冥界でのイベントを終え、オーディンさまの日本観光に付き合わされたあと、俺と木場とギャスパーの男組は戦闘訓練をしていた。俺は今、木場と模擬戦中だ。木場はスピードも速いし、剣の柄をボーリングの球のように膨れ上がらせて、俺の兜を横殴りにしてきたり、右足の先から刃を生えさせて蹴りを放ったりと。そんなところにも剣を作れるのか。カウンターも卓越したものだし聖魔剣に雷や氷の属性付加ができるようになっている。ウチの影のエースだな。俺は瞬時のカウンターや広範囲への圧倒的な魔力攻撃でくだしているが。
「けっこうイッセーくんの練習量についていけないときがあるよ」
練習後、スポーツ飲料をあおりながら木場はそう笑っていた。
模擬戦のあとはお互い各々の方法で自主トレだ。
木場は休憩。ギャスパーは空中を飛び回る謎の小型ロボットを目で停める練習ロボットは先生が作ったギャスパー専用の練習アイテムだ。
俺は鎧を解除してスクワットをしながら、木場の言葉に苦笑していた。
「俺だってまだまだだ。サイラオーグさんだって、諦めなかったから次期当主の座を手に入れたというじゃないか。俺も今よりさらに上を目指すだけだ」
最近、俺と木場とギャスパーはアザゼル先生とサーゼクスさまが作ってくれた頑丈なバトルフィールドで修行していた。冥界グレモリー領のとある地下に作ったものだ。
俺と木場とギャスパーじゃ能力上、普通の場所では思いっきり修行できない。本気になったら、風景吹っ飛ばしたり、周囲を剣だらけにしちまうからな。
トレーニングできる空間は家の地下にもあったけど、強度が足りなくて使用できなかったんだよな。
そこへお二方からのプレゼント!
前回、ディオドラの件で活躍したご褒美らしい。
家から専用の魔法陣でジャンプして、ここへ来ている。かなり特殊な作りだから、テロリストに気取られることはないようだ。
ゲームに参加する上級悪魔なら、似たような場所を持っているようで、若手悪魔の俺たちは特例という形でいただいていた。
この特例は若手のなかでは俺たちと──サイラオーグさんのチームだけらしい。他のグレモリー眷族達もよく利用しているが、今回は男組だけしかいない。いろいろと話しているとアザゼル先生が来た。女子部員お手製のおにぎりの差し入れだ。
俺たちはそれに喜び、さっそく頬張っていた。うん、うまい! このおにぎりはアーシアの味だ。やさしい味がするんだよなぁ。
「前よりいい体つきになってきたな、イッセー。鍛錬を積み重ねてきたものだとすぐにわかる」
「さらに強くならないと最強の『兵士』になれませんからね。リアスに約束したことなんで、将来独り立ちするまでにそれを叶えないと」
「そういや、聞いたぜ?おまえが将来リアスのもとから独り立ちするときが来たら、アーシアとゼノヴィアを連れて行くんだって?」
アーシアから聞いたのか?それともゼノヴィア?まあ、別にいいか。
「ええ、まあ」
「やるじゃねぇか」
「アーシアとはずっと一緒にいるって約束しましたし。俺はアーシアと一緒にいるつもりです。ゼノヴィアとの悪魔稼業もいいかな、と。ゼノヴィアも愛してますし」
「だがな、イッセー。おまえが将来『王』になるなら、ひとつ覚えておかないことがある」
「何ですか?」
とたんに真剣な目つきになって先生は言う。
「──犠牲だ。ゲームのとき、手駒を見捨てなければいけないことが必ず起きる。そのとき、おまえはどう出るか。そこで『王』としての資質が試されるんだよ」
「……助けるという選択肢を捨てろと?」
俺の問いに先生は首を横に振る。
「助けてもいい。助けられるのなら、そうすべきだ。実戦でも重要なことだな、仲間を助けるというのは。──だがな、ゲームではそういうわけにはいかない。リタイヤ転送がある以上、死ぬことは少ない。そうなると、重傷の仲間を見捨ててでも、次の行動に移らなければいけないときがあるんだよ」
「……そうですね」
「それが出来なきゃ将来のゲームで弊害となるだろう。──木場」
先生の視線が俺から木場に行く。
「はい」
「おまえはゲーム中、最悪のとき、リアスとイッセー、どちらを選ぶ」
「部長を選びます」
先生の言葉に木場は迷う様子もなく答えた、ああ、それで正解だ。俺も、こいつが俺を選んだらこの場で殴っただろう。
ゲームでの最悪の状況で生かすべきは俺じゃない。『王』のリアスだ。『王』を取られたら、すべてが終わりだからだ。
先生はそれを確認して続ける。
