※この作品はR-18です。

翡翠色をした契り   作:Wolke

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序ノ幕

 弦が震え、耳朶も震えたが、弦の音は澄んでいるのに、私の心は濁っていた。

 

 ───また、些末なミスをした。

 

 一曲頭から通しで弾こうとすると、必ずどこかで小さなミスをしてしまう。ギターの運指が上手くできなかったところを意識して弾き直すが、今度は先程と違う箇所で運指が詰まる。

 

 こういうものも、理論接続と呼ぶのだろうか。白金さんと宇田川さんが言っていたゲーム用語を思い出す。曲の難易度は特別高いわけではない。机の上に広げたTAB譜をめくる。複雑な指運びは要求されるが、個々のフレーズに分けて弾けば、なめらかな音の連なりが私の指から生まれ落ちる。けれど最初から最後まで通しで弾くと、すべらかな織物のように紡がれた音が途中でブッツリと切れてしまう。

 

 エレキギター用のヘッドホンアンプが、私に不協和音を叩きつける。私はギターを弾く手を止め、椅子の背もたれに身を預けた。

 

 イライラする。昂ぶった精神をなだめるように、横隔膜が大きく伸縮する。

 

 徐々にミスの頻度が増えてきていた。意地になってノーミスで弾けるまで繰り返すつもりだったが、これ以上は逆効果にしかならないだろう。少なくとも時間を空ける必要がある。

 

「…………いま何時なのかしら?」

 

 机の隅に置きっ放しだったスマートフォンのホームボタンに触れる。表示されたロック画面は、私に今が昼前であることを教えてくれた。

 

「───もうこんなに……」

 

 時間が経っていたのか。

 

 ふと窓を見れば、室内に差し込んでいた光の筋があらぬ方向へ変じている。

 

 今日は休日だ。なので朝目覚めてから、ずっとギターを弾いていた。もうかれこれ四時間近く引き続けていることになる。疲労も溜まるし、集中力が切れそうなことにも納得だ。

 

 私は少しばかり値が張ったヘッドホンを外す。ギターに刺さったシールドのプラグを抜き、まとめて机の上に置いた。

 

 小休止を入れるべきだ。そろそろ、昼食の時間でもある。私はギターを手に椅子から立ち上がろうとした。

 

「おねーちゃん、練習は終わった?」

 

「──────っ!」

 

 心臓が跳ねる。

 

 私を椅子に押さえつけるように、私の両肩に手が置かれた。意識外からの接触は、私を驚かせるには十分すぎた。

 

「あははっ! おねーちゃん、いますっごくビクンってなった! ちょっとるんってしちゃった」

 

 けらけらと頭の上から笑い声が落ちてくる。

 

 少しの羞恥と多大な苛立ちを煽られて、私はつい声を荒げてしまう。

 

「うるさいわよ、日菜! 大体、あなたいつ部屋に入ってきたのよ! ノックしろっていつも言ってるでしょ!」

 

「んー? でもさ、おねーちゃん? あたしがノックしてたとして、おねーちゃん気づけてた? 本当にあたしがノックしてないって言い切っちゃっていいの?」

 

「それは……いえ、返事がないなら出直すべきでしょう」

 

「おねーちゃんに急ぎの用事があるんだよ」

 

「……なによ、用事って」

 

「えっちしよ」

 

 肩にこめられる力が増し、私の耳元で日菜が囁く。日菜の言葉はぞわぞわとした響きを伴って、私の肌を粟立たせた。

 

 どきん、と心拍数が上がる。それは突拍子の無い日菜の言葉に驚いたからか。それとも、日菜の提案に心が躍っているからか。

 

 私は深く考える前に肩に載った手を払い、無遠慮に寄せてきた日菜の顔をぞんざいに押し返す。少しばかり紅潮した頬を日菜に悟られたくなかったから、振り返ることなく口を開いた。

 

「あ、あなたこんな明るいうちから何を考えてるのよ」

 

「だって暗くなったらおとーさんとおかーさん居るからできないじゃん」

 

「だからって、昼間はもっと無理じゃない」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。おとーさんとおかーさんは映画を観に出かけたから。ついでに夕食も外で済ませてきたら? って日菜ちゃんの言葉に頷いていたので、帰りは遅くなると思われます」

 

「それは───」

 

 私たち姉妹の時間に気を遣ってくれたのではないのか? とは流石に口にできなかった。

 

 夫婦水入らずの時間を楽しんでほしいという思いは、私にも日菜にも当然ある。それと同じくらい、両親だって私たち姉妹に同じことを思っているはずだ。直接言葉にしたことはお互いに無いけれど、そういう空気は感じている。特に私たちは───というか、私が一方的に日菜に対して溝を作っていたから。

