俺の女神は相変わらず美しい。そんな事を島に到着と同時に飛び出したメンバーが帰るまではと、船内に残ってるナミさんを見て思う。
それに付き合うように残ってるのはマリモで、俺は今買い出しから帰って来たところだ。海図や地図を描いたりして過ごしていた筈のナミさんが、現在は本を片手に唸っているのが少し気になる。
「何かありましたか?」
飲み物をテーブルに置きながら声をかけると潤んだ瞳を向けられて、それだけで俺は昇天しそうになる。ナミさんは本当に俺をどうしたいのだろうか。
「サンジくぅん!聞いて……私……私ねっ!」
「はい、聞いてます!」
寧ろナミさんの声しか聞きたくないです。貴女が俺の、心のオールブルー!!
俺に抱き着いて甘えたように名を呼んで……潤んだ瞳を向けて来たナミさん。もう、このまま死んでも良いかも……嫌ダメだ、そんな事したらナミさんが遺されちまう。
こんなに美しい人が遺されたら、血で血を洗う奪い合いが起きて、勝手にやって勝手に傷付く男達にナミさんは心を痛めるだろう。だから、遺せないんだ。
1分でも、1秒でも良い。ナミさんより俺は長生きする義務がある。
「……スランプなの。何も書けないの……!」
「……書けなくて良いですよ。少し休んでください」
「何言ってんの!?チョッパーに医学書書いてあげないといけないのに、上手く纏まらないのよ!?」
ウガーって感じで叫んでから、少し照れた様子で小さく言葉を続けるナミさん。その破壊力の高さを、本気で理解して無いところが怖いですね。
「……それに、サンジ君にレシピ本書きたいし……あ、その、深い意味は無いのよ!?そう!ブルックにも曲とか描きたいの!……なのに、何も書けないのよ……」
照れ過ぎて混乱したのか、色々言って居たが最後にはションボリしてるナミさんの頭上に、へにょんとしたうさ耳の幻が見えた気がした。細いその体をそっと抱き締めた俺は気晴らしに出かけますか?なんて言ってみる。
それはこのままだと、自分を責めてドツボに陥って帰ってこなくなりそうな気がしたからだ。ナミさんは、普段にこにこしてて、優しくなんでも許すから気付かれにくいけど、マイナス思考だから。
今朝この島の情報を集めて来たわなんて言いながら、ロビンちゃんがくれた情報に寄ればカップルからの人気が高いBARがあるらしい。だから、この島独自の料理もあるかも知れないので、夜共にディナーでもしてから連れて行ってみるか。
外食も勉強の1つだからな。そう言って誘えば、頷いてはくれるだろう。
そんな訳で俺としてはナミさんの手料理も食べたいんだが、なかなか作ってくれないんだよなぁ。……ナミさんのイヂワルッ!と、シナをつくったら大爆笑された事があったっけか。
そんな事を思い出してふっと笑い、小さく震えるナミさんの額にキスをする。……本当に可愛い人だ。
「夕飯の支度を終えたら、1緒に出掛けましょう。俺もこの島の食事を楽しんでみたいですから」
「サンジ君は、私を甘やかすのが上手よね」
「そんな事ありませんよ。……2人だけで行きましょう」
「う……ん……」
赤くなって頷いたナミさんに、今夜はそのまま帰したくないななんて思う。とりあえず昼飯は揃って食ってから、夕飯作って……それからだがな。
そうしてナミさんを連れて出掛けたのは夕日の綺麗な時間帯で、ナミさんが青紫の空を見て綺麗ねなんて呟くから俺もそれに頷く。空や海を愛して、自然を見てはその瞳を煌めかせるその姿が、本当に何より美しい。
共に食事をする為に店を選んでいたら、ナミさんがバイキングレストランにしましょうなんて言うから、そこに決める。入ってみると、色々な料理を少しずつ食べる事が出来るでしょなんてナミさんが笑ったので、甘やかしてるのはどっちだよと心から思う。
考えてみれば確かに、ナミさんもこのタイプの食事ならば、客全員を殺すとかって考えでもなけりゃ毒が無い。なので、安心して食べられるのかも知れないと気付けばありだなと思う。
