「……そろそろ時間ね」
リアスがそう言い、立ち上がる。
決戦日。
俺達は深夜にオカルト研究部に集まっていた。
アーシアがシスター服、ゼノヴィアは例の戦闘服。
俺たち他のメンバーは駒王学園夏の制服姿だ。
中央の魔方陣に集まり、転送の時を迎える──。
「……着いたのか?」
魔法陣のまばゆい輝きから視力が回復し、目を開けてみると──。
そこは広い場所だった。
……一定間隔で大きな柱が並んでいる。
下は……石造りだ。
辺りを見渡すと、後方に巨大な神殿の入り口がある。
……大きいな。
ギリシャで作られる神殿によく似ている。
パッとみでは壊れた箇所もなく、出来上がったばかりの様相を見せていた。
ここが俺たちの陣営か。
短期決戦か長期戦かわからないが、俺は俺の仕事をこなすだけだ。
などと構えていたのだがいつまでたっても審判役の人からのアナウンスが届いてこない。
「……おかしいわね」
リアスがそう言う。
他のメンバーも怪訝そうにしていた。
運営側で何か起こったのか?
そんな風に首をかしげて思っていたら───。
神殿とは逆方向に魔法陣が出現する。
まさかディオドラか?
今回は短期戦のゲームなのか?
だが、魔法陣は一つだけではなかった。
さらにパッパッと光りだし、辺り一面、俺たちを囲むように出現していく。
「……アスタロトの紋様じゃない!」
木場がそう言い、剣をかまえる。
朱乃さんも手に雷を奔らせながら言う。
「……魔法陣全て共通性はありませんわ。ただ──」
「全部、悪魔。しかも記憶が確かなら───」
リアスが紅いオーラをまといながら、厳しい目線を辺りに配らせていた。
魔法陣から現れたのは大勢の悪魔たち。
全員、敵意、殺意を漂わせながらでてくる。その悪魔たちは俺たちを囲んで激しく睨んでくる!
何百人か、千人ぐらいか、正確な数は判らないが、結構な数に囲まれている!
「魔法陣から察するに『
───っ!?
『
俺たちのゲームに乱入してくるとは……!目的は恐らく──。
「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」
囲む悪魔の一人がリアスに挑戦的な物言いをする。
やはり、旧魔王を支持する悪魔にとってみれば、現魔王とそれに関与する者たちが目障りなのだろう。
「キャッ!」
悲鳴!
この声は──アーシア!
アーシアの方へ振り向くと、そこにはアーシアの姿はない!
「部長さん!」
空から声!上を見上げてみるとアーシアを捕らえたディオドラの姿があった!醜悪な笑みを浮かべるディオドラはアーシアを捕らえたままこの場から姿を消す。
「アーシアッッ!」
すると、魔力で音声をこちらに飛ばしているのかディオドラの声が!
『やあ、リアス・グレモリー。アーシア・アルジェントはいただくよ』
「卑怯者!アーシアを返せ!そもそもどういうことだ!私達とゲームをするんじゃなかったのか!?」
ゼノヴィアの叫びにディオドラの醜悪な声が。
『バカじゃないの?ゲームなんてしないさ。キミたちはここで彼ら──『
「あなた、『
リアスのオーラがいっそう盛り上がる。
キレてるんだ、当たり前だ。
あいつは、あの野郎は絶対にッ……!
『彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったものだからね。ま、最後のあがきをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? 赤龍帝、僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見れるはずだよ。ハハハッ!』
そこで音声は終わる。……覚悟しろよ、ディオドラ。
「イッセーくん! いまは目の前の敵を薙ぎ払うのが先だ! そのあと、アーシアさんを助けに行こう!」
「……そうだな、木場」
俺たちを囲む悪魔たちの手元が怪しく光る。
魔力弾を一斉に放つつもりだろうな。
ディオドラの言うことが本当なら、中級悪魔だけではなく上級悪魔も含まれている。こいつらが放ってくる魔力の雨を防ぎきるのはいいが、長く時間をとられるのは……打開策を考えている俺だが、一触即発のなか「キャッ!」と悲鳴があがる。
朱乃の声だ。
なにかあったのだろうか!?
