戦争関連の騒動が何とか落ち着きを見せた後、部屋に引きこもりがちになったナミを俺達が気にしない訳もない。俺は当然だが、皆もそれとなく外へと連れ出そうと試みていた。
だが……心に大きな傷を負ったからか、それとも自らが有名になり過ぎたからか。はたまた別な何かが理由かは分からないが、ナミは頑なに部屋から出る事を拒む。
それでも必要な時は、甲板だとかには出てくれるんだがな。そんな日々の中で心配しないなんて選択肢は無くて、俺達はナミを連れて行った事の無かった縄張りの1つへと船を進めた。
これ迄この島に連れて来なかったのは、恋人や夫婦が来るとたまに恋の試練があるなんて阿呆な噂のある島だからと言うのが理由だった。ナミに何かあったらと思えば、来られる筈も無い。
それでも今回連れて来たのは、初めての島なら降りるだろうと言う事と、酒の美味い島だからだ。ナミは案外酒好きだから、誘うには便利だと判断した。
単純に書く事が楽しいってンなら邪魔したりしないが、何かに追い立てられるようにしているそれを黙って見ている事は出来そうにない。自分を追い込んで、何も考えない事で現実逃避しているだけだと分かるからな。
「ナミ」
声をかけるとビクリと揺れる体に、意識はちゃんと現実にあるらしいと気付く。書いている物を覗き込めば、殆どペンが進んでいなかった。
これは、連れ出すには好機だな。愛しい女だが、どうしたって大切な仲間でもあるんだ。
「ナミ、気分転換にデートしようぜ」
「シャンクス……」
「進んでねェなら、机に向かってても時間の無駄だろ。行こうぜ!」
俺の言葉にナミは曖昧に頷くから、ヒョイっと抱き上げて外へ連れ出す。すると、恥ずかしいから降ろしてなんて言い出した。
恥じらい俺に縋るように視線を向けるナミは恐ろしい程の愛らしさだ。そうなれば当然蝿が群がるのは、考えるまでもなくわかり切っている。
それを俺が認める筈も無く、抱いて移動する。ナミは涙目で降ろしてと言うが、その顔俺以外に見せんなと心から思う。
俺としては、誕生日にナミの家族から贈られてきた物を使いたい訳だよ。なのに、未だ告白さえ出来てはいないのだから、少しでも早く気分を変えて貰って俺の話を聞いて欲しい。
デートの名目で連れ出した俺は、ナミを洋服店に連れ込み着替えさせて遊んだ後、日暮れが近くなってから目的地のBARへと足を進めた。そうしてBARに到着すると、俺の姿を見た店主が景色の良いと言う席まで案内してくれて、ナミは珍しそうに店内を見渡している。
いつもは良くある汚い酒場が多いから、こんないかにもなBARに連れて来たのは、そんなに多くなかったなと気付く。バーカウンターから見える景色は確かに美しく、ナミもそれに意識を奪われているのがよく分かる。
「
「珍しい、生じゃないなんて」
「ここでそれを頼む程無粋じゃねェつもりだぞ?」
そんな事を言った俺にナミが嬉しそうに笑う。そして用意された酒を見て不思議そうにするから、教えておく。
「その酒はアルコール度数はナミには低めだが、神秘的な味と香りから、天女をイメージされている。グラスを傾ける度に、天女の赤い羽衣が揺れる様子をと言う作品だ」
「あら、素敵。シャンクスのは?」
「ナミの色の酒だから頼んだだけだ。特に何か語れるような話はない酒だぞ」
言えばふぅんと言って酒に唇を寄せて、ナミには弱めと言ったが29度あるそれを、本当に軽いわと言って楽しそうに呑む。俺のは見た目はシンプルでオレンジ色ってだけの酒でありながら、42度あるそれを口にする。
それを1旦カウンターに降ろした時、ナミの手が伸びてきてそっと俺のグラスを奪い取ると1口舐めた。そして、こっちのが強いなんて言うからコラと言ってナミのグラスを俺も1口貰う。
どちらも甘口だから俺には合わねェなと小さく笑えば、ナミはお酒を返せと言って俺からグラスを奪い取る。そして仕方なく自分のグラスに手を伸ばしたら、何故かグラスが空になっていた。
「ナミ?俺の酒……」
「ん?シャンクスが私のお酒に手を出した時、飲み干しといたわ」
「なのに俺が舐めたら残りは奪い返すのかよ……」
「ふふっ……でも、どうして、BARに?」