 

 けれど気を利かせてもらった結果、情事に及ぼうというのだから始末が悪い。両親もこんな形で親睦を深めてほしいわけではないし、想像だにしていないに違いない。

 

「───い、いけないわ」

 

 お利口でお行儀のいい私が日菜をたしなめる。声は震えていた。薄弱な響きを悟られないように私は言葉を連ねる。

 

 養ってもらっている身空で親を裏切る真似はやめるべきだとか。せめて高校を卒業して独り立ちできるまでは我慢すべきだとか。私の本心から程遠い空虚な言葉がするすると口から躍り出る。落ちた視線は開きっ放しのTAB譜に固定されていた。これでは日菜と話しているのではなく、TAB譜と話しているようだ。こういう所作が、空々しい言葉をより白々しくしているのだと、わかっているのに。

 

 日菜は私の言葉を遮って、「で?」とわずか一音で私の建前を切って捨てた。日菜が椅子の背もたれを掴む。ぐい、と力が込められて、日菜と向き合うように椅子が回される。今日はじめて、私は日菜と向き合った。

 

「あ、あなた、その恰好───」

 

 ごくり、と喉が鳴った。日菜は私に下着姿を晒している。それもセクシーランジェリーの一種である、シースルーのベビードール。アイドルとして彼女のイメージカラーであるライトブルーを基調としたそれは、フロントが開いていて、健康的で引き締まったおへそ周りをほんの少しだけ覗かせている。向こう側が透けるほど薄い布に覆われた肌と、日菜自身の色白の肌との対比に目が眩む。

 

 局部はレースが編まれたブラとショーツに覆われているが、その布面積は頼りないほどに小さい。強調された胸の谷間や、普段なら目にすることのない鼠径部のラインに、どうしようもなく『女』を感じる。そして正面から相対する日菜は、艶然と笑みを浮かべていた。

 

 下着のカラーリングのせいか、私はテレビの中で活躍する清楚なアイドルとしての日菜を意識してしまう。けれど、いま私の目前にいる彼女は海千山千の娼婦のようであり、その真反対とも言える在り様のギャップに、私はすっかり魅了されてしまっていた。

 

 日菜から目が離せない。肋骨の内側がありえないほど熱を帯びる。

 

 そうして私はようやく、日菜が本気で私の理性を蒸発させるつもりなのだと悟った。

 

「正しさなんていまさらじゃん。賢そうなこと言ったって、もう五十歩百歩でしょ?」

 

「───、───」

 

 男を知らないというだけで、とうに私たちは純潔とは言えない身体になっている。穢れないとは口が裂けても言えない間柄に、私と日菜はなっていた。

 

「おねーちゃん───ホントにダメなの?」

 

 日菜のつぶらな瞳が潤んでいる。柳眉は困ったように垂れ下がり、濡れた果実のような唇が私を求めて震えている。さっきから動悸が激しい。ライブで一曲弾き終わった直後のように心臓は跳ね回り、私は軽く息を荒げていた。日菜の煽情的な下着姿を見たせいか。いいえ、日菜に誘われてしまったときには、すでに私の歯車は狂っていた。

 

 あの日菜が。周りのことなんてまるで眼中にないあの日菜が、親の帰りを遅らせるなんて根回しをして、私の部屋にやってきたのだ。私はそれを、とても───いじらしいと感じた。いじらしくて、愛おしいと、思ってしまった。

 

 気づいたときにはもう遅く、私は日菜の手を掴んでいた。

 

「ひ、日菜」

 

「うん」

 

「ベッドに、座っていて」

 

「はーい!」

 

 花がほころぶように笑って、日菜は言われるがまま私のベッドに腰を下ろした。反対に、私は椅子から立ち上がる。手に持ったギターをスタンドに立てかけ、防音カーテンを引く。クローゼットの中からフェイスタオルを何枚か取り出しながら、私は己の度し難い愚かさに苛まれた。

 

 両親への懺悔の念がちくちくと胸を刺す。アイドルにスキャンダルをもたらして日菜の未来を脅かしている事実が、私の行いを弾劾する。止まるべき理由なんて山ほどある。なのに。それがブレーキ足りえない。一時の快楽のために容易く壊れてしまう自制心。そんな性根の持ち主を、愚かと言わずなんと言おう。

 

 私はベッドの端にタオルを置くと、着ているシャツを脱ぎ捨てる。日菜の視線が私の半裸姿に絡みつくのを感じる。けれど私はその視線を断ち切って、日菜の背後に座り込んだ。

 

「おねーちゃん?」

 

