時は流れ、放課後。
「それでは、作業を始めましょう」
『おーっ!』
俺たちオカルト研究部はレイヴェルの入部のあいさつが終わった後、リアスの号令のもと、学園祭の準備作業に入っていた。
オカルト研究部が学園祭で披露する出し物は「オカルトの館」だ。
旧校舎全体を使って色々な催しをしようと言う案になった。
お化け屋敷や占い部屋、喫茶店からオカルトの研究報告等々……皆が出したさまざまな案を採用しての出し物である。
旧校舎全体を贅沢に使えるってのはオカ研ならではの特権だな。
これを活かせるよう全員張り切っているんだが……これが中々に大変だ。
旧校舎全体を学園祭仕様に改装するんだけれど、魔力には頼らず手作りでやってるんだよな。
これはリアスの意見で、それに俺達も賛同した。
俺達は学生なんだし、学校の行事くらいは手作業でやらないとな。
それに完成した時の達成感もまた違ったものになってると思うんだよ。
女子は主に衣装作りや部屋の模様替えを担当する。
俺と木場は旧校舎の外で大工作業を担当する事になった。
トンカチやノコギリを使って木材を切り分け、組み合わせたりしている。
「ところでイッセーくん、ディハウザー・ベリアルって知ってるかい?」
「王者だろう?レーティングゲームの」
俺の答えに木場は頷く。
「そう、正式なレーティングゲームのランク一位。現
「
「ランキングが二十位から別次元と言われ、トップテンとなれば英雄とさえ称される。その中でもランキング五位から上は不動とも言われていて、ほぼ変動が無い状態で業界に長期間君臨しているんだ。特に三位のビィディゼ・アバドン、二位のロイガン・ベルフェゴール、一位のディハウザー・ベリアルは現魔王に匹敵する力量を持つ最上級悪魔の中の最上級悪魔だよ。お三方は大規模な戦争でも起きない限りは動かないと言われてはいるんだけどね。ゲームの特性で研磨され、数多くの試合の末に生み出された結晶だって褒め称えられているよ」
レーティングゲームが生み出した結晶───それが現魔王クラスの実力を持つ三人……か。
「しかし、アバドンとベルフェゴールって聞いた事無い御家の名前だな」
疑問を口にする俺に木場が再び答える。
「それはそうだね。
特殊な事情を抱かかえながらも参戦している悪魔もいる。
それだけレーティングゲームに魅力があると言う事だろうな。
「でも、サーゼクス様や他の魔王様もゲームに参戦出来ればランキングは変わっていたんだろうな」
「仕方無いよ。ゲームのルール上、魔王は参戦出来ないからね。魔王の眷属ならば参戦出来るけど、その方々もその気が無いって話だから。あくまで魔王の眷属として生きると言うのが四大魔王眷属の皆さんの理念だそうだよ。それに実戦とゲームは似て非なるもの。悪魔の実戦不足を補う為に設置されたゲームだけど、ゲームはゲームで特殊なルールも多いし、実戦とは戦術、戦略の巡らせ方も違う物だと僕は思う。だから、実戦で強くてもゲームでは成績が上がらないなんて珍しくないと感じるんだけどね」
「まあ、実戦にルールなんて制限は存在しないが、ゲームにはルールがある。それらを踏まえた上で戦っていかなきゃならない。実戦で出来る事がゲームじゃ出来なくなるからな」
俺の言葉に木場も頷いた。
実戦経験は豊富かもしれないが、ゲームでの特殊ルールには全く慣れていない。
そう言う点がシトリー戦では顕著に出ていたな。
「どちらにしても部長やキミが将来ゲームで覇者を目指すなら、ディハウザー・ベリアルは避けては通れない大きな壁。悪魔の世界で上へ行くつもりなら、現トップランカーは全て倒すべき存在と想定していた方が良いね。まあ、部長の『騎士』である僕もいずれ、その世界に飛び込まないといけない訳だけどさ」
「まあ、先の事を考えすぎても仕方がないだろう。今は────サイラオーグさんだ」
「そうだね」
木場もこれには大きく頷く。
その後、木場の新技の開発などについて話していると────。
「イッセー、作業は順調?」
リアスがこちらへ歩み寄って来ていた。
「もう少しかかるかな……。ゴメン、少し話をしてたものでさ」
リアスは手を振って「そうじゃないのよ」と返す。
監督しに来たわけじゃないのか?
