この作品には、序章があります。
いつもはルフィが飛び出そうとするのを抑えたりする役目を担う筈のナミが、いの1番に船を飛び出して行った。それもフラフラと覚束無い足取りでだ。
そうなりゃ当然熱でもあるのかと心配にもなろうというもので、だが、錨を下ろしたりといった作業は俺の役目である為に、それを投げ捨てる訳にもいかねェ。己の役目を終えてからナミの向かった方を見て、様子を見る為に降りようとしたところでロビンに能力で止められた。
「何だ?」
「……私の知識が正しければ、男の人はこの島にまだ降りちゃダメよ。攻撃されるわ」
「あ?誰にだよ。ンなもん、斬れば良いだけじゃ「島に、先に降りた女が攻撃されるわ」」
俺が攻撃されるなら構わねェが、ナミがとなれば話は別だ。……いつもナミナミと五月蝿いロビンが飛び出さねェ事で、何かあるのはわかるので従う他の選択肢がねェ。
睥睨する俺に苦笑を浮かべたロビンを庇うようにフランキーが立ち、小娘はすぐ帰るから待ってろなんて言いやがる。だから、ナミを小娘と呼ぶなって……。
その時森の奥から何かを抱えたナミが歩いてくるのが見えて、ホッとする。同じように止められていたらしいルフィやコックも船縁でナミを呼んでいて、心配していたのだと分かるが、それにナミは反応しない。
いつもならどうしたのなんて言いながら笑うだろうに、何があったんだ。船に帰って来たナミは、不安そうな顔で俺を見て、腕に抱いている何かを俺から隠そうとする。
「ナミ?」
「……ルフィ、この船で、子供を育てたいって言ったら、怒る?」
「いんや、ナミが育てたいなら育てても良いぞ。ナミなら、変な事にはならねェだろうからな」
俺の呼び掛けを無視してナミはルフィに声を掛け、そしてそれにルフィが答えるとナミはその細い体を小さく揺らした。なんだろうと思った時、ナミが俺を真剣な眼差しで真っ直ぐに見詰めてくる。
「……ゾロ、麦藁の1味に加わる前に、身に覚えはない?多分この子は1歳位だと思うから、2年前に誰かを妊娠させた覚えは、ない?」
「ねェよ!なんだいきなり!」
「だって、似すぎてるのよ!見てよこの目付きの悪さと緑の頭を!!」
言われるままに揃ってナミの抱くソレを覗き込んだ俺達は固まり、ロビンだけが楽しそうに笑った。そして、ナミの頭を撫でながら大丈夫よと言う。
「この島には、女を1人呼び寄せてその女が〝最も愛する人〟の姿に擬態して3日間愛情を受けて育つ植物がいるらしいのよ。だから、ゾロがどこかで作った訳じゃないから、安心して平気よ」
「3日間?」「最愛……」
俺とナミの声が同時に発せられた。最愛の人に擬態って事は、ナミは俺をそんなにも愛してるってことか。
だがナミはそれどころではないのか、その単語には反応せずに3日間の所に食い付きロビンから話を聞いている。ロビンの話を纏めるとこうなる。
女の愛情が無ければ育てない植物が、島に近付いた女の中で1番愛情深い奴を呼び寄せて、その女の最愛の人に擬態。3日間かけて光と水と愛情で育ち別れる。
その間島から離れたり、植物を害すると女が植物と共に犠牲となる。植物は我が身を守る為、女が愛情を向けている期間と、別れるその日の他は男が島に侵入する事を拒む。
……んで、ロビンじゃなくてナミが選ばれちまったのか。確かにナミは甘いからなァ。
俺の女となっても、ルフィを息子や弟のように愛しているし、チョッパーも同様だ。ルフィやチョッパーが喜ぶならと大概なんでも叶えようとして居るのは、この船の全員が知っている。