そう思ってそちらへ視線を向けると──ローブ姿の隻眼の老人が朱乃のスカートをめくって下着を覗いていた。
「うーん、良い尻じゃな。何よりも若さゆえの張りがたま」
ボンッッ!
言い終わる前に俺は魔力弾を老人に放つ。
老人は平然と避けた。
「もう少し年寄りを労いたわらんかい。減るもんじゃあるまいし」
「喧しいわ。朱乃の体は俺の───というか、あんたはオーディンさまじゃないか」
そう、そこにいたのは北欧の主神オーディンさまだった。何をしてるんだこの主神は……。
「オーディンさま!どうしてここへ?」
「うむ。話すと長くなるがのぅ。簡潔に言うと、『
やはり、ゲーム自体がそうなっていたのか。
「いま、運営側と各勢力の面々が協力体制で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたのまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上もオーフィスの『蛇』でももらいうけていたのじゃろう。だがの、このままじゃとお主らが危険じゃろ? 救援が必要だったわけじゃ。しかしの、このゲームフィールドごと、強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。特に破壊は厳しいのぅ。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんのじゃよ」
「では、オーディン様はどうやってここへ?」
「ミーミルの泉に片目を差し出したおかげであらゆる魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなったんじゃよ。結界に関しても同様」
オーディン様は左の隻眼の方を俺たちに見せる。
そこには水晶らしきものが埋め込まれ、眼の奧に輝く魔術文字を浮かび上がらせていた。
ぞくっ……
その水晶の義眼に映し出された文字を見たとき、心身の底までいくらか冷えて固まるように感じた。
かなり危険な輝きだな……ッ。
「相手は北欧の主神だ! 討ち取れば名が揚がるぞ!」
旧魔王派の悪魔が一斉に魔力の弾を撃ってくる!
この数は──少々マズイか?
木場たちが魔力の弾を迎え撃とうとしたとき、オーディン様が杖を一度だけトンと地に突く。
ボボボボボボボボンッ!
こちらへ向かってきていた無数の魔力弾が宙で弾けて消滅した!
オーディン様は「ホッホッホッ」とひげをさすりながら笑う。
───すごいな。さすがは北欧の主神だ。
たったあれだけの動作であれだけの魔力弾を防ぐなんて。
「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃがここに入るだけで精一杯とは……。はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようにアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いにだすとはあの若造どうしてくれるものか……」
そうぶつぶつと言いながらもグレモリー眷属の人数分の小型通信機を渡してくれる。
「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」
そういって杖を俺たちに向けると、俺たちの体を薄く輝くオーラが覆う。
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」
「とりあえず訊きますけど、オーディンさまは大丈夫なんですか?」
俺がそう訊くと、オーディンさまは愉快そうに笑うだけだ。
「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ──」
オーディンさまの左手に槍らしきものが出現した。
「───グングニル」
それを悪魔たちに一撃繰り出す!刹那──。
ブゥゥゥゥウウウウンッ!
槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音が辺り一面に響き渡る。
悪魔たちは先の一撃で数十人ほど数を減らしている。桁違いの威力だな。
「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」
手加減してこれなのか。やはり神は別領域の強さだな。
「すみません!ここをお願いします!」
リアスはオーディンさまに一礼すると俺たちに言う。
「神殿まで走るわよ!」
リアスの言葉に俺たちは応じて、神殿へと走り出したのだった。
神殿の入り口に入るなり、俺たちは耳にオーディン様から受け取った通信機器を取り付けた。すると聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『無事か?こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな』
──先生だ。
『言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは『
……予想していた?
