俺のやった武器がカランと音を立てて落下した。それを見た俺は、船室を飛び出すと全力で叫ぶように指示を出す。
目的地へ最速で向かわせる為に。それ以外は、今は全てがどうでもいいと思えた。
武器も無しにあんな治安の悪い島に行くとは、どう言うつもりだ。ナミは奴隷にされたいのか!!
そんな怒りを全身から滲ませる俺に、ベックが何処か呆れたような視線を向けて来る。だがな、この場合俺はおかしい反応はしてねェぞ。
「お頭……そんなにナミが好きか」
「ん?当たり前だろ。ナミは、あの頃からずっと俺のモノだ」
2度と、傷付けるつもりはねェし、守り抜いてやると誓っている。大切なんだ……誰よりも。
「それ程経たねェで島につく。だが、それ程大切なら買い物くらい行かせてやれ」
「……大切だから、行かせたく無かったんだよ」
「勝手に飛び出される位なら、行かせてやって誰かに後をつけさせた方がマシだろ」
ベックの言葉にうぐぐと言うしか出来ない俺は、多分相当情けないだろう。それでも仲間達は何も言わずに、俺に好きに進めと言ってくれる。
……甘やかされてンなァ。ナミと俺には、皆格別に甘い。
それを分かっていて、それに甘える俺は狡い奴なのかもなと思いつつも、ナミを求めて海に視線を向ける。無くなっている小舟すら無いから、月歩で移動したのだろうとわかるが、本当にいらん事ばかり覚えてやがると肩が落ちた。
どこかしこで男を引っ掛けて歩くナミだからこそ、俺も心配になる。漸く誰にも奪われる事無く、共に過ごせると思っていた矢先にこれだ。
気持ちを落ち着かせる為に深呼吸してから、覇気で探ればナミを見付ける事は出来たが……まァた、変な変装してやがる。……チッ、また、変装の腕上げやがったな。
変な香水でも使われて、数日宿にある風呂でも使われたらそろそろ見付けるのに苦労させられそうだな。だがまァ、とりあえずの所帰ったらあの鬘は処分だ。
幾つの鬘を持っているのだろうか。見つける度に捨てているのに、まだ持ってやがったか。
折角綺麗な髪なんだから隠すなよと何度言っても、目立つんだもんとか言うナミ。余り徹底してやると、染めるとか言いそうで怖いから本気で捜索してないってのもあるが、本当に変装グッズの種類は豊富な様子だ。
買い物した物を抱えて楽しそうにしていたナミを連れ戻せば、クルーは声を揃えて迷子の子猫の帰宅を喜ぶ。ナミもそれには罰が悪いのか少し俯いているが……いくら言ってもナミは、俺に謝ろうとはしない。
ナミを俺の部屋に連れ込み、ベッドに縫い付けるように抑え込めば驚いたような顔を俺に向けるがそれでも、俺が叱ればふいっと視線を逸らしてしまう。なんなんだ1体。
「ナミ、いい加減に謝ったらどうだ?」
「……シャンクスは過保護過ぎるのよ!嫌なものは嫌。絶対謝らないから!」
何時までその強気が続くかなと、その身に触れれば俺の指先1つでその体は受け入れ態勢に入る。それをナミは悔しそうにしているが、そうなるようにこれ迄抱いてきたんだ、諦めろよ。
「やぁっ!シャン、クス!やめっ……んんっ」
「可愛い声だが、誰かに聞こえても知らねェぞ」
「やだァ!シャンクス、お願い……も、やめっ……!あァやっ」
他の男の癖を体が忘れるように、何度も抱いたこの体が俺に逆らえる筈もない。それなのに、1言の謝罪を求めてもナミはそれを頑なに拒絶する。
「絶対、謝らないから!それに、今これ以上するなら、シャンクスの事……嫌いになるからっ!」
「ナミ!」
「私だってたまには1人で、買い物位行きたいわよ!シャンクスの馬鹿!」
