俺達はディオドラの『騎士』が待っているだろう神殿に足を踏み入れたとき、俺達の視界に見覚えのある者が映り込む。
「や、おひさ~」
現れたのは白髪の神父。
それは───
「フリード……!」
そう、俺達の目の前に現れたのはフリード・セルゼン。
懐かしいイカれ神父だった。まだ生きてたのか。
「まだ生きてたんだなって思ったっしょ?イエスイエスイエス。僕ちん、しぶといからキッチリキッカリ生きてござんすよ?」
というかなぜこいつがここにいる?『騎士』二人はどうした?
「フリード。ディオドラの『騎士』はどうした?」
俺の問いに嫌な笑みを浮かべるフリード。
フリードは口をモゴモゴさせると、ペッと何かを吐き出した。
見てみると、それは人の指だった。
「俺様が食ったよ」
……道理で以前と気配の質が違うわけだ。
「……その人、人間を辞めてます」
小猫ちゃんも気付いたようで鼻を押さえ、目元を細めて言った。
すると、フリードはニンマリと口の端を吊り上げて人間とは思えない形相で哄笑をあげる。
「ヒャーハハハハハハハッ!てめぇらに切り刻まれた後、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁあっ!腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉおおっ!」
ボコッ!グニュリッ!
フリードの肉体の各部分が不気味に盛り上がっていく!
角みたいなものが隆起し、腕や脚も膨れ上がる!
「行き場無くした俺を拾ったのが『禍の団』の連中さ!俺に力をくれるっていうから何事かと思えばよォォォォオオっ!ぎゃははははは!合成獣だとよっ!?ふははははははっははははっ!」
背中の片側にコウモリの様な翼、逆側には巨大な腕が生えて、顔は原型を留めない程変形して凶暴な牙も生えてくる。
……どういう頭の構造してれば、人をこのように作り替えられるんだ。
「ヒャハハハハハハッ!ところで知っていたかい?ディオドラ・アスタロトの趣味をさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキだぜ!」
フリードが突然ディオドラの話しを始める。
「ディオドラの女の趣味さ。あのお坊ちゃん、大した好みでさー、教会に通じた女が好みなんだって!そ、シスターとかそういうのさ!」
女の趣味?シスター………ッ!?
俺の中で、ある考えが直結した。
フリードは大きな口の端を吊り上げながら続ける
「しかも狙う相手は熱心な信者や教会の本部に馴染みが深い女ばかりだ。俺さまの言ってる事わかるー?さっきイッセーくん達がぶっ倒してきた眷属悪魔の女達は元信者ばかりなんだよ!自分の屋敷にかこっている女共もおんなじ!ぜーんぶ元は有名なシスターや各地の聖女さま方なんだぜ!ヒャハハハ!マジで趣味良いよなぁぁっ!悪魔のお坊っちゃんが教会の女を誘惑して手籠めにしてんだからよ!いやはや、だからこそ悪魔でもあるのか!熱心な聖女さまを言葉巧みに超絶上手い事やって堕とすんだからさ!まさに悪魔の囁きだ!」
「じゃあ、アーシアは……?」
「アーシアちゃんが教会から追放されるシナリオを書いたのは、元をただせばディオドラ・アスタロトなんだぜ〜?シナリオはこうだ。昔々あるところのある日、シスターとセッ◯スするのが大好きなとある悪魔のお坊っちゃんは、チョー好みの美少女聖女さまを見つけました。その日からエッチしたくてたまりません。でも、教会から連れ出すにはちょいと骨が折れそうと判断して、他の方法で彼女を自分のものにする作戦にしました」
おかしいはずだ。
現魔王の血縁者で上級悪魔であるディオドラが教会の近くで眷属も引き連れず、怪我をし、たまたま悪魔も治せるアーシアに助けられる。
考えれば考えるほど、あまりにも話しができすぎている。
「聖女さまはとてもとてもおやさしい娘さんです。神器に詳しい者から『あの聖女さまは悪魔をも治す神器を持っているぞ』と言うアドバイスを貰いました。そこに目をつけた坊っちゃんは作戦を立てました。『ケガした僕を治すところを他の聖職者に見つかれば聖女さまは教会から追放されるかも☆』と!傷痕が多少残ってもエッチ出来りゃバッチリOK!それがお坊っちゃんの生きる道!」
