ヒーローショー☆
「あはんいやーん!」
「「「「「「あはんいやーん!」」」」」」
ステージに立つ俺の掛け声に客席の子供達も最高の笑顔で反応した。
今の掛け声は『モテモテドラゴンの歌』なるもの歌詞の一部で、なぜか流行っている。
ちなみにこの歌だが…………。
作詞:アザ☆ゼル
作曲:サーゼクス・ルシファー
ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん
────となっている。
始めて知った時の感想は「あなた達、なにやってるんだ!?」だった。
世界の魔王様は自由で良いですね!
やりたい放題だよ!
学園祭を目前にして、俺は冥界の旧首都ルシファードにある大型コンサート会場のステージでヒーローショーを繰り広げていた。
もちろん、『色龍帝モテモテドラゴン』のヒーローショーだ。
通常は代役がコスチュームを着て執り行っているのだが、サーゼクスさまからのオファーで今日は本物である俺が出演する事になった。
流石に魔王直々のオファーを断れる筈も無く……。
「行くぜ、ドラゴンキック!」
「「「「「「「「キーーーーーーックッ!」」」」」」」」
俺が蹴りのアクションをすると子供達も大きく反応してくれる。
子供達の反応には自然と高揚感が溢れてくるね。
会場は満員御礼で、ステージには派手な舞台装置と演出が施されており、アクションをする度に爆発が起こったりする。
他にもリアスことデレデレ姫や悪役ダークネスナイト・ファングの木場がステージ上に立っていた。
リアスが手を振ると子供達やファンの男性陣が歓声を上げ、木場の方には子供達のお母さん方を始めとする多くの女性ファンがついていた。俺の場合、もうひとつの番組に関して女性ファンがかなりいるわけだけど。まあ、しかし────。
「「「「「「「モテモテドラゴーーーーーンッ!」」」」」」」
やはり……子供達の声援にはたまらないものがあるな。
「ふぅ……」
ヒーローショーを終えた俺は舞台裏で一息ついていた。
……これが終わったら次は人間界で学園祭の準備だな。
男手が足りないから、結構大変なんだよな。
「……では、これよりモテモテドラゴンのクイズコーナーです」
「「「「うぉぉぉぉお!ヘルキャットちゃーん!!!」」」」
舞台ではクイズコーナーの司会を担当する小猫ちゃんに、大きなお友達の声援が向けられているようだ。
小猫ちゃんはロリ好きの人達に人気なんだよね。
まぁ、気持ちは分かる。
猫耳の小猫ちゃんだ。確かに萌えるだろう。
にしても、冥界を盛り上げたいと言っていたサーゼクスさまとアザゼル先生の仕掛けは見事に大当たりってわけだ。
冥界メディアでは旧魔王派、ロキ襲来、英雄派との京都での事件もニュースで報じていて、参加していたメンバーのことを大々的に報道したようだ。
この前見た冥界の新聞やテレビでも『モテモテドラゴン! またもお手柄!』みたいな感じだった。
冥界のチビッ子の間では特撮の中での俺と実際の俺が混同しているんだろうな。
それにしても、人気があるのは嬉しいが……複雑だな。
戦が珍しくなった悪魔業界で、なんで俺達がこうも次々と事件に遭遇するんだ?
やはり、ドラゴンの特性───天龍だから力を呼び込むのか?そこのところ悩むな……。いや、考えすぎてもどツボにはまる、か。
トイレに行き、控え室に戻ろうとしたときだった。
「やだぁぁぁっ!」
通路の奥から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
なんだ?