怪訝に思う俺にリアスは言う。
「サイラオーグの執事がね、個人的にイッセーにお願いがあるんですって」
「む?」
──────────────────────
明くる日のこと。
俺とリアスは二人で冥界のシトリー領に来ていた。
俺は豪華なリムジンの後部座席に座り、窓から豊かな自然を眺めている。
隣にはリアスが座っている。
「今回の件はお母様経由なのよ」
話を聞くとサイラオーグさんのところの執事さんが俺に折り入って話があると、グレモリー家に伝えてきたそうで、ヴェネラナさんがそれを了承したという。
ヴェネラナさんはバアル家の出だから、その縁なんだろうな。
「用件は分からないけど、シトリー領に来たのは始めてだ。自然豊かで良いところだな」
「ええ、シトリー領は数ある上級悪魔の領土の中でも自然保護区が多い所ですもの。美しい景観の場所がたくさんあるわ。今度、皆で来ましょう」
確かに行く先に広がる山々は色の木々に囲まれており、如何に大自然に恵まれているのかが分かるな。
車窓から外を眺める俺にリアスは続ける。
「そして、医療機関が充実している領土の一つでもあるわ」
「医療、か」
「ええ、これから向かう先も冥界でも名だたる病院の一つよ」
「……俺達は病院に向かっているのか?」
その理由を聞こうにも今は聞き出しづらく、現地に着けば分かるだろうと思い聞き出すのをやめた。
やがてリムジンは拓けた場所に出ていき、巨大な病院の入り口で停まる。
車から降りると執事姿の中年の男性が俺たちを迎え入れた。
「お待ちしておりました」
「ええ、案内してちょうだい」
リアスがそれだけ言うと中年の男性は「どうぞ、こちらに」と歩き出していき、そのあとを俺たちはついていく。
案内についていき、病院内を進んでいるとリアスが口を開いた。
「イッセー、私の母がバアル家の出であることは知っているわよね?」
「あぁ。確かバアル家現当主の姉に当たると聞いているけど」
「まあ、腹違いなのだけれどね。サイラオーグのお父様が本妻の息子、私の母が第二婦人の娘」
「腹違い、ね………」
複雑なワードだな。
それだけで穏やかではなさそうだよ。
「そして、私のおばさま────サイラオーグのお母様は元七十二柱であり、上級悪魔の一族、ウァプラ家の出なのよ」
「ウァプラ……獅子を司る名家だったな」
「その通りよ」
獅子、ライオンか。
サイラオーグさんらしい血筋だな。
そんな会話をしているととある一室の前にたどり着く。
「こちらでございます、リアス様」
中に入っていく執事とリアス。
俺も後からついていくと───個室のベッドに綺麗な女性が眠っていた。
「……ごきげんよう、おばさま」
リアスは眠る女性に悲哀に満ちた眼差しを向けていた。
おばさま……さっきの話からして、この人は………。
俺が持ってきた花束を受け取りながら執事さんが言う。
「この方はミスラ・バアル様。サイラオーグ様の母君でございます」
やはり、そうなんだな。
サイラオーグさんのお母さんは呼吸器をつけたまま寝ていた。
生命維持装置の様な呼吸器を付けたまま眠っている点を見ると、体の何処かに異常があるようだな。
執事さんは花束を持ったまま、涙を流していた。
「今日、ここへお呼びしたのは他でもありません。リアス様、赤龍帝殿、どうかこの方を……ミスラ様を目覚めさせる為にご助力願えないでしょうか……?」
突然執事に泣かれ、当惑する俺。
そんな俺にリアスは語り始める。
「イッセーにも分かるよう、少しだけ話すわ」
それは一組の母子が辿った激動の運命だった……
サイラオーグさんはバアル家当主の父親と獅子を司る名門ウァプラ家の母親の間に生まれた。
次期当主が生まれたと周囲は大変喜んだそうだ。
しかし……生まれて直ぐサイラオーグに辛い現実が突きつけられる……。
サイラオーグさんは魔力が無いに等しく、バアル家の特色である『消滅』の力を持っていなかった。
代々より当主は魔力に恵まれ、『消滅』の力を持つ事が当然とされていたのだが───サイラオーグさんはそれを持たずに生まれてきてしまった。
失意に暮れるサイラオーグさんの父親は怒りを妻に向けた。
『我が一族が持つ滅びの力を何処に置いて、こんな欠陥品を産んだのだ!?』
───欠陥品。
魔力と滅びを持たずに生まれただけでサイラオーグさんは父親に見捨てられ、同様にその子を産んだ母親も蔑まれるようになった。
───欠陥品を産んだバアル家の面汚し、と……。