生意気な口を塞ぐようにキスすれば、ナミは悲しそうにその瞳を揺らす。キス1つでナミは俺の怒りや悲しみといった感情をいつも読み取るから、分からせるにはこれが早い。
唇が離れる頃には少し大人しくなっていて、それでも小さく謝らないからからなんて言っている。頑固すぎるナミの頭を軽く撫でて離れれば、自らのその身を強く抱き締めた状態でナミは小さく震えた。
「部屋から出るなよ。今度こそ言いつけを守れ。それが出来ないなら……」
「船から、降ろす?」
クスリと笑ったナミが問い掛けてくるから、俺はそれにいや……と首を横に振る。それに対してナミは不思議そうな顔で俺を見上げるから、撫でていた手を滑らせるようにして後頭部へ移動させながら言う。
「縛り上げて、何処へも行けなくしてやる」
本気だと伝える為に口付ければ、ナミはその身を震わせた。今は、ここまでにしてやろうと唇を離せばナミは泣きそうな顔になっているが、話を聞こうともしないナミが悪い。
部屋から出て行く俺にナミは何も言わず、俺もまた残すナミに何も言わない。……少し、虐めすぎたか?
甲板に出てから少しばかりナミの様子が気になり、ウロウロとしていたらヤソップに銃で殴られた。銃とは、鈍器として扱うべき物じゃ無かった筈だがな?
「気になるなら、今夜戻ってから謝れば良いだろ」
「ばっか!俺がナミを叱ってんだぞ!」
「叱るつもりが、虐めてたんだろ。で?泣かれたか?」
「……悲しそうにされただけだ」
俺の言葉にヤソップはふぅんと言ってから、ニンマリと笑って口を開いた。コレでヤソップは人の事を良く見てるから、その言葉を適当に流す事も出来ねェんだよ。
「ナミ、強がりだからなァ。1人で泣いてるかもなァ。自分の事には自信なくて、基本的にマイナス思考だしなァ。となると『シャンクスは私の事、嫌いになったのかな。だから、あんなに怒ってたのかな?』とか思ってそうだよな」
「辞めろ。悪かった。俺が悪かった!今夜謝る!」
俺の言葉に周り中が笑う。ナミは、どうしてこんなにも、皆に愛されてるのか。
夜部屋に戻ると俺のコートを抱いてソファで寝てるナミが居て、何してんだと近付けば涙の跡を見付ける。ヤソップ、大当たりかよ。
「悪かったな。心配したんだ、許してくれ」
寝ているナミの頭を撫でながら言葉を落として、そっとその身を抱き上げてベッドに移動させる。そのまま俺も寝ようかとベッドに入り布団をかけた瞬間、ナミが起きた。
寝惚けた様子のナミは、それまで俺のコートを離そうとしなかったのに俺にそっと手を伸ばすと甘えたように擦り寄ってきた。俺のコートは、どうやらお役御免らしい。
「……しゃんくすだぁ。おかえり、なさい」
「ん、ただいま」
「きらわないで」
続いた言葉に返事をしようとした時には、ナミはもう眠っていた。俺は無意識で、その体を強く抱き締めてしまう。
明日からは普通に過ごさせてやろうと決めて、その額にそっとキスをする。……俺が、ナミに勝てる筈が無いんだ。
「……どうやれば嫌えるか分からねェよ」
愛し過ぎて、おかしくなりそうだと心と言葉で呟いたが、俺の呟きはどちらも空気に溶けて、誰の耳にも届かなかった。朝になるとナミが俺の腕の中で混乱していて、可愛いなと思いながらもじっとしてろと抱く腕に力を込める。
「シャンクス!ねぇ、離して!私起きたいの。というか何がどうなって、シャンクスに抱かれてるの!?」
「……ナミが、俺に『寂しかったの、ギュッてして』って言って飛び付いてきたから、抱き締めたらそのまま寝たんで俺も寝た」
「絶対嘘!」