『最近、現魔王に関与する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは『
グラシャラボラスの次期当主は『
『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫。俺が倒したカテレア・レヴィアタンといい、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。テロリストどもにとって襲撃するのにこれほど好都合なものもない。先日のアスタロト対大公アガレスの一戦からも今回の件を予見出来る疑惑は生じていたんだよ』
つまり、俺たちの試合は最初から旧魔王派に狙われていた。
敵のターゲットは現魔王と現魔王の血縁者──リアス。そして、観戦しに来ていた各勢力の頭であるオーディンさまもターゲットの一人だったのだろう。
「では、あのディオドラの魔力が以前よりも上がったのは?」
リアスが先生に問いかける。
『オーフィスの力を借りたんだろう。ディオドラがそれをゲームで使った事は奴らも計算外だったろうな。それ故、グラシャラボラス家の一件と併せて、今回のゲームで何か起こるかもしれないと予見が出来たんだ。しかし、奴らは作戦を途中で覆さなかった』
『あっちにしてみればこちらを始末できればどちらでもいいんだろうが、俺たちとしてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すにはちょうどいい。現魔王、天界のセラフたち、オーディンのジジイ、ギリシャの神、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリストどもを一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。いま全員、旧魔王の悪魔相手に暴れているぜ』
どの勢力もテロには屈しないという姿勢だったわけだ。
「……このゲームはご破算ってわけね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんなことになっちまっている。今回、お前たちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定その通りになったが、お前逹を危ない所に転送したのは確かだ。この作戦もサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』
「もし俺たちが死んだらどうするつもりだったんですか?」
俺が訊くと先生は真剣な声音で言った。
『俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首で済むならそうした』
───先生、死ぬつもりだったのか。
そこまで覚悟して、旧魔王派の連中をおびき寄せたのだろな。
俺は先頭を走りながら先生に通信を入れる。
「先生、アーシアがディオドラに連れ去られた!」
『───っ。そうか。どちらにしてもお前逹をこれ以上危険な所に置いておく訳にはいかない。アーシアは俺達に任せておけ。そこは戦場になる。どんどん旧魔王派の連中が魔方陣で転送されてきているからな。その神殿には隠し地下室が設けられている。かなり丈夫な造りだ。戦闘が静まるまでそこに隠れていてくれ。後は俺達がテロリストを始末する。このフィールドは「
「先生も戦場に来ているんですか?」
『ああ、同じフィールドにいる。かなり広大なフィールドだから、離れてはいるが』
「アーシアは俺達が救います」
『おまえ、いまがどういう状況かわかっているのか?」
「アーシアは俺の仲間です! 家族です! 俺はアーシアを失いたくない!」
俺に続いてリアスが不敵な笑みで言う。
「アザゼル先生、悪いけれど私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うわ。ゲームはダメになったけれど、ディオドラとは決着をつけなくちゃ納得出来ない。私の眷属を奪うと言う事がどれ程愚かな事か、教え込まないといけないのよ!」
そこへ朱乃も続く。
「アザゼル先生?私達、三大勢力で不審な行為を行う者に実力行使する権限があるのでしょう?今がそれを使う時では?ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」
通信機の先でアザゼルは嘆息していた。
『……ったく、頑固なガキどもだ……。ま、いい。今回は限定条件なんて一切ない。だからこそ、おまえたちのパワーを抑えるものなんて何もない。──ぞんぶんに暴れてこい! 特にイッセー! 赤龍帝の力を裏切り小僧のディオドラに見せつけてこいッ!』
「了解!」
俺は気合の入った声で答える。
『最後にこれだけは聞いていけ。大事なことだ。奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり多少敵に勘付かれても問題ない作戦でもあるということだ』
「相手が隠し玉を持ってテロを仕掛けてきていると?」
『ああ、それが何かはまだわからないが、このフィールドが危険なことには変わりはない。ゲームは停止しているため、リタイヤ転送は無い。危なくなっても助ける手段はないから肝に銘じておけ。──十分に気をつけてくれ』
敵は自信があるから、今回のテロが予想されていても強引に仕掛けてきた、ということか。
何をしでかすかは知らないが、アーシアを助けたら、神殿の地下に逃げる!それだけだ!
「小猫、アーシアは?」
「……あちらからアーシア先輩とディオドラ・アスタロトの気配を感じます」
待ってろよ、アーシア!
全員が無言で頷き合い、神殿の奥へ向かって走り出したのだった。