───あの時、彼を救った事、後悔してません
俺の脳内で、笑顔でそう言ったアーシアが思い出される
「信じていた教会から追放され、神を信じられなくなって人生を狂わされたら、簡単に僕のもとに来るだろう───と!ヒャハハハハ!聖女さまの苦しみも坊っちゃんにとってみれば最高のスパイスなのさ!最底辺まで堕ちたところを掬い上げて犯す!心身共に犯す!それが坊っちゃんの最高最大のお楽しみなのでした!今までもそうして教会の女を犯して自分のものにしたのです!それはこれからも変わりません!坊っちゃん───ディオドラ・アスタロトくんは教会信者の女の子を抱くのが大好きな悪魔さんなのでした!ヒャハハハハッ!」
俺の心の底で、言い表せない程の憎悪が沸き上がる。
握る拳からは血も噴き出している。
フリードを激しく睨み1歩前へ出ようとしたが、木場に肩を掴まれ制止させられる。
「イッセーくん。君のその想いをぶつけるのはディオドラまで取っておいた方が良い」
俺は木場の顔を見る。木場の瞳ははっきりとした怒りと憎悪に満ちていた。
「……任せた」
「うん、ここは僕が行く。あの汚い口を止めてこよう」
迫力のある歩みで祐斗は一誠の横を通り過ぎ、異形の存在と化したフリードの前に立って聖魔剣を一振り創り出した。
「やあやあやあ!てめぇはあの時俺をぶった斬りやがった腐れナイトさんじゃあーりませんかぁぁぁっ!てめぇのお陰で俺はこんな素敵なモデルチェンジをしちゃいましたよ!でもよ!俺さまもだいぶ強くなったんだぜぇぇ?ディオドラの『騎士』2人をペロリと平らげましてね!そいつらの特性も得たんですよぉぉぉっ!無敵超絶モンスターのフリードくんをよろしくお願いしますぜぇ、色男さんよぉぉぉっ!」
木場は聖魔剣を構えると冷淡な声で一言だけ言う。
「君はもういない方が良い」
「調子くれてんじゃねぇぇぇぇぞぉぉぉぉっ!」
憤怒の形相となったモンスターフリードは全身から生物的なフォルムの刃を幾重にも生やしてこちらへ───。
木場とフリードが交錯する───。
バッ!
刹那、モンスターのフリードは無数に斬り刻まれ四散した。
すれ違い様に木場が高速の斬戟をフリードに繰り出したんだ。
「────んだ、それ。強すぎんだろ……」
頭部だけになったフリードは床に転がり大きな目をひくつかせていた
……一瞬だな。
木場が神速の動きで切り刻んだんだ。
「……ひひひ。ま、お前らじゃ、ディオドラの計画も、裏にいる奴らも倒せないさ。何よりも神滅具所持者本当のの恐ろしさをまだ知らねぇんだからよ……。ひゃはは───」
ズンッ!
頭部だけで笑っていたフリードに木場は容赦なく剣を突き立て、絶命させる。
「続きは冥府の死神相手に吼えているといい」
……俺は物言わなくなったフリードの頭部を見る。
こいつとはある意味腐れ縁だったのかね?
いや、今はこいつのことはいい。
俺達がやるべきことはアーシアを助ける。
それだけだ。
「行こうか、皆」
俺達は頷きあい、ディオドラの待つ最後の神殿へと走り出した。
ディオドラ───。
お前に絶望を見せてやる。
同時刻、俺──アザゼルはレーティングゲームのバトルフィールドで旧魔王派の悪魔をある程度片付けていた。
数も少なくなったので後は部下に任せて、ある場所へ向かう。
フィールドの隅に人影を1つ視認すると、その人影の前に降り立つ
腰まで伸びた黒髪の小柄な少女
黒いワンピースを身に着け細い四肢を覗かせている。
少女は端正な顔付きだが、目線をフィールド中央のほうへ向けていた。
……俺は目を細め、静かに言う。
「──おまえ自身が出張ってくるとはな」
少女はアザゼルの声に反応し、顔を向けて薄く笑う
「アザゼル。久しい」
「以前は老人の姿だったか?今度は美少女さまの姿とは恐れ入る。何を考えている?───オーフィス」
そう、こいつは『無限の龍神』──オーフィス! 『禍の団』のトップ! 間違いないぜ。こいつから漂う不気味で言いようのないオーラはオーフィスのものだ。
以前会ったときはジジイの姿だったが、今回は黒髪少女かよ。まあ、こいつにとっては姿なんてものは飾りに過ぎないか。いくらでも変えられる。
こいつ自身が出張ってくるってことは、今回の作戦はそれほどこいつにとって重要でデカいのか?
