イリナが転校してから数日。
「はいはい! 私、借り物レースに出まーす!」
手をあげる元気いっぱいのイリナ。
イリナは持ち前の明るさのおかげで男女問わず人気が高く、すでにクラスに溶け込んでいた。
今はホームルームの時間で、体育祭で誰がどの競技にするのかを話し合っているところだった。
……ふぅ。
とうの俺は机に突っ伏して、ため息をついていた。
イリナも俺の家に住むことになったんだ。
まぁ、夏休みに地上六階、地下三階という豪邸と化した家は部屋もたくさん余ってるから、一人や二人増えたところで、とくに問題はないんだけど。
そう、昔から伝わる言葉に『女三人寄れば姦しい』という言葉通り、俺が入り込む余地がない。
例えば、アーシア、イリナ、ゼノヴィアが三人集まって女の子トークをし始めたとしよう。
おそろしく会話に入りづらい。ここに小猫ちゃんが加わると…………もう俺は付け入れないのさ。
そのグループに入ることを諦め、リアスたちのもとへ行くと、リアスと朱乃さんやはり女子トークお姉様バージョンをしている。
そこへ俺が「リアス~」「朱乃~」と甘える感じで入り込んでも空しくなる。
……というのもあるというだけで割りとベタベタイチャイチャしてるけどね。
しかし、随分とウチに住む女子が増えたものだ。
「…………う!兵藤!!」
「ん?」
名前を呼ばれて俺はその方角を見ると、黒板の競技を書き込んでる桐生と目が合う。
「どうしたのよ?ボーッとして」
「いや……少し考え事を」
「ふーん。って言うか、あんたの競技勝手に決めたわよ」
「は?」
何勝手に決めてるの?
見ると、二人三脚の競技だ。
「あんたの相方は───」
桐生が指指した先には───アーシア?
「あんたはアーシアと二人三脚よ!」
マジか?
次の日から学園全体で体育祭の練習が始まっていた。
俺のクラスも体操着に着替えて、男女合同で各々が出場する競技の練習をしていた。
「勝負よ、ゼノヴィア!」
「望むところだ、イリナ!」
イリナとゼノヴィアはグラウンドで駆けっこしていた。
グラウンドを爆走してるよ。
なかなか速い。
流石は悪魔と天使。
松田と元浜は揺れるおっぱいの監察…………相変わらず自重する気ゼロの変態コンビだね。
「お、兵藤」
「ああ、匙か」
匙が俺に話しかけてきた。
手にはメジャーやら計測するものを持っていた。
「そこの二人何やってんだ?」
「揺れるおっぱいを観察らしい」
「あ、相変わらずだな」
嘆息する匙。
あと、匙が腕に包帯巻いてたのでどうしたのか聞いてみると、この間のゲームで匙の
「ところで、兵藤は何の競技に出るんだ?」
「俺はアーシアと一緒に二人三脚だよ」
「くっ! 相変わらずうらやましい野郎だ! 俺はパン食い競争だよ」
ふーん、匙はパン食いに出るのか。
それも面白そうだけど、俺はアーシアとの二人三脚の方が良いな。
仲良し小良しで走り抜こうかな。
うらやましがる匙のもとへメガネの女子が二人登場。
「サジ、何をしているのです。テント設置箇所のチェックをするのですから、早く来なさい(イッセーくん、いつ見ても素敵です……♡キスしたいです……♡好きって言って欲しい……♡イッセーくん……♡好き♡好き♡)」
「我が生徒会はただでさえ男子が少ないのですから、働いてくださいな(イッセーくん……♡カッコいい……♡好き……♡)」
生徒会長のソーナと副会長の椿姫ちゃんだ。
二人が匙を呼んでいる。
二人のメガネがキラリと光っているね。
……というか、なんか本音が聞こえるような……?
「は、はい!会長!副会長!」
匙はあわてて二人のもとへと走っていく。
『──ヴリトラか』
ん?どうした、ドライグ?