「そのままでいなさい」

 

 振り返ろうとする日菜をとどめて、私は後ろから日菜を抱きしめるように腕を回した。隙間なんて一分もないほどに密着する。決して大きいわけではない私の胸が、日菜の背中との間で形を変える。

 

 シースルーの布地一枚に隔てられた、あたたかさとやわらかさ。触れていて心地よい身体とは裏腹に、日菜の内面はひどく緊張していることを感じ取る。人を妖艶に誘っておいて、いざとなると生娘のようにぎくしゃくと身を強張らせてしまう様がたまらなく愛おしい。心から、誰にも渡したくないと思ってしまう。

 

 腕の内にある柔らかな感触を全身で味わいながら、私は鼻頭を日菜のうなじにうずめた。

 

 深く、息を吸い込む。

 

 私が呼吸する度に身動ぎする日菜を無視し、私は日菜の後頭部に鼻梁を擦りつける。日菜のセミロングに頬を撫でられていると、日菜が私の手を掴んだ。彼女は前を向いたまま、羞恥を堪えるように口を開く。

 

「ま、待って、おねーちゃん……におい嗅がれるのは、ちょっと恥ずかしい……」

 

「いいじゃない。もっと恥ずかしい目に遭うんだから。それに、私は好きよ。あなたのにおい」

 

「あ、あたしも好きだよ! おねーちゃんのにおい」

 

「ええ。だってこれは、罪のにおいだもの。遺伝的に強い子孫を残すため近親者を避けようとする、決して良いとは言えないにおい。性別が違っていれば、もっと顕著に不快感を覚えたかもしれないわね」

 

「…………おねーちゃん、遠回しにあたしのことくさいって言ってない?」

 

「好きだと言っているでしょう」

 

 日菜が鼻腔を通る度、私の理性は溶けていく。正しさに固執する薄弱な理性が麻痺してしまえば、あとに残るのは情欲に身を任せる浅ましい獣が一匹だけ。

 

 日菜を抱く。

 

 頭ではなく心が決断を下したとき、親の顔や私たちの将来など数多の懸念事項は私の世界から消え去った。

 

 私は日菜の下腹部へ右手を伸ばす。フロントオープンのベビードール。煽情的な衣装によって曝け出されたおへその少し下に手を添える。

 

「…………っ!」

 

 日菜の肩がわずかに跳ねた。私はすべらかな肌の感触を楽しみながら、掌でゆっくりと小さな円を描く。そこはちょうど、子宮の真上。私は日菜の下腹部を優しく撫で回す。さながら、日菜の子宮に掌からじんわりと熱を伝えるように。くすぐったい感触に耐えかねるのか、時折日菜の身体が震える。

 

 空いている左手は、日菜の左手と絡め合う。日菜は縋るように指に力を込めてくる。そのしおらしい感触がくすぐったい。平時では気の向くままに動き回って私を振り回してばかりいるくせに、こういうときは片時も離れまいと掌が合わさるぬくもりを大事にする。

 

 それが氷川日菜という妹だった。まったく。本当に───愛おしい。

 

「おねーちゃんの触り方、すっごいいやらしい」

 

「そう? いまはただ、手を繋いであなたのお腹を撫でてるだけよ? まだスキンシップの範疇じゃないかしら?」

 

「だってさっきからあたしの子宮に一番近いところしか触ってないじゃん。おねーちゃんに撫でられる度にお腹の深いところがぽかぽかしてくるんだもん。これからこの一番熱くなった場所をおねーちゃんにメチャクチャにされるんだーって思ったら、ぞくぞくが、止まらなくなっちゃう」

 

「それは、私の触り方じゃなくて、あなたの感じ方がいやらしいだけではないの? こんな下着まで用意して」

 

「興奮した?」

 

「してるわ。日菜を抱くことしか考えられなくなるくらいには、似合ってるわよ」

 

 私が端的に恰好の感想を述べると、日菜は「るんってする」と答えて、安堵したように私に寄りかかってきた。

 

「ネットで色々見比べて、おねーちゃんが悦んでくれるかドキドキしながらポチったんだ。服買うだけで緊張したの、あたし初めてだよ」

 

「私もよ。日菜の服装が変わるだけで、こんなにも心臓が張り裂けそうになるなんて知らなかった。だからと言うわけではないけれど、今日やりすぎてしまっても、私だけのせいじゃないから」

 

 私は日菜の耳を食んだ。歯は立てない。耳を唇で挟み込むだけだ。耳全体を揉みほぐすように、私は唇だけに力を入れる。

 

「んっ……」

 

 新たな刺激に、日菜の口から色気の乗った吐息が漏れる。

 