ウソップも弟枠で大切にしているし、コック、フランキー、ブルックにもいつも優しく対応している。ロビンの事は自分が守ると頑張ってるし、なんとも言い難い気分になる時が多い。
実際の家族……ベルメールさんとノジコ、ゲンゾウの為なら何時でもその命を投げ出す覚悟で生きていたナミが、甘くねェと判断する奴はいねェだろう。そう考えた時、ルフィがロビンに向かって問い掛ける。
「なら、この島に3日停泊しねェとナミが死ぬんだな?」
「死ぬかはわからないけど、良くなさそうな雰囲気よね」
「なら、ここにいよう。ナミがチビゾロを構ってれば、この島に降りても平気なんだよな?」
「そうなるわね」
「なら、俺冒険に行ってくる!」
ルフィとロビンがそんな会話をしていて、ルフィはコックに海賊弁当を頼んでいる。それに対応しつつコックは食料になりそうな動物がいたら捕まえて来いと言って、肉食いたいだろうと唆す。
ルフィの居なくなった船内では、ナミの為にと甲板にナミが必要としそうな物が即座に揃えられた。その間ずっとナミは、植物を愛しげに見詰めている。
それにしても、ルフィの中であの植物は小さな俺で確定らしいと知り、そこまで似てるか?と疑問に思う。
「おい、ナミ」
「……ゾロ」
声をかければナミは不安そうに俺を見て、直後に植物に髪を引っ張られて視線を俺から外す。植物に向ける眼差しは優しいのに、なんだって俺にはそんなに不安そうな顔しか見せねェんだよと多少苛立つ。
その時、ナミが植物の為にと子守唄を歌い始め、それにブルックが演奏で合わせ始めた。妙に優しいその空間に、俺が1番浮いてる気がして溜息が落ちる。
そんな俺にナミは小さく体を震わせるから、あァ成程なと気付く。……気にし過ぎなんだよナミは。
「……怒ってねェ。呆れてもいねェ。だから、不安にならなくていい」
「ゾロ……」
「逆の立場なら、俺も疑ったかも知れねェ。……まァ、ナミが子供を見捨てたりするとは思えねェから、攫われた娘じゃねェのかと思うんだろうがな」
「でも、疑ったわ。私……ゾロの事……。だから……」
落ち込んだ様子のナミに近付きその額を指で押しながら、その瞳と視線を無理に合わせる。そうしねェとすぐに俯くナミに、俺は本音をぶつける他の手段が見つからねェ。
「ばァか!男はヤリ捨てる事も出来る。こんだけ似てりゃ、疑うのも無理はねェよ。……寧ろ、俺に似ていて良かった」
「え?でも、疑われたのに?」
「ナミが俺を愛してる証拠だろうが」
そこまで似てるかと確かに思わなくもねェが、ナミが俺を疑いたくなる気持ちがわかる程度には、俺と近い所は感じている。だからこそ俺はそう答える事が出来た。
今のナミには、嘘を伝えたくねェ。そう思ってナミにぶつけた本音を受けて、その瞳を潤ませた。
それから俺にそっとナミが手を伸ばした所で、植物が盛大に泣き出した。後少しで触れるって所でのそれに、苛立つなってのは無理な話だ。
五月蝿ェ!
思わず睨み付ければ、ナミの意識を自分に戻した植物はあやされてる途中で俺にフフンッてな顔をして見せやがった。このガキ……泣き真似かよ……!
「植物だからオムツじゃないし、お水あげたばっかりだし……どうしちゃったの?」
困ったような顔で、だが優しく問い掛けるナミに、ガキは甘えるように手を伸ばしてナミの胸にしがみつくと、その胸の谷間に顔を埋めた。それに対してナミは、ミルクいらないって本にあったし、流石に母乳出ないのよごめんねなんて呑気に言ってやがる。
こんの、エロガキがァ!
