ザッバァァアアアアッ!
ゼノヴィアが振り下ろした一撃は本丸御殿の家屋を丸ごと吹き飛ばす。剣に込められたオーラの波動が大波となって、建物、公共物、風景を飲み込んでいった!
地は真っ二つに裂かれ、その衝撃で生まれた震動に俺たちは足を取られ、その場に膝をつく。
攻撃が終わったあと、眼前には──ことごとく消滅し、膨大なオーラの一撃は二条城の堀を越えて、城外の建物や道路まで跡形もなくぶち壊していた!
……とんでもない攻撃力だな。
「ふー」
ゼノヴィアが肩で息をして、額の汗を手で拭っていた。デュランダルは元の鞘状態に戻っている。
「ゼノヴィア、一発目から飛ばし過ぎだろ」
俺がそう言うが、ゼノヴィアは手でVサインを作りながら返した。
「開幕の一発は必要だ」
「ロキの時もいきなりだったよな?」
「安心しろ、これでもまだ威力を調整した方だ。その気になればこの周辺を丸ごと薙ぎ払えてしまうからな。私としてはおまえの本気の一撃を目指しているんだが、なかなか難しい。うん、おまえのパワータイプな戦い方は私の理想だ」
ゼノヴィアは新デュランダルをコツコツ叩く。
「この新しいデュランダルは錬金術によってエクスカリバーと同化したものだ」
イリナが説明を始める。
「私が説明するわ。大雑把に言うと、デュランダルの刀身に教会が保有していたエクスカリバーを鞘の形で被せたらしいの!エクスカリバーの力でゼノヴィア使用時のデュランダルの攻撃的な部分を外へ漏らさず覆う。そして覆っているエクスカリバーとデュランダルを同時に高める事で2つの聖剣の力は相乗効果をもたらして───凶悪な破壊力を生み出すのよ!」
「なるほど、エクスカリバーをデュランダルのオーラの受け皿にしつつ、エクスカリバーもデュランダルと共に高めるわけか。それによって、2つの聖剣はひとつになって、これだけの強大なパワーを出せるってことね」
イリナの説明に俺は頷く。
「そういうことよ、イッセーくん。デュランダルのオーラが他の聖剣にも効果を与えることから研究が始まったらしいのよね」
「あ、夏休みのゲームでゼノヴィアが亜空間にデュランダルをしまったまま、アスカロンにオーラを被せていたな。アーシア奪還のときもアスカロンと相乗効果でオーラを高め合っていたし」
「そうそう、そこから新しいデュランダルの発想が生まれたみたいなの」
イリナがうんうんと頷きながら言う。
ゼノヴィアは剣をかざしながらつぶやく。
「───エクス・デュランダル。この聖剣をそう名付けよう」
……まあ、無難だな。
「ま、初手で倒せる程だったら苦労も無いな」
ゼノヴィアの視線が前を捉えている。
……そういうことだよな。俺も今の一撃で奴らがやられてくれるほど、甘いなんて思っちゃいなかったさ。
ゴッ!
何もなくなった建造物跡――地面から腕が突き出てくると、一気に土が盛り上がり下から複数の英雄派メンバーが現れる。彼らを薄い霧が覆っていた。
全員、見た目は汚れているが――無傷っぽいな。あの霧がデュランダルのオーラを防いだのか?