 私ははしたなく大口を開けて、日菜の耳を口に含む。溢れ出る唾液を塗りたくるように、耳介の窪みと溝へ丹念に舌を這わす。そして時折「じゅるるっ」とわざとらしく水音を立てて、薄い皮膚と軟骨に吸い付いた。

 

「こうしていると、日菜の脳を犯しているみたいよね」

 

 私の唾液に塗れた耳朶へ囁きかける。音による刺激を絶やさない。鼓膜だけではなく、頭蓋骨にも振動が伝わるように、私はより一層下品な水音を日菜の耳を起点として響かせた。

 

「おねーちゃんならいいよ。犯して。あたしの頭の中、もっとぐちゃぐちゃにかき回して……っ!」

 

 悶えるように日菜が叫ぶ。私は日菜の要望に応えるように、さらに激しく口淫を繰り返した。時には本気で脳を犯すつもりで、耳穴へ舌を突き入れる。

 

 その度に日菜は身を捩って過敏な反応を示してくれるのだから、飽きろというのが無理な相談だ。

 

 日菜の下腹部を擦るだけだった右手にも次第に力が入り、いつしか肌の上から子宮をこねるように手を動かしていた。強弱をつけて、より深く、日菜の身体に私を刻み込むように。

 

「はぁっ…………はぁっ…………っ!」

 

 局部には一切触れず、下拵えを楽しむように日菜を味わっていると、だんだん日菜の息が荒くなってきた。きめ細かい肌からは汗が噴き出して、脈拍も随分速くなっている。誤魔化しようがないほどに、日菜の身体は淫らな熱を放っていた。

 

 その熱に当てられて、私はもっともっと、日菜が欲しくて欲しくてたまらなくなる。

 

「おねー、ちゃ……おね、がい……さわって、あたしのあそこ、じんじんして、苦しいの……」

 

 切なげで、つらそうな声を出す。そんな声で求められてしまえば、私の頭は簡単に茹だってしまった。

 

「日菜、いま楽にしてあげるからね」

 

 私は半身だけ身体をずらし、ゆっくりと日菜をベッドに横たわらせた。日菜の顔のすぐ横に手をついて、日菜に覆い被さるように体勢を変える。

 

 日菜の内ももの間に私の足を挟み込むと、膝が日菜の秘所と擦れあった。ひんやりとした感触が膝から伝わる。日菜の穿くショーツがぐっしょりと濡れそぼっていたためだ。長時間おあずけをくらったように日菜はだらだらと愛液を垂れ流し、それが脱ぎそこねていたデニムパンツに染み入っている。日菜の秘所に触れている部分の布地が、私の肌に冷たく張り付く。

 

 日菜はデニム地に愛液の染みを広げるように、小刻みに腰を揺らしている。彼女の顔を覗き込めば、その顔はすっかり上気してしまっている。普段の突き放すような透徹とした双眸すら、いまは淫欲しか映していない。瞳に込められた度の過ぎた淫欲は不思議な魔力をも獲得したのか、私の唇を日菜の唇へと導いた。

 

 二度、三度、啄むような口づけを交わす。けれど唇だけの淡い触れ合いではすぐに物足りなくなり、私たちは貪るように互いの舌を絡め合った。

 

「んふっ……ちゅ、くちゅっ……あふっ……ぢゅるるっ……!」

 

 私は日菜が突き出した舌に吸い付いた。あたたかく、ぐにぐにと形を変える柔らかな部位を口内で弄ぶ。舌先で味わう逢瀬は甘く、けれどピリピリとした刺激があった。もっと、もっと、と次第に日菜の舌の動きは激しくなる。私を心から求めてくれていることがわかってしまう。日菜の少しざらりとした舌先が私の上顎や舌裏の根本、口腔の粘膜をなぞる度、私の身体に言い知れぬ電流が走った。

 

 よだれが溢れ、私たちの口端から糸を引くように垂れ下がる。混ざり合った私たちの唾液は日菜の小顔を縁取るように流れ、シーツに染みを作った。

 

 私はベビードールの裾から服の内側へ手を潜り込ませると、日菜が身に着けているライトブルーのブラジャーを掴み、押し上げた。性行為を目的としたセクシーランジェリーは乳房を支える力が特筆するほど無いようで、ブラジャーに覆われていた乳房はいとも容易く露わになる。

 

 日菜は少し恥ずかしそうに身を捩った。キスの最中の身動ぎは、隠しようがないほどよく伝わる。白磁のようなきめ細かい肌に私の指が沈み込むと、日菜の身体はさらに震えた。

 

