ホワイトデーに何を贈るべきか。……バレンタインでは、随分と楽しませて貰ったからな。
貰ったメッセージカードは大切に保管してあり、ナミが執筆を開始して構ってくれなくなると聞いている。いつでも声が聞けるという点においては良いが、どうせなら愛の言葉をもう少し入れて欲しかった所だ。
その時ニュースクーが降り立つ事無く新聞を束で甲板に落として、真っ直ぐにナミの部屋に向かった。後から金を回収に来るだろうが、何を急いでいるのかと部屋に入ってみると中ではナミが渡された箱を嬉しそうに優しく撫でている姿を目撃する。
蕩け切った顔をしているのを見れば、母親か姉だなと分かり溜息が落ちる。ナミが、自分を犠牲にする事を厭わない相手……か。
俺達の為にもナミは、簡単にその命を捨て去るだろう。だが……いや、だからこそ、ナミには〝俺の為に生きて〟欲しいと願っちまうのは、我儘なんだろうか。
簡単に捨てないでくれよ。俺には、ナミが必要なんだ。
そう思った時ナミの指先が俺の唇に触れたので、食べて欲しいのだと判断してその指を食べてやる。すると想定外に甘い上に、ナミの指がナミごと逃げた。
「と、特別……よ。私がノジコから貰ったマシュマロなん、だから」
明らかに動揺してるナミが可愛い。マシュマロよりもお前を食いたいと思いながら適当な返事をする俺に、ナミは笑ってそうでしょーと言うから、うん、そうだから食わせろと思う。
だが兎耳生やした猫は楽しげに笑うばかりで、その内無邪気に飲み物まで差し出してきた。それをとりあえず貰ってから、ここにいると冗談抜きで襲うなと判断して傍を離れる。
後ろ髪引かれつつ部屋を出た俺は、ベックに〝ギフト系に強い島に行きたい〟と言って呆れたような顔をされる。それでもベックが俺に逆らう事はない。
翌日到着した島で、ナミの事はヤソップに任せて俺は買物に向かう。この島なら多分、ナミも測量の他は大人しくしているだろうと判断したからだ。
その時不思議なネックレスを売っている所を見付けて、俺は足を止める。2本のネックレスに、左右対称の雫型の石がついている。
石の種類は豊富だが、だいたいどれも半円だったりはしても左右対称の飾りとなっているのが分かる。その石とネックレスを繋いでいる金具も少し変わっていて、何だろうとマジマジと見ていたら声を掛けられた。
「何かお探しですか?」
「ん?まァ……恋人にと思ってな」
「恋人さんはピアスですか?イヤリングですか?」
「……穴は、無かった筈だ」
答えると店員はそっと俺に1つのネックレスを差し出して、目の前で飾りを外して見せた。それはイヤリングで、ピアスホールの無い人間が耳に飾りを付けるのに使える物だが、それを少しキツくしてネックレスにも付けられるようにしてあるのだと言う。
それの石はネックレスとしてつけると2つが合わさった時、ハートや丸の形になるように設計されているので、カップルで買う事の多い物なのだそうだ。2つで1つのネックレストップでありながら、イヤリングか……。
「なら、アクアマリンでハートの物を貰えるか」
海のお守りとして有名な石だからか、店員は即座に頷き俺にそれを確認のために見せて来た。その片方を自分で今身に付けて、もう1つを包んでもらうとそれを手に急いで帰る。
それから数日は時の流れが遅く感じる程で、ナミは喜んでくれるだろうかとか、気付くだろうかとか、少しソワソワしながら待っていた。そうして迎えたホワイトデー当日。
朝からクルーが揃ってナミの元へ顔を見せては色々と渡して、それに対してナミはありがとうと言って受け取る。そんな様子なので、俺から渡すのは夜になりそうだなと思っていたが、昼頃にはナミの姿が見えなくなった。
……何処に?
辺りを探ればベックと2人でナミが何やら話しているのに気付き、様子を伺う。大概大切な話で顔を突き合わせてるので、それだろうと言うのはあったが、今日はホワイトデーだから何かをベックが渡すなら、それくらいは待ってやろうと思っていた。
「お頭には、俺から貰ったと言うなよ」
「でも、それは……」
「ナミが責められるのは本意じゃねェから、自分で用意した事にしとけ」
「ベック……」
「俺は、何があってもナミの味方だ」
その会話だけでも止めに入りたくなるが、様子を見ているとナミからベックに飛び付き、それをベックが優しく抱き留めてしまう。そして、ベックはナミの髪に指を絡めるようにして持ち上げると、そっと髪にキスをする。
ナミはそれに気付かず、ただベックに抱き着いたまま動こうとしない。……この2人が、俺を裏切るような事はしないと分かっている。
分かっているが……気に入らねェ!離れろ!
