───気づくとそこは白い空間だった。
突然のことにとまどう俺の前に二人の人物が現れる。エルシャさんと──ダンディな風体の男性、ベルザードさんだ。ここはハイブーステッド・ギアの内部……?意識だけこちらに飛んできたのか。
『あなたの扉が解放されたわ。これで「覇龍」とは違う道が用意された』
エルシャさん……さっきはありがとうございました。勢いに任せたような感じもありましたが……。
『それでいいのよ。私たちも勢いに任せたわ。──あなたの求めたものがそれだったんですもの』
……いや、まあな。
『これでベルザードも逝けると思う』
逝ける……?それってまさか───。
『ええ、残留思念として残ったベルザードだったけれど、そろそろこの神器から解放されようと思っているの』
……死ぬってことですか?
『もともと死んでるわ、ベルザードも、私も。ここにいるのも私たちだった者の記憶の断片に過ぎない。あなたにもっと触れたいと思っていた私も、そして彼も魂とも言えない存在だったのよ。そんなの自然じゃないでしょう?だから、もう消えようと思っているのよ』
……そんな急にお別れなんてな。
『本来、もうあなたには私たちは必要ない。ドライグと仲間たちがいれば大丈夫よ。私はあなたのことをまだ見ていたいからいるけれどね。行きなさい、現赤龍帝。いまだ赤龍帝の呪いは完全に解放されていないけれど、そう遠くないうちにそれも解決できるわ。あなたなら私とベルザード以外の残留思念も解き放ってくれるはず』
……エルシャさん……ありがとうございます!
『さあ、彼がもうそろそろ逝くわ。ベルザード、最後に彼に何かを語りかけてあげて』
……最後にありがたいお言葉を是非。
『ちゅっちゅ、ちゅっちゅとあはんいやーん』
……それ「色龍帝モテモテドラゴン」の歌詞の一部では?
……ああ、何か分かった。
赤龍帝になる人って変わった人が多いんだ……。
────────────────────────
「ウオオオオオォォォォッ!!ハイブーステッド・ギアァァァァァアアアッ!!!」
俺の気合に反応し、体を包む赤い閃光は極大のオーラを辺り一帯に解き放ち始めていく…。
──力が溢れてくる!底から、内から、神器から───。「覇龍」のような負の感情は微塵も感じない。
『ああ、そうだ。やっと思いだした。どうして忘れていたんだ……?そうか、神か。俺とアルビオンを封じたあの神が天龍本来の力を───』
ドライグが何かに気づいたらしいが、その話は後だ。まずは目の前の奴らを叩き潰す!
『そうだな。俺の力を見せつけてやろうではないかッ!』
「いこうぜッ! 赤龍帝をッ! 俺たちの力をッ! グレモリー眷属の底力、とくとぶっ放してやるよッ!」
『
『
『
『
『
『
『
『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!!!!!!!!』
宝玉が数々の音声を鳴り響かせ、壊れたかの如く『D』を繰り返し始めた。
そして俺の脳内に新しい力の使い方が流れ込んでくる。
「───っ。……はははっ、これはすごい。ベルゼブブ様、あなたに調整された『悪魔の駒』、赤龍帝の力がその特性を取り込んで───」
『女王』が解除されているので、俺はもう一度プロモーションしなければならない。けれど、アーシアの確認はもう必要ない!
俺は高らかに叫んだ。
「モードチェンジッ!『
その場で踏ん張りを利かせると、俺の肩から背中に掛けて赤いオーラが集まり形を成していく。
出来上がったのは背中のバックパックと両肩に装着された大口径のキャノン砲だった。
ブゥゥゥゥン……。
静かに鳴動が始まり、赤龍帝のパワーが砲口に集まっていく。
膨大なエネルギーの一撃を作り出していく……。
「……あれは、マズいな」
曹操がぼそりとつぶやいた。どうやらキャノンに集まるパワーを察知したようだな。
そうだ。これが直撃すればすべてを破壊するぞ?そのつもりだからなッ!
木場、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさん、匙。俺の大切な仲間たちをよくもやってくれたなッ!この怒り、全てお前たちにぶつけてやるよッ‼
キャノンにエネルギーが溜まった───。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
「吹っ飛べェェェェェェェェェッ!スーパードラゴンブラスタァァァアアアアアッッ!」
ズバァァァアアアアアアアアアアッ!
両肩のキャノンから極大の一発が放射されていくッ!
「おもしれぇ、受けてやるぜ、伝説のドラゴンさんよッ!」
ヘラクレスが前方に立ち塞がり、俺の一発を受けようとするが──。
「受けるなッ!避けろッッ!!」
曹操が叫び、聖槍の石突きでヘラクレスをその場から吹き飛ばす。曹操たち他のメンバーも俺の出した一撃から素早く避けていく。
外した一撃は、遥か遠くに飛んでいき──。
ドォォォォオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!
空間を震わせる大爆発とともに、背景の町並みを丸ごと巨大なオーラに包み込んでいった。
光が止んだ後に残った物は───何もなかった!
放たれた先の風景は消滅し、疑似空間にもかなりのダメージが及んだのか空間が大きく歪み出していた。
「……町が丸ごと吹き飛びやがった! おい! こんなの立て続けに放たれたらこの空間が保たんぞ!」
ヘラクレスが砲撃の威力を見て驚愕の声音を出していた。
「疑似空間の町があれほど歪む、か。ここはかなり強固に創られているんだけどね。……なんて威力だよ」
ジークフリートも笑みを止め、目を細めている。
とりあえず一矢報いた。だが、まだ終わらないッ!