 同年代の平均をわずかに上回る女性的な膨らみは、大層柔らかく、私が触れる度に形を変える。親指で彼女の乳輪の縁をなぞった。日菜の喉が震え、くぐもった声が舌を伝い私の口腔に伝播する。そして私は、痛みすら感じているのではないかと思えるほどに固くなった日菜の乳首を、親指と人差し指できゅっと摘むように、押し潰した。

 

「ん゛んっ! あんっ!」

 

 日菜が蕩けるような嬌声を上げたことで、魂に触れるような深い口付けが途切れた。互いに荒くなった息は熱を帯び、お互いの肺腑を循環する。甘い吐息に乗った日菜の淫気が私の胸に染み入って、日菜を求めてやまない私の渇望が彼女の裡を焦がしている。

 

 いま、世界には、私と日菜しかいない。

 

 ふたりっきりの世界で、私たちはより深く溶け合うことを選択した。

 

 ふたりぼっちの世界で、私たちはより強く混じり合うことを選んだ。

 

「来て」

 

 日菜の手が、彼女の乳房を揉みしだいていた私の手を取る。そのままゆっくりと、日菜の中心へといざなって、私の手を日菜の秘部へあてがった。指先からは、濡れそぼったショーツの感触が伝わってくる。そしてショーツに隔てられた内側では、悦楽に飢えた獣が早く早くと、口を広げておねだりしている。

 

「おねーちゃん、はやく……ぐちゃぐちゃにしてっ、かき回してっ……あたし、もう、がまんできないよ……っ! イキたい、おねーちゃんの指でイキたいのっ! おねーちゃん、はやくイカせて……っ!」

 

 はっ、はっ、はっ、と日菜は息の上がった犬のように浅い呼吸を繰り返す。自ら腰を浮かせて、秘部を私の指に擦り付けている。とろんとした目は私の指を凝視し、私が指を動かし始める瞬間を待ちわびているようだ。

 

 私は上体を起こし、日菜の足の間に座り込んだ。

 

「日菜。こんなに濡れていたら気持ち悪いでしょう? まず脱がすわよ」

 

 そう言って、私は日菜のショーツに手をかける。けれどじれったいとばかりに、日菜は自分から素早くショーツをずり下ろした。さあはやく! と彼女の目が訴えている。恥も外聞もなく媚びるような笑みを浮かべて、私に秘部を見せつけながら腰を揺らす。

 

 仮にここで「やっぱり今日はここまでにしましょう」と私が言えば、この必死なセックスアピールはどこまで過激になるのだろうか。見てみたい気持ちは少しだけあるものの、すでに私が我慢できそうになかった。

 

 日菜の秘部に手を伸ばす。

 

 手入れの行き届いたアンダーヘア。充血した小陰唇は薄く開いて、触れられるのを待ち望んでいる。日菜の望み通り、私は彼女の小陰唇に指を擦り付けた。とろりと垂れ落ちる愛液が、私の指に塗布される。ぬるりとした感触に私の指が覆われると、とんとんとこれから押し入る膣口を指先でノックした。指が膣口に触れる度、愛液を素材とした銀糸の架け橋が建造され、日菜の腰がひくひくと震えた。

 

「あっ、ふっ……くっ……ふーっ! ふーっ!」

 

 日菜は歯を食いしばって、息を荒くする。これだけの刺激で達しそうになったのかもしれない。けれど私は日菜の状態に構うことなく、何の宣告もなく、膣内へ指を挿入した。

 

「~~~~ッ!!」

 

 声を押し殺しながら、日菜の身体が小刻みに痙攣する。私は膣壁を押し広げるように、指で円を描く。日菜の膣内は燃え滾るように熱く、ぬるぬると柔らかく、きゅうきゅうと吸い付いて私の指を離そうとしない。

 

 万遍なく膣肉を撫でてやると、指が当たる位置や角度によって、日菜の反応がわずかに変わる。

 

「あっ! あ゛あっ! はぁああんっ!」

 

 堪えきれずに漏れ出た嬌声。反射的に震えてしまった足先。刺激が強すぎるのか無意識に逃げようとする身体。

 

 その違いを楽しみ尽くすと、最も反応の良い場所へ指先をあてがう。掌を上にして、第二関節まで指を入れたところ。そこだけは柔らかな膣肉の中で、少しだけざらりとした手触りがある。俗にGスポットというのだと、前に日菜から教えてもらった。

 

「感じてる日菜、とても可愛らしいわ。もっとたくさん気持ちよくなってね」

 

 こくこく、と熱に浮かされた笑顔で日菜はうなずいた。いかなる快楽をも受け止めようとする淫靡な獣は、すでにあらゆる覚悟を完了させている。

 

