまだ甘さが抜けない。

 船医がナミを診て、治療してくれる。その間、幹部も他のクルーも、変わらない位に落ち着かない。

 1応俺はその間に風呂は済ませたが、それでも気持ちは落ち着かねェ。……血の臭いは、もう落ちただろうかとそんな事が少しばかり心配になった。

 

 「ナミ……」

 

 誰の呟きなのか、祈りなのか……。そんな事を考えながらナミの目覚めるのを待つのは、本当に生きた心地のしない時間だった。

 

 「今からでも、あの国滅ぼしてきましょうよ!!」

 

 そんな言葉が聞こえて、内心で同意する俺にベックが呆れた視線を投げて来る。……わかってるから、その視線辞めてくれ。

 名も知らぬ敵を原型も留めぬ程に切り刻んで来たし、国の建物はほぼ存在しなくなっている。民間人には手を出さないように心掛けたが、無傷とはいかないだろう事はわかっていた。

 今はこれ以上の報復を望むべきじゃねェと、理解はしてる。それでも、俺達の怒りはまだまだおさまりそうにないと言う、ただそれだけの事だ。

 

 「ナミが、嘆くぞ。〝私のせいで、無関係の人が傷付くなんて……!!それなら、死んでしまいたかった!!〟とか言い出すだろうな」

 

 その言葉は全員を黙らせるには十分過ぎる。何せ〝女海賊〟でありながら、囚われた先で犯されるのを拒み死のうとした位に高潔で……敵でさえ、傷付ける事を躊躇う女なのだから。

 その後ナミが目覚めたと聞いた俺達が、入れ代わり立ち代わりその部屋に向かう。結局、ナミが1人になる時間は5分として与えられなかった。

 僅かな時でも1人にすれば、また奪われるかもしれない。そんな思いが俺達の中にどうしても渦巻いていたから。

 ナミはどれ程傷付き、苦しんだのか。なのにやる事が山積して、俺は中々に傍にもいられない。

 傘下の海賊船からも引き上げたとの連絡を受けて、俺は漸くナミの為に時間を費やせるようになる。そうして部屋に迎えば、強がりでも何でもないだろうとわかる様子で困ったように微笑むナミが居た。

 自分の傷には無頓着で、人の事ばかり気にする柔らかな生き物。俺の、全てを受け入れてくれる存在。

 

 「何か、欲しい物はないか?」

 「……紙とインクがあれば充分よ。あ!」

 「ん?」

 

 何かを思いついた様子を見せるナミに首を傾げる。すると少し恥ずかしそうに笑った。

 この甘やかな生き物は、それでも俺達が誰に何をしてもそれを苦しみながらも受けいてくれる。決して否定しないで居てくれるのだ。

 世界から疎まれ、嫌われている俺達の前に突如現れた、温かな存在。赤髪の女神とは、よく言ったものだと思う。

 

 「楽器、何かあったら貸して」

 「……分かった。ベッドで使えそうなの、持って来る」

 

 そう言って、クルーにそれを頼んで部屋で書類を纏めていれば、ナミから不思議そうな視線を向けられる。何事かと思ったら、無礼な言葉が返ってきた。

 

 「シャンクスって、仕事する事あるのね」

 「俺……船長なんだけど、ナミもそれは知ってるよな?」

 「何もセンチョーでしょ?いつも大切な所は、ベックがやってるじゃない」

 「何言ってやがる。最終判断は俺の仕事だ。まァ、その前の面倒な所は任せてるけどな」

 「ほら、やっぱり」

 

 そう言ってクスクス笑うナミに、その笑顔が失われて居ないのならば良かったと心から思う。ナミが、生きていてくれて、本当に良かった。

 それでも、触れようとするとビクリと震えるから、その頭を撫でるのも躊躇う。手を握る事、頭を撫でる事、そして、軽く抱きしめる事。

 そんな順序を守る事で、ゆっくりとその心を解していく。そんな日々の中、ナミは楽器を奏でて時折歌うから、それで心が休まるならばと……俺は静かにそれに耳を傾けていた。

 その数日後、甲板に出たりするのに問題も無くなったナミにホッとするのに、同じ船内にいるのに、不安で付いて回る。視界からナミが消えるのが、怖くてたまらない。

 そんな俺の心を見透かしたように、部屋に戻るのと同時にナミが言う。辛い思いをしたのは、痛くて苦しい体験をしたのは……ナミだろうに。

 

 「シャンクス、心配かけてごめんなさい。……助けに来てくれて、ありがとう」

 「……助けに行くのが遅くなって、悪かった。体格差もあり、つらかっただろう。よく、生きててくれた」

 

 俺の言葉に肩を落とすナミは、また妙な事を気にして自分を責めているのだと気付く。……何考えんだかな。

 あー……他の男に触られたから、捨てられる……とかか?海賊がそんなん気にしてたら、俺達は誰も女海賊を抱けねェだろ。

 そう思ってそっと抱きしめる。細い身体が、また1段と小さくなったように思えるのは、俺の気の所為だろうか。

 