「その覚悟を他の仲間にも持たないといけない。おまえらはグレモリー眷属のためか、愛情が深い。仲間への親愛は悪魔のなかでもトップクラスだろう。それが武器でもあり、弱点なんだよ。『こいつらは仲間を見捨てない』と他の悪魔に覚えられたら、確実に戦術に組み込まれて狙われる。バカのひとつ覚えで仲間を救うことばかりして敗北していたら、評価も落ちるだろう。おまえたちに今後のゲームで必要なことは目の前で倒れた仲間がいても捨てる覚悟だ。ソーナ・シトリーは夏休みのゲームでそれをおまえたちに見せたはずだ。実戦で仲間を捨てるなとは言わない。だけどな、ゲームではそれを頭に入れておけ。特にイッセーは独り立ちする予定ならば、そこをちゃんと確認しておくんだ。──おまえが『王』のゲームで最後まで生かすべきはおまえであり、眷属の悪魔じゃない」
──将来の眷属を犠牲にする覚悟、か。
「木場、ギャスパー。俺たちもそろそろ覚悟を決めなきゃいけないだろう」
木場がうなずく。
「ゲームの際、目の前で倒れた眷族を捨てる覚悟だね?」
「ああ、俺たちは──レーティングゲームでリアスを勝たせないといけない。そのために俺たち自身も勝率を上げるために自分から犠牲になる覚悟も持っておこう」
俺の意見にギャスパーも口元にご飯粒をつけながら応じた。
「は、はい! そ、その通りですぅ!」
「だから、もしものときはリアスのために笑って倒れよう。ただし、倒れる時は全力を出し切ってから、前のめりで倒れよう。敵に背中を見せたら格好悪いからな。正々堂々、真っ正面からぶつかって倒れよう」
俺の言葉に二人は笑顔でうなずいた。
「うん」
「はい!」
そうさ。俺たちが散るときはカッコ良く散ろう。リアスのためにさ。
でも、それ以前に勝つ。勝ちたいという精神だけは捨てちゃダメだ。
その横で先生が頬をポリポリかいていた。
「まあ、イッセーがそう簡単に負けるとは思えんがな。シトリー戦のような策はもう通じないだろう。こいつが全力を出せば一気に形勢を逆転させられる」
「そうですか。……よし、もう一度、組手やろうか!」
そのあと、アザゼル先生にモテモテドラゴンの新商品の試作品を見せられたが……まあ、なんというか……割愛(ご想像におまかせします)。あと『霸龍』についての可能性も知らされた。歴代所有者の怨念の説得……ね。
……いいだろう。やってみせよう。
オーディンさまが来日して数日が経ったある日の夜。
スレイプニルという八本足の巨大な軍馬の馬車に俺たち、アザゼル先生、オーディンさま、ロスヴァイセが乗っていた。いまはその馬車で空を飛んで、夜空を移動している。
軍馬が大きいせいか、馬車も大きく、外には護衛として、いつでもテロリストなどを迎え撃てるようにするために木場、ゼノヴィア、イリナ、そしてバラキエルさんが空を飛んでついてきていた。
「日本のヤマトナデシコはいいのぉ。ゲイシャガール最高じゃ」
オーディンさまが満足げな表情で「ほっほっほっ」と笑っていた。
まったく。護衛する俺たちの身にもなってほしい。
ここのところ、この巨大な馬車に乗って、日本の各地を連れ回されている。都内のキャバクラに行ったり、遊園地に行ったり、お寿司屋に行ったり。オーディンさまの好き勝手に日本を観光していた。俺たちは未成年で高校生ってことで、場所によっては店内に入れず、入り口付近の待合室で待機させられたりだよ。
見れば眷族の皆も疲れた表情を浮かべていた。アーシアも隣で俺の肩に頭をよせて眠っているし。……ただなんか体をスリスリと擦り付けてくるんだよな。牝の本能か。
とても対応に疲れるオーディンさまだけど、いまは大事なお客さま。俺たちは文句もあまり言わずに付き添っていた。……まあ、ただ遊んでるわけでもないらしいしな。
「オーディンさま! もうすぐ日本の神々との会談なのですから、旅行気分はそろそろお収めください。このままでは、帰国したときに他の方々から怒られます」
ロスヴァイセさんはここ数日、ずっとクールに対処して、オーディンさまに付き添っていたけど、もう我慢の限界みたいで、額に青筋を立てていた。
「まったく、おまえは遊び心のわからない女じゃな。もう少しリラックスしたらどうじゃ? そんなだから男の一人もできんのじゃよ」
「か、か、彼氏がいないのは関係ないでしょう!す、好きで独り身やっているわけじゃないんですからぁぁぁっ!」
涙目になるロスヴァイセさん。
俺はため息をついてから言う。
「まあ、それもロスヴァイセさんの魅力なんじゃないですか?誰しもさまざまな個性がありますし。俺はありのままのあなたでいればいいと思いますよ」
俺がそう言うとロスヴァイセさんは顔を赤くする。
「……あわわわわ……!えっと、その……!」
「……可愛いですね。魅力的ですよ」
「……(ぷしゅー)」
……あらあら。
「ほう、お主……」
……何ですか?
ガックンッ!
ヒヒィィィィィィィンッ!
