「全員、あの男の持つ槍には絶対に気を付けろ。最強の神滅具『黄昏の聖槍』だ。神をも貫く絶対の神器とされている。神滅具の代名詞になった原物。俺も見るのは久し振りだが……よりにもよって現在の使い手がテロリストとはな」
『────ッ!?』
アザゼル先生の言葉に全員が酷く狼狽し、曹操の持つ聖槍に驚きの視線を向けた。
「あれが天界のセラフの方々が恐れている聖槍……っ!」
「私も幼い頃から教え込まれたよ。イエスを貫いた槍。イエスの血で濡れた槍。───神を貫ける絶対の槍っ!」
イリナが口元を震わせながら言い、ゼノヴィアも低い声で続ける。
教会関係者からしてみれば『黄昏の聖槍』はまさに究極の存在と言っても過言ではないか。
「あれが聖槍……」
隣にいるアーシアが虚ろな双眸で槍を見つめていた。
まるで槍に魅了され、意識を吸い込まれていくように……。
そこへ俺が素早くアーシアの両目を手で隠した。アザゼル先生がアーシアに言う。
「アーシア。信仰のある者はあの槍をあまり強く見つめるな。心を持っていかれるぞ。聖十字架、聖杯、聖骸布、聖釘と並ぶ聖遺物の一つでもあるからな」
……聖遺物ね。
九重が憤怒の形相で槍を持つ青年───曹操に叫ぶ。
「貴様!一つ訊くぞ!」
「これはこれは小さな姫君。何でしょう?この私ごときで宜しければ、何なりとお答えしましょう」
曹操の声音は平然としているが、明らかに何かを知っている様な口調だった。
「母上をさらったのはお主達か!」
「左様で」
あっさりと認める曹操、やはり『禍の団』の仕業だったようだな。
「母上をどうするつもりじゃ!」
「お母上には我々の実験にお付き合いしていただくのですよ」
「実験?お主達、何を考えておる!?」
「スポンサーの要望を叶える為、と言うのが建前かな」
それを聞いて九重は歯を剥き出しにして激怒、目にはうっすらと涙を溜めている。
母親をさらわれた挙げ句、実験の材料にされそうになっているのだから無理もないか。……俺も結構キレてる。
「スポンサー……?オーフィスの事か?それで突然こちらに顔を見せたのはどういう事だ?」
アザゼル先生が問い詰める。
「いえ、隠れる必要も無くなったもので実験の前に挨拶と共に少し手合わせをしておこうと思いましてね。俺もアザゼル総督と噂の赤龍帝殿にお会いしたかったのですよ」
……どうにもふざけてるな、こいつ。
「分かりやすくてけっこう。九尾の御大将を返してもらおうか。こちとら妖怪との協力提携を成功させたいんでね」
アザゼル先生が手元に光の槍を出現させ、俺たちも戦闘態勢に入る。
俺は籠手を出現させ籠手から取り出したアスカロンをゼノヴィアに渡す。
アスカロンを受け取ったゼノヴィアは前方に出た。
ここで俺はロスヴァイセさんがいない事に気付く。
「先生、ロスヴァイセさんはどうしたんですか?」
俺の問いにアザゼル先生は嘆息する。
「あいつもこちらに転移してるが、店で酔い潰れて寝てる。一応強固な結界をあいつに張っておいたから早々酷い事にはならんだろう」
「そ、そうですか……」
俺たちが構えても英雄派は一向に構える様子を見せない。
すると、曹操の横に小さな男の子が並び、曹操がその男の子に話し掛けた。
「レオナルド、悪魔用のアンチモンスターを頼む」
男の子は無表情で小さく頷く。
その直後、男の子の足下に不気味な影が現れて広がっていく。
影は更に渡月橋全域に至るまで広がり、その影が盛り上がって形を成していく。
腕、足、頭が形成されていき、目玉が生まれて口が大きく裂けた。
その数はざっと百以上……。
「ギュ」
「ギャッ!」
「ゴガッ!」
耳障りな音──声を発して、そいつらは影から現れた。「創られた」という表現が1番妥当かもしれない現れ方をした、二足で立つ黒い肌のモンスター。全身がぶっとく、肉厚だ。爪も鋭く、牙もむき出しだった。それが大量に前方に並ぶ。
この能力はまさか……。生唾を飲み込みながら、男の子の力に驚愕する俺。アザゼル先生がぼそりとつぶやいた。
「──『魔獣創造アナイアレイション・メーカー』か」
『魔獣創造』……、二人目の神滅具使いッ!