謝りもせずに、珍しいなんて言いながら新たな酒を注文するのを聞いて、俺はウィスキーをロックで頼む。その酒を口にしながら、夜景が綺麗だと聞いたからなと言えばナミが少し照れた様子でありがとうと笑った。
途中ナミが俺にウィスキー・ソーダは辛口よなんて言うから、それを頼んでみたが、炭酸水をウィスキーに少し加えただけの飲み物だろうと言えば、カクテルなんて皆そんな物じゃないと笑う。無邪気な笑顔で楽しそうに言うそれに騙されそうになるが、ナミはまだ未成年である。
恋人だからと手を出している俺に、言えた事じゃねェけどな。その時ナミが突然問い掛けてきた。
「私の書いた作品に〝白雪姫〟って言うのがあるのは知ってる?」
「ん?あァ、童話だったな。それがどうかしたのか?」
俺が問い掛けると同時に差し出された酒は、夢一夜と言う酒で、それを嬉しそうに口に運びながら言葉を向けて来た。その酒は完成してすぐ呑まないと、不味くなる酒だったよな。
珍しい酒をよく知ってるもんだ。そう感心しつつ眺めていたら、ナミの唇が動く。
「騙されて毒の林檎を食べさせられたお姫様は、王子様からの優しいキスで息を吹き返すんだけど……まぁ、実際には有り得ないわよね」
酔ってるのかと問いかけたくなる程に、色気に富んだ姿で、なめまかしい仕草で、髪を耳にかけながら瞳を揺らす。まるで誘ってるかのようなそれに、劣情が刺激され喉が鳴りそうになる。
「好きな人からのキスで目覚めるとか、憧れるわ」
「キスで毎朝起こしてやろうか?」
「……お願いしちゃおうかな」
揶揄うように言った俺にハニカミながら言うナミは、恐ろしく美味そうだ。即座に唇を得ようと手を伸ばしたが、ナミは風にあってくると言って俺の手を躱す。
だが、ふらつくそれに心配にならない筈も無く、慌てて立ち上がったがワンテンポ遅かったらしい。ナミは俺の目の前で倒れて、頭を強く打ち付けた。
抱き起こしてみると、焦点が定まっていない。頭を揺らさないように気付けつつ、そっと脈を確認するが、そちらに異常は無さそうだ。
その状態で俺の腕に触れたナミは、縋るように言葉を口にする。震えるその声が、俺にこの島にある嫌な噂を思い出していた。
「必ず、迎えに来て……」
「ナミ!!辞めろ、眼を閉じるな!!ナミ!!」
船長がもう長くないと、そう聞かされた時の絶望よりも大きな衝撃が俺を襲う。それでも、閉ざされた瞳は開かれる事がない。
船長は、死ぬ事なんて本当は無いんじゃないかと思うくらい強かった。結局船長の選んだ道は、ある意味で自殺であり、病気に殺された訳じゃ無かった。
病気を押し殺せるくらいに強かったんだ。だが……ナミは恐ろしく脆い。
すぐに皆の所へと思いナミを抱いて立ち上がれば、店主が慌てて駆け寄ってきて頭を下げた。なんだと思って動きを止めると、頭を下げたまま言葉を口にされる。
「島から連れ出さないでください!大頭にご迷惑をおかけするつもりなど毛頭なかったのです!どうか!お部屋を用意させて頂きましたので、そちらに!」
「……詳しく、話を聞かせて貰えるな?」
問いかければ部屋に案内しますと言われるので、それに続いた。そこで話を聞けば、あの噂が真実であったと分かり、連れて来たのが間違いだったかと頭を抱えちまう。
「戻す方法は?」
「分かりません。1晩で戻ったケースもあれば、半年かかっても戻らなかったケースも聞いております。しかし、1年以内には皆様戻っています」
「……なら、急ぐ事もねェから構わねェが……記憶がなかった期間の記憶はどうなってる?」
「全員、全て、覚えていたそうです」
それを聞いてホッとする。それならば、なんとかなるだろ。
2人にしてくれと店主を追い出してから、電伝虫でベックに事情を説明すると、三日後に様子を見に行くと言われた。それに小さく笑っちまうのは、治す手段をベック達が〝全力〟で探す期間だなと分かるからだ。
本当に皆ナミが可愛いんだな。俺の女神は俺達の大切なクルーとなり、それでもやはり古参のメンバーから見れば愛しい娘や妹の枠なのだろう。
そっとナミの頭を撫でてその髪に指を絡ませた時、ナミの瞼が痙攣した。目覚めるのがそれにより分かると、あえてその瞼にキスをして様子を見れば、目覚めたナミが俺を見て悲鳴を上げた。
「ど……なた、ですの!?