 「天夜叉から聞かされたから、ナミが襲われたのは初めてじゃねェってのも分かってるが、だからこそ……よく、生きててくれた」

 「……シャンクス……ありがとう……ごめんなさい」

 

 謝る事なんて何も無い。生きていてくれた、そして、俺を拒まずに居てくれる。

 それだけで充分なんだ。俺は、ナミがこの腕の中に居てくれるなら、他には何も望んで居ない。

 幸せだと思う。こうして、ナミが居てくれるだけで。

 そう思って笑ったら、ナミが甘えるように胸に顔を埋めたから、その頭を優しく撫でる。そのまま手を滑らせて顎を掴めば、己を責めているのがその瞳を見ただけでわかっちまう。

 だから、何も言わせたくなくて唇を重ねる。その瞬間に震える身体が、妙に悲しい。

 

 「ナミ、俺が怖いか?」

 「違う!でも、私は……」

 

 泣きそうな声で、震える瞳で、必死に縋り付くように俺に手を伸ばして……。なァ、ナミ、頼むよ。

 そんなに必死に、俺達の事ばかり気にしないでくれ。自分に対してもう少し、優しくなってくれよ。

 

 「なら、上書きさせろ。……優しくしてやる」

 

 何をされたのかは、助けた時の状況からだいたい見えてる。俺との戦いが終わった後、天夜叉はまた虐め抜くつもりだったのだろう。

 奪い返せて良かった。壊れる事もなく、今この愛しい存在は俺の腕の中にいる。

 よく生きててくれた。よく、帰ってきてくれた。

 俺はそれだけでら充分なんだよ。俺もこれでもう、何も出来なかったと己を責めなくて済む。

 

 「馬鹿ね……。シャンクスは、いつでも優しいわ。ごめんね、もっと強くなるから……だから……」

 

 言葉の途中でその唇を塞ぐ。そうしなければナミはきっと己を責める言葉か、俺を甘やかす言葉を口にすると思ったから。

 何度でも助ける。何処へだって迎えに行く。

 俺は仲間を、友を、最愛の女を……この手で守り抜くと決めている。大切なものを喪って、嘆くばかりの人生なんて嫌だから……俺は力を手にしたんだ。

 静かにナミが涙を落とす。その目尻に唇を移動させて、その涙を拭えばその味から、どうやら悲しみや痛みでのそれでは無いと気付く。

 

 「何も考えるな」

 

 今はただ、俺に愛されていれば、それで良い。ベッドに沈めて、傷付けないように優しく愛撫を繰り返せば熱い吐息が俺にかかる。

 声を抑えて、小さく震えるのは羞恥からだろうか。……今は声を出しても、出さなくても、どちらでもいい。

 深く繋がれば、あんな巨大な奴に好きにされたとは信じられない程に俺に良く絡む。俺を拒絶するなんて考えないと身体が俺に教えてくれる。

 身体に負担をかけてないかと不安になって、その顔を盗み見ようとした時、そっと俺の髭を撫で始めたナミの小さな手。指先が髭を擽るようにして、それから破顔した。

 

 「シャンクス、大好き。私は、シャンクスがいい。シャンクスじゃなきゃ……いやなの」

 

 ナミが天夜叉に、何をされたのかは分かってる。傷付いたのも、苦しんだのもナミだ。

 誰に何をされたとしても、俺の元に帰って来るなら構わない。その気持ちに、想いに、偽りは欠片も無いと言うのに……。

 ……俺は、ナミを包んでやりたいのに、傷付けそうで、それが怖い。ただどうしても、もっと早く、何もされる前に助けてやれなかった自分が、憎くて……その感情の矛先をナミに向けそうになる。

 

 「あんま、可愛い事言ってると……優しくできなくなるぞ」

 

 狂気に近い感情を隠して言葉を口にした瞬間、首に回された細い腕。そのままナミの唇が、俺の耳元に寄せられた。

 鈴を転がすような愛らしい声が、妖艶に言葉を紡ぐ。夜の花々さえ霞むような妖艶な空気を出して。

 

 「優しくしなくて、良いから……。シャンクスになら、何されても平気よ」

 

 馬鹿野郎。止まれなくなるぞ。

 その言葉の代わりに暴れ出す己の熱を感じて、傷付けないようにと思っていた筈の相手を喰らい尽くすと決める。全てを俺に、塗り替えてやるよ。

 

 「後悔するなよ」

 

 抑える余裕の無くなったナミの甘い声が響く。愛していると、私は大丈夫だと身体で伝えて来る甘い女に、俺が甘やかされて溺れてしまう。

 千の言葉を贈ろうと、万の言葉を紡ごうと、不安を拭うにも、絶望を溶かすにも足りないのならば、身体で俺の想いを伝えよう。俺の感情の捌け口になるのがナミだと言うのならば、ナミの感情の捌け口になるべきなのもまた、俺だけだろうから。

 それから三日後、いい加減にしろとベックが突入して来るまで、俺はナミを貪り続けた。部屋に偶然用意していた果物が無ければ、俺がクルーに始末されていただろう事は間違いない現実だ。

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