気になった俺は声がした方へと歩を進める。
見ると子供が大声で泣き叫んでいて、その子のお母さんと思われる人とスタッフの人が話していた。
「すいません。握手会とサイン会の整理券の配布は既に終わっていまして……」
スタッフの人が謝りながらそう告げる。
あー、なるほどね。
どうやら、あの親子は握手サイン会の整理券配布に間に合わなかったようだ。
ショーが始まる前の配布だったんけど……。
「そうなんですか……。もう終わっちゃったんだって」
お母さんがそう告げると、子供はいっそう目に涙を溜めて泣き叫んだ。
「やだぁぁぁっ!! モテモテドラゴンに会いたいよ!」
ふと子供の手元を見ると鎧姿の俺を模した人形が握られていた。
……あぁ、ダメだな。
俺は物陰で鎧を纏い、親子の前へと出ていく。
マスクだけ収納した状態だ。
「どうかしたんですか?」
俺の声に親子とスタッフが振り返った。
「モテモテドラゴンだ!」
子供は表情を一転させて笑みを浮かべた。
スタッフが俺に事情を説明してくれる。
「あ、兵藤さん。こちらのお母さんとお子さんが整理券の配布に間に合わなかったようでして……」
まぁ、そこで聞いてたから事情は理解してたんだけどな。
一応の確認を取った後、俺は子供の前に片膝をついて訊いた。
「君の名前は?」
「……リレンクス」
「リレンクスか。今日は俺に会いに来てくれてありがとな。すいません、何か書くものありますか?」
尋ねるとスタッフがマジックペンを渡してくれた。
「この帽子にサインしても良いかな?」
リレンクスの被っている俺のデザインが入った帽子。
それを指差すとリレンクスは何度も頷いた。
俺は帽子を受け取り、サインを書いてリレンクスの頭に被せた。
輝くような笑顔でリレンクスは帽子を何度も脱いでは被っていた。
喜んでくれたみたいだ。
俺はリレンクスの頭に手を置いて言う。
「リレンクス、男の子が泣いちゃ駄目だぞ。転んでも何度も立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならないとさ」
「……僕にもできる?」
「もちろん。俺だって守りたいものがあるから努力して強くなれるんだ。リレンクスも努力すれば強くなれる。そして、本当に守りたいものが出来た時は誰にも負けないくらい強くなれるさ」
俺はリレンクスの頭をポンポンとした後、立ち上がって、スタッフの人と共にその場を後にした。
「兵藤さん。なるべくこういうことは控えてください。すべての方に応対するのは無理なのですから……特例を作ってしまうのは……」
スタッフが困惑した表情をしながら苦言を口にした。
「すいません。気をつけます」
俺は本当に申し訳ない気持ちでスタッフに謝った。
スタッフもそれを分かってくれたのか、それ以降はなにも言わずに持ち場に帰っていった。
全ての人に夢を与えることは叶わない。
スタッフもそれを知ってて線引きしている。
そこに俺は特例を作ってしまった。
俺がしたことは全スタッフの思いを裏切る行為だ。
それでも、泣いている人を見るとね……。
「格好よかったわよ、流石は私のイッセーね」
リアスの声。
振り向くとリアスが手を振りながらこちらへ向かってきていた。
リアスは俺の頬を撫でながら言う。
「少し軽率だったけど、それでもあの子の夢をあなたは守ったわ」
「リアス……」
やっぱりリアスはいい女だな。俺はリアスの顎に手を添えて、いわゆる『顎クイ』をする。リアスは頬を赤く染めて眼を閉じ、唇を寄せてくる。俺はそんなリアスのぷるぷるの唇に自分のを重ね、舌も絡ませる。
「んっ、ちゅっ♡ちゅぷっ、ちゅっ、ちゅううっ♡イッセ~♡好き♡好きぃ~♡ちゅっ、ちゅぷっ、ちゅっ♡」
─────と、誰か来るようなので止めると、通路の奥から見知った女性が姿を現した。
「あら? ごきげんよう、リアス、イッセーさん。ここで何をしているのかしら?」
亜麻髪のリアスそっくりな女性!
「お、お母様! ミリキャスまで! いらっしゃっていたの?」
そう、リアスのお母さん────ヴェネラナさんだった!