美しい所作で食事をするナミさんに、俺なんかよりよっぽどしっかりした家に産まれたんじゃねェのかな。なんて……そんな事を考えちまう。
「サンジ君、口に合わない?」
「え?」
「眉間に皺……。それとも、私といるのつまんない?」
「ナミさんが、世界中の男の視線を集めるのが気に入らないだけです」
「……心配して損したわ」
そんな事を言い合いながら食事を終えて、目的のBARへと向かう。そこは本当に夜景が綺麗で、ナミさんの視線を奪っちまうから、俺を見てくれとその横顔に思う俺は終わってるだろうか。
「夜景が綺麗だと聞いてきましたが……ナミさんの視線を夜景が独占するなら、こんな所来なければ良かったですよ」
言いながらグラスを傾けると、視線が俺に向けられているのに気づく。どうやら、俺は思ってたよりも愛されてたらしい。
少女のように頬を染めたナミさんは珍しく年齢よりも幼く見えて、いつも俺より歳上なんじゃねェかと内心で疑ってたそれが崩れ去る。……まァ、抱いてる時は年相応な感じになる事も多いんだけどさ。
何度も俺に抱かれてるのに、何時までも無垢な様子のナミさんは、反応がそんな時だけ妙に幼い。その癖俺に何かあると慣れた娼婦のように、妖艶に俺を魅せてくるのだから堪らない。
「私の書いた作品に〝白雪姫〟って言うのがあるのは知ってる?」
「勿論知ってますよ。それがどうかしましたか?」
その時赤いカクテルがナミさんに差し出され、それを手にしたナミさんが夢見るように言葉を紡ぐ。本当に、カクテルを傾ける姿が色っぽいな。
「騙されて毒の林檎を食べさせられたお姫様は、王子様からの優しいキスで息を吹き返すんだけど……まぁ、実際には有り得ないわよね」
自嘲するように言うその言葉に、俺のキスで目覚めてくれるなら幾らでもKissしますよと心から思う。揺れる瞳は、諦めの色を宿しているから余計にそう思うのかも知れない。
「好きな人からのキスで目覚めるとか、憧れるわ」
「キスで毎朝起こしてやろうか?」
2人の時の口調で問いかければ、嬉しそうに頬を染めてナミは頷く。……頷いた!?
「……お願いしちゃおうかな」
お願いされちゃうぞ……?
その直後に風に当たってくると立ち上がるのを見て、その動きに自然と眉が寄る。急いでお会計を置いて立ち上がったが、ナミさんが転んで倒れる方が早く見れば頭を打ってしまったとわかった。
「ナミ!?おい、大丈夫か?ナミ!!」
慌てて口調が乱れる俺にナミはそっと震える手を伸ばして、縋るように俺を見た。震える声で、そっと囁くように言われたのは、ただ1つの願い。
「必ず、迎えに来て」
そのまま意識を失ったナミを抱えて、チョッパーに診て貰う為に立ち上がるとBARのマスターが医者を連れて来て、部屋を用意しましたのでと言う。その方が早いかと、とりあえずそれに従えば即座に部屋で診察を始める。
何事も無ければ良いが、嫌な予感がする。早く目覚めてください、俺の女神。
祈るように願う俺に告げられたのは肉体には問題が無いという事で、万が一何かあれば対応するから今夜はここの部屋を好きに使ってくださいとの言葉。それに感謝して、とりあえず今は帰ってもらう。
瘤があるだけと言われたので、目覚めたら少し叱って、それから2人の時間を楽しめたら。なんて……嫌な予感を振り払うように考える。
「んっ……」
微かな声に導かれるように近付くと、ゆっくりとその美しい瞳を見せつつ体を起こしたナミさんは俺がこれ迄に見た事の無い表情をした。不安そうに瞳を揺らし、俺を怯えたように見て……。
「……ここは何処ですの?貴方は、いったい……。
「ナミ、さん……?まさか、俺が、分からないんですか?」
「……何故、私の名を?」
あァ、分からないんだ。この人は、俺の事を、覚えてないんだとすんなりと理解出来る。