「いや、気にするな。だが、俺と直の接触が急激に早めたようだ。幾重に刻まれ、魂が薄まろうとも宿主の強い思いがあれば話は別だということだな』
天龍と龍王の龍王の接触か……。
『すぐ近くにファーブニルとヴリトラ。そしてタンニーンにも出会った。今回の宿主は各龍王に縁があるのかもしれんな』
龍王に縁がある、ねぇ。
確かにそうかもしれない。
今後も他の龍王と接する機会がくるかもね。
「アーシア! 夏休みの間におっぱい成長したぁ?」
「キャッ! 桐生さん! も、もまないでくださいぃ」
あ、桐生がアーシアにセクハラしてる。
目を離すとすぐこれだね。アーシアがエロくなったらどうしてくれる。
さて、そろそろ俺もアーシアと練習を始めるとするか。
俺はクラスごとに用意された競技用道具から二人三脚用のひもを取り出した。
「アーシア、俺達も練習しよう!」
「は、はい!」
じゃれついていた桐生にペコリと頭を下げたアーシアは、俺のもとへと駆け寄ってきた。
俺とアーシアはぴったりくっつき、足首にひもを結ぶ。
「よし、さっそく行くよ、アーシア」
「は、はい!」
アーシアは恥ずかしそうにしながらも俺の腰に手を回す。息を整えて俺達は互いに頷き合った後、足を一歩前へ出した。
「せーの、いち、に──」
声を出して、動き出すが───
ガクン!
足を取られて、バランスを崩す。
「きゃっ」
「アーシア! 危ない!」
倒れそうになるアーシアを掴まえて体勢を立て直す。
「やはり、俺がアーシアに合わせるしかないか」
と、俺が考えていると、アーシアが顔を紅潮させていた。
何かに耐えている様子だ。
……ああ、俺、アーシアのおっぱい揉んでるのか!
さっき、とっさに掴んだところはおっぱいだったよ!
むぅ、質量が増している……ではなくて!
俺はアーシアのおっぱいから手を離す!
「ゴメン、アーシア! わざとじゃないんだ!」
「だ、大丈夫です。平気です。で、でも、触るときは一言言ってからにしてください……。私も心の準備が必要ですから……」
一言いえばOKなのか!?
「……とりあえず、再開しようか」
「は、はい。でも、すみません。私、運動はそこまで得意じゃないので」
気落ちするアーシア。
「いいよ。要は息を合わせること。コンビネーションだ」
「コンビネーション?」
可愛く首をかしげるアーシア。
「そう、コンビネーション。まずはゆっくりでいいから一緒に声を出して、一歩一歩動いてみよう」
「はい!」
こうして俺達はまず息を合わせて歩くことから始めたのだった。
その日の放課後。アーシア、ゼノヴィア、イリナと共に部室に顔を出す。
先に来ていたリアス含めた他のメンバーは顔をしかめていた。
「どうしたんですかね?」
「若手悪魔のレーティングゲーム。私達の次の相手が決まったの」
へぇ。
もう決まったのか。
グレモリー対シトリーの一戦を皮切りに例の六家でゲームが行われている。
グレモリーもシトリー以外の家とも戦うことになっていた。
「次の対戦相手は────ディオドラ・アスタロトよ」
「────っ!」
このタイミングであいつが相手か……。
悪い冗談としか思えない対戦相手に俺は言葉を失った。
「おいっちにーさんしー、おいっちにーさんしー」
俺とアーシアは早朝から体操着で二人三脚の練習をしていた。
ゼノヴィアも付き添いで来てくれていて、最近ずっと練習している。
練習を始めた頃はアーシアがバランスを崩して何度も転びそうになったけど、今では競歩くらいの走りは出来るようになっていた。
「あぅ! いち、に! はぅぅ! さん、し!」
アーシアは俺に遅れないようにするため、必死でついてきている。
俺もアーシアと上手いことタイミングを合わせるようにしているから転ぶことはない。
「よし。大分良くなってきたね。じゃあ、一度本番のように走ってみようか」
