今日の為に昨日は野郎共に盛大な宴を準備してやったのだから、今日俺が居ない事に対して文句は言わせねェ。麗しのロビンちゃんはフランキーの奴と出掛けたが、俺の愛しき女神は俺が残る男達の為にと作り置きしているのを楽しそうに眺めている。
手元にはホットミルクが置かれていて、どうやら寒いらしいと分かれば手を止めて上着をその細い肩にかけた。それに対してありがとうと微笑んでくれる女神は、俺の愛しい彼女でもある。
だが、何か様子がおかしい。顔がいつもより少し赤くて……まさか?
「少し、失礼しますよ」
そう声をかけると、妙に緩慢な動きで俺に視線を向けたナミさんの額に触れる。それは明らかに熱くて……こりゃ、休ませた方が良いなと素人でも分かる。
「熱がありますね。出かけるのはまたにして、今日はゆっくり……」
その時ナミさんが俺の腕に縋るように手を伸ばして来て、小さく首を横に振った。なんだろうと思ったら、少しいじけたような顔をされてしまう。
「サンジ君と、でかけたい」
この人、俺をどうしたいの?
何だこの可愛い生き物。寝かせるべきだと分かってるのに、出かけたいと言うこの願いも叶えたくて……葛藤する。そんな俺に、ナミさんは潤んだ瞳を向けて来た。
「サンジ君は、私と出かけるの、いや?」
「そんな訳無いでしょう。俺はいつでもナミと2人で居たいですよ。でも、体調が悪いなら、無理をさせたくない。……分かってくれないか?」
「ふふ、サンジ君が2人っきりの時だけ、話し方とか変わるの嬉しい。特別な気がする」
コテンと俺の胸に頭を預けて甘えてくるのは可愛いけど、こりゃ休ませるしか無さそうだと笑う。この人はどうして、息するように自然に無理をしてしまうのか。
「少し、出掛けるまで休んでて下さい。ソファに行けますか?」
「うん」
小さく頷いて立ち上がるナミさんを見れば、危なっかしくていけない。咄嗟にその体を抱き上げてソファに寝かせると、流れるような動作でナミさんは取り出した薬を飲む。
手馴れた様子にいつからこの体調を隠してたのかと少し苛立ち、悪い人だと囁いて唇を奪う。熱の為にそうなっていると分かっていても、その顔はほんのりと赤くて瞳も潤んでいるから求められていると錯覚させられる。
いつもより熱い吐息がナミさんからもれるのを感じて、そっとその瞼に手を置いて囁く。可能な限り、穏やかに。
「少し、休んでいてください。終わったら起こしますから」
「ありがとう、サンジ君」
瞳を閉ざすと明らかに幼くなるその顔立ちに、その知的な瞳が年齢を誤解させるのだと気付く。愛しい人が無理ばかりするから、俺はいつも気が気じゃない。
そばを離れて……とは言え同じ空間に居るのだが、ナミさんの様子を見ながら作り置きとして明日の昼まで用意していく。それでも、俺の1部であると言っても過言では無い料理の途中なのにも関わらず、ナミさんの様子が気になって時折手を止めてしまう。
溺れてるなと小さく笑ってから、眠っているその顔に少しホッとする。俺の傍でなら、安眠してくれるのだと知っているから。
料理等を終えて近付くとナミさんの手が何かを探すように動くから、近くで様子を見守れば俺の腕にその指先が触れた。邪魔かと思って動こうとしたら、そのまま腕を掴まれて小さく呟かれる。
「サンジ……くん……」
……このままここで襲って良いですか?
いや、駄目だ。耐えろ俺!