──ッ!
そんな時───突然馬車が停まり、皆が不意の出来事に態勢を崩した。
態勢を崩したロスヴァイセさんを俺は右腕で確保する。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます……」
「何事ですか? まさか、テロ!?」
「わからん! だが、こういうときはたいていろくでもないことが起こるもんだ!」
ロスヴァイセさんもすぐに先生と同じく警戒していた。
さっきのは馬の鳴き声だった。馬に何かあったんだろう。
警戒しながら馬車の窓から外を見ると──バラキエルさんを中心に木場とゼノヴィアとイリナがそれぞれ展開して、戦闘態勢になっていた。
俺は馬車の窓を開けて、何が起きたのかとリアスたちと前方に目を配る。
……前方に若い男性らしき者が浮遊している。整った顔立ちだが目つきが少々悪い。
身につけているものはオーディンさまの正装として着ているローブの色を、黒をメイン変えたようなものだった。
男性を確認したロスヴァイセさんが心底驚いたような表情になり、アザゼル先生は舌打ちしていた。いったい何者だ?……この感じ、まさか。
「はっじめまして、諸君! 我こそは北欧の悪神! ロキだ!」
悪神ロキ!これはまた……!
「……ロキ。北欧の神」
隣でリアスがそう呟く。
「悪神か……面倒なのが出てきたな……」
「これはロキ殿。こんなところで奇遇ですな。何か用ですかな? この馬車には北欧の主神オーディン殿が乗られている。それを周知の上での行動だろうか?」
アザゼル先生が冷静に問いかける。
ロキという神さまは腕を組みながら口を開いた。
「いやなに、我らが主神殿が、我らの神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触していくのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔をしに来たのだ」
悪意全開の宣言。
それを聞いたアザゼル先生は、口調を変えた。
「堂々といってくれるじゃねぇか、ロキ」
「ふはははは、これは堕天使の総督殿。本来、貴殿や悪魔逹と会いたくはなかったのだが、致し方あるまい。───オーディン共々我が粛正を受けるが良い」
「お前が他の神話体系に接触するのは良いってのか?矛盾しているな」
「他の神話体系を滅ぼすのならば良いのだ。和平をするのが納得出来ないのだよ。我々の領域に土足で踏み込み、そこへ聖書を広げたのがそちらの神話なのだから」
「……それを俺に言われてもな。その辺はミカエルか、死んだ聖書の神に言ってくれ」
アザゼル先生は頭をボリボリ掻きながらそう返す
「どちらにしても主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのが問題だ。これでは我らが迎えるべき『神々の黄昏』が成就出来ないではないか。ユグドラシルの情報と交換条件で得たいものは何なのだ」
アザゼル先生は指を突きつけて訊いた。
「ひとつ訊く! おまえの行動は『禍の団』と繋がっているのか? って、律儀に答える悪神さまでもないか」
ロキはおもしろくなさそうに返す。
「愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされるとは不快極まりないところだ。──おのれの意志でここに参上している。そこにオーフィスの意志はない」
その答えを聞いて、アザゼル先生は体の力が抜けていた。
「……『禍の団』じゃねぇのか。だが、これはこれでまた厄介な問題だ。なるほど、爺さん。これが北が抱える問題点か」
アザゼル先生が馬車のほうに顔を向けると、オーディンさまがロスヴァイセと引き連れて馬車から出るところだった。足元に魔法陣を展開して、魔法陣ごと空中を移動していく。俺も降りて鎧を纏い、ドラゴンの翼で木場たちのもとに行く。
「ふむ。どうにもの、頭の固い者がまだいるのが現状じゃ。こういう風に自ら出向く阿呆まで登場するのでな」
オーディンさまはあごの長い白ヒゲをさすりながらそう言った。
「ロキさま! これは越権行為です! 主神に牙をむくなどと! 許されることではありません! しかるべき公正な場で異を唱えるべきです!」
ロスヴァイセは瞬時にスーツ姿から鎧に変わり、ロキに物申していた。
しかし、相手は聞く耳を持たない。
「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンに訊いているのだ。まだこのような北欧神話を超えたおこないを続けるおつもりなのか?」
返答を迫られたオーディンさまは平然と答えた。
「そうじゃよ。少なくともお主よりもサーゼクスやアザゼルと話していたほうが万倍も楽しいわい。日本の神道を知りたくての。あちらもこちらもユグドラシルに興味を持っていたようでな。和議を果たしたらお互いに大使を招いて、異文化交流をしようと思っただけじゃよ」
それを聞き、ロキは苦笑した。
「……認識した。なんと愚かなことか。──ここで黄昏をおこなおうではないか」
ゾクっ……。
ふいに悪寒が俺を襲う。凄まじいまでの敵意が俺の肌をビリビリと刺激する。
「それは、抗戦の宣言と受け取っていいんだな?」
アザゼル先生の最後の確認にもロキは不適に笑む。
「いかようにも」
ズドォォォンッッ‼
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