 私はGスポットの部位を腟内から掻き出すように、素早く指を動かした。膣は締まり、絞り上げるような収縮運動を繰り返す。

 

「あぁん! あああぁっ! ああ゛ぁあああ゛ああぁぁぁッ! しゅきっ! こりぇしゅきっ! イッて、るッ! おねー、ちゃ、もっと、はげしくっ! あいしてっ!」

 

「好きよ、日菜。好き。好き。大好き。いっぱいいっぱい、愛してあげる」

 

「イク、いくいくいく───い、いぐぅぅううううっ!」

 

 ガクガクと日菜が震える。ベッドのシーツを力いっぱい握りしめて、足をピンと伸ばしている。酸欠に喘ぐように大口を開けて、けれど呼吸すらも止まっていて。その間も、日菜の膣肉は私の指を押し潰すように絡みついてくる。

 

 やがて日菜の身体は弛緩し、息も絶え絶えといった様相で呼吸を再開する。日菜の全身からは汗が噴き出し、額や首筋に髪が張り付いている。ぐったりと横たわって胸を上下させる様は、不思議と私の欲情をそそった。

 

「日菜」

 

「んー? なにー?」

 

「私、もっとあなたが乱れる姿が見たいわ」

 

 次は指を二本、日菜の膣に差し入れた。魂が身体に戻ってきたように、驚いた日菜が飛び起きる。

 

「えっ!? ま、待っておねーちゃん! あたしいまイッたばっかり───」

 

 そして私は日菜の陰核に口づけを落とした。ちゅうちゅうと吸い付いて、固くなったクリトリスに噛み付いて、優しく舌の上で転がした。その間も、日菜の膣肉は私の指の動きに合わせてぐちゅぐちゅと淫らな水音を響かせる。

 

「だめ、だめだめだめだめ───っ!」

 

 怯えるような震えた声。私を引き剥がそうとする日菜に、頭が押さえつけられる。日菜の腰が浮いて、顔の両側にある太ももが踏ん張るように力を入れているのを感じる。

 

 逃げないで。

 

 そう訴えるように、私は空いている手を日菜の太ももに絡みつけ、力任せに彼女の下半身を引き寄せた。

 

 ぢゅぞぞぞぞ、と今までで最も強く日菜の秘芽を啜り、責め立てる。

 

「ひぅっ! おねーちゃ、んん゛ん゛ん゛……っ!」

 

 髪が掴まれる。暴れる日菜の手によって、頭皮が突っ張る。私の髪が幾本か、ぶちぶちと強引に引き抜かれた。強すぎる刺激から秘裂を閉ざそうと抗っているのか、内ももに多大な力が込められて私の顔が挟まれる。時折、日菜の踵が私の背中を強く打った。

 

 痛くて、苦しい。けれど、日菜への愛撫をやめる理由にはならない。なおも激しく、指と舌を動かし続ける。こりこりに固く尖ったクリトリスを舌先で転がして、ほんの少しざらりと硬さの残るGスポットを抉るように掻き回した。

 

 やがて日菜の内ももと腹筋が不規則に痙攣し始める。

 

「やめ゛てぇ゛ぇぇ! イクっ! イッてるっ! ずっと、イッて───ああっ! 知らない! 知らない知らないっ! 強いのっ! すごいのクるっ! やめて、むり、死ぬ、しぬしぬ、死んじゃう゛ぅうう゛う゛ううっ!」

 

 一際大きな震えが、日菜の全身を走った。

 

 私を絞め落とさんばかりに脚の筋肉が収縮し、私の髪を掴んだ両手は万力のように固く握られた。日菜の背筋は背骨が折れるのではないかと不安になるほど反り返った。

 

 ガクガクと痙攣しながら、少しずつ日菜の全身から力が抜けていく。解けた両手から私の髪がするりと逃げて、支えを失った日菜はそのままベッドに倒れ込む。

 

「あへ、へへ、えへへ……」

 

 笑っているのか、呻いているのか。声ならぬ声が日菜の口からこぼれている。

 

 涙と鼻水と涎にまみれた顔は、茫洋と中空を見つめ、だらしなく鼻の下を伸ばし、浅ましい犬のようにだらんと舌を垂れ下げている。女の子の尊厳を踏み躙られた見るに堪えないその表情は、とてもではないがアイドルが晒していいものではない。

 

 私は空いている手を伸ばして、ベッドに放っておいたフェイスタオルを掴む。名残惜しくも日菜の膣から指を引き抜く。ただ指先が日菜の最奥を撫でた際、「お゛っ、お゛ぅ」などと無意識でも可愛い反応をするものだから、なおも責め立てたい衝動を抑えるのに苦労した。