最初に地面から腕を突き出した2メートルはあろうかという巨躯の男が首をコキコキと鳴らし、後方で曹操が槍で肩をトントンとやっていた。あの一撃で平気か。そのぐらいじゃないと各勢力に対してテロなんてしようないよな……。
曹操があごに手をやりながら笑む。
「いやー、いいね♪」
本気で楽しそうな一言だった。
「キミたち、もう上級悪魔の中堅──いや、トップクラスの上級悪魔の眷属悪魔と比べて遜色がない。魔王の妹君は本当に良い眷属を持った。レーティングゲームに本格参戦すれば短期間で二桁台──十年以内にトップランカー入りかな? どちらにしても、末恐ろしい。シャルバ・ベルゼブブはよくこんな連中をバカにしたものだね。ああ、だから死んだのか」
曹操の言葉にジークフリートが苦笑する。
「古い尊厳にこだわりすぎて、下から来る者が見えなかったといったところでしょ。だから、ヴァーリにも見放され、旧魔王派は完全瓦解したわけさ。──さて、どうするの? 僕、いまの食らってテンションがおかしくなってるんだけど」
「そうだな。とりあえず、実験をスタートしよう」
曹操が石突きで地面を叩く──すると、九尾化した八坂さんが輝きだした。
「九尾の狐にパワースポットの力を注ぎ、グレートレッドを呼び出す準備に取りかかる。──ゲオルク!!」
「了解」
曹操の一言にゲオルクが手を突き出す。すると、周囲に様々な文様の魔方陣が縦横無尽に展開した。
「……魔方陣から察するに、ざっと見ただけでも北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術、精霊魔術……なかなか豊富に術式が使えるようですね……」
ロスヴァイセさんが目を細めながらそうつぶやく。
八坂さんの足下に巨大な魔法陣が展開する。
あの魔法陣は確か……龍門か。以前、ミドガルズオルムの意識を呼び寄せた魔法陣に似ているな。所々は違うけど。
オォォォオオオォォォォンッ!!!
八坂さんが雄叫びをあげる。双眸が大きく見開いて危険な色を含み始め、全身の毛も逆立っていた。
「グレートレッドを呼ぶ魔方陣と贄の配置は良好。後はグレートレッドがこの都市のパワーに惹かれるかどうかだ。龍王と天龍が1匹ずついるのは案外幸いかもしれない。曹操、悪いが自分はここを離れられない。その魔方陣を制御しなければならないんでね。これがまたキツくてねぇ」
ゲオルクの言葉に曹操は手を振って了承する。
「了解了解。さーて、どうしたものか。『魔獣創造』のレオナルドと他の構成員は外の連合軍とやり合っているし。彼らがどれだけ時間を稼げるか分からない所もある。外には堕天使の総督、魔王レヴィアタンがいる上、セラフのメンバーも来ると言う情報もあった。───ジャンヌ、ヘラクレス」
「はいはい」
「おう!」
曹操の呼び声に細い刀身の剣を持った金髪で異国のお姉さんと、先ほどの巨体の男が前に出た。
「彼らは英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレスの意志──魂を引き継いだ者達だ。ジークフリート、お前はどれとやる?」
曹操の問いにジークフリートは抜き放った剣の切っ先を木場とゼノヴィアに向ける。
それを見てジャンヌと呼ばれたお姉ちゃんとヘラクレスと呼ばれた巨体の男が顔を笑ませた。
「じゃあ、私は天使ちゃんにしようかな。かわいい顔してるし」
「俺はそっちの銀髪の姉ちゃんだな。随分、気持ち悪そうだけどよ!」
それぞれが視線を交わした。……ゼノヴィアがジークフリート、イリナがジャンヌ、ロスヴァイセさんがヘラクレス……。
「んじゃ、俺は赤龍帝っと。そっちのヴリトラくんは?」
曹操が匙に視線を送る
匙の炎が勢いを増すが、一誠が手で制する
「……匙、お前は九尾の御大将だ。何とか、あそこから解放してやってくれ」
「俺は怪獣対決か。……あいよ。兵藤、死ぬなよ」
「死ぬかよ、そっちも気張れ」
「これでもここに来る前、『女王』に一応プロモーションしてんだからさ。最初から気合は充分だッ!」
匙の体が黒い炎に大きく包まれた。しだいに炎は広がり、巨大に膨れ上がっていく。
「──『
炎がいっそう盛り上がる。漆黒の炎は形をなしていき、体の長細い東洋タイプのドラゴンへと変貌していった。
ジャァァアアアアッ!