「見学。ただ、それだけ」
「高みの見物ね……。それにしてもボスがひょっこり現れるなんてな。ここでお前を倒せば世界は平和か?」
アザゼルは苦笑しながら光の槍を突きつけるが、オーフィスは首を横に振る
「無理。アザゼルでは我を倒せない」
ハッキリ言ってくれる。───だろうさ。俺だけじゃお前を倒しきれない。
「では、2人ではどうだろうか?」
バサッ!
羽ばたきながら、舞い降りてきたのは──巨大なドラゴン!
「タンニーン!」
元龍王のタンニーン!
こいつもゲームフィールドの旧魔王派一掃作戦に参加していたのだが、一仕事を終えてこちらに向ってきたようだ。
それに手伝いに来た黒歌や最近こちらで修行をつけているレイナーレたちももうすぐこちらへ向かってくるだろう。
タンニーンは大きな眼でオーフィスを激しく睨む。
「せっかく若手悪魔が未来を懸けて戦場に赴いていると言うのにな。貴様が茶々を入れると言うのが気に入らん!あれ程世界に興味を示さなかった貴様が今頃テロリストの親玉だと!?何が貴様をそうさせたと言うのだ!」
俺もタンニーンの意見に頷き問いただす。
「暇潰し───なんて今時流行らない理由は止めてくれよな。お前の行為で既に被害が各地に出てるんだ」
オーフィスがトップに立ち、その力を様々な危険分子に貸し与えた事によって各勢力は多大な被害を受けている。
死傷者も日に日に増し、無視など出来る筈も無いレベルに……。
視できないレベルだ。
何がこいつを突き動かし、テロリスト集団の上に立たせた? 俺にはそれだけがわからなかった。いままで世界の動きを静観していた最強の存在が何故いまになって動きだしたのか?
そのオーフィスの答えは予想外のものだった。
「──静寂な世界」
…………。
一瞬、何を言ったか理解できなかった。
「は?」
俺は再び問い返す。するとオーフィスは真っ直ぐこちらを見つめて言った。
「故郷である次元の狭間に戻り、静寂を得たい。ただそれだけ」
──っ!
そ、それが理由だってのか? 次元の狭間。簡単に言うなら、人間界と冥界、人間界と天界の間にある壁のことだ。世界と世界の分け隔てる境界。そこは何も無い「無の世界」と言われている。
オーフィスはそこから生じたのは知っていたが……。
「……ホームシックかよと普通なら笑ってやるところだが、時限の狭間ときたか。あそこは確か──」
俺の言葉にオーフィスはうなずいた。
「そう、グレートレッドがいる」
次元の狭間は現在、奴が支配している。なるほど、オーフィスは奴をどうにかして次元の狭間に戻りたいのか。
まさか、それを条件──グレートレッドを追いだすのを条件に旧魔王派の悪魔や他の勢力の異端児に懐柔されたってのか?
──そうか、ヴァーリの目的!
俺の思考が何かをだそうとしたとき、オーフィスの横に魔方陣が出現し、何者かが転移してくる。
現れたのは貴族服を着た1人の男。
そこにあらわれたのは貴族服を着た1人の男。
そいつは俺に一礼し、不適に笑んだ。
「お初にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団』真なる魔王派として、堕天使の総督である貴殿に決闘を申し込む」
……ハハハ、こいつはまた……。首謀者の1人がご登場ってわけだ。
俺は頭をポリポリとかきながら、つぶやく。
「旧魔王派のアスモデウスが出てきたのか」
ドンッ!