曹操がアザゼルの言葉に笑んだ。
「ご名答。そう、その子が持つ神器は神滅具のひとつ。俺が持つ『黄昏の聖槍』とは別の意味で危険視されし、最悪の神器だ」
俺は禁手化し、鎧姿になっておく。
「先生、あの能力は───」
「あの男児が持っている神器はお前のと同じ『神滅具』だ。神滅具は現時点で確認されているもので十三──。グリゴリにも神滅具ロンギヌスの協力者がいるが……。その神滅具ロンギヌスの中でもあの神器は性質───能力が本来の『赤龍帝の籠手』や『白龍皇の光翼』よりも凶悪なんだよ。直接的な威力ならイッセーとヴァーリの神器の方が遥かに上だ。ただ、能力がな……。木場の『魔剣創造』、あれは如何なる魔剣も創り出せる能力だった。それは分かるな?」
「もちろん」
「『魔獣創造』がそれと同様だ。如何なる魔獣をも創り出す事が出来る。例えば、怪獣映画に出てくるような全長100メートル、口から火炎を吐く怪物。それを自分の意志でこの世に生み出す事も出来る。自分の想像力で好きな怪物を生み出せるとしたら、最悪極まりないだろう?そう言う能力だ。使い手次第じゃ、一気にそんなバケモノを数十、数百の規模で創り出せるんだよ。『絶霧』と並ぶ、神器システムのバグが生んだ最悪の結果とも言われている。『絶霧』も能力者次第では危険極まりない。霧を国家規模に発生させて、国民全てを別空間────次元の狭間辺りに送り込めば一瞬で国を一つ滅ぼすなんて事も可能だろうからな」
「どちらも世界的にヤバい神器じゃないですか」
「まあ、今の所どちらもそこまでの事件は前例が無い。何度か危ない時代はあったけどな。しかし、『黄昏の聖槍』、『絶霧』、『魔獣創造』。……神滅具の上位クラス四つの内、三つも保有か。それらの所有者は本来、生まれた瞬間に俺の所か、天界か、悪魔サイドが監視態勢に入るんだが……。二十年弱、俺達が気付かずにいたってのか……。それとも誰かが故意に隠したのか……。確かに過去の神滅具所有者に比べると、現所有者はほぼ全員、発見に難航している面が目立つな」
先生の呟きは続く。
「……何か、現世に限って因果関係があるのか?元々の神滅具自体が神器システムのバグ、エラーの類いと言われているからな……。ここに来てそれらの因果律が所有者を含めて独自のうねりを見せて、俺達の予想の外側に行ったとかか?それは勘弁願いたい所だが……、イッセーの成長を見ていると現世の神滅具全体に変調が起き始めていると感じてしまっても不思議は無いな……。バグ、エラーの変化、いや、進化か?どちらにしろ、神器研究や神器システムを司っているわりに俺も含め、お互い甘いよな、ミカエル、サーゼクス」
「先生、その凶悪神器の弱点は……」
「本体狙いだ。まあ、本人自体が強い場合もあるが、神器の凶悪さ程じゃないだろう。それに『魔獣創造』は現所有者がまだ成長段階であろうってのも大きい。やれるならとっくに各勢力の拠点に怪獣クラスを送り込めている筈だからな」
「倒すなら成長しきってない今って事か」
「あららら。何となく『魔獣創造アナイアレイション・メーカー』を把握された感があるな。その通りですよ、堕天使の総督殿。この子はまだそこまでの生産力と想像力は無い。――――ただ、1つの方面には大変優れていましてね。相手の弱点を突く魔物――――アンチモンスターを生み出す力に特化しているんだな、これが。今出したモンスターは対悪魔用のアンチモンスターだ」
曹操が手をフィールドに存在する店の1つに向けると、アンチモンスターの1匹が口を大きく開けて一条の光────光線を放った。
その瞬間、店が吹き飛んで強烈な爆風を巻き起こす。
「光の攻撃───。こいつは!」
爆風の中、先生が叫んだ。
「曹操、貴様!各陣営の主要機関に刺客を送ってきたのは俺達のアンチモンスターを創り出すデータも揃える為か!」
「半分正解かな。送り込んだ神器所有者と共に黒い兵隊もいただろう?あれはこの子が創った魔物だ。あれを通じて各陣営、天使、堕天使、悪魔、ドラゴン、各神話の神々の攻撃を敢えて受け続けた。雑魚一掃の為に強力な攻撃も食らったが、お陰でこの子の神器にとって有益な情報を得られた」
「あの黒い怪人はデータ収集の為の囮だったって事か」
「禁手を増やしつつ、アンチモンスターの構築も行おこなった。お陰で悪魔、天使、ドラゴンなど、メジャーな存在のアンチモンスターは創れるようになった。───悪魔のアンチモンスターが最大で放てる光は中級天使の光力に匹敵する」
今まで英雄派が小規模な攻撃を仕掛けてきたのは神器所有者の禁手使いを増やすのと同時にアンチモンスターを創り出す為のデータ収集だった、と。
用意周到で計算高いな……。
憎々しげに睨む先生だが、一転して笑みを作り出した。
「だが、曹操。神殺しの魔物だけは創り出せていないようだな?」
「…………」
先生の一言に曹操は反論しない。
「どうして分かるんですか?」
と訊くと先生はニヤけながら答える。
「やれるならとっくにやってる。こうやって俺達に差し向けてくるぐらいはな。各陣営に同時攻撃が出来た連中がそれを試さない訳が無い。それに各神話の神が殺されたら、この世界に影響が出てもおかしくないものな。───まだ、神殺しの魔物は生み出せていない。これが分かっただけでも収穫はデカい」
なるほど。あ、でもいるよな。神殺しの魔物なら。
俺の脳裏に神殺しの魔物───『神喰狼』が過ぎる……。
曹操は槍の切っ先を俺たちに向けた!
「神はこの槍で屠るさ。さ、戦闘だ。始めよう」
それが開戦の合図となった────!
長めなので分けます。