巨大な黒いドラゴンが鳴く──。九尾の御大将と真っ正面から対峙する。無事、匙が龍王へと変化した。黒い炎が魔方陣を囲み、どんよりとした薄暗いオーラを放ち始める。異質な能力が多いというヴリトラ。悪神ロキ戦でも有効だった。種族は違うけど、九尾の御大将にも効果があればいいが……。
俺はアーシアに言う。
「アーシア、九重を頼む」
「はい」
「九重、アーシアを頼めるか?」
「まかせろ!じゃが───」
「ああ、分かってる。お前のお母さんは俺が──俺達が助けるッ!」
親指を立てて応じ、背中からドラゴンの両翼を出す。
俺の相手は──曹操。英雄派のリーダー格。最強の神滅具を持つ男。
ったく、なんで俺って最近こうボス的存在とばかり相対してんだろうな。
「ま、いいさ。おまえ、ヴァーリより強いのか?」
俺の質問。曹操は口の端を楽しそうに吊り上げて肩をすくませた。
「さあ。だが、弱くはないかな。よわっちい人間だけどね」
「嘘こけ。先生とやりあっても負けなかった奴が弱いはずないだろ」
「ハハハハ、そりゃそうか。でもあの先生はチョー強かったけど?俺もまだまだだと思うよ、モテモテドラゴン」
一瞬の静寂が訪れる。だが───。
オオオオォォォンッ!
ジャアアァァアアアッ!
匙と九尾が咆哮と共に仕掛けた。
黒い炎が九尾の周囲を完全に包囲し、炎が怪しげな揺らめきをすると、九尾の全身からオーラが放出される。
その現象に九尾は苦しんでいる様子だ。
これはロキ戦でも見せた、相手のパワーを奪う技か? このままいけば無傷で戦闘不能にできるか? なんて都合の良いことを思っていたら──。
九尾は口から激しい火炎を吐き出した!
龍王化した匙も負けじと黒い炎を吐き出し、二つの巨大な火炎が空中でぶつかり大爆発を引き起こす
『クソッ!ロキの時みたいに上手く炎の結界が使いこなせない……!』
『集中しろ、我が分身よ。我の力は高い集中力が必要となる。……だが、それだけでもあるまいよ。都市の力を得た状態の九尾の膨大な妖力もそうだが、あの魔法使いが展開したこの魔方陣も怪しげな結界効果を発揮しているな。少々術式が複雑で厄介だ……。これが大きく邪魔をして我の炎を無効化しようとするようだが……。都市、九尾の力、神滅具と魔術の混合か……。九尾の力を散らそうとしても都市から流れてくる力で直ぐに復調してしまう。これではこちらの方が保たぬな』
匙とヴリトラの会話がハイブーステッド・ギアを通して聞こえてくる。
九尾だけでなく京都のパワースポットからの力、魔方陣、いっぺんに相手をするのは荷が重過ぎるか。
『俺の譲渡、必要か?』
と、神器を通して俺が訊く。
『いらぬ。我が分身が我の力を使いこなせていないこの状況で赤龍帝の力が加算されてしまえば暴走しかねぬ。実戦の中で我が分身が力の特性を覚えていくしかあるまいて』
ヴリトラさんにそう返されてしまった。
了解。匙、気張れよ! 危なくなったら、俺もできるだけ助けに入るからよ!
『……あいよ!おまえもそいつらぶっ飛ばしてこいよ!』
ああ、任せろ! と、神器で会話をしているなか、再び九尾の狐と龍王の火炎対決で爆風が起こる!
グレモリー眷属と英雄派は睨み合ったまま動かない。
開幕は匙が受け持ってくれた。次は俺たちか!
「木場! ゼノヴィア! 少し離れて戦ってくれ! 九尾の御大将からこいつらを少しでも離したい!」
『了解!』
二人は応じて、駆け出す。ジークフリートはそれを追う。
ギィン! ギィィンッ!
ぶつかり合う金属音! 銀光を走らせ、火花を散らし始める木場、ゼノヴィアとジークフリート!
三刀流のジークフリートが木場とゼノヴィアに斬りかかり、2人がそれに応戦していると──。
「面白くなりそうだね。よし、大サービスだ!───禁手化ッ!」
ズヌッ!