確認するやいなや、そいつは全身から魔のオーラを迸らせた。色がドス黒いな。こいうもオーフィスの力を得たか。
「旧ではない! 真なる魔王の血族だ! カテレア・レヴィアタンの敵討ちをさせてもらうッ!」
カテレアの男か何かか。
いいぜ。タンニーン、おまえはどうする?」
「サシの勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視でもさせてもらおうか」
こいつも根っからの武人だね。ドラゴンにしておくのが勿体無いぐらいだ。
「頼む。さて、混沌としてきたが、俺の教え子どもは無事にディオドラの元にたどり着いている頃かな」
俺が不意に口にしたことだが、オーフィスはそれを聞き、首を横に振る。
「ディオドラ・アスタロトにも我の蛇を渡した。あれを飲めば力が増大する。倒すのは容易ではない」
「ハハハハハハハハハハッ!」
俺はオーフィスの言葉に爆笑した。わかってねぇ! わかってねぇよ、オーフィス!
「なぜ、笑う?」
怪訝に首をかしげるオーフィスに俺は告げた。
「蛇か。そりゃ、けっこうだ。だが、残念なことにそれじゃ無理だな」
「なぜ? 我が蛇、飲めばたちまち強力な力を得られる」
「それでも無理だ。先日のゲームじゃ、ルール上、力を完全に発揮できなかったがな」
あいつが本気でキレたら俺でも手がつけられねぇからな。
俺はファーブニルの宝玉を取り出し、例の人工神器の短剣をかまえた。
「さて、ファーブニル。付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウス! いくぜ、禁手化ッッ!」
次の瞬間、俺は黄金の全身鎧に包まれていた。
イッセー、おまえを制限するものはここのどこにも無い。
──暴れてみせろッ!
と、俺がカッコ良く決めようとしたところで乱入する転移用魔法陣があった。
その紋様は──。そうか、おまえ自らが出張るか。
輝く魔法陣から現れたのは、紅髪の王──サーゼクス。
「サーゼクス、どうして出てきた?」
俺の問いに奴は目を細める。
「今回結果的に妹を我々大人の政治に巻き込んでしまった。私も前へ出てこなければな。いつもアザゼルばかりに任せていては悪いと感じていた。──クルゼレイを説得したい。これぐらいしなければ妹に顔向けできそうにないんでね」
ったく、こいつは……。
「……お人好しめ。──無駄になるぞ?」
「それでも現悪魔の王として直接聞きたかった」
俺はかまえていた槍を一度引いた。
サーゼクスを視認した途端、クルゼレイの表情が憤怒と化す。
「───サーゼクス! 忌々しき偽りの存在ッ! 直接現れてくれるとはッ! 貴様が、貴様さえいなければ我々は……ッ!」
見ろ。これが現実だ。奴らにとって、おまえの存在は最大級に忌むべきものなんだよ。
「クルゼレイ。矛を下げてくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる。前魔王の血筋を表舞台から遠ざけ、冥界の辺境に追いやったこと、いまだに私は『他の道もあったのでは?』と思ってならない。前魔王子孫の幹部たちと会談の席を設けたい。何よりも貴殿とは現魔王アスモデウスであるファルビウムとも話して欲しいと考えている」
サーゼクスの言葉は真摯だ。それゆえ、クルゼレイの感情を逆撫でる。
──無駄だ、サーゼクス。
もともと、こいつらにおまえたち現魔王の言葉は届かない。おまえは甘いんだ。
激昂するクルゼレイ。
「ふざけないでもらおう!堕天使どころか、天使とも通じ、汚れきった貴様に悪魔を語る資格など無いのだ!それどころか、俺に偽者と話せと言うのか!?大概にしろッ!」
アザゼルは嘆息してクルゼレイに言う。
「よく言うぜ。てめぇら『禍の団』には三大勢力の危険分子が仲良く集まっているじゃないか」
奴は口の端を吊り上げる。