……まァ嘘だが、近かったとは思うぞ。そんな事を思いながらも手を離して、とりあえず昨夜可愛かったから許してやると言えばナミは頭を抱えて崩れ落ちた。
私何したのとか、お花畑めとか、何やらブツクサ言ってるが、まァ……少しは悩め。俺の事で頭をいっぱいにして、俺だけのナミでいろよ。
それから数日後。まだ日も昇りきらない時間帯に、俺の腕から抜け出したナミが部屋をそっと出て行く。
シャワーかと思ったのに違う様子にどうしたのかと探っていれば、各部屋に箱を置いて回っていた。……なのに、誰も起きねェ。
流石は泥棒猫と思いながらその行動を部屋から確認していたらベックに捕まった様子で、何やらベックが楽しそうにしている。それに苛ついて迎えに行けば、ベックにニヤリと笑われてしまった。
「おはよう、お頭」
「ベック、ナミを返せ」
「だとよ、ほらさっさと渡してやれ」
「ベックの馬鹿!役立たずー!」
「……何があったんだ?」
俺の問い掛けにナミが顔を赤くして、ベックは楽しそうに笑う。そして、嗚呼と言ったベックが俺に言う。
「お頭へのチョコを渡すのが恥ずかしくて、部屋に適当に置いといても気付いて貰えそうもねェと相談されたが、机に置かせとけば良いか?」
「ベック!?」
「……ナミ、直接寄越せ」
動揺するナミに言えば、項垂れつつもはぁいと返事をしたナミの頭を撫でてやる。そのままナミの腕を掴むと、部屋に連れ帰った。
それにしても、そうかあの買い物はバレンタインの為だったか。と言うか、今更チョコ渡す程度の事で恥ずかしがるなよと少し思う。
部屋に戻ると観念した様子で俺にチョコの箱を差し出したナミは、俺を泣きそうな顔で見詰めてくる。それはあの叱った日と雰囲気が似ている。
「離して、お願い」
「……何が入ってるんだ?」
「ち、チョコに決まって「それだけ、か?」」
「五月蝿いわね!離して!離せー!」
質問した瞬間泣きそうだったのが嘘のように暴れ出して、顔を真っ赤に染めたナミが俺の腕に必死に抜け出そうとする。恐らくは本気で抵抗してるんだろうが、無駄な足掻きだ。
お前が力で俺に勝てる筈ねェから、諦めろよ。そう思いながら箱をナミの目の前で開ければ、中からはメッセージカードとチョコが出て来た。
俺がそのメッセージカードに手を伸ばせば奇声が発せられて、ナミの折角開かれた唇だからとそれを塞ぎつつ開けばメロディが流れ始めた。どんな仕組みだと驚いていたら、ナミの声がカードから聞こえてくる。
「意地張ってごめんなさい。シャンクス、大好きよ。Happy Valentineって事でチョコ用意したので、後で食べてね。……ハブ酒使ってるから、食べ過ぎないで」
カードからの声が終わると、腕の中でナミが力無く崩れ落ちそうになるから成程なとベッドにナミを落とす。それに目を白黒させるので、チョコはベッドサイドに置いてからその白い首筋に噛み付く。
「今の言葉だけで、元気になった。責任取れよ」
「や……朝から、無理だから……!」
「船長命令だ、今日は俺と部屋に篭ってろ」
「やァ……!そんなの、ずる、ぃ!」
さて、どうやって食ってやろうか。唇でナミの体を愛撫しつつ、そんな事を考える俺は結局優しくはねェんだろうな。
Happy Valentine……赤き龍に囚われた時点で、兎に逃げ場などある筈も無い。震える兎はそれでも、龍をこよなく愛しているのだから離れたとしてもすぐに駆け戻るというのに。
龍はその僅かな時さえ待てぬと、自らの身に兎を抱き込み離そうとはしないのだった。二人の甘やかな時は、いつも唐突に幕を開ける。