「……あまりに酷いものでした。当時のバアル家の者は、私を含めたウァプラ家からの従者達を除き、殆どの者がサイラオーグ様とミスラ様を侮蔑し、差別したのです」
うっすらと目に涙を浮かべながらリアスも言う。
「当時のグレモリー家もその噂を聞いて、母がおばさまとサイラオーグをグレモリーの領土に保護しようとしたのだけれど、あちらに強く拒否されてしまったらしいわ」
───本筋の者でもなく、嫁に行った者がバアル本家の事に口を出すな、と。
グレモリーには滅びの力を色濃く受け継ぎ、冥界で活躍していたサーゼクスがいたのが、バアル家にとっては面白くなかったそうだ。
本家の子供が特色を受け継がず、嫁に行った者の子の方に遺伝してしまった……。
バアル家にとってこれ程の皮肉は無い。
バアル家は大王。
つまり、世襲でなくなった現魔王を除けば、家柄的にはトップに位置する家。
プライドも相当高い。
それ故に周囲の目も意識する。
サイラオーグさんとミスラさんはバアル家にとって厄介者でしかなかったのだ。
その後、ウァプラ家がミスラさんとサイラオーグさんの帰還を求めたが、それも叶わなかったという。
サイラオーグさんだけは渡すわけにはいかない────家の恥を外に出すわけにはいかないと現当主である父親がそう告げたからだ。
当然、ミスラさんはサイラオーグさんと残ることを選んだ。
故郷の助力を断り、サイラオーグさんと一部の従者を連れてバアル領の辺境へと移り住むことにした。
貴族として生きてきたミスラさんにとって、そこからの生活は厳しいものだった。
特にサイラオーグさんは魔力が無いに等しかったため、同世代の下級、中級悪魔からいじめを受けることになる。
しかし、ミスラさんは泣いて帰るサイラオーグさんに強く言い聞かせたという。
────魔力がなくとも、あなたには立派な体があります。足りないとおもうのなら、代わりとなる何かで補いなさい! 腕力でも、知力でもいい、それを補ってみなさい! たとえ、魔力がなかろうと、滅びの力がなかろうと諦めなければいつか必ず勝てるから。
その言葉は今でもサイラオーグさんの心に残っている大切なものだそうだ。
その裏、サイラオーグさんに見られない場所でミスラさんは何度も謝り泣き続けていたという。
何度も謝り自分を責めていたそうだ。
それを察していたのか、ある日突然、サイラオーグさんは泣くのを止めた。何事にも真正面から向かっていった。自分に足りないものに立ち向かっていく……倒れても倒れても立ち上がり続けた。
そして、サイラオーグさんは夢を掲げたのです。───実力があればどのような身の上の悪魔でも夢を叶えることが出来る冥界を作りたい、と。
悪魔の世界は実力社会と言うが、その実、上流階級とそれ以外では世界がまるで違う。
たとえ力を持っていたとしても出自が下級の者は望みを叶えることが出来ないことの方が圧倒的に多いのだ。
そんなある時、サイラオーグさんの母親の体に異変が起きた。
それは、サイラオーグさんが中級悪魔と良い勝負が出来るようになった頃だった。
「……悪魔がかかる病の一つなのよ。症例は少ないけれど、その病気にかかると深い眠りに陥り目を覚まさなくなってしまう。そして、徐々に体が衰弱していき、死に至る。だから、こうやって医療機関で人工的に生命を維持しなければならないの」
リアスが寂しげに目元を細めながらそう言った。
あらゆる方法を模索したが結局治療方法は見つからず……それでもサイラオーグさんは突き進むしかなかった。
「その後、体を鍛え上げたサイラオーグさまは満を持してバアル家に帰還し、旦那様と後妻様の間に生まれた弟君を実力で下して、次期当主の座を得られたのです」
その弟は滅びの力を持っていたんだろうな。
その弟を倒して今の地位を得た、か。波乱に満ちてるな。…………ふむ。
「サイラオーグさんはその弟を倒してバアル家に帰還したんだよな?なら、サイラオーグさんの母親はどうしてここに?ここの方がバアル領の病院よりも医療環境が良いという事か?」
「それもあるけれど……バアル領だとおばさまを狙う者がいるでしょうから」
「狙う、か……物騒だな」
「次期当主の座を奪われたサイラオーグの弟を始め、滅びの力を持たずに次期当主になったサイラオーグを疎む輩やからはバアル家周辺に多いわ。病気のおばさまは良い的になってしまう。だから、ソーナの伝を頼ってサイラオーグはシトリー領におばさまを移したの」