「ん?ナミ、忘れたのか。酔ってたからな」
「え?」
「思い出させてやろうか……?」
そう言って状況を分かっていて服の中に手を入れると、ビクリと反応するそれはいつものそれと変わらない。つまり、体は俺を覚えているらしい。
「ゃ……ぁ……!おやめ、くださっ!んっ……!」
新鮮な反応だな。そう思って、抵抗する何もわからないナミに襲いかかれば、身体だけはしっかりと俺が教えたとおりに反応して、けれども俺を覚えていないと伝えてくる瞳と言葉がチグハグだなと思う。
呑みすぎで記憶の飛んだ女を相手してるように見せかけながら、ナミの状態を確認して行くが、やはり抱いたら戻るとかってもんでもねェのか。1糸まとわぬ姿で、髪をシーツに散らしながら俺を切なく見詰める眼差しは、いつもの慈愛の色も無く違和感が強い。
「ナミ……愛してる」
「も、おやめ、くだ……んぁっ!」
「ナミ……」
「いゃ……私……あなたなんて、知りませんわ!もう嫌です!」
「……ナミから、キスしてくれたら辞めてやるよ」
言えば真っ赤な顔で俺を睨み付けて、それから震える手を俺に伸ばす。屈辱と恥辱にまみれた顔で、俺の首に腕を回して辿々しいキスを俺にするナミは、確かに震え続けている。
これまでに無い下手くそなそれに、1から教え直すのも楽しそうだなと思った。その直後、抵抗しようと藻掻く姿に俺は、幼い時ですらされなかったそれに刺激され、我慢出来ずに襲い掛かるようにキスを深める。
苦しそうに受け止めきれずに喘ぐそれが、いつもよりも幼い。だから何だか、悪い事をしているような気分にさせられちまう。
そんな時、途中で反応が変わり、しっかりと俺を受け入れてくれ始めた事でまさかと思う。そう思いながらも俺が満足するまで堪能すれば、色気のある……いや、妖艶な顔で俺を見て、笑った。
何が兎や女神だ。魔女時代のそれは、確かにナミの中に今も息づいている。
「シャンクス……本当に、困った人ね」
「ナミ、お帰り」
「ふふ、ただいま。シャンクス……
冗談じゃねェなと本気で思う。俺の腕の中で、煽るように平然とそんな言葉を紡ぐナミに、認めてやるもんかと深く口付けてその隙間で告げる。
「次は勝手に帰って来い。それ迄、俺はナミをこうして抱き続けてやる」
「え……ちょっと待って!無理だからね!?」
「早く戻らないと、腹上死だな。んでもって、これからが本番だ。……数日、寝られないと思え」
「なんで!?」
「俺に寂しい思いをさせた、オシオキだ」
その後部屋にはナミの甘やかな悲鳴と水音が響き、色々と調べてから姿を見せたベックに叱られるまでしっかりとナミを堪能する事となった。そしてナミは、もう忘れたりしないから虐めないでと俺に約束をしたのだった。