そんな葛藤をする俺を頼るように、甘えるように俺の腕にその頬をつけて、幸せそうに笑ったナミさんを見て、俺は顔が赤くなるのを自覚した。ここが、皆の集まる場所で無ければ、寝ているのも構わずに襲っていただろう。
無防備に幼く笑うその寝姿に、俺を求めてくれてるその行為にどうしようも無く叫びたくなるのを抑える。そして、このまま寝かせるべきか部屋に運ぶべきかと考えた時……ドアが開け放たれた。
その現れた人物はチョッパーで、俺とナミさんを見て2人共大丈夫か?と言いながら船医として近付いてくる。それにより冷静になった俺は、チョッパーに小声で相談してみる事にした。
「このまま動かさないで寝かせとくのと、部屋に運んで寝かせるの、どっちが楽にして差し上げられる?」
「……普通なら部屋だけど、今日は起こしてやった方が良いと思うぞ。ナミ、サンジとどうしても行きたい所があるって楽しみにしてたから」
「は?」
「船医としちゃ、休んでて欲しいけどさ……。ナミがあんなに楽しみにしてたの知ってて、寝てろなんて俺、言えねェよ」
「どういう……」
俺が問い掛けるとチョッパーは、あっ……と声をもらして、俺は何も言ってねェぞ!内緒だから、何も知らねェんだ!なんて言って飛び出して行った。
そんなチョッパーを見送り、それでも尚寝ていてくれなんて……俺こそ言えそうもない。何かイベントでもあるのかと思いながら、約束通りにナミさんをそっと起こす。
「ナミさん、起きて下さい。……俺と、出掛けるんでしょう?」
その声に瞼をゆっくりと痙攣させて、ナミさんはその瞳を俺の前に映す。それから俺を見て、しがみついてる事を自覚して混乱している様子を見せるから、そっとその額に唇を触れさせる。
「俺が起こそうとしたら、掴んで離さなくなったんですよ。……安心してください、俺も愛してますから」
「俺もって……私、何か言ったの!?」
「勿論……〝サンジ君、愛してる〟って、微笑みながら絡み付いてくれましたよ」
「なっ……!」
少し付け加えたけど、殆ど本当の事だから良いだろうと思って笑うと真っ赤になったナミさんが、そのまま俯いて唸り始めた。このままだと泣きそうだなと思って、俺は故意に話を変える。
「それで、何処に行きたいんですか?」
「あ、そうだ!早く行きましょう!ごめんね、寝過ぎちゃったみたいね」
「可愛い寝顔を見られたので、役得でした」
「もうっ!サンジ君、揶揄わないでっていつも言ってるのにっ!」
「俺はいつでも、本気ですよ。……俺は、ナミにだけは、嘘をつかない」
囁けば俺から脱兎のごとく逃げ出して、その勢いでコートを着込み少し離れたところから俺を見詰めてくる。その瞳が怒ってない?と聞いてくるから笑ってしまう。
照れて俺から離れた程度で怒る筈も無いのに、嫌われてないか、怒ってないかとその瞳は不安を訴えて来る。素直に感情を現してくれるその瞳に、俺は小さく笑うとコートを羽織りながら近付いて、そっとその手を取った。
それに驚いた顔でナミさんは俺を見上げてくるから、そっと指先に触れる程度のキスをして、微笑みを向ける。優しいばかりの愛しい人が願った、囁かな無理ならば俺が叶えてやると。
「どうか、俺とデートしてください。俺だけの女神」
「……えぇ、喜んで。私の王子様」
恥ずかしそうに返して来たその言葉に、笑みが深まるのが分かる。俺の愛しい姫神は、そんな俺の手を握り返して歩き出す。
目的地を聞いても〝まだ内緒〟と言うばかりのナミさんに、俺は黙ってついて行く。ナミさんが少し緊張した様子で足を進めているから、その様子に何かあるのは間違いないなと思いつつ、何も分からないフリして歩く。
君が俺の手を握ってくれる。君が俺に笑い掛けてくれる。
そんな奇跡が当たり前のように起きているから、それだけで俺は幸福の中で自然と笑えるのだと、きっと君は本気で気付いては居ないのだろう。ナミさん、君が望むなら俺はどんな事でも叶えるつもりだよ。
大きな木の前に連れ出された俺は、その木に付けられた飾りに火が灯されるその瞬間を共に見たかったのだと笑うナミさんに見惚れてしまう。嬉しそうに笑って、俺の腕をそっと抱き締めてくれるその温もりが夢のように思える。
恐らくこの後倒れるだろうと分かっている。それでもナミさんが笑うなら、それも構わないかと思ってしまう。
Merry Christmas……病気が治ったあかつきには、俺と聖夜をやり直そうと、ベッドで苦しむ君に囁きかける事を許して欲しい。だから病気が治るその時迄は、紳士な王子を演じてあげるよ。