大王家次期当主の権力争いは未だに継続している、か。
悪魔社会の裏は恐ろしく泥沼化してるようだな。
執事が涙をハンカチで拭いながら言う
「あなた方をお呼びしたのは他でもありません。ミスラ様のご病気の治療にご助力願えないでしょうか?なんでも赤龍帝殿は女性の胸に秘められた声を聞く技をお持ちになられているとのこと。新異力なる魔力とは違うパワーが奇跡を呼び込むと聞きましたもので。是非、お願い致します。担当医の了解は取っております」
……アザゼル先生が勝手に命名したものが一人歩きしているのか?まあ、京都でも似たようなことはしているしな。
「……つ、通じるかどうか分からないけれど、医師の了解が取れているのなら物は試しね。イッセーの技は何度も奇跡を起こしているし、もしかしたらと言う事もあるわ。おばさまに技を掛けてみてちょうだい、イッセー」
リアスにそこまで言われると断る理由も無いな……。
執事も頭を深く下げて懇願している中、俺は覚悟を決めた。
「分かりました。何処までやれるか分かりませんが、やってみましょう」
籠手を出現させて力を溜め込む。
ある程度溜めた所で技を発動させた。
「『女語翻訳』!」
俺を中心に謎の魔力空間が広がっていき、俺はサイラオーグの母親に語りかけた。
「……ふむ、とりあえず……サイラオーグさんのお母さん、俺にだけ聞こえる声で答えてください。元気ですか?」
『…………』
訊いてみたものの返事は無し、か。
「今度は鎧になって訊いてみます」
禁手化して鎧を発現する。
赤龍帝のパワーを脳内に送って更に魔力を高める。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
「今度こそ。サイラオーグさんのお母さん。どうぞ、俺に話し掛けてみてください」
サイラオーグさんの母親が赤いオーラに包まれていく。
パワーを上げて再度訊いてみるが───やはり反応は無かった
病気で意識を失っている者に対しては効かないのだろうか……?
「……何をしているんだ、お前達は」
突然の第三者の声。
振り返ってみると、そこにいたのはサイラオーグさんだった……。
「そうか、すまないな」
事の顛末てんまつを知ったサイラオーグは小さく微笑みながら俺たちに礼を言う。
病室で話し込むのも迷惑なので、休憩フロアに移動していた。
「ごめんなさい、イッセーにあなたの事を話したわ。ゲーム前だと言うのに……。それに今日は何も役に立てなかったわね」
申し訳なさそうに謝るリアス。
ゲーム前にサイラオーグの過去を話したので余計な感情を俺に持たせてしまったかもしれないと思っているのだろう。
「構わんさ。来てくれただけで充分だ。母も喜ぶだろう。それに七十二柱に連なる家では珍しくない事ではない。次期当主を巡る争いなんてものはな。それがたまたま現代の大王家で起こっただけの事だ」
サイラオーグさんは自分の過去をまるで大した事が無かったかのように言う。
自らの過去を一蹴してしまう辺り、流石だと言わざるを得ないな……。
「シトリー家とグレモリー家には世話になっている。それに関しては感謝の念が尽きない」
「良いのよ、それぐらいさせてもらうわ」
「だが、ゲームは別だ。次のレーティングゲーム、勝つのは俺のチームだ。余計な感情は捨ててくれ。俺が欲しいのは同情でも手加減でもない、本気のグレモリー眷属だ」
堂々と大胆不敵に宣言してくるサイラオーグは自身の拳に視線を落とす。
「俺には
サイラオーグさんは俺たちに戦意に満ちた瞳を向けてそう言う。
「俺は手加減なんてしませんよ。サイラオーグさんが過去にどんな事を体験してきたとしても、それはゲームとは関係無い。それに最初から手加減や同情をしてあなたに勝てるとも思っていない。全力で倒しにいきます!俺も上級悪魔になる事が夢です。最強の『兵士』になりたい!その為にはあなたを倒さなければならない。だから、俺は俺の野望の為にサイラオーグさんと戦います!」
俺の言葉を聞いてサイラオーグさんが満足そうに笑んだ。
「それで良い。ああ、それで充分だ。そして、やはり京都で何かを得たな?瞳から強さを見て取れる。リアス、兵藤一誠、俺も夢の為、野望の為、ゲームに臨もう」
「ええ、私は負けないわ」
サイラオーグさんの一言にリアスも大胆に答えた。
その後、サイラオーグさんと執事に別れの挨拶をしてから帰路についた。