ジークフリートの背中から新しく3本の銀色の腕が生えてきた。
新しい腕は帯剣してあった残りの剣を抜き放つ。
ジークフリートは三刀流から六刀流へと戦闘スタイルをチェンジした。
その姿はまさに阿修羅の如し。
「魔剣のディルヴィングとダインスレイヴ。それに悪魔対策に光の剣もあるんだよ。これでも元教会の戦士だったからさ。これが僕の『
木場とゼノヴィアを心配する俺の耳に今度はジャンヌの声が耳に届く。
「お姉さんの能力は『
ジャンヌの楽しそうな声。見るとジャンヌの背後には聖なるオーラを放つ巨大なドラゴンが現れていた!
「これが『
あっちも禁手化か!このままだと、あっちもヤバイか。
俺が周りの心配をしていると、今度は狂喜を感じさせる笑い声が聞こえてきた!
「ハッハッハーッ!いいねぇ!いい塩梅の魔法攻撃だ!」
ロスヴァイセさんのフルバーストをくらったヘラクレスだ!あいつ、効いてないのか?
ヘラクレスが拳を振るとその度に爆発が起こる!あれがあいつの能力か!
「これが俺の神器『
ヘラクレスが叫ぶと同時にその巨体が光り輝き出す。
光が腕、足、背中で肉厚の物を形成し───無数の突起物と化した。
それはまるでミサイルのように……。
「これが俺の禁手ッ!『
ヘラクレスの攻撃の照準がロスヴァイセさんに向けられる。それを察したロスヴァイセさんはこの場から離れてるように退避していく。
そうはさせるかとばかりに俺はドラゴ・ショットを撃ちミサイルを少しでも撃ち落とそうとした時───。
「おっと、キミの相手は俺だ!」
瞬時に移動してきた曹操が槍で俺の手を上に弾く。
そのせいで俺の攻撃はあらぬ方向に飛んでいってしまい、その間にもヘラクレスから撃ち出されたミサイルがロスヴァイセさんのもとへ───。
ドッゴォォオオオオオオオオオオオンッ!
無数のミサイルは空中で巨大な爆破を巻き起こし、激しい爆風が辺り一帯を襲う!
爆煙の中から見えてくる人影……。
ロスヴァイセさんはボロボロになりながらも上手く着地していた。
俺はアーシアに回復の指示を送りロスヴァイセさんのもとに緑色のオーラが届く。
回復出来たロスヴァイセさんはアーシアに「ありがとう」と親指を立てた。
「……まったく、どいつもこいつも禁手かよ」
「良いだろ?禁手のバーゲンセールってやつは。人間もこれぐらいインフレしないと超常の存在相手に戦えないんでね」
曹操が愉快そうに笑い、槍をクルクルと回して距離を取る。
一見すれば隙だらけだが、なかなか攻め立てる事が出来ない……恐らくこいつはテクニックタイプだ。下手に攻めればカウンターをしてくるだろう。
「お前も奴らみたいにここで禁手になるのか?」
俺がそう訊くと曹操は首を横に振った。
「いやいや。そこまでしなくてもキミ以外は倒せる。キミはどうも簡単にはいかなそうだがね。今日は充分に赤龍帝を堪能するつもりだよ」
「……こいつはまた舐められたものだ。でも、俺達をバカにしているようには思えないな」
「ああ、どうやればキミ達の力を引き出して戦いを満足出来るか考えているところだ。神器の深奥に潜る赤龍帝なら、あらゆる可能性がありそうでね」
「何が言いたいんだ?」
俺が問うと曹操は肩を竦めて答えた。
「案外、姑息な手よりもストレートな攻撃の方がキミ達を無理なく倒せるんじゃないかって話さ。───キミ達はテクニックタイプを注意深く警戒していて、そのタイプでは逆にやりづらいんじゃないかなってね」
悉く核心めいたものを突く曹操の分析力に俺は末恐ろしいものを感じた。
「だが、兵藤一誠。キミにも決定的な弱点が2つある。───龍殺しと光だ。ドラゴン、悪魔、2つの特性を有するキミは凶悪な分、自然と弱点も多くなってしまうわけだ。俺はこの弱点ってのに注目していてね。この世に無敵の存在なんていないと言う証明をしてみたいと感じてもいる。ま、この話はここまで。───さて、やろうか」
曹操が槍の切っ先を俺に向けた───。