「手を取り合っている訳ではない。利用しているのだ。忌まわしい天使と堕天使は我々悪魔が利用するだけの存在でしかない。相互理解?和平?悪魔以外の存在はいずれ滅ぼすべきなのだ!それを何故分からない!?悪魔こそが!否いな!我々魔王こそが全世界の王であるべきなのだよ!オーフィスの力を利用する事で俺達は世界を滅ぼし、新たな悪魔の世界を創り出す!その為には貴様ら偽りの魔王どもが邪魔なのだ!」
典型的な雑魚の親玉的思想を語り続けるクルゼレイ。
現魔王と旧魔王の考え、認識、その他諸々は根底から相違しており……その溝は深く、決して埋まらない。
サーゼクスは寂しげな目で呟いた。
「クルゼレイ、私は悪魔と言う種族を守りたいだけだ。民を守らなければ、種は繁栄しない。甘いと言われても良い。私は未来ある子供達を導く。───今の冥界に戦争は必要無いのだ」
「甘いッ!何よりも稚拙な理由だッ!それが悪魔の本懐だと思っているのか!?悪魔は人間の魂を奪い、地獄へ誘い、そして天使と神を滅ぼす為の存在だッ!もはや話し合いは不要ッ!サーゼクスよ!偽りと偽善の王よッ!ルシファーとは!魔王とは!全てを滅する存在だッ!滅びの力を持っていながら、なぜ横の堕天使に振る舞わない!?やはり貴様は魔王を語る資格など無いッ!この真なる魔王であるクルゼレイ・アスモデウスがお前を滅ぼしてくれるッ!」
それが現魔王と旧魔王の子孫、両者最後の話し合いとなった……。
サーゼクスはオーフィスにも語りかける。
「……オーフィス。貴殿との交渉も無駄なのだろうか?」
「我の蛇を飲み、誓いを立てるのなら。もう1つ、冥界周囲に存在する次元の狭間の所有権、それ全て貰う」
──服従と冥界の閉鎖、ってことか。
冥界を背負う現魔王がそれに安易に応じる事など出来ない。
サーゼクスは天を仰ぎ瞑目する。
次に目を開けた時───彼の瞳には背筋が凍りつく程の冷たさが映り込んでいた。
それを確認したクルゼレイは距離を取り、両手に巨大な魔力の塊を作り出す。
「そうだ!それで良い!その方が分かりやすいのだよ、サーゼクスッ!」
クルゼレイは最初から話を聞く気など無く、戦う事を望んでいた。
サーゼクスは右手を突き出し、手のひらを上にかざした。
そこに魔力が圧縮していき、サーゼクスの魔力は徐々に異様なオーラを放ち始める。
サーゼクスは強い口調で言った。
「クルゼレイ、私は魔王として今の冥界に敵対する者を排除する」
「貴様が魔王を語るなッ!」
クルゼレイが巨大な魔力を両手から掃射した。
サーゼクスは動じず、手のひらに生まれた魔力を無数の小さな球体に変えて前方へ撃ち出した。
クルゼレイの攻撃はサーゼクスの魔力に触れた途端、削り取られた様に消滅していく。
撃ち出した小さな魔力の球体は意志を持つかの如く宙を縦横無尽に動き回り、クルゼレイの攻撃を打ち消していった。
消しきれなかった攻撃はサーゼクス自身が避けたり、防御障壁を作って防いでいく。
クルゼレイの口内へ滅びの球体が1つだけ入り込んだ。
ドウッ!
クルゼレイの腹部が1度だけ膨れ上がり、それが収まると同時に彼の魔力が一気に減少する
サーゼクスがボソリと呟いた
「──『
パワーアップの源である蛇を消された事で、先程まで余裕を見せていたクルゼレイに焦りの色が生じる。
サーゼクスが魔王に選ばれた理由の1つは───圧倒的な威力を誇る消滅魔力。
触れた物を全て消し、塵芥すら残さない絶対的な滅び……。
決して力を溢れさせず、最小サイズに留めて複数同時に操る緻密なコントロールと並外れた才能が必要な技術をサーゼクスは有していた
「おのれ!貴様といい、ヴァーリといい、何故こうも『ルシファー』を名乗る者は恵まれた力を持っていながら、我々と相容れないッ!?」
クルゼレイは毒づきながらも再び両手に魔力を放出しようとしたが───。
ギュパンッ!
滅びの球体の1つがクルゼレイの腹を丸ごと削り取った……。
触れるだけで周囲の物を根刮ねこそぎ消す滅びの魔力、小さくとも威力は絶大だった。
「……な、何故……本物が偽者に負けねばならない……?」
クルゼレイは口から血を吐き出し、無念の血涙を流していた。
サーゼクスは瞑目し、ゆっくりと手を横に薙ぐ。
その瞬間、クルゼレイは宙を飛び回る無数の球体にその体を全て打ち消されていった……。