ゼノヴィアが俺達のヒモを直しながら言う。
ふと、アーシアを見ると──少し表情を陰らせていた。
ディオドラのことかな。ディオドラが俺達の次の相手と決まってからアーシアはさらに悩んでいる様子だった。あいつはアーシアが教会を追放される原因となった悪魔。
なぜあいつがアーシアが教会にいたころ、そこにいたのかは分からないが、あいつのせいで、アーシアが辛い目にあったことには変わらない。
「……あのとき、彼を救ったこと、後悔してません」
ディオドラを救ったのはアーシアが優しかったからだ。それを責める気なんてない。アーシアは良い子だから。
「私、ここが好きです。この駒王学園も、オカルト研究部も好きです。皆さんと過ごせる生活は本当に大切で大事で、大好きなことばかりでとっても素敵なんです。毎日楽しくて。だから、私は今の生活にとても満足しています。みんなと暮らせるのがすごく幸せなんです」
「そうだな、俺達はずっと一緒だ。アーシア、ディオドラことも深く考えなくていい。経緯はどうであれ、嫌なら嫌と言えばいいんだ」
俺の言葉にアーシアは少しきょとんとするが、すぐに笑みを見せてくれる。
「はい」
すると、今度はゼノヴィアが思い詰めた表情で言う。
「……アーシア、改めてだけど、もう一度君に謝りたい。初めて出会った時に暴言を吐き、刃を向けたこと。今でも後悔しているんだ。……そんな私をアーシアは私をと、と、友達だと……」
ゼノヴィアが顔を紅潮させている。
アーシアはゼノヴィアの手を取り、満面の笑みで言う。
「はい。私とゼノヴィアさんはお友達です」
真正面からの屈託のない一言。
ゼノヴィアは少し涙ぐんでいた。
「ありがとう。ありがとう、アーシア」
うんうん。
感動的なシーンだね。
本当、アーシアちゃんは優しい子だよ。
「うぅぅぅっ! 良い話よねぇ……」
聞こえてきた嗚咽。
声の方向を見れば──イリナが号泣していた。
「イリナか。お前も来てたのか?」
「うぅ、ええ、ゼノヴィアに誘われてね・・・・。早朝の駒王学園も良いものだぞーって。で、来てみたら、美しい友情が見られるんだもの。これも主とミカエル様のお導きだわ……」
天に祈りを捧げるイリナ。
「そういや、イリナってオカ研の部員じゃないよね?」
俺が尋ねるとイリナは満面の笑みで親指を立てる。
「ええ、実は私、自分でクラブを作ることにしたのよ!」
「ふーん、それってどんな?」
「うふふ、聞いて驚きなさい! その名も『紫藤イリナの愛の救済クラブ』! 内容は簡単! 学園で困っている人たちを無償で助けるの! ああ、信仰心の篤い私は主のため、ミカエルさまのため、罪深い異教徒どものために愛を振りまくのよ!」
妙なポーズで天に祈りを捧げながら、目を爛々と輝かせるイリナ。ネーミングセンスが……。
「……いや、うん。まぁ、がんばってね」
俺は適当に相づちを打つと、イリナは胸をどんと叩いて言う。
「任せて! もちろん、オカルト研究部がピンチのときはお助けするわ! 今回はリアスさんのお願いでオカルト研究部の部活対抗レースの練習を助けるの!」
ということは、体育祭は俺達のところに参加するのね。
「一つ訊くけど、部員って他にいるのかな?」
「まだ私だけよ! おかげで同好会レベルに留まっていて、正式な活動と運営資金は規制されているわ。まずはソーナ会長を説得するところからスタートね」
それはまた……。ソーナは厳しいときは厳しいよ。椿姫ちゃんもだけど。俺といるときはかなりデレてくるけど。
「とりあえずはオカルト研究部に籍を置くことになっているの」
それってほぼオカルト研究部の部員じゃないかな?
と、俺は思わずツッコミそうになったのを堪える。
「それはともかく、練習を始めよう」
俺は気分を取り直し、アーシアとの練習を再開したのだった。
感想、評価、是非よろしくお願いいたします。