「リアス姉さま、イッセー兄様、イベントとても楽しかったです!」
その横には小さな紅髪の少年───ミリキャス・グレモリーもいた。
「やあ、ミリキャス。久しぶり」
ヴェネラナさんは微笑みながらおっしゃる。
「ええ、一度グレモリーが主催するイベントを直に見ておきたかったものですから。ミリキャスも見たいと言っていたのです。一誠さん、盛り上がっていましたわね。良いショーだったと思いますわ」
「ありがとうございます」
ヴェネラナさんはヒールをコツコツ鳴らしながら歩み寄る。
「一誠さんを模した特撮番組は我がグレモリー家の財政を担う大切な産業となる事でしょう。そして、冥界の子供達にとっても大切な物になっていますわ。これからもグレモリーの一員として冥界の為、我が家、我が娘の為に奮闘してもらえると助かります」
「勿論です。ここまで大事になった以上、無下になんか絶対にいたしませんよ。粉骨砕身、です。ヴェネラナさん」
「ふふっ、とても良いお返事ですわ。さすがグレモリー家の男子です。けれど───」
ヴェネラナさんが優しげな瞳を向けながら人差し指で俺の顎をさする。濃厚な大人の色気を感じる。
「『ヴェネラナさん』と言うのはいただけないわね。私の事はお義母さまか、母上と呼ぶこと」
「……すいません……どうもその呼び方は慣れておらず……わかりました、お義母さま」
「ええ、それでいいのです。何も失礼な事などありませんわよ? 寧ろ先程のような呼び方では共に社交界に出た時、グレモリー家全体が恥をかきます。一誠さんは問題ないとして……後はリアスね」
「ッ」
おおっと、ヴェネラナさんの雰囲気が変わったぞ。
リアスは一歩下がった!
「リアス。彼のような魅力的な殿方に他の女性が心を奪われるのは世の常。そこは理解していますね?」
魅力的って言われたよ。嬉しいね。
リアスは消え入りそうな声で返す。
「は、はい」
「まさかと思いますが、二人で出掛けたことは?」
「あ、ありません」
そういえばなかったな。家ではベタベタイチャイチャしてたけど。
「誘わなかったのですか?自ら」
「よ、予定が合わなくて……」
だんだん見ていて可哀想になってきた……。
それを聞いたヴェネラナさんは額に手を当てて盛大にため息をつく。
「グレモリー家次期当主ともあろう者がなんと情けない……。強引なところは私に似たと思ったのに、肝心なところは全然ダメじゃない……。イッセーさん、申し訳ないのだけれど、リアスと二人でお話がしたいの。ミリキャスを連れて席を外してもらえないかしら?」
ヤ、ヤバい……!
すごく優しい微笑みを向けてくれているが、プレッシャーが半端じゃないな!
「わかりました。ミリキャス、少し遊びに行こうか!」
「本当ですか、イッセー兄さま!」
「そうだ! だから、早く行こう?」
「はい!」
俺は立ち上がりミリキャスと手を繋いで部屋から出る。
俺達を見送るヴェネラナさんは笑顔で手を振ってくれているが、リアスは涙目で「行かないで!」と首を横に振っている!
ゴメンな、リアス!
ヴェネラナさん、恐い!
一時間後、部屋に戻ると涙目でグッタリしたリアスの姿があったのだった。
「さて、ではこれで失礼しましょう。イッセーさん」
「…………?何でしょうか……お義母さま」
そう聞くとヴェネラナさんは俺の耳もとに顔を寄せ───。
「よろしければ、時間のあるときに是非お相手しますわ。お互いの体が溶けて一つになるほど濃厚に絡み合いましょう?」
ちゅっ、と唇を頬に押しつけた。…………アハハ。
そして、ヴェネラナさん……お義母さまはミリキャスと共にこの場をあとにする。
……さて、俺たちも帰って文化祭の準備だ!……少しばかり不満げなリアスは……まあ、後々。
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