「ナミ、そのガキ寄越せ!危害は加えねェ……」
「……嫌。なんか、怒ってるから渡さない」
「そのガキナミに甘えてるが、殆ど演技じゃねェか!ンなもん可愛がるは必要ねェ!」
「……愛情を貰う為にいるんだもの、演技の1つ位するでしょ?擬態そのものがある意味演技でもあるんだし」
俺が言葉に詰まると、ナミはいつもの様に優しく微笑んだ。その表情や瞳には、既に不安の色はない。
「私も、お金を稼ぐために演技してきたし、ゾロと喧嘩になった後は仲直りする為に演じる事もあったわよ。だから、ある程度は許してあげて」
「……仲直りの演技って、どれだよ」
問い掛けた瞬間ナミの顔が赤く染まり、気にしないでと叫ばれた。それにより、泣きながら謝る姿かと思い至り……そういや、やけに綺麗な泣き方してたなと思う。
だが……その後反省してるならってんで抱き潰してんだから、まァ俺に被害はねェからいいかと考えた時、それは起きた。ガキが俺を睨み付けてからナミの髪を引っ張り、その唇に自らの唇を合わせたのだ。
それにナミは驚いた顔をしてから、おマセさんねと笑い頭を撫でるが……。似てねェよ、俺とは少しも似てねェ!!
もしナミに害がでねェなら、ぶった斬ってやるのにとガキに殺気を向ける。そんな俺にナミは呆れ顔で、子供と本気で争わないでなんぞと言いやがる。
舌打ち1つ残して、自らに修行が足りねェ事を自覚する。ナミを僅かな期間貸し出すだけ、だ。
だがよ……3日って、こんなに永かったか?
その日の夜、甲板で酒を浴びる勢いで呑む俺を、誰1人止めようとはしない。そこへナミが、ガキを寝かし付けてから様子を見に来た。
「ゾロ、その呑み方……お酒に失礼よ。八つ当たりしちゃダメ」
「……五月蝿ェな。俺の勝手だろ」
「ゾロ」
ただ、名を呼ばれただけで俺の腕は酒瓶を下ろす。……勝てる筈、ねェよな。
俺は……ナミに初めて会う前から欲しいと思っていたんだからよ。バギーのとこの奴等が悪魔みてェな女だと、天候を操るような航海士だと話しているのを聞いて、俺は会っても居なかったのに欲しいと思ったんだ。
会ってみればルフィを甘やかして、ウソップ庇って、自分を犠牲にして、抱えきれねェ荷物に耐えて泣く事も出来ない不器用なお前がいた。だからこそ、そんなナミを、泣かせてやりたいと思ったんだ。
その状態で、俺の事まで庇ったナミに、どうして惚れずにいられると思うのか。村人の事だけでも、限界なんか超えてた癖してよ。
そんな俺がナミに勝てる筈は無ェんだよな。そう思って名を呼べば、ナミはいつもと同じように、優しく笑い掛けてくれる。
「ナミ……」
「寂しい想いさせて、ごめんね。もう少しだけ、許して」
「分かってる。ナミの為だ、耐えてやるさ」
「ありがとう」
そう言って俺の頭を優しく撫でるナミのその手を掴み、そっと引き寄せる。倒れるように俺の腕におさまったナミと唇が触れ合ったその瞬間、船内から泣き声が響いてきた。
それによりナミは即座に母親の顔になると飛び出して行く。……皆に迷惑かけられねェから気を付けちゃ居るが、そう遠くない未来になるだろうとわかる状態に、ガキは暫く欲しくねェなと自嘲する。
その翌日、ガキの頭に生えてる双葉が成長して蕾が出来たと喜ぶナミ。その言葉を受けて、俺の頭に花が咲いてると笑い転げるコックと本気で喧嘩した。
その他悪意無くルフィがナミに似てた方が良かったよななんて言い出したのを聞く。だがそれには、全くだとナミを除く俺を含めた全員で頷いた。
「嫌よ。私それって相当なナルシストになるじゃない」
「そうなって欲しいわ。ナミは自分を蔑ろにし過ぎよ」