 

 いくらなんでも、さすがに休ませてあげるべきだ。指を抜くと、彼女の膣から勢いのない潮がちょろちょろとあふれ出す。シーツを濡らさないようすべてフェイスタオルに吸わせ、別のタオルで日菜の顔を拭ってやる。

 

 綺麗になった顔に口づけを落とすが、日菜はなんの反応も示さない。気を失った彼女に寄り添うように、私も横になった。胸の奥からまだまだ愛しさがこみ上げてきて、私は優しく日菜の髪を撫でる。

 

 私も自身の昂りを少しでも鎮めなければ、次に何をしでかすか、我が事なのにわからない。

 

 穿きっ放しだったデニムとショーツを脱ぐ。日菜と比べればまったく湿っていないと言える下着を床に投げ捨てる。

 

 私は意識のない日菜の手を取って、そっと握り拳を形作った。日菜の手で最もごつごつした手骨の部分を自らの秘裂にあてがい、私は骨の硬さを己の最も敏感な部位で味わう。

 

「んっ……あっ……はぁ……はぁ……」

 

 直接的な刺激よりも、私はシチュエーションにこそ興奮していた。

 

 妹が眠っている間、姉が妹の手で自慰に耽っている。ふたりで一線を越えるのとは、また別種の背徳感にぞくぞくと背筋が震えた。

 

 日菜を起こさないように、ゆっくりと秘所を擦り付ける。日菜のように奔放になれない私は、このくらいの刺激こそが心地よかった。ひとしきり気持ちの良い波間に身を委ねると、私の愛液でべとべとになった日菜の手をタオルで拭う。

 

 昂りの代わりに倦怠感を身にまとい、私は再び日菜の隣で横になった。

 

 とても満たされていた。

 

 あたたかな想いが胸に満ち、私に活力を与えてくれる。

 

 いつ壊れてもおかしくない関係だからこそ、私は永遠を望んでいた。

 

 願わくば。いつまでも、日菜とふたりで。

 

「まあ、それはそれとして、シャワーでも浴びて来ようかしら」

 

 起きたときに私が傍にいなければ、日菜は機嫌を損ねるだろうか。損ねるだろうな。今までもそうだったのだから。

 

 使ったタオルや、脱ぎ散らかした私と日菜の服と下着をさっさと脱衣所に放り込んでおくべきか。特に日菜のショーツは軽く手洗いもしておいた方がいいだろう。時間的猶予はまだまだあるだろうが、証拠の隠滅は手早く済ませてしまうに限る。

 

 ベッドから起き上がろうとしたとき、ぐっと腰を掴まれた。驚く間もなく、私は日菜に押し倒される。日菜は流れるように横たわった私へ馬乗りになった。復活した彼女は平静さを取り戻した顔色で私を見下ろしている。

 

「……今日は、はやく目覚めたわね? これからシャワーを浴びるのだけど、一緒に入る?」

 

「入る。けどその前に、やらなきゃいけないことがまだ終わってないよ」

 

「やらなきゃいけないことって?」

 

 わかりきっていることをあえて訊ねた。日菜の指先が私の身体をなぞる。首筋、鎖骨、乳房、脇腹、腹筋。一筆で描くように日菜の細くしなやかな指がすべる。彼女の指が弱いところに触れる度、私の身体はびくんと跳ね上がってしまう。その度に、日菜は笑みを深めていく。

 

「今日こそおねーちゃんをひーひー言わせてやるもん」

 

 日菜は私の顔を見下ろしたまま、後ろへと手を伸ばす。無遠慮に太ももが掴まれた。太ももを放した手は腿の内側へと滑り込み、手の甲で私の内ももを擦る。擦る場所が徐々に私の中心に近づいてきて、日菜の手が私の秘部に触れた。

 

 割れ目を指でなぞり上げられ、同時にクリトリスを押し潰される。反射的に背筋が震える。強い刺激にわななく私を見下ろして、日菜は愉悦を深めているようだった。

 

 やがて指の動かし方が変化する。探るような運指は、すぐに私の膣口を見つけたようだった。

 

「ま、待って日菜。その、ヴァ、ヴァギナやクリトリスを触るだけならいいけど、膣内に入れるなら、ちゃんと優しくして」

 

「……あー。うん。絶対言い慣れてないだろう淫語を言い淀むおねーちゃんが死ぬほど可愛かったので、善処することを検討します」

 

「真面目に言ってるのよ。違うの。あなたを喜ばせるためにやってるわけじゃ───っ!」

 

 つぷ、と私の膣肉を分け入りながら、私の中に日菜の一部が入ってくる。

 