「曹操ォォォォォオッ!」
俺が曹操の名を叫び、背中のキャノンをパージした! パージされたキャノンは淡い光となって霧散していく。
「モードチェンジ!『
バッ!
俺はドラゴンの翼を羽ばたかせ、曹操に向かう! 鎧の背中部分に存在する、以前よりも倍となったブーストを盛大に噴出させる! 空気を震わせながら俺は空を切るように飛んでいく!
「──装甲パージッ!」
俺が叫ぶと、鎧の各所がパージされていく! 胴体から、腕から、足から、頭部から厚い装甲が外れていった!
最低限の装甲だけで飛ぶ!鎧の形状がさらに変化し、スリムなフォルムと化した。
「くらいな、ドラゴンダイヴッ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
俺は曹操を捉え、正面から超スピードで突っ込んでいく!
「──速いッ!」
曹操が槍を前方に構える! 俺の体当たり正面から受ける気か!
ドォォンッッ!
俺の体当たりが正面から曹操に命中する!
「ごふぁっ!」
曹操が吐瀉した。曹操を捕まえた状態で俺は飛び続ける!
「──やっと、捕まえたぜ。これなら、文句ないだろ?」
俺がそう言うと、曹操はうれしそうに笑った。
「──ぐっ。まったく、キミは正面から本当に突っ込んでくるんだなッ! だが、その装甲の薄さで俺の槍は耐えられないだろうッ!? パワーアップ早々悪いが、これで終わりだっ!」
確かに。このままなら曹操の言う通りだろうが──。
「モードチェンジッ!『
赤いオーラが再び全身を包み込み、パージした分の装甲を修復させていく。だが、オーラの形成はそれだけに留まらない。さらに鎧を分厚く、肉厚にさせた。
俺の両腕に大量のオーラが集結していき、通常の籠手の倍──いや、五、六倍はあろうかという極太の様相を見せた。
鎧が変化したことで神速が止まり、空中で俺と曹操が投げ出された。曹操が俺を捉え、光の刃が俺に向っていく!
ガシュッ!
……俺は右の分厚い籠手を盾代わりにして、その槍の一撃を受けた。籠手に突き刺さる聖槍。どうやら貫く途中で止まっているようだ。
「──もっと出力をあげないと、この鎧は壊しきれないというのかッ! 上級悪魔なら瞬殺できる出力なんだぞッ!」
そう叫ぶ曹操に、俺は大きくなった左の拳を構えた!
「モテモテドラゴンなめんな、このクソ野郎ォォォォォッッ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
俺は極大な左の拳を曹操目掛けてぶっ放した! ──瞬く間に曹操が槍を籠手から抜き放ち、盾のようにしたが──。
「オォォォォォッ!」
ドンッッ!
拳がインパクトした瞬間、籠手の肘部分に新たに生まれた撃鉄が打ち込まれた! 膨大なオーラを噴出させながら、拳の勢いが増し、曹操は勢いよく地面へと叩きつけられた!
分厚い鎧を装着したまま俺は地に降り立った。分厚くなった装甲が霧散していく。
地面に叩き付けられた衝撃で出来たクレーターの中から曹操が上がってくる。
鼻と口から出血しているが、それを拭って首を鳴らす。
「これは赤龍帝殿。中々の変化を遂げたようだ。槍で守らなければ死んでいたよ」
曹操自身は生身なので、直撃を受けていたら勝っていただろうな。
「『悪魔の駒』のルールを逸脱したキミだけの新たな特性か……。まるでイリーガル・ムーブだな」
イリーガル・ムーブねぇ……。チェス用語で“不正な手”と言う意味だな。明らかに『悪魔の駒』のシステムに不正する様な手だろう。と、ドライグが───。
『俺としてはトリアイナだと感じたが』
「トリアイナ?それは確か……」
『トリアイナ、ギリシャの海神ポセイドンが持つ三又の矛の事だ。トライデントと言う名の方が知られているかもしれんな。先程の三種の駒による連続攻撃が三又の矛の様な鋭さを感じた』
「イリーガル・ムーブにトリアイナ、か……。良いね。じゃあ、こいつは『
先程の単語二つを掛け合わせた名称を作り出した。
「怖いな。直接的な攻撃力は『覇龍』無しのヴァーリより明らかに上だな。彼も日々成長しているから、ハッキリとは分からないが……」
「にしてもあんた、やりにく過ぎるんだよな。ちょっと俺達の事を舐めたかと思うと、今度は冷静に見てくるしな」
「いや、キミをほんの少しでも軽んじた俺が愚かだった。本当に済まなかった。強大な力に溺れず赤龍帝の深奥を知ろうと動いているキミはやはり強敵だ。反省をしなければならない。───楽しい。ヴァーリと個人的に一戦して以来の戦闘高揚かもしれない。やはり、伝説のドラゴンと戦うのは最高だな。俺が心底英雄の子孫だと言う証拠か」
「お前はこのまま全勢力と激戦をするつもりか?」
俺の問いに曹操は首を横に振った。
「冗談。この戦力では長期戦に向かない。1人の力が強くても、流石に各勢力が協力した兵力には勝てないさ。そちらに大損害は出せるだろうが、こちらは全滅だ。不意打ちを狙った一点突破の方が効率が良い。だからこの組織にいるのは割が良いわけさ」
『禍の団』に身を置いているのはそう言う理由か。食えない奴だ。
バジッ!バジッ!
突然空間を震わせる音が鳴り響く。
見上げてみると───空間に穴が生まれつつあった───。