「……ヤダわ、ロビンにだけは言われたくない!」
「おめェらは2人共鏡だって自覚しやがれ!」
フランキーの言葉に、またもや全員で頷いた。それからナミはガキを甘やかし初め、ロビンが微笑みながらそれを補佐していく。
チョッパーがナミとガキの体調を気遣い、傍に張り付く。ブルックはそんな3人の傍で、子守唄等の落ち着いた曲だけの演奏会を開く。
ルフィとウソップは喜び、コックがナミ達に飲み物等を提供する。いつもと変わるようで変わらない光景が、目の前に広がっていた。
フランキーはナミとガキを見守ってるフリをしながらロビンを見守っている。そんなフランキーに、俺は何の気なしに問い掛ける。
「ロビンが呼ばれてたらどうした?」
「アゥ!ロビンが抱いて戻るのはナミだろうからなァ……まァ、耐えてやるしかねェだろう」
「辞めろよ。ナミに似たガキとか、ロビンの場合冗談に聞こえねェ」
「本気だゼ?ロビンにとってナミは、掌中の珠。ナミに何かあれば、1番厄介な事になるのはロビンだ。……だから俺様もナミを守ってんだろ」
「……感謝してる」
俺の言葉にフランキーは兄のような顔で笑う。だがその直後に、ロビンがナミのミニチュア抱いてたら、誰の子をナミが産んだのかって騒ぎになりそうだなと悪い笑みで告げるフランキーに、俺以外の子の筈がねェだろと笑っておく。
そうして過ぎる日々は穏やかでありながら、俺には何処か苦痛の日々だ。ナミに触れられねェ上に、本気でガキを溺愛するナミに〝俺も構え〟と何度言いそうになったか分からねェ。
修行が足りねェと自分に言い聞かせるようにして無駄に修行に明け暮れて、ナミとチョッパーに心配かけたのは悪かったと思っている。それでも他に、苛立ちを他にぶつけない手段を俺は持たなかったんだ。
そうして訪れた別れの時、ナミは1度強くガキを抱き締めて、涙を耐えながら笑った。優しくガキの頬を撫でて、元気でねと言葉にしてからそっと手を離したナミの肩が震えている事実を見逃してやれねェ。
ガキは俺には到底出来そうもねェ可愛い笑顔で、ナミに何かを訴えるように言葉を音にする。その様子は、神聖な何かにさえ思える程に近寄り難い。
「まー?あー、あー?」
「うん、きっと、また、逢えるわよね。きっと」
そうナミが答えた瞬間、ガキは明らかに姿を変えていき、最終的には植物へとその姿を完全に変じた。その瞬間耐えられないとでも言うようにナミは崩れ落ちて、涙を落とす。
その近くで号泣しているフランキーをロビンが笑いながら慰め、チョッパーが貰い泣きして、ウソップとルフィが寂しそうにしている姿が視界に映る。俺はそっと、小刻みに体を震わせ続けるナミを抱き締めて、その頭を撫でる。
「ルフィと、チョッパーの許可が出たら……産んでくれるか?」
「え?」
「そうすりゃ、別れのねェアイツに会えるだろ」
だから泣くなと目尻に溜まる涙を指で拭えば、少し遅れてナミが茹だる。許可さえ出たら、加減なんかしないで子作りしてやると囁いてやれば、俺を真っ赤な顔で殴るナミがいた。
それを見た仲間達が賛成だと笑い出して、コックだけがてめェに似ない事を祈ってやるなんて言っていた。だが、どうやらそう経たねェ内に再会できそうだなと、植物を1瞬振り返って俺は笑う。
……またな、息子。次は容赦しねェぞ。
後にこの島は、宝玉の書いた手記によりカップル達で溢れかえる有名な観光地になるのだが、それはまだ、誰も知らない小さなこぼれ話。
この先このキャラクターは不定期更新となりますので、予めご了承ください。
このキャラクターにこの先追加される作品は、全てこの作品より手前に挿入されます。