「んっ……くっ……っ!」

 

 異なる体温が私の中で蠢いている。吐息が漏れる。顔が歪む。それを日菜に悟られたくないばかりに、私は両手で顔を隠した。

 

「おねーちゃん、ちゃんと顔見せて。じゃないとおねーちゃんの言いつけ守れないかもよ?」

 

 優しくして欲しいんでしょ? と日菜の言葉が落ちてくる。

 

 激しいのは困る。それではきっと、日菜を満足させられないから。けれど答えようにも、一度呼吸を整えたかった。色気とは真逆の吐息なんて、この瞬間には無粋だろう。日菜に気取られないよう顔を隠したまま、私は深く呼吸をする。

 

 しかしこの沈黙を、日菜はフリと捉えたようだった。

 

「おねーちゃんは可愛いね」

 

 日菜は楽しそうに笑いながら、指を抽挿する速度を上げる。私のお腹の上に座って、後ろ手に私の膣を弄っているのだから、触れる場所も力加減もすべてが一定ではない。その大雑把とも言える愛撫は、私の膣壁を削り取ろうとしているかのように感じてしまう。

 

 当然、そこに快楽はない。私は並々ならぬ異物感だけを味わっていた。

 

「──────っ!」

 

 必死に声を噛み殺す。やめてと言いたい。けれど口を開ければ、苦悶の声を上げずにはいられないだろう。同様に、眉間に深い皺を刻んで痛みに耐えている顔なんて、日菜には見せたくはなかった。

 

 ぐちゅぐちゅと膣から響く水音が大きくなる。単純に身体の防御反応として愛液が多く分泌されているのだろう。そうであれば、多少はマシになるかもしれない。もうしばらくは我慢の時だ。日菜が満足するか、体位を変えようとしたところで終わりにできれば、今日のところは円満に終われるはずだ。

 

「おねーちゃんがよく触ってくれるのってこの辺り?」

 

 それはきっと、私が執拗にGスポットを愛撫したお返しのつもりだったのだろう。ぐいっと膣壁が押し上げられる。それに伴い、引き攣るような鋭い痛みが私の背筋を駆け上った。

 

「痛……ッ!」

 

 私は反射的に声を荒げ、半ば本気で抵抗するように身を捩る。私の思考が反映されない反射の行動だったからこそ、何よりも雄弁に私の意思を示してしまった。

 

 日菜はすぐさま私の膣から指を引き抜く。

 

「ご、ごめんおねーちゃん! 痛かった……?」

 

 日菜は心配気な眼差しで私の顔を覗き込もうとする。なんだかんだ言って、目端が利く妹だ。世界で誰よりも、私を見ている人でもある。そんな彼女が私の態度に疑念を抱けば、私の隠し事なんて立ちどころに看破されてしまう。

 

「──────ぁ。おねーちゃん、ひょっとして、痛かったのって」

 

「ごめんね日菜。やっぱり、今日はこの辺りでやめておきましょう?」

 

 最後まで言わせず、日菜の言葉を遮った。答えを言っているも同然の私の言葉に、日菜は「ごめん」と短く謝る。

 

 さっきまでの楽しそうな表情は面影すら残っておらず、日菜の顔は悔恨一色に染まっていた。

 

 私もまた日菜に謝らせてしまったことに罪悪感を抱く。そんな表情をさせたくなかったから、誤魔化そうと耐え忍んだのに、すべてが無為になってしまった。

 

 日菜が私の上から退いたので、私も上体を起こす。

 

「日菜を散々好き放題したんだから、立場を入れ替えないとフェアじゃないと思ったのだけれど、私にはまだ早かったみたいね。ごめんなさい」

 

「おねーちゃんは最初から優しくしてって言ってたのに、あたしが調子に乗ったから……」

 

「違うわ。日菜は悪くない。私が下手に我慢しようとしたのがいけなかったのよ。だから日菜、気に病まないで」

 

 私たちが言葉を連ねる度、寒々しい空気が満ちていく。背徳感に満ちた熱狂など初めから無かったように、身体の火照りは鎮まった。やがて沈黙が降りてしまうと、どちらにもその沈黙は破れなくなっていた。

 

 いまの私に、口火を切れる話題はひとつだけ。

 

「…………シャワー、先にいただくわね」

 

 私はベッドから立ち上がると、床に散らばった二人分の着替えを抱えて浴室へと足早に逃げる。

 

 ねぇ氷川紗夜。あなたは一体いつになったら、最愛の妹を傷つけなくなるのかしら?

 

 自嘲気味な自問には、ただただ泣きたくなるだけで、終ぞ答えなど出てこなかった。

 

 

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