「ナミ!」
「シャンクス?」
ベックに抱き着いたまま俺を振り向き、どうしたの?とでも言いそうな様子で小首を傾げるナミに、ナミはどうやら単純に甘えてただけだと理解する。ナミが浮気してたら、このタイミングなら慌てて離れるのは間違いねェからな。
となると、問題はベックか。何故ナミを抱いたまま離さねェのか。
「ベック……」
「お頭、どうした?……随分と愉快そうだが」
「嫌味か。ナミを離せ」
「……余り、ナミを虐めるなよ」
「大切にしてる。これ以上無いくらいにな」
俺の言葉にベックはそうかと1言呟くとナミを引き離すようにしてから、くるりと向きを変えさせてその背を押した。結果としてナミはバランスを崩して俺に倒れ込んできたので、慌てて受け止める。
そんな俺達を振り向く事無くベックは去って行き、その場には俺の胸に顔を埋めるナミと、抱き留めたは良いがどうしたものかと動きを止めた俺だけが残される。ふわふわと香るのは、蜜柑の優しい匂いと、ベックの煙草の臭いだ。
それにより衝動的にナミの顎を掴んで口付けつつ、その腰を強く抱く。その直後、縋るように俺のシャツを掴んだナミから、小さな箱が転がり落ちてキスの合間にそれを確認すればゴムだと分かる。
「んっ……しゃん、くっ……ぁ」
俺から離れて言葉を紡ごうとするナミの唇を追い掛けるようにして塞いだ。それはは、ナミがあまりにも美味そうな様子になっていたのと、先程のやり取りの意味を理解したからだ。
いつか宿る事を恐れたナミが、ベックに相談でもしていたのだろうと分かったから。疑った事による罪悪感となんで船医じゃ無くてベックなんだと言う、自分でも意味のわからない嫉妬が理由だ。
……本来なら、素直に俺に言えば済む話だろうに。どうしてこいつは、自力で全てを解決しようとするのか。
そっと唇を離すとナミが呼吸を乱れさせ、それでも何処か心配するように俺を見つめる。甘く、優しい、俺の女神。
「ナミ、これを、お前にと思って」
「……いいの?」
「ホワイトデーだからな」
俺の言葉に微笑んだナミは、その場で包みを丁寧に開けて、中から出て来たそれに小さく首を傾げる。それから自らの首にあるネックレスを外すと、そっとそれに付けていた物を俺の渡したネックレスチェーンに付け直して俺に背を向けた。
「……つけて、くれる?」
「あァ、勿論だ」
首の後ろでそれを止めてやるとナミは小さくありがとうと言ってから、じっと雫型のそれを見詰める。そして……俺に少し待っててと言うと部屋へと駆け出して行った。
どうしたのかと思いながらも素直に待っていれば、帰って来たナミが俺に蜜柑の花を象ったイヤリングを片方差し出して来た。それを受け取ると、ナミは小さく笑う。
「ピアスとか、イヤリングは1つだけだと使えないから……ネックレスから外す時は、それつけて欲しいと思って」
「これは?」
「ノジコから、マシュマロと1緒に届いてた箱に入ってたの。私をイメージして、ゲンさんが作ってくれたんだって。だから、私だと思って大切にしてね」
笑うナミに、ならば、意味を理解したのかと思って苦笑する。ナミにとって、何よりも大切な人達からの贈物だろうに。
「ナミも、俺を身につけててくれるならな」
「……この間から、シャンクスが変わったもの身に付けてたから、気になってて……まさか、その片割れをくれるとは思ってなかったから、嬉しいわ」
「よく、気付いたな」
「……アクアマリンは海のお守りだから、雫型の物は多いけど、上が大きな雫型って珍しいから……って、なんでこれがなんでシャンクス?シャンクスなら赤系の石じゃないの?」
キョトンとした顔で言うナミに、俺は素直に答える。俺の石である理由を。
「俺の誕生石だ」
「……そっか、
意味のわからない納得のされ方に、少し息がもれた。それでもネックレスとしていても、イヤリングとしても、2つで1つの、お互いを意味するそれを交換する事になれば、気分は1気に上がる。
「なら、少し遅くなったけど、それはシャンクスへの誕生日プレゼントね。……ホントは、誕生日当日に渡そうと思ってた物もあるんだけど、なんでか宴開かれないし……渡しそびれちゃった」
「へ?……あ!ホワイトデーで頭がいっぱいで忘れてたな。よし、明日やるぞ」
「なら、その時にプレゼントを「今夜寄越せ。明日の宴にナミは参加出来ねェから」」
意味が分からないという顔をするナミにそっとキスをしてから、落とした事に気付いていないだろう箱を拾い、ナミを抱き上げる。その状態で部屋でイヤリングつけてやるよと囁いて、そっとキスをした。
ナミはそれに小さく頷く。だから、揃いのイヤリングをしてから、ナミの全てを貰おうと決めた俺の考えを理解していない様子に、いつまでもこんな所だけ成長しねェなと思う。
明日の宴に出られる程の体力は、残してやれねェよ。それ以前に、明日宴を開けるかも、定かじゃねェ程だ。
ホワイトデーにお互いを意味する物をと考えて、同時に〝2人で1つ〟なのだと伝えたいと男は願う。だからどうか、1人で遠くへ逝かないでくれと、祈るように願いながら女を貪るようにその身を重ねた。