俺を見て少女のように頬を染めて、瞳を愛しげに細めない。出逢った頃でさえ、俺に優しく笑いかけてくれたのに、こんな怯えたような顔を向けられるなんて……。
「何も、覚えてないんですか?家族とか、仲間の事も?」
「ベルメールさんとノジコを知ってますの?仲間……ルフィ達の事も?」
「ルフィ達や家族の事は覚えてんですか?なら、分からないのは俺だけ?」
俺の言葉に小さく体を震わせて、ごめんなさいなんて言う姿は本当に弱々しい。俺はナミさんの手をそっと取り、怯えるその手に触れる程度のキスをする。
「俺の名はサンジ。麦藁の1味の中ではコックを務めています。俺のプリンセス」
「ま、さか……でしたら、私、サンジさんと特別な関係でしたの?」
「……その通りですよ、マドモアゼル」
その瞬間ナミさんはそっと俺の頬に手を伸ばすと、そっと両手で包み、そのまま胸元に抱き寄せて来る。えっ?と思っていたら胸に顔を埋める形になり、そのまま頭を撫でて来るからそれに甘えたくなるが、待て俺。
「サンジさん……そんなに、悲しまないで下さいませ。殿方が涙する顔を見る訳にはまいりませんわ。ですからどうか……今暫く、このままで……」
気付けばナミさんの胸元が、服が濡れていて……この人は何も知らなくても、分からなくても優しくて甘いのだと思い知る。でも、本当は俺がナミを甘やかしたいんだよ。
そっと顔を上げればナミは驚いた顔をして、それから僅かに頬を染めるから……どうやら俺を憎からず想ってくれてるのがわかる。だからと思い、ナミをそっとベッドに押し倒してその首に吸い付けば、感度は相変わらずのようで甘い声を出す。
「やっ……おやめ、くださ……ませ!」
何だこの反応。すげェ唆られる。
怯えた表情と瞳に、微かに熱を灯らせて俺を見詰める。これはなんの試練ですか、恋ですか?
「ナミ、思い出す為にも……いつもしてる事を試すべきだろ」
「やっ……!こわ、い……」
カタカタと震えるその細い体が、本当に怯えていると分かれば手を出せる筈もない。だが、欲しいと思い、渇いていく自分を自覚しちまう。
「……痛い事も、怖い事もしないから、眼を閉じて……な?」
「……意地悪、しないって、お約束して下さいますか?」
「勿論だ」
間髪入れずに答えたけど、すっげェ意地悪して鳴かせたい。いつもと感度1緒で反応が初心とか、どんなご褒美ですか……?
でも、泣かせたくないのも本当だから、素直に瞳を閉じたナミを襲う事はせずに、まずはキスをする事にした。白雪姫は、それで目覚めたが……俺のナミ姫はどうだろうか。
初心者に戻ってるナミの反応が可愛くて、優しくする余裕を失いつつ堪能すると反応が途中で変わってきた。それにより、まさかと思い唇を離すと俺のナミが微笑った。
「サンジ君、
「ナミ」
「迎えに来てくれて、ありがとう」
「ナミ……!」
思わず強く抱き締めると、ナミは苦しそうにしながらも優しく頭を撫でて来る。それに俺の理性が裸足で駆け出そうとするのがわかり、もう少し耐えろと自分に言い聞かせた。
「サンジ君……私ね、きっと……何度忘れても、何度でもサンジ君に恋をするわ。だからお願い、何度でも迎えに来てね」
「迎えには行きますが、そのご褒美は貰うよ。ナミ」
言いながらそっとその細腰を撫でればビクリと体を震わせて、咎めるような視線を向けて来る。流石に、ここでお預けはゆるさねェよ?
「あっ……もうっ!サンジ君、狡い。そんな事言われたら……」
「ん?」
俺が首を傾げれば、照れたように視線を逸らしてナミは言う。その声は小さく、聞き取るのが難しい程。
「サンジ君が欲しいって、私からは言えなくなっちゃうじゃない」
「……ナミ、今夜は寝られると思うなよ」
俺の言葉に真っ赤になったナミが頷いたので、俺は王子の仮面を投げ捨てて野獣の姿へと変貌する。童話の世界とは反対に、愛しい美女に愛された王子は、野獣へと変貌をとげ、美女が咽び泣